小沢一郎『日本改造計画』の読書録

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厚生年金・国民年金増額対策室

小沢一郎『日本改造計画』

単行本:258ページ
著者:小沢一郎
出版社:講談社
発売日:1993年(平成5年)5月20日第1刷発行(2006年5月8日第23刷発行)

小沢一郎は、
この日本再生ビジョンに
すべてを賭けた。

目次

まえがき

【第1部】 いま、政治の改革を

無責任国家からの脱却
迷惑な「指導力の欠如」
このままでは「いつか来た道」
権力をめぐる競争を

大久保、伊藤、原、吉田に学ぶ
明確な使命感
権力を行使しない危険

何が国民の利益か
湾岸戦争「負」の遺産
政府は「企業弁護士」か
何も決められない政府

首相官邸の機能を強化
補佐官制度を導入
あくまでも首相が中心
総合調整機能の充実を

与党と内閣の一体化
官僚が決定権者か
160人の議員が政府に
官庁も政治家主導で

なぜ小選挙区制がいいか
「四位一体」の改革
政治にダイナミズムを
一億二千万人の目で政治資金を監視
政党による政策の選挙
議員は国会で国会の仕事を

全国を300の「市」に
地方分権基本法を制定
身近なことはすべて地方で
権限も財源も移す

生かされていない官僚の頭脳
危機管理体制の構築
国の基本政策を考える
生かし合う中央と地方

【第2部】 普通の国になれ

日本の責任と役割
「普通の国」とは何か
平和と自由のコスト
誤解されている「吉田ドクトリン」

平和創出戦略への転換
「ノーブレス・オブリージュ」
日米を基軸に平和維持
自衛隊を再編成する
日本国憲法と平和活動

国連中心主義の実践
新時代の創業者
核の国連管理
国連待機軍をつくれ

保護主義のワナから救え
「ひとり勝ちの悪役」
自ら積極的に市場開放
欧米とアジアを橋渡し
「世界貿易機構」をつくる

「アジア・太平洋閣僚会議」の常設
正確な歴史認識を
雁行型発展の拡大
日本外交5つの指針
多国間外交の展開

対外援助の積極的「使い方」
迫られる援助大国
外交戦略の一環として
十万人留学生の受け入れ
外国人労働者の技能研修制度の整備
環境保護のリーダーに

【第3部】 5つの自由を

ジャパニーズ・ドリーム
「日本人のようになりたくない」
きしみ始めた日本型社会
個人を大切にする社会を

東京からの自由
『痛勤』に3万時間も
一極集中にもう限界
都市に住宅、地方に雇用
住環境に大胆な投資を
遷都のすすめ

企業からの自由
会社は自由、個人は不自由に
高度成長型社会からの脱皮
個人に厳しい税の仕組み
所得税・住民税を半分に

長時間労働からの自由
自由な人生設計ができない日本人
時短が求められる3つの理由
1800時間を実現するために

年齢と性別からの自由
高齢者の能力を活用
高齢者の職場参加を進める
女性も選択が可能な社会を
主婦にも年金を満額支給

規制からの自由
実態に合わなくなった規制
管理型行政からルール型行政へ
企業も個人も自己責任で

真の自由の確立
民主主義は国民の自立から
主体性を持たせる教育
新・教師聖職論

『日本改造計画』の読書録

2009年6月に読破。
本書の第1版発行は1993年5月なのだが、
現在日本が抱えるタイムリーな問題も数多く、古さを感じさせない。
例えば、日本のリーダーシップについて
『大国になってしまった現在の日本は、主体的、総合的、長期的、機動的に首尾一貫した政策を立てることが世界に対する責任である。 ところが、現実には受動的で部分的、短期的な政策しか立てられない。しかも、それですら、ギリギリまで決めることができない。』(17ページ抜粋)
という記述があるのだが、これなどはまさに今の政治そのものではないだろうか。

権力

著者には権力へのこだわりを感じる。
特に、民主党に合流後「自分も変わる」として、 それまでの豪腕ぶりを引っ込めてまで政治基盤の強化、政権交代を目指す姿からは 目的としての権力志向を感じていたが、 本書を読むと「明確な使命感」を実行あるものにするための「権力意思」であったことが理解できた。
注目すべきリーダーとして大久保利通、伊藤博文、原敬、吉田茂の4人を上げ、次のように語る。

『彼ら4人は、なぜ、批判を浴びながらも、このように権力基盤を強化したのか。日本の政治風土の中では、どれほど実行力のある個性的なリーダーでも、強力な 権力基盤がなければ強いリーダーシップを発揮できないことを知っていたからだと私は思う。』(30ページ抜粋)

政治資金

政治資金についての国民の不信について
『しかし、政治家の側からすれば、現在の制度では自分の潔白を証明しようにも手だてがない。国民の不信が根強いだけに、ただ単に釈明するだけでは信じてもらえない。』 (71ページ抜粋)

皮肉なことに、2009年の西松問題では、
著者自身が政治資金問題で矢面に立たされ、民主党党首を辞任するまでに至った。

本件は、同年の衆議院選挙を前に控え、民主党圧勝ムードがある中で起きた事件ということもあり様々な憶測を呼んだのだが、 実際に与党議員との扱いの不公平さや、連日にわたる検察情報のたれ流し。不気味なほど執拗に反小沢氏的社説や特集を組む大新聞もあったことは事実である。 法的にどうか、倫理的にどうか、検察や報道の姿勢・・・色々なものを投げかけられた事件であった。

なお、本書では、
『政治資金の出入りを一円に至るまで全面的に公開し、流れを完全に透明にすることである。』
『企業や団体による政治献金は政党に対してのみとし、政治家個人への献金は禁止してもいい』(72ページ抜粋)
など国民の不信の解消のための具体的な案が記されている。このような案も今日的であるように思える。

関連外部リンク:小沢一郎(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

個人的には、政治家が政治活動をしていく上では、時には裏ルートから情報を入手、あるいはそのための交渉、駆け引きにおいて表に出せない資金がになることがあるのでは? と思うし、キーパーソン、海外要人等と会う、または人脈を築く時にも正規ルートではなく手土産的なものが必要となる場面もあるのでは?とも思う。 そして、政治活動のスケールがダイナミックであればあるほどそのような資金なくしてスムーズな理念達成は難しいと思うのだがどうなのだろう? (資金の集め方ではなく、「政治家が資金を集めること自体が悪だ」ということについての私見)

消費税

『現在3%である消費税の税率を、欧州諸国と米国の中間の10%とするのである。それと同時に所得税・住民税を半分にする』(215ページ抜粋)

企業に掛かる税金と個人に掛かる税金の不公平、または外国の税制との日本の税制との所得税や消費税の高低差などから、税についての改革案が記されている。 引き下げるべき税金がある一方、消費税については諸外国並みの10%とし、トータルで浮いた分は公共投資や国際関係の経費(ODA以外)に回す。 試算では、1993年度予算ベースで消費税収入-各種減税=6兆円となっている。

冷戦前、冷戦後

本書には、アメリカ・国連とのかかわり方、外交のあり方など一般的にはあまり馴染みのない話も多く展開されている。 決して軽々には読めず、それが正しいのかどうか私にはわからないが、少なくとも一つだけ意識しなければならない点は「東西冷戦」であることは確かであるように思う。

東西冷戦時代、日本は共産主義勢力の防波堤であった。 そのため、アメリカは日本を重視し、一方日本は経済面にのみ力を注ぐことができ、それが経済繁栄、一定の平和をもたらした。 しかし、逆にいえば経済面以外、平和へのコストを負担していれば、これだけの経済発展を成し遂げることができたであろうか? また、東西冷戦終結によりアメリカの日本への見方が変わる中、日本はこれまでと同じ姿勢であっても世界の中で平和と安定を維持できるのだろうか?

最後に、ハッとさせられた指摘を一つ。

『湾岸戦争以来、「国際貢献」という言葉が流行になっている感がある。しかしそれが、ひたすら外国のために奉仕すること、あるいは国際社会の付き合いや むなく協力することと認識されているとすれば、明らかに間違いだ。そうした認識にはどこか、日本の置かれた立場を忘れたおごりがつきまとう。 国際貢献とは実は、日本が生き残るための活動に他ならない。国際社会のためでもあるが、日本のためでもある。』(103ページ抜粋)