国民主権を真に実現するために、大臣は何をすべきか 菅直人『大臣』の読書録

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菅直人『大臣』

新書:232ページ
著者:菅直人
出版社:岩波書店
発売日:1998年(平成10年)5月29日第1刷発行

表紙裏

国民主権を真に実現するために、
大臣はなにをすべきか-。
1996年1月、橋本内閣の厚生大臣に就任。
薬害エイズ、O157などの課題にのぞむなかで、
何を考え、どう動いたか。

「サイン会」と化している閣議の実態など
「大臣」の仕事を公開し、
憲法議論をふまえて、
大臣、内閣、国会の本来の役割と、
日本の政治の目指すべき姿を説く。

目次

はじめに

【第1章】 議院内閣制における大臣
1.「行政権は、内閣に属する。」をめぐる論点
官僚の憲法六十五条解釈
議員内閣制での三権分立
内閣とは何か
なぜ『官僚内閣制』になったのか
内閣と地方自治体の行政権
独立行政委員会
2.政と官の境界線
内閣はどこにあるのか
内閣の仕事とは
閣議はこれでいいのか
閣僚懇談会は閣議ではない
事務次官会議に法的根拠なし

【第2章】 大臣の任期から考える
1.大臣が短命になる事情
ドイツで実感した日本の大臣の任期の短さ
内閣総理大臣と国務大臣の任期
誰もが大臣になれるシステム
憲法にない「自民党総裁選挙」と「内閣改造」
憲法に書かれている内閣総辞職
「総理大臣が欠けたとき」の内閣総辞職
総選挙による内閣交代
内閣総辞職に大臣は反対できるのか
政治的理由による内閣総辞職
2.大臣になるということ
村山内閣退陣
連立政権における総理大臣の選び方
連立内閣成立の前提条件
大臣を任命するのは誰か
大臣就任に本人希望は通るのか
三人の反対者
国務大臣と主任の大臣
総理大臣の指名
職務執行内閣
大臣任命
組閣までは国民主権
最初の罠
記者会見

【第3章】 大臣300日で見えたもの
1.情報公開はどうあるべきか
大臣の権限による情報公開
薬害エイズ調査プロジェクトチーム発足から郡司ファイル発見まで
質問主意書
審議会情報の公開も
なぜカイワレ犯人説を発表したか
2.縦割行政の渦中に立たされて
大臣も縦割になっている
省庁間戦争における大臣の役割
3.行政の責任と謝罪と賠償
官僚の失敗の補償は税金から
政治判断としての謝罪
役人への賠償請求はできないのか
郡司元課長の処分は可能だったか
4.ボトムアップのシステム
救助犬が入国できない
介護保険法案の流れ
与党・官邸の判断

【第4章】 大臣の仕事
1.各省大臣の権限
大臣が出席する定例の会議はない
「大臣之印」
大臣には人事権がある
政治任用
日本にふさわしい副大臣制
政府委員制度は廃止
2.国会における大臣
「質問取り」
簡単には答えられないこと
大臣も国会議員である
3.大臣のスタッフ
政務次官とはまったく接点なし
族議員養成機関
ニ人の秘書官
ユニークだった政務の秘書官
総理秘書官
大臣を国民の代表に取り戻そう

【第5章】 《座談》行政権とは何か
松下圭一
五十嵐敬喜
菅直人
1.行政権とは
行政に対する国会の監督権
権力分立論の組み替え
内閣に属さない行政権
2.「官僚内閣制」の実態
「政治」と「行政」
閣議の現実とは
縦割行政の制度的保障
首相の指導権
「官高政低」
3.「国会内閣制」のための制度革新
官庁コントロール機能の強化
大臣による情報公開
政治改革としての行政改革
市民が担う行政改革

資料 1996年12月6日
衆議院予算委員会での質問より(国会議事録)

『大臣』の読書録

※当ページ読書録記載日:2009年10月23日

「議院内閣制」(本書では「国会内閣制」という表現を使用)は事実上官僚にコントロールされている「官僚内閣制」となり、「大臣」は、その多くが役所に取り込まれて単なる役所の代表に・・・
本書は1998年に出版された本なのだが、2009年民主党政権誕生後の「事務次官会議の廃止」「国家戦略室の設置」など国の運営システムの改革に通じる内容となっている。

1996年1月から11月までの厚生大臣在任中の体験談を織り交ぜながら、憲法や内閣法などで「大臣」がどう規定されているかといった法律論を展開。そして、 国民主権のもとで「大臣」がいかにあるべきかを問うている。

メモ

【伝統的な官僚法学】

「明治以来の伝統的な官僚法学は、まず最初に「国家観念」をつくった。国家に主権があり、その下で、この部分は議会に権限を、この部分は裁判所の権限だ、 と権限を分け与えてある、というのだ。したがって、「行政権とは何か」との問いには、「国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用である」という 答えになる。これは、まず国家があって国家が国民を統治するという前提に立っての理論と見てよいだろう。 「立法と司法を除いたすべて」の権限が内閣にある、と考えることで官僚は自分を守っている。」(P11~12)

【大臣就任時の記者会見】

「~さらに、「これから就任の記者会見ですが、一応、ご参考までに挨拶文を用意いたしました」と、また別の紙を渡された。そこには「ただいま厚生大臣を拝命いたしました 菅直人です」と、すでに私の名前までちゃんと入っている。私自身、つい数分前に正式に知ったばかりだというのに、この手回しのよさは何だろうか、と思った。」(P76)

「どの大臣も、就任したばかりでまだ何も分からない状況でいきなり記者会見に臨むので、官僚が用意した文書を読むしかない。そこには当然ながら官僚が推し進めたい 政策や方針が書いてある。その結果、それを読むことで、すべて官僚が敷いた路線に乗ってしまうしかない。あとで、問題の重要性に気づいて、軌道修正しようと思っても 、「大臣は就任時の会見でご自分でこうおっしゃっていますよ」と言われてしまうのだ。もちろん、大臣が自分で考えて言っていたのではなく、官僚に言わされていただけなのだが、 たしかに大臣が発言したことに違いはない。私は組閣当日の記者会見は廃止したほうがいいと思う。」(P76~77)

この就任会見に関しては、1996年発行別冊宝島「厚生省更正せず」(宝島社)のP28~29にも関連記述があった。
ライターvs枝野幸夫衆議院議員(新党さきがけ:当時)への対談

-菅さんが大臣に任命されて、厚生省が最初にあわてたのはいつですか。
「就任記者会見の時です。菅さんは誰か厚生大臣になるか、まだ決まらなかった段階で、私にこう指示を出しました。『厚生大臣が決まったら、 枝野、会見場に飛んでいけ。そこで、新しい大臣にエイズに関してレクチャーして、会見では、最低限、大臣にこれだけは言わせろ。 そこが勝負だ。役人が書いたものを読んだらだめなんだ。役人の文章にしばられて大臣は身動きがとれなくなるからだ。枝野がレクチャーしてそのとおりにしゃべらせろ。 俺がそこにいくわけにはいかないから』」

-ところが、その菅さん自身が大臣になった。だから、そのまま自分の言葉で薬害エイズ問題の真相究明に取り組むと話すことができたのですね。
「この記者会見のとき、厚生官僚は弱ったなあという表情を見せていました。」

-すぐに、圧力や嫌がらせがありましたか。
「最初のうちは何もしないんです。役所というところは新任大臣を自分の方に引き込もうとします。レクチャーづけにするわけです。ところが、 厚生省の官僚たちが菅さんをとりこもうとするほど、逆に菅さんのペースになってしまう。最初から怒鳴り合いでしたからね。」

【大臣就任後の「大臣レク」】

「大臣に就任すると、待ちかねていたかのように、「大臣レク」というものが始まる。~厚生省には九つの局と大臣官房があるのだが、 それぞれの局が現在抱えている問題についての説明が、官僚たちからなされる。そして、「この件については、こういう方針になっています」「だから、大臣も マスコミから質問されたら、こう答えてください」と、官僚が決めている方針について、ひたすら説明しまくるのだ。私の方が、「いや、それは違うのではないか」とでも 言おうものなら、その何倍もの言葉で説得にかかる。なにしろ、官僚たちは大臣室の大きなテーブルに三十人近くがズラリと並んでいる。それに対して私のほうは一人だけだ。~ 一人で三十人を相手にするのは、かなりの気力を必要とする。」

その他、大臣が決まるまでの舞台裏、ぶっつけ本番の就任式、野党時代と大臣になってからのギャップ・・・
固いテーマの本だが、意外と読みやすいポイントも多かった。