日本型職能システムの行方 宮本光晴『日本の雇用をどう守るか』の読書録

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宮本光晴『日本の雇用をどう守るか』

単行本:217ページ
著者:宮本光晴
出版社:PHP研究所
発売日:1999年(平成11年)1月6日第1版第1刷発行

「雇用危機」よりさらに危ぶむべきは
「市場型」「流動型」システムへの
甘い幻想と誤解である。

雇用危機や雇用崩壊といった言葉がいよいよ切実な響きをもって迫っている。
・・・もう一段景気が低迷すれば、雇用は一気に流出し、大量失業となって溢れ出す。
こうした悪夢が現実のものとなりつつある。
・・・ますます悪化する経済状況に、日本の雇用システムはさまざまな「改革」を試み、変革を進めている。
・・・目前の課題への適応の結果、日本型経営システムは、
状況の罠にすっぽり落ち込んでしまうことになるかもしれない。
その罠を覆い隠すのが、あるいは罠へと誘い込むのが、
市場原理や転職の自由やグローバル・スタンダードといった言葉であれば、
それらを剥がして状況の全体を見通すことが必要である。
(「あとがき」より)

目次

【序章】 「雇用危機」の正体
戦後最悪の失業率
日本型雇用システムの終焉か
繰り返されてきた雇用調整
「システムの危機」と「雇用情勢悪化」の混同
変動を通じて形成されたシステム
慣行の破壊と「確信の危機」
雇用の安定か転職の自由か
いま何を目標とすべきなのか

【第1章】 雇用システムの構造と機能
システムを正しく理解する観点
「構造-機能-変動」の理論
システムにおける「型」の内実
資本と労働、市場と技術
労使関係-技能形成-労働生産性の連関
システムの変動と目標
グローバルかローカルか
アメリカ型との比較だけでは不十分

【第2章】 「市場型」システムとは何か
雇用システムの国際比較
極めて短期の雇用と短期の失業-アメリカ
長期勤続と中程度の流動性-日本
レイオフとリコールの一体化-アメリカ
創造と破壊の経済における賃金格差
ドイツと日本の比較の重要性
日本における定着促進のための制度
「会社人間」はいかに成立したか
日本型システムは人間を幸福にしないか
職業生活の安全と自由のトレード・オフ

【第3章】 日本型能力主義-職能資格制度
ステレオタイプ化された年功賃金と終身雇用の制度
職能-能力を評価する共通の尺度
資格給+年齢給+業績給
賃金と職務が切り離される意味
「職務」システムと「職能」システム
アメリカのサラリーシステム
日本型能力主義への批判
査定を排除するシステム

【第4章】 日本型システムの高パフォーマンス
「職能システム」の機能の検証
柔軟な昇進制度
「絶対評価」による目標の充足
「減量経営」「多品種少量生産」への適応
柔軟な職務編成による経済的成果
アメリカにおける「チームシステム」
形成される技能の「幅」と「深さ」
暗黙の前提としての雇用保障
雇用の安定は経営としての選択

【第5章】 機能低下はなぜ起こったのか
日本型システムの変動の行方
過剰雇用と過剰昇進のコスト
維持できなくなった「高価」なシステム
価格競争と情報技術における機能的劣位か
企業収益の低下が迫る制度変更
「遅い昇進」から「早期の選抜」へ
中高年管理者の削減
年俸制・業績給の導入
「アップ・オア・アウト」の原理
業績主義の「漸進的」導入
「現状への理解と確信」の欠如
株主利益よりも優先されてきた従業員利益
資本利益の追求の圧力
株主支配型の企業統治か
労働の側からの定着の否定か

【第6章】 内部労働市場と職業別労働市場
内部労働市場の典型としての日本型システム
労働市場の類型
アメリカにおいても支配的な内部労働市場
拡大するアメリカの外部労働市場
ドイツ型「二重」訓練システム
アメリカにおけるビジネスエリートの制度化
資格と競争
内部昇進を否定するドイツ型システム
ドイツの賃金格差が低い理由
羨望されるアメリカの専門職
熟練形成のための日本型OJT
雇用の定着を促進する内部訓練と内部昇進
低成長を前提とする職業別労働市場
階級を峻別するドイツの教育制度
エリートを制度化するアメリカの大学院

【第7章】 日本の雇用はどこへ向かうのか
将来の行方をどう見通すか
日本型雇用システムは没落するか
競争力を維持する日本の製造業
情報・金融における競争劣位の悲観論
既存システムの延長線上にある流動化
拡大する「周縁」の雇用形態
複線型職能システムとしての専門職制
アメリカ型ビジネスエリートの幻想
「職能資格」「技能資格」の高コスト
日本と正反対のドイツ型原理
東京都大田区中小企業群の技能集積
日本における「技能資格」の可能性
「自己の職業を守る」という考え
「キャリアアップ」の意識に欠如するもの
「企業内職美人」という生き方

あとがき
参考文献

以下読書録作成予定