緊急提言 デフレ・スパイラルを粉砕せよ! 伊藤隆敏『インフレ・ターゲティング 物価安定数値目標政策』の読書録

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伊藤隆敏『インフレ・ターゲティング 物価安定数値目標政策』

単行本:129ページ
著者:伊藤隆敏
出版社:日本経済新聞社
発売日:2001年(平成13年)11月20日第1版第1刷発行

緊急提言
デフレ・スパイラルを粉砕せよ!
この方策をいますぐ採らずして、わが国経済の再生はあり得ない!
斬界きっての論客が鋭く、かつ平明に説く。

目次

【1】 インフレ・ターゲティングとは何か
金融政策の新しい枠組みである
どこがすぐれているのか
インフレ・ターゲティングの具体性
海外先進国ではスタンダードな政策
[コラム] 免責条項
インフレ・ターゲット政策はインフレ率引き上げにも有効か?
数値目標はだれが決めるのか
実体経済など諸要件を無視してよいわけではない
[コラム] スタグフレーション

【2】 デフレ・スパイラル危機とインフレ・ターゲティング
デフレが深刻化する日本経済
日本はもうデフレ・スパイラルに突入している
お金を借りている人が不当に損をすることを防ぐ
良いデフレ、悪いデフレ論の誤り
デフレを止めることが日本銀行の使命

【3】 インフレ・ターゲティング導入の論点
インフレを起こすことはできるのか
逆にインフレを止められなくなるのではないか
金融政策にできることには限界がある
ゼロ金利、カネ余り状況では景気回復に結びつかない
円安誘導についてはどう考える
日本銀行はすでにインフレ目標を定めているのではないか
根強い「調整インフレ論」との混同

【4】 反論に対する反論(想定問答)

付録 日本の金融システム再建のための緊急提言

『インフレ・ターゲティング』の読書録

当ページ記載:2009年12月1日

インフレ・ターゲットは、政治家や経済評論家をはじめ、多くの人が認識を誤っている政策であり、
「誤解」に基づくものや、「経済学の常識」に反する議論も見受けられると指摘。(P5)
本書では、誤解を避けるためにインフ・レターゲット政策を「物価安定数値目標政策」と呼び、
わかりやすい経済の解説のもと理解の促進を促している。

インフレ・ターゲティングとは?

インフレ・ターゲティングとは・・・

「簡単に言えば、年間の物価上昇率を「一パーセントから三パーセントの範囲内」といった数値目標として定め、中央銀行は、その目標を達成するように金融政策を行うと宣言すること(略) 物価上昇率を「物価安定」と整合的な範囲にコントロールすること」(P10)であり、「物価を急上昇させる政策や、インフレ率が高ければよいという政策」(同)ではない。

他の経済本の中には、インフレ・ターゲットを実施するとインフレが加速して止まらなくなる恐れがあるといった旨の記述があったと記憶しているが、 本書にはそのようなありがちな誤解についての反論も用意されている。(第4章反論に対する反論【想定問答】)

※「インフレ・ターゲティング」=「インフレ・ターゲット」
(本書で言う「物価安定数値目標政策」も違いはネーミングのみ)

インフレ・ターゲティング政策の3つの利点

●1.数字で目標と責任をはっきりさせる(P12~14)
「2パーセント目標とする」「1~3という範囲を目標とする」というように水準または範囲で目標を設定。
このように物価安定目標を数値設定することにより、中央銀行の目標と責任をはっきりさせることができる。

●2.中央銀行が独立性を確保し、説明責任も発生する(P14~15)
目標達成の責任が発生する一方、金融政策の手段については、日本銀行の独立性を確保。
同時に、説明責任も発生。

●3.期待インフレ率を安定化させることができる(P16)
期待インフレ率(人々あるいは市場が、これから物価はどれぐらい上昇すると期待〈予測〉しているか)を
安定化させることができる。

インフレ・ターゲティングの具体策

物価安定数値目標政策について、その宣言のポイントは次の3点。

【日本銀行が宣言する際の具体例】
「2年後に消費者物価指数(除く、生鮮食品)のインフレ率を1~3パーセントの範囲にするということを目標に、
金融政策を運営します」(P17)

●1.適切な物価指数(P18)
「諸外国で、インフレ・ターゲット政策を導入している国が目標設定として採用している物価指数は、ほとんどすべて消費者物価指数」(P18)である。 その理由は「生活実感に合っている」ことや「速報性」にある。

●2.数字目標の設定水準(P19~20)
・消費者物価は上方にバイアス
「1~3パーセント」と下が0%ではなく1%である理由は、消費者物価指数を調べる際の技術的問題との関係から。
・マイルドなインフレが望ましい
上が「3パーセント」であるのは、賃金の下方硬直性を考慮に入れると、多少インフレ率が高い方にぶれていた方が適切であるから。「マイルド」は1~2パーセントのこと。 (平均的な賃金や価格は、全体的としてみると、毎年多少上がっていくぐらいが経済活動の潤滑剤として機能している)
また、名目利子率はゼロ以下にはなり得ないため、インフレの場合は対処のしようがあるが、デフレの場合には対処の仕方が難しい。

●3.期間の設定(P24~25)
「2年後」の期間は、金融政策を発動してからそれが効果を持つまでに6ヶ月から1年かかるから。「1年先」としないのは、マイナス2パーセント近いデフレになっている 現在の日本経済の状況において、その差を埋めるためにも時間が掛かるため。経済が普通の状況であれば「1年後」を提唱。

10の想定問答

P103~121には、インフレ・ターゲティングに関する10の想定問答がある。
Q1やQ5のような誤解は、経済危機を煽るような本で見かけたような・・・。
以下、想定質問だけ抜粋。

最後に

本書を手にしたのは2009年11月末に政府がデフレ宣言をしたことがきっかけであったが、
本書発行当時(2001年)の世の中もデフレであったため、最後まで違和感なく読むことができた。
内容は専門的ながら、経済の専門家ではない私にも「インフレ・ターゲティング政策(物価安定数値目標政策)」
が理解でき、何より相当の誤解や勘違いが解けたことが収穫であった。
インフレ・ターゲティング・・・著者が指摘するように「インフレ」という文言が入った名前がマイナスイメージを抱かせかねないだけに、 「物価安定数値目標政策」というコトバでしかまともな議論が展開されないような気も・・・。