特殊法人職員の優雅で怠惰な生活日誌 若林アキ『ホージンノススメ』の読書録

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若林アキ『ホージンノススメ』

単行本:267ページ
著者:若林アキ
出版社:朝日新聞社
発売日:2003年(平成15年)4月30日第1刷発行

佐高信さんも驚いた!
え、そんなことまでやってるの?
特殊法人元職員による、誰も書けなかった内部告発

[推薦のことば]
薬害をもじって私は”役害”と言っている。
役人、役所(そしてそこにつらなる膨大な数の公益法人、特殊法人)
のもたらす害である。
しかし、国民に寄生する彼らのせこさが、これほどひどいとは思わなかった。
この本は”厄人”と呼びたい彼らの日常生活の痛烈な内部告発書である。

目次

【第1章】 優雅で気楽なホージン生活

1日目 「ニセ研究員」デビュー 補助金サギの片棒を担ぐ
2日目 「デート遅刻」と「週一出勤でBMW」
3日目 月に1度しか出てこない部長
4日目 「研究会」の実態 御用学者のお気楽アルバイト
5日目 「遅れて、休んで、働かない」 ホージンの勤務三原則
6日目 「社宅にアンテナ」 研究員の仕事(1)
7日目 ヘタに研究すればつぶされる 研究員の仕事(2)
8日目 追い出された有名教授 研究員の仕事(3)
9日目 海外出張のヒミツ 公費で家族ドライブ!
10日目 仕事中に英会話レッスン
11日目 豪華施設のナゾ(1) 昼休みはテニス、その後は昼寝
12日目 豪華施設のナゾ(2) 茶室でお茶のお稽古
13日目 豪華施設のナゾ(3) 世界一の子どもの遊び場?
14日目 ランチタイムの財テク話
15日目 国家公務員の「同期の桜」
16日目 不倫に優しいホージン

【第2章】 ホージンとお役人

17日目 出版部へ異動する ホージンの「結婚奨励策」
18日目 ODAで官官接待、そして「極秘情報」の中身
19日目 目指せ、玉の輿!
20日目 外交官のホントの仕事
21日目 ODAのヒミツ 3万円のファックスに300万円の「検収団」
22日目 楽しい「公費のお見合い」
23日目 政府白書のナゾ 「抱き合わせ販売」と「捨てるために増刷」
24日目 ホージンの華麗なる出版録(1) 「ハゲは絶倫」
25日目 ホージンの華麗なる出版録(2) 「銀座のママが教える社会問題」?

【第3章】 驚天動地の経理のヒミツ

26日目 ホージン経理の鉄則(1) 官官接待は青天井
27日目 ホージン経理の鉄則(2) 稟議書は半年前の日付で書く
28日目 銭湯か、ソープランドか 残業中に通い詰める
29日目 数字が合わなければ作ってしまえ!
30日目 必殺の会計検査対策 書類偽造にてんてこ舞い
31日目 財務省ノンキャリ課長の「特技」
32日目 請求書はヤミ愛人手当?
33日目 ホージンはつらいよ バカにならない政治家とのお付き合い
34日目 使わないショールームと捨てた一千万円のポスター
35日目 金太郎アメの経済学 会計事務員研修
36日目 政府の大赤字、ホージンの浪費

【第4章】 オンナは不倫で出世する

37日目 理事長の海外出張 ほんとのスケジュール
38日目 セクハラ課長と巨乳女
39日目 国連職員に応募する
40日目 明日に向かって走れ!
41日目 「不倫推薦」の誘い
42日目 お気楽外国人たちの生態
43日目 韓国ホージン事情
44日目 転送電話でバイトざんまい
45日目 いじめ地獄から病気に
46日目 国際機関に行けるかも? そして結末

【第5章】 行革スペクタクル

47日目 政府ホージン繁栄史
48日目 さよなら、ホージン

【第6章】 ホージンとのバトル

49日目 告発、週刊誌に載る
50日目 ホージンの逆襲 執拗な嫌がらせ
51日目 匿名掲示板でもたたかれる

エピローグ ホージンたちのその後

あとがき

『ホージンノススメ』の読書録

若林亜紀 - Wikipedia」内の本書紹介箇所より引用
『公金浪費、思想統制、研究成果の捻じ曲げ、天下り官僚の海外旅行、セクハラ、自身の在職時の国との力関係、業務の実態などを綴る。 当初、出版社は訴訟リスクを避けるために法人の実名を伏せた。しかし、法人が若林の退職金減額裁判で『ホージンノススメ』を証拠提出し、 「本書にあるような内部告発をしたため退職金を減らした」と主張し、本書に書かれていることには事実が含まれていると認めたため、若林側も法人名を明かすようになった。』

本書内で使われている『K省』は厚生労働省、『ホージン』は日本労働研究機構(独立行政法人労働政策研究・研修機構の前身)を指している。 本書を読む限り、著者の退職金が減額されたこと自体に正当性は感じられない。 50万円の退職金減額(これに対して訴訟をするとすれば、裁判経費に40万円くらい掛かるため、このような微妙な減額にしたのだろうとの推測記述あり)の代償が結果として 裁判の敗北と法人名の公表を招いたのだから全くの皮肉・・・。それにしても、内部告発はもちろん裁判でも一人組織に立ち向かう著者のパワーには驚かされる。

『ホージンに集まる人々を見ていると、世の中には、こんなラクでお金をもらえる生き方があったのだと、目からウロコが落ちる思いだった。 公務員は「遅れず、休まず、働かず」と言われているけれど、本当だった。』(P34)

著者は民間の建設会社からの転職組であるため、その職場評価はより的確なものであると思われる。
あくまで一つの組織内の話だが、似たような問題組織がないとも言い切れない。

研究員の仕事

P36~P44にはホージンの研究員の仕事について記されている。その内容は、むしろ研究員に同情したくなるようなもので、 例えば本省に調査を委託された場面で、まともに調査研究して本省の方針に沿わない内容のものであるときには、本省によりその内容を直される、黙殺される、 結果公表を延期させられる、叱られるetc・・・。霞が関に反する政策評価研究をする有名大学教授研究員はホージンから追い出される・・・。 これでは、志高くまじめに仕事をしたい研究員ほどやっていられなくなる。

政府白書のナゾ

『でも、一万部売れる本がひとつだけあることを知った。それは、「白書」である。政府の発行する白書は、財務省の印刷局が発行元であることが多いが、 K省の場合は、私が勤めるホージンから出していた。この白書はK省所管のある国家試験の指定教材になっているので、受験者は否応なく買わざるを得ない。 早い話が、国主導の抱き合わせ販売、セット商法のようなものである。』(P108)

K省は厚生労働省、国家試験は社会保険労務士試験、白書は厚生労働白書だと思われる。 『毎年数万人が受験』『定価は一冊2000円』・・・私自身社会保険労務士受験の際には、当然のごとく白書を購入。 周りの受験生も同様であったことから、仮にこの白書ではなかったとしても「抱き合わせ」の仕組みは同じである。

※2009年6月発行 若林亜紀『国破れて霞が関あり』83ページによると、白書は厚生労働省編「労働経済白書」だった。

また、ここでの問題はそれだけではなく、2,600万円の売上げで印刷費3,000万円、赤字は税金補填。 白書の中身はK省お役人が手分けして、編集も校正も実質的には印刷業者に丸投げ。 高額で競争入札すべきところ、「仕様の統一を図るため」として同じ業者に随意契約。

そして、ホージン出版部員はK省お役人が公務として業務時間内に書いた原稿の謝礼200万円を 「市販用の加筆分およびその校正料」という名目で霞が関に持参。 その現金は課でプールされ飲食費にあてている。
さらに、時にはたくさん売れ残っているにも関わらず、予算消化のため、捨てるために増刷することも・・・。

本文では著者が経験したお金の流れが記されているいるに過ぎないが、2万部で3,000万円という高額な印刷費のウラでお金の還流は?? K省が受け取った原稿料(受領した名目は異なるが)のその後のお金の流れは??と、追及すればもっと黒い事実が出てくるような気がしてくる。

政治家のパーティー券

『政治家のパーティー券の領収書もまわってきた。「何々君を励ます会」と印刷された、1枚2万円の券を5枚とか、8,000円の券が5枚とか。誰が行くというわけでもなく、 ただ購入を割り当てられるだけ。パーティー券は、総務部の棚に、「ご自由におとりください。」と無造作に置かれる。このホージンは予算規模が小さいから割り当ても 少なくて済むのであって、予算が大きい政府ホージンは、もっと買わされていると思う。それから、政治家の本を大量に買い上げる。』(P150)

さすがにパーティー券の実名はないが、本は2人分の政治家の実名で記されている。『やはりこういった本も、関連の全ホージンが大量に買えば、それだけで数千部、数万部の 売上げになるはずで、形を買えた、一種の政治献金になるのではないかと私は思う。』(P152)とあるように、国民の見えないところでこのようなお金の流れができているのかと納得した。 睨まれて補助金などが減らされないように・・・ということだろうか。

このホージンに勤めるまでは・・・

『2001年、小泉内閣が誕生し、日本経済再建のため、特殊法人改革を柱とする構造改革をとなえた。でも、結局、独立行政法人と呼び名を変えるだけに終わった。 これまでもいくつも行革があって、そのたびに政府ホージンは予算が増えて大きくなった。その実態は「特殊法人問題」として全体的に問題にされることはあっても、 個々の法人がどんな手口を使ったかは、なかなか表立って取り上げられることは少ない。私自身も、このホージンに勤めるまでは、まったく知らなかった。』(P214)

日常的な業務やカネの流れの中で、表に出ない無駄遣いや不正が実在することを本書を読んで知ることができた。 (外部の人間が指摘することはあっても、内部の関係者が証言することはリスクが大きく事例が少ないように思われる。)

私は「増税する前に行革、歳出カットが先だろう」と思いつつ、国の借金の膨大化に不安を抱き、やむなく「増税仕方なし」と思っているのだが、 まさに本書で記されているようなことの個々の改善があれば、たとえ金額的には大きなインパクトがないとしても納得して増税に賛成する。

しかし・・・
自民党野田毅議員の著書『消費税が日本を救う(2004年)』より引用。
行革を徹底的にやって、無駄遣いを徹底的になくして、役人の数も政治家の数も、国も地方も徹底的にスリム化して、それでもなおかつ財政が足りないというなら、 消費税の増税も仕方がないというのが一般的な議論です。ところが、行革論議というのは、いつまでたってもよくやったということにはなりません。 本来、時代に合わせて組織のつくり方や人の配置を見直すのが、行革の中心的テーマでしょう。無駄遣いや仕事ぶりだけが問題ではないと思うのですが、 いまの風潮では、極端に言えば、役人が一人でも残っている限り行革の種は尽きない、という側面があるのではないでしょうか。 給料が高すぎる。働きが悪い。数が多い。こうして、行革が囲碁で言う「劫ダテ」の材料みたいになっていると、永遠に消費税率の引き上げはできないことになります。 そして、できないうちに少子高齢化がどんどん待ったなしで進んでいって、赤字国債は増えていって、財政破綻になってしまうわけです。』(P19~20)

給料が高すぎる。働きが悪い。数が多い。・・・『ホージンノススメ』にあるような状況がある限り言い続けることは当たり前で、 2001年の特殊法人から独立行政法人への看板の架け替え、所管大臣がどちらをむいていたのかわからない2008年の独立行政法人改革、 民主党政権になってからも事業仕分成果に対する不十分な予算への反映(若林亜紀『裏切りの民主党(2010年4月22日)』にて指摘) ・・・ポーズだけの改革はもう止めにして欲しい。

ホージンの掟

『特殊法人、認可法人、独立行政法人・・・政府法人には、どこでも共通の不文律がある。これらはおおむね、「お役所の掟」として名高い本省の規定をそっくり真似たものである。
・予算は拡大あるのみ、一度増やした予算はぜったいに削らせない。
・クビはぜったい切らせない。天下りはぜったい減らさない。
・税金は湯水のように使え(ポストは予算についてくる)
・予算の節約は罪、返納は悪(予算は年度末にかならず使い切れ)
といった大物から、
・海外出張で格安航空券を使ってはいけない
といった細かいことまでびっしり決められている。』(P219~220)

本書の話ではないが、公務員の無駄遣いを特集した某テレビ番組(2010年7月)で「備品は減価償却まで使い切らなければいけないので、例えばデジカメは、 同じものを中古品で買えば3000円で済むのに、わざわざ修理業者に2万円も出して使っている」ということが放映されていた。

これなどは、本書に照らし合わせれば「細かい」話の部類に入るのかもしれないが、
いずれにしろ、削減規模の大小に関係なく、明らかに国民感情を刺激するような無駄遣いは一掃して欲しい。

最後に

P235~236ページにかけて、内部告発(本を出す)に至る思いが記されている。

『それに、公金で運営している私の職場は、職員だけのものではなく、国民のものだ。政府ホージンの不正を見逃すことは、社会への裏切りである。 政府部門の湯水のような公金浪費が続けばいずれ財政や年金が破たんし、日本がつぶれてしまう。政府ホージンに寄生する人たちのお気楽な私欲のために、自分と国の未来が不安にさらされるのはバカバカしすぎて許せないことだった。』(P235~236) 、『男女差別、セクハラ、いじめ、それを許す組織風土への怒り。(略)ゆがんで閉鎖的な社会に対する怒りと悲しみ。』(P236)

また、266ページの記述を見ると、私怨を晴らすといった単純なものではないことがわかる。

『読者には登場人物を悪く思わないでほしい。人間なら誰でも善悪両面をあわせもつ。政府法人の風土が、その利己的な面、卑劣な面、怠惰な面を極度に増長させてしまうことが問題なのである。 その陰で、やる気がそがれ良心を傷つけられている職員も多いのである。』(P266)

風土・・・
それは省にも似たような問題があるのかもしれない。
※中川秀直『官僚国家の崩壊(2008年)』より引用
私は、これまであまたの優秀な官僚に出会い、切磋琢磨してきた。いまの個々の官僚も優秀で、働き蜂のように懸命に仕事に取り組んでいる事実は変わらない。 ただ、残念なことに、最近とくに、「省あって国なし」で省利・省益のためだけに奔走し、先輩や自分の天下り先確保だけに汲々とする官僚がめにつくようになった。 ほとんどの官僚希望者は、日本をよりよい国にしようという志に燃えて各省に入ってくる。しかも、みな飛び抜けて優秀な人材ばかりだ。そんな彼らがなぜ、志を失ってしまうのか。 22歳で硬直した組織に参加した人間は、どんなに優秀でも、可能性を奪う方向にトレーニングされ、入省時を頂点としてどんどん頭が固くなっていく。 それに耐えられない若手は次々と組織を飛び出す。結果、いっそう優秀な人材が組織にいなくなるという悪循環に陥っているのだ。官僚のレベル低下はむしろ政治の問題といえるだろう。』(P21~22)

『ホージンノススメ』に戻ると、やる気満々で研究者になった「のび太」は、まじめに研究すれば叱られて大人しくしていればおとがめなしで次第に生きるしかばねになり、 アルバイトアシスタントは「仕事がないのが辛いの。なんのために私がここにいるのか、私がホントにいていいのかわからない」「こんなところ、いい若いモンが勤めるところではないです」と次々に辞めていく。 そして、残っているのはトホホな面々。(トホホになってしまった面々も)

いずれにしても問題は大きく根深いが、政治家からすれば「触らぬ神に祟りなし」といったところだろうか。
少なくとも、公務員労組の支持を受ける政党に、既得権に切り込むような抜本改革ができるとは思えず・・・。
10年後も20年後も同じ問題が語られているような気がしてならない。