坪野剛司『公的年金の不信・不安・誤解の元凶を斬る!』の読書録

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厚生年金・国民年金増額対策室

坪野剛司『公的年金の不信・不安・誤解の元凶を斬る!』

単行本:199ページ
著者:坪野剛司
出版社:日本法令
発売日:2004年(平成16年)7月10日初版発行

年金行政の中枢を担っていた厚生労働省OBの著。
真実を正しく報道しないマスメディアによって生じたという国民の年金「不信・不安・誤解」について、
現行の年金制度を擁護する形で各論ごとに話が展開されます。

公的年金を批判する立場の年金本は多く存在するものの、
本書のように現行の公的年金を擁護する年金本はあまり見かけませんので、
「基礎年金財源消費税化」や「保険料未納問題」、「第3号被保険者問題」など
年金制度や年金問題について多角的に、かつ正しくモノを捉えていく上において、
本書のような国側の立場で語る本はとても貴重なものといえます。

他の本では見かけない意見・・・
グリーンピアなど年金施設について、
「受給者のための施設など、給付以外に保険料の一部を使用して何が悪い(P128タイトル)」
国民年金保険料の未納者の多いことついては、未納者の実態を示す各種資料を用いつつも
「~制度に魅力を感じない者、金持ち、その他怠け者多数、と思った方が正確ではないかと思います~(P75)」等々

時にこのような箇所では疑問を感じる部分もあり、断定的な表現には違和感も感じるところもありますが、
年金を知り尽くす筆者ならではの深い見識やハッとさせられる切り口・・・
賛同できない部分も含め、価値ある一冊であることに間違いありません。(2008.5)

目次

【第1章】 年金制度の不信・不安・誤解の元凶
1.年金制度は本当に危ないのか?
2.日本の公的年金の概要
3.抜本改革の必要はない
4.公的年金の給付の種類
5.障害年金は年齢に関係なく支給される
6.学生の障害無年金問題をどう考えるか
7.いつの時代も遺族年金は必要
8.遺族年金の種類
9.公的年金制度の使命
10.私的年金よりはるかに有利な公的年金
11.日本の公的年金の体系
12.わかりやすい老齢基礎年金
13.満額からの引き算の年金
14.老齢基礎年金は繰り上げ・繰り下げができる
15.老齢基礎年金は夫婦で3,200万円の財産
16.会社員と公務員の年金は同じ
17.標準的な家庭の年金額は約23万円
18.脱退一時金を受給した人は年金額は少ない
19.日本の公的年金制度はわかりやすい

【第2章】 現行制度への大いなる誤解
1.地域によっては年金が最大の地場産業
2.不景気の原因の一つ年金不安
3.国民年金の未納者が増えた理由
4.地方から国への事務移管による一時的現象か
5.若者はなぜ保険料を納めない
6.未加入者・未納者は必ず後悔する
7.自営業者・農業者の未納は被用者グループの負担にならない
8.実際の収納率は70%程度
9.昭和36年国民年金創設時の前提
10.保険料未納者の実態
11.マスメディアの責任
12.国民年金の保険料より高い民間保険料を納付しているのはなぜか
13.国民年金の保険料未納者には生命保険料控除を認めるべきではない
14.国民年金保険料未納者に制裁措置が必要か
15.収納率を上げる工夫とその仕組の導入
16.低所得者には保険料免除制度がある
17.学生などには保険料納付の弾力化措置がある
18.未納者は手続きなどを嫌う怠け者か
19.自営業者・農業者などの所得は正確な把握が困難
20.公的年金の損得論は愚の骨頂
21.前提次第でどうにでも変わる数値
22.計算すること自体馬鹿げている
23.自分の頭で考えよう
24.平均的な収入のある断層の話

【第3章】 こんなに優れた現行制度
1.年金制度の原理・原則
2.保険集団で違う平均受給期間
3.昔のお年寄り(受給者)は本当に負担が少なかったのか
4.現代の若者の生活を変える必要はないか
5.物価上昇の責任は国が、物価スライドの負担は国民全体で
6.40年前の100円・150円の価値は今の牛丼一杯の価値とは比較にならない
7.公的年金の財政再計算とは何か
8.年金制度の財政方式とは何か
9.年金制度の保険料のあり方
10.保険料引き上げ計画の明記
11.人口推計は3通りある
12.人口推計は日本の国土計画の基礎資料
13.女性の初婚年齢の上昇
14.なぜ生まれる子が少ないか
15.日本の人口置換水準(2.07)より低い
16.基礎数値の変動は必ず起きる、そして保険料(率)も変わる
17.運用評価期間は最低10年は必要
18.受給者のための施設など給付以外に保険料の一部を使用してなぜ悪い
19.毎年小刻みに上がることとなった保険料(率)
20.最近やっと男女で同一賃金

【第4章】 「抜本改正」の論点を斬る
1.スウェーデン方式とは何か
2.マクロ経済スライドとは何か
3.女性の年金権
4.標準的な家庭とは
5.厚生年金・共済年金は夫婦単位の年金
6.国民年金は個人単位の年金
7.専業主婦が任意加入のとき過剰給付との非難
8.厚生年金の定額部分と報酬比例部分の給付水準はかつて半々
9.老齢基礎年金は厚生年金の定額部分を二分割
10.第3号被保険者制度に対する誤解
11.基礎年金を全額消費税でまかなう仕組みは不可能
12.世界に誇れる第3号被保険者制度
13.短時間労働者の厚生年金への適用
14.短時間労働者の年金はどうなる
15.年金財政は悪化するが
16.離婚時の年金分割は…
17.公的年金制度の体系の見直しは必要はない
18.全額税方式の年金制度は所得制限がつき公的年金の後退
19.各国とも試行錯誤の年金制度改革
20.所得比例一本の年金制度は不可能
21.単なる外国の制度の物真似はだめ
22.年金改革は時間をかけた検討が必要
23.おわりに

資料1 平成16年年金制度改正の概要
資料2 国民年金保険料の収納対策の強化
資料3 世代ごとの保険料負担額と年金給付額の計算方法の厚生労働省の考え方
資料4 国民年金の概要
資料5 厚生年金保険の概要
資料6 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢
資料7 国家公務員共済組合制度の共済年金の概要


読書メモ&感想・・・引用『』、細目<>、任意で付けたテーマ▼

【第1章】 年金制度の不信・不安・誤解の元凶

▼障害年金の定義

<5.障害年金は年齢に関係なく支給される>
障害年金の1級・2級・3級の年金額には、それぞれに定義があります。
(※3級は国民年金以外)

▼年金のわかりやすさ

<12.わかりやすい老齢基礎年金>
『日本の年金制度はわかりづらいと言う人がいます。わかりやすくする工夫を求める声もあります。しかし、決してわかりづらいのではありません。 年金は難しいものと勘違いして、仕組を知ろうとしないのです。また、わかろうともしない人が多すぎるのではないかと思います。(P31)』

<19.日本の公的年金制度はわかりやすい>
『日本の年金制度は非常にわかりづらいから、もう少しわかりやすい制度にしろという人がいます。いままで話したことの一体どこがわかりづらいのでしょうか。 年金制度の運営現場に長く携わった者や年金を研究している者からみて、まったく理解に苦しむところです。わかりづらいという理由だけで今の体系を変える必要はありません。 ~5年たっても今の体系が変わることは絶対にないと確信しています。わかりづらいという人の多くは、理解不足の人です。日本の年金制度はわかりにくい制度では 決してありません。(P42)』

あくまで私の場合ですが・・・
会社を辞め、背水の陣で社労士試験のための年金の勉強。
当然、知ろうとする度合いは誰よりも強いにもかかわらず、
うっすらと年金の仕組がわかるまでには100時間以上、
明確に年金がわかるようになるまでには200時間、300時間という時間が掛かっており、
それでさえ、年金の世界では表層の知識でしかありません。
私のような平凡な頭脳でも容易に理解できる年金制度であれば…と思います。

<15.老齢基礎年金は夫婦で3,200万円の財産>
65歳からの男性の平均余命は18年、女性の平均余命は23年ということで、
1人平均20年で老齢基礎年金(満額:80万円)の受給額を計算すると、
生涯で1人1,600万円、夫婦で3,200万円の老齢基礎年金を受給できるとしています。

【第2章】 現行制度への大いなる誤解

▼年金がもたらす経済効果

<1.地域によっては年金が最大の地場産業>
年金は、国の社会保障費の中で大きな部分を占めており、 ともすれば経済の足を引っ張る存在というイメージもあるかもしれません。 しかし、全国市区町村によっては若い働き手が少なく、会社員や公務員が稼ぎ出す収入よりも 高齢者の方がもらう年金のほうが多いというところもかなり存在し、そのような市区町村では 高齢者の方の消費が地域を支えているといった一面もあるのです。ここでは、そのことを指摘しています。

▼未納

<5.若者はなぜ保険料を納めない>
『若い人がなぜ保険料を納めないのか、端的に言えば収入が少ないからです。~バブル崩壊後50歳以上の高年齢者を中心にした企業のリストラが横行し、 世帯全体の収入が増えない状況では、親と同居している子どもの保険料まで親が負担(国民年金では世帯主が世帯員全員の保険料を負担する義務がある)できなくなったこと にもその原因があるかもしれません。(P50~P51)』

<10.保険料未納者の実態>
『保険料を納めていない人たちの所得を調べてみても、保険料を納付している人たちの所得状況はほとんど差がありません。未納者が国民年金制度に無理解な人か、 逆に現在の所得水準からして年金額が少なく国民年金制度に対して魅力を感じない人たち、あるいは免除申請など手続等を行なうことを嫌う怠け者が多いということです。(P59)』

<11.マスメディアの責任>
『学者やマスメディアは保険料を納めていないグループの実態を報道する責任があります。~収入が少なく本当に貧しくて保険料を納められない人が多いのであれば、 制度の体系を含めて抜本的に見直さなければならないのは理解できます。若い人の中には国民年金の保険料約13,300円(1ヶ月)以上の携帯電話代を毎月払っている人が多数いるとも 言われています。(P64)』

<12.国民年金の保険料より高い民間保険料を納付しているのはなぜか>
『保険料を納めていない人で、民間の生命保険に加入している人は約50%以上います。個人年金に加入している人も約1割います。~ 未加入者の半数以上は、生命保険や個人年金の保険料として、国民年金の保険料よりはるかに高額の保険料を支払っているのです。これが未納者の実態です。~ 納めていない人たちの言い分は、「生命保険はいざというときのために加入している」と言います。それでは、国民年金は「いざというときの制度」ではないのでしょうか。 公的年金制度には先に言ったように老齢年金、障害年金、遺族年金という給付があります。国民年金は民間の生命保険が持っている保険内容を全部備えています。(P66)』

<13.国民年金の保険料未納者には生命保険料控除を認めるべきではない>
『国民の公平感から言えば、生命保険料の所得控除を受けるためには国民年金の保険料を完納していることぐらいの条件は、今後とも続けて要求・実現すべきと思います。(P68)』

<14.国民年金保険料未納者に制裁措置が必要か>
『(社会保障審議会年金部会の委員の意見として)国民年金の保険料を納めていない人には、自動車の運転免許証は発行または更新しない、というくらいのペナルティはかけてよいのではないかと 、現実的な対応策を提案している人もいます。~(有識者の意見として)国民年金の保険料を納めない人にはパスポートを発行すべきではないという者もいます。私は全面的に賛成です。(P68)』

<16.低所得者には保険料免除制度がある>
<17.学生などには保険料納付の弾力化措置がある>

国民年金の保険料未納については、かなりのスペースを割いています。
最初は『~端的に言えば収入が少ないからです~(P50)』としつつも、様々なデータを用いて未納者の実態を明らかにし、 ついには『未納者がこれだけいるのは、制度に魅力を感じない者、金持ち、その他怠け者多数、と思った方が正確ではないかと思います。(P75)』という結論に至ります。

話の流れは、
収入が少ない人が増えていることに加え、マスコミ等による年金不安報道により未納が増えている

とはいえ、収入のない人や少ない人でもかなりの人数で保険料を納付している(データあり)

未納者は、国民年金の保険料を払わない一方で、民間の生命保険や個人年金の保険料、および多額の携帯電話代の支払などの支払いを行っている実態がある。
または収入が少ない人のために免除制度や納付猶予措置が用意されている。

未納には次のような様々な対策が必要だ。

国民年金の未納については注目しなければならない世代があります。
それは、「貧乏くじ世代」(香山リカ氏著)等、不遇を語られることの多い団塊ジュニア世代です。
私は1975年生まれですので、狭義の団塊ジュニア世代の1971年~1974年生まれとしては端の生まれとなるのですが、
ちょうど私が30歳を過ぎた平成17年4月に「若年者納付猶予措置」が施行されました。

この制度は、20歳代のうちは収入も少なく、学生でもない第1号被保険者(フリーター・ニートなど)は国民年金の保険料納付も大変だろうから、 申請者本人と配偶者の前年所得だけで審査を行い、基準を満たしていれば10年まで保険料の納付を猶予しますというものです。

とてもすばらしい制度なのですが、団塊ジュニア世代はこの制度を利用できません。
不況による企業の雇用数削減の中で大学卒の半数近くが就職できず、 その後派遣やパート・アルバイトといった非正規雇用で食べていかなければならなかった団塊ジュニア世代の中には、働けど働けど暮らしが豊かにならない 「ワーキングプア」と言われる状態の人も多く存在しています。

若年者納付猶予措置が施行された時に30歳~35歳・・・家族とは別に暮らして収入が少ないのであれば免除制度を利用すればよいのですが、 家賃も払えず「一定の収入のある親元から働きに出ている賃金の少ない非正規雇用者」にとってはもはや免除も納付猶予も利用できません。

本人が保険料を払えない場合、世帯主が保険料の納付義務を負うことになっていますが、60歳を過ぎていよいよ年金をもらおうかという親が、30代の子どもの保険料を 代わりに払わなければならないという仕組み自体が現実的ではありません。

あくまで希望ですが、納付猶予制度の対象年齢を全年齢に拡げ、本人及び配偶者の所得が基準に満たない場合には納付猶予制度を使え(保険料を追納しなければ将来の老齢年金に反映しない)、 世帯主の所得も基準に満たない場合には免除制度を使える(保険料を追納しなくとも一部将来の老齢年金に反映する)というような臨機応変なしくみであっても良いような気がします。

また、本書においても就職氷河期に社会に出た特殊な世代(主に団塊ジュニア世代)のことも考慮しつつ未納を論じて頂きたかったと思います。

▼年金損得論

<20.公的年金の損得論は愚の骨頂>
『年金の不信・不安をあおった最大の原因は何かと言いますと、その誤解の元凶は年金の損得論だと思います。~要約すると、これからの長い人生は一定の仮定で計算できるもの ではないということです。(P76)』

<21.前提次第でどうにでも変わる数値>
『半年先、1年先が読めない経済環境を100年先まで全部見通して、賃金上昇率、物価上昇率、積立金の運用収益率、さらに死亡率の改善について予測して正確に計算できるとは とても思えません。(P79)』

<22.計算すること自体馬鹿げている>
『計算するのは研究のため一部の学者だけと思っていましたが、厚生労働省がまさか推計するとは信じ難い行為です。~世間からみれば、所官庁の 計算は一学者の計算とは比べものにならないほど重いということですから。(P80)』

<24.平均的な収入のある断層の話>
『学者・メディアの損得論はごく平均的な収入を得て人生を送った人の数字です。平均的な人とは、所得分布で下の収入から3分の2ぐらいの階層の人、 すなわち上からかぞえて3分の1ぐらいの恵まれた階層の人です。計算された数字は所得階層で上から3分の1程度の人について損か得かを言っているのです。~ 公的年金の使命は、40年近く努力しても不幸にして貧しかった人に対しても、老後はある程度の生活をしてもらうことができる年金額を差し上げ、老後は人並みの生活を してもらうのが本来の姿なのです。(P83~P84)』

筆者は、社会保障である公的年金に「損得」の概念を持ち出すこと自体を否定しています。
また、損得計算というのは、前提となる数値を少し変えるだけで結果が大きく変わるということ、および マスコミなどの損得論は、所得階層の上位3分の1に位置する人の話になっていることを指摘しています。 (所得上位の少数の階層だけで、総収入の大半を占めることになることから、総収入を単に人数だけで割って平均的な収入を計算すれば当然そのような結果となる。考え方としては パレートの法則(2:8の法則)が有名。)

年金の損得論・・・本当にいけないことかどうか迷うところです。。
もちろん意図的に不安を煽るような計算は許されないとは思いますが、興味のある損得計算や、将来もらえる年金のシミュレーションといったものは、 年金を理解する入り口になり、年金の議論の幅も広がるものとなるような気がします。 本書で指摘している、先の読めない中で前提を設けることが困難なことや前提次第で結果はいかようにもなること、 平均と言いつつそれは所得上位の人の話ということ等をきちんと示していれば、 損得計算を示すことは問題はないのではないでしょうか。

【第3章】 こんなに優れた現行制度

▼財政における年金額以外の視点

<2.保険集団で違う平均受給期間>
自営業・農業者など「第1号被保険者」と、会社員・公務員など「第2号被保険者」、第2号被保険者の被扶養配偶者である専業主婦などの「第3号被保険者」とでは統計的に 各年齢ともに死亡率が異なり、大ざっぱに言えば第1号被保険者は第2号被保険者よりも死亡率が2割くらい高いということなのです。

『自営業・農業の人が年金をもらう年数は会社員・公務員の人たちがもらう年数よりも短いということです。(P88)』 ・・・会社員や公務員の保険料が国民年金財政を助けているとする声がある一方、このような事実も考慮しなければならないのです。

▼世代間格差

<3.昔のお年寄り(受給者)は本当に負担が少なかったのか>
『今の若者より確かに保険料の納付額は少ないが、今のお年寄りは、自分の親を扶養しながら他人の親も扶養する公的年金の保険料を払ってきたのです。(P90)』

当然誰もが親への仕送りをしていたというわけではなく、個人的にはそれを考慮に入れても世代間格差の不公平感が消えるものではありません。

▼積立金不足

<5.物価上昇の責任は国が、物価スライドの負担は国民全体で>
『400兆円の積立不足(現価で)があるというのは完全積立方式の企業年金制度の財政の仕組と勘違いしているとしか思われません。(P94)』

年金の給付の約束を給付債務(借金)とすると、国家予算をはるかに超える金額となっています。 しかし、公的年金は賦課方式(仕送り方式)なので、当時は妥当な保険料でも、その後物価が上がれば相対的に少ない保険料しか払っていないと見えてしまうということも 考慮にいればければならないと思います。とはいえ、給付債務がこれほど大きくなった背景には、 賦課方式の仕組上の理由の他に、適切な時期に適切な保険料の引上げをしてこなかったことが要因としてあるように思います。

▼保険料アップ

<10.保険料引き上げ計画の明記>
『今までは保険料を5年ごとに上げていました。厚生労働省の推計が間違ったからではなく、一気に平準保険料まで保険料を上げることが経済的に不可能なため、 これを何年間にわたって段階的に上げる方式がとられていました。~5年ごとの財政再計算で毎回毎回保険料が上がる仕組みを知らないマスメディアや学者が、勝手に 厚生労働省の推計の間違いで保険料が上がったと言い、制度に対する不信感の大きな原因になったと思っています。(P107-P108)』

▼基礎数値の予測の限界

<16.基礎数値の変動は必ず起きる、そして保険料(率)も変わる>
『少子化がさらに進み高齢者の死亡率も減少すると、年金財政の将来見通しは以前の推計結果から多少狂いが生じることは事実です。 学者やマスメディアがこれを誇張して~(P124)』

▼年金施設

<18.受給者のための施設など給付以外に保険料の一部を使用してなぜ悪い>
『給付以外に保険料を使用することは、年金各法で認められています。高齢者が老後の楽しみの一つとしてたびたび旅行などします。 外国に行く体力がないお年寄りが国内旅行をし、気楽に利用できる施設や年金会館などがあってよいのではないでしょうか。~政治的につくられたグリーンピアに代表される 施設非難は、必ずしも正当な批評とは言えないのではないでしょうか。(P126-P127)』

年金が成熟化するまでは年金保険料の方が給付額を上回り余剰が出ることは確かですが、 いずれ高齢者ばかりになり年金給付が増大することは随分昔からわかっていたことなのですから、 その時の高齢者の年金給付の水準を維持、または現役世代の負担を少しでも軽くするために、余剰は余剰として安全な金融資産で運用するなどして将来に備えて欲しい… 健康を増進できるような施設が良いか悪いかということはどうでもよく、たとえ一部でも流用して欲しくはないのです。

【第4章】 「抜本改正」の論点を斬る

▼女性の年金

<3.女性の年金権>
女性の年金権として問題となるのは大きく分けて次の3つ。
1.第3号被保険者問題
2.短時間労働者の厚生年金適用問題(平成16年改正では解決せず)
3.離婚問題(平成16年年改正にて導入)

<4.標準的な家庭とは>
『年金給付水準を決めるときモデルを想定する必要があるのです。厚生労働省のモデルでは、男性が働き女性が専業主婦の場合を標準的家庭とする従来の考え方を 変えていません。このような家庭がいつの時代も代表的な家庭で一番多いと思われます。(P143)』

▼第3号被保険者問題

<10.第3号被保険者制度に対する誤解>
『第3号被保険者制度は専業主婦の間では評判はよく、4人の内3人は今の制度を評価しています。無回答を含めると95%の人が賛成している制度です。(P152-P153)』

図表42「専業主婦による第3号被保険者制度の評価」(資料:厚生労働省年金局「女性のパートタイム労働者等に関する調査」1997年3月)を用いて説明しています。 注意しなければならないのは、調査対象が第3号被保険者制度の恩恵を受ける第3号被保険者の専業主婦(一部男性)ということと、 無回答17%を「第3号被保険者制度賛成」と仮定した上で賛成95%としていることです。むしろ「他の被保険者と公平の観点から第3号被保険者制度を 見直すべきである」という選択肢を5.6%の人が選んだことの方が注目だと思います。これを第3号被保険者ではない人たち、例えばキャリアウーマンの女性(第2号被保険者)や、 自営業の夫をもつ専業主婦(第1号被保険者)、母子家庭の母(第1号被保険者)など自ら保険料を払う人たちにも質問したら、いったいどのような結果となるのでしょうか?

▼基礎年金全額税方式化

<11.基礎年金を全額消費税でまかなう仕組みは不可能>
『(年金部会で出た意見として)簡単に言うと、所得のない人がなぜ物・サービスを消費できるのか。消費税を払わない人がなぜ税に基いた老齢基礎年金かもらえるのでしょうか。 今の第3号被保険者の給付と負担の関係と同じで、むしろ今の方が合理的ではないかという意見です。(P155)』

『夫が給与を家庭に持ち帰ってから保険料を納めるより、家庭に持ち帰る前の月給袋から妻の保険料分を含めて夫の社会保険料として徴収する現在の仕組みが、未納者や免除者が出ない 合理的な制度という意見もあり、この第3号被保険者問題はなかなか解決しない問題の一つになっています。(P156)』

『スウェーデンでは不況など経済状況によって年金財源が十分確保できず、全額税方式の基礎年金制度は5年前に廃止されています。スウェーデンで失敗したことも参考にすべき でしょう。(P156)』

ここは理解するのに一苦労ありました。
「収入のない人が物・サービスを買えない」という話が出てくるのですが、 これは第3号被保険者のことを指していて、専業主婦なので収入がない→収入がない人が 消費できない→消費税が払えない→(税方式なら)税金を払わない人が基礎年金をもらうの?という流れになっています。 (実際は妻も消費活動をしているが、それは元々夫の収入であって、実質夫が消費税を払っているということだと思います。)

そして、それならば、夫の払う厚生年金保険料に妻の第3号被保険者の保険料を含ませている今の仕組みの方が合理的ではないかということなのです。 (実際には第3号被保険者分の保険料は厚生年金加入者全員で負担しており、例えば厚生年金に加入しているキャリアウーマン、 自営業の夫を持つ専業主婦、母子家庭の母、または独身男性など、第3号被保険者制度の恩恵を受けられない人たちにとっては不満の種となっていることがあります。)

なお本書には、従来の厚生年金の定額部分が2分割になり、 それが第3号被保険者(妻名義)の分となったという事実(P148「8.厚生年金の定額部分と報酬比例部分の給付水準はかつて半々」、P150「老齢基礎年金は厚生年金の定額部分を二分割」) が説明してあります。

最後の全額税方式の基礎年金制度がスウェーデンでうまくいかなかった・・・これは一般的にはあまり触れられていない事実です。

<18.全額税方式の年金制度は所得制限がつき公的年金の後退>
『全額税により財源を調達する制度は、どのような制度であれ、所得制限が入ることは明らかです。~現在の生活保護とどこが違うのか~日本の社会政策は、 貧しくなったら救う救貧制度ではなく、貧しくならないようにする防貧制度を目標としてきました。日本がこの半世紀歩んできた社会の仕組みを一度ご破算にせよというのでしょうか。 よく考える必要があります。(P168-P169)』

世界の中でも高齢化の進みが早い日本が、このまま年金を社会保険方式で維持し続けることは、現実問題として可能なのかどうなのか。 世代を超えて年金制度が存続するために税方式、老若男女全員で年金を支えなければならないということであれば、 個人的には一定の所得制限もやむをえないものと考えます。

<23.おわりに>
『マスメディアや学者が、年金の不信・不安をあおっていますが、年金制度の不安などまったくありません。~現在、日本の公的年金を抜本改革しなければならない 理由はどこにもありません。また年金制度の体系など抜本的な改革をしなくても、日本の公的年金が行き詰ることはないと断言できます。(P180-P181)』

最後に

本書『公的年金の不信・不安・誤解の元凶を斬る!』の中には、年金制度で問題とされていることにつき各論ごとに解説がなされているのですが、 残念ながら、次の3つの問題については不信・不安を解消しうる記述が見られませんでした。

中でも積立金については大きな不安です。 もし半分近く不良債権化しているという事実が本当ならば、ババを引くのは自分たち(の老後)ということですから、国側は未納対策に強権策でのぞむ前に、 「大丈夫」「問題ない」という掛け声だけではなく、本当の事実を詳細に明らかにする必要があると思います。

なお、社会民主党 保坂典人氏著「年金のウソ」「年金を問う」だけではなく、 自民党 野田毅氏著「消費税が日本を救う」の中でも『160兆円という年金積立金についても、正確なデータが欲しいところです。というのも、日本医師会系の シンクタンク・日医総研が~(P66)』として積立金の中身に懸念を示しています。