日本の若者の5人にひとりがフリーターだと言われている。 松宮健一『フリーター漂流』の読書録

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松宮健一『フリーター漂流』

単行本:204ページ
著者:松宮健一(NHKスペシャル「フリーター漂流」制作ディレクター)
出版社:旬報社
発売日:2006年(平成18年)2月10日初版第1刷発行

NHKスペシャルを単行本化!
これを読めば、あなたのフリーター観は根底から覆る!

規制緩和と競争力強化の裏側に、
いいように使い捨てられる労働力がいる。
[すいせんします 森永卓郎氏]

目次

はじめに 「出稼ぎ」フリーターたちとの出会い・・・フリーターの夢と現実

【Ⅰ】 フリーター漂流
モノづくり大国を支えるフリーター
「朝起きたら、このままじゃまずいなって思います」
モノづくりを支える請負会社
グレーゾーン
生産変動に支配される現場
漂流するフリーター
「人生は一度きり妥協して就職したくない」
「40歳、50歳になって、このままというわけにはいかない」
反響

【Ⅱ】 フリーターになる若者たち
「学校の先生とか、ハローワークの人とかは僕が全然行きたくない就職先を勧めてくるんですよ」
雇用のミスマッチ
1年後のH君
フリーター・ビジネス
「会社はいまの仲間たちほど自分を必要としているのだろうか」
「100円玉を握りしめて、今日はパンにしようか、おにぎりにしようかずっと考えていることもあります」
貧乏生活に負けない
ファーストフード店にあった甘い罠
最後の挑戦
母親の死
「いま、欲しいものはモノじゃない、将来の安心が欲しい」
派遣社員になった理由
人材派遣会社で働く現実
社員になることができない
フリーター家族

【Ⅲ】 急増する中高年フリーター
「いつでもやり直せると思っていました」
怪しいアルバイト
父親の死
「奥の手を出して負けたら、どうしようもない」
会社経営者への道
市外局番にあったビジネスチャンス
会社存亡の危機

おわりに

どんな本?

この本は、10代・20代・30代のフリーターの生きざまや現実をつまびらかにしている本です。
10代~20代~30代と進むにつれて正社員の道は遠のき、フリーターとしても生き辛くなっていく現実。
好きでフリーターを選ぶ者、仕方なくフリーターになった者、年齢、性別、職種、労働形態ともに
様々なケースを扱っているために、『フリーター』への見方が変わることは必至。
特に高校生など社会に出る前で、かつ社会の仕組みに詳しくない人たちに読んで欲しい一冊です。

『フリーター漂流』の読書録

チラシでは請負で手取り35万円
→初給料日、手取り14万円に愕然。
寮費、テレビ・布団のレンタル代等を引かれる。
年金、健康保険の社会保険も未加入。
30万円稼ぐにはシフトを全部夜勤で死ぬほど残業する必要があると担当者に言われる。(P29)

『フリーターの人件費は、正社員の半分以下、時給1000円が相場だ。』(P36)

『親とか、学校に反発して学校に行かなかった自分がいちばん悪いんですけど、
今になってそのことをすごく後悔しています。職安で求人票見ても、高卒以上じゃないと
相手にもされないし~』(P42)

『工場で働く若者たちの労働条件は悪化した。社会保険の未加入問題がその最たる例だ。
請負業界では、社会保険の加入率が5割以下と言われている。

未加入の問題が行政などに指摘された場合、会社を意図的に倒産させたり、
社名や所在地を変更して追及を免れる。

寮完備と説明しておきながら、カーテンや布団、冷蔵庫などは個人負担だと入寮する時点で告げ、
レンタル代として毎月3~4万円を請求する。』(P46~P47)

『35歳の息子に69歳の父親が、辛抱強く働けと励ます場面があったが、数日で現場が変えられ、
技術が蓄積されていかない現状を父親は理解できないようで、じっと聞きながら反論できない息子の
なんともやりきれない表情に、私は子供を持つ親として胸がとても痛んだ。父親の育った時代は、
辛抱すれば技術を身につけ何とか自立できる時代だったがいまの日本は違う(65歳女性)』(P94)

『企業は人を育てる気持ちをなくしてしまったんでしょうか。生徒たちはフリーターを選んでいる
ような気になっていますが、本当はやむなくフリーターを選ばさせられているんです』(P103)

『親の経済状態を気にして、進学をあきらめる生徒も少なくない』(P109)

『結婚式に呼ばれることが怖かったですね。まず着ていく服がないんですよ。~』(P155)

『派遣先の会社の人たちにとっては、自分たちより下だと思っていた派遣社員が、ある日突然、
自分たちと同じ立場になることにたいして抵抗があるんじゃないですかね。たしかに法律的には
3年働けば、企業は社員として迎え入れる義務があるかもしれませんけれど、現実的にはそういうケースは
ほとんどないんじゃないですか、僕の周りにもいませんし。逆にいちいちそんなことをしていては、
派遣社員を使ううま味がないじゃないですか。企業はいくらきれいごとを言っても、合法的に人件費を
カットしたいんですよ。夢みたいなことに一瞬でもすがろうとした自分がバカだったと思っています』(P158)

『イヤなら辞めてください。次のリーダーの人をちゃんと指導しますから。』(P180)

『僕が見た社会は、形通りにやっていくと順調に進むけれど、ちょっと脇道にそれたら戻るのが難しい。』(P182)

『大人たちは「フリーターはいけない」と否定的に論じる一方で、正社員の採用数を減らし、
フリーターを雇い続けてきた。国もこうした企業の動きを本気で止めようとはせず、フリーターを企業に
供給するシステムだけが合法的に整えられてきた。この矛盾が若者たちを追いつめていた。』(P203)

さいごに

この本ではフリーターの厳しい現状のみならず、若者の未熟な一面も書かれています。
東京都足立区の高校で、フリーターを予定している3年生への取材では、
『フリーター最高ですよね。昼まで寝て、夕方からバイトに行って、友達感覚で楽しく働いて、それでバイト
が終わったら、友達を呼んで朝まで遊ぶつもりです。金がほしいときにバイトして、遊びたいときには休む。
とりあえずいまが楽しいことがいちばん大事ですね』(P99)
「ほら見たことか」というような年配者の反応が返ってきそうです。

しかし、この高校では、10年ほど前1000社ほどあった求人が、いま(取材時2003年11月)はわずか200社。
しかも、求人の中には時給制のものまであるという就労意欲をそぐには十分な状況です。

本書出版から2年後の世界規模の金融危機以降、さらに厳しい就職状況が続くものと思われ、
もはや精神論、根性論で語られる一方的なフリーター観だけではフリーターを語ることはできません。