格差社会の現実 増田明利『今日、ホームレスになった 13のサラリーマン転落人生』の読書録

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増田明利『今日、ホームレスになった 13のサラリーマン転落人生』

単行本:172ページ
著者:増田明利
出版社:新風舎
発売日:2006年(平成18年)7月20日初版第1刷発行

格差社会の現実に、
新聞・雑誌・各メディアで大反響
「辞める前にこの本を読みたかった。
後悔した。」(44歳男性)
サラリーマン震撼!読者からの声も殺到!!

決して他人事ではありません。
これは『すぐそこにある現実』なのです。
●なかなか口を開かないホームレスたちの隠された過去が明らかにされている。
ここまで詳しく取材した著者に敬服します、(大手メーカー勤務・49歳男性)
●ありがとう!ありがとう!(現役ホームレス・男性)
●私も1年ほど山谷に暮らした経験があります。そこに住む者たちの中には、
この本を読んで発奮する方もいると思います。(藤沢市・77歳男性)
●よくぞここまでホワイトカラー出身の人々を集めたものです。(会社員・男性)
●自分もいつ堕ちるかわからない、身が引き締まる思いがしました。(自営業・男性)
●自分も彼らのようになるかもしれない。この本で今後の人生についていろいろなことを思いました。
(大田区・54歳男性)

目次

はじめに

【CASE1】 エリートビジネスマンの暗転
次長の誤算(52歳・元大手総合商社財務部次長)
外資系企業の光と影(49歳・元米国系投資銀行ファンドマネージャー)
ガード下の管理職(55歳・元大手鉄鋼メーカー副部長)
兜町けもの道(51歳・元準大手証券会社外務員)
不安だらけで生きている(56歳・元準大手ゼネコン営業部長)

【CASE2】 漂流するホワイトカラー
年を取るのが悪いのか(56歳・元中堅住宅メーカー営業所長)
バブル世代は不用品(38歳・元都市銀行勤務)
リストラ役がリストラされて(57歳・元自動車部品メーカー管理職)

【CASE3】 社長失格
ビルオーナーの転落(49歳・元ビルオーナー兼飲食店経営者)
脱サラ・起業したけれど(53歳・元準大手デパート外商部副部長/ブティック経営者)
アルカイダの馬鹿野郎(55歳・元旅行代理店経営者)

【CASE4】 明日なき若者たち
多重債務の逃亡者(31歳・元大手金属メーカー勤務)
学歴・資格・特技なし(31歳・元電気部品加工会社勤務)

おわりに

ホームレス入門 ノブさんとの1週間

ホームレスに関する全国調査
ホームレスに対する行政の対応
ホームレスの主な収入源
ホームレスの気になる諸事情

どんな本?

15人のホームレス・・・すなわち路上生活者の姿を描くドキュメント。
私達の心の中には、どこかに「ホームレスは特別な存在」という考えがあるかもしれないが、
この本に描かれるホームレスの転落人生模様を知れば、すぐにそれが誤りであることに気づくはずです。

『確かに、ホームレスは汚れてみすぼらしく、気分のいい存在ではない。しかし、よく考えてみれば、生まれてこのかた
ずっと路上生活をしていたと言う人はいるわけがない。我々が目にしているのは、結果としてホームレスになって
しまった人たちで、なぜその人がホームレスに転落してしまったのかという過程は見過ごされている。
~どの人も数年前はごく普通の生活を送っていた人たちである。~
彼らのたどった人生行路は決して他人事ではないと痛感した。』
(「はじめに」より)

本書の登場人物を見れば、大手企業で月収で数百万円を稼いでいた人もいれば、
そこまで稼がなくとも、長年大手企業勤務で安定した生活を送っていた人もいます。
職種も、証券、銀行、建設、商社、資材メーカー、自動車部品メーカー、旅行代理店、ビルオーナーなど多種多様。
もちろん個人の落ち度でそうなってしまったと思われる人も登場しているが、ほとんどは普通に会社に勤務していて
普通に生活していた人たちばかり・・・まさに明日はわが身です。

『今回、取材した人たちは学歴、前職など様々であるが、一様に抱えている過去はリストラ、失業、倒産に起因する
経済的破綻と家族崩壊、人間関係の寸断である。(略)今回、多数のホームレスに話を聞いてみたが、彼らの来歴は
決して特別ではなかった。今現在の彼らは汚れて悪臭を放ち、みすぼらしく正規のない顔をしているが、現在ではなく
過去を見れば、私たちと彼らはまったく同じところにいたのが分かる。』
(「おわりに」より)

2008年金融危機以降、ビジネス事情が一変。
大手と言えども安泰はなく、正社員とて安心できない世の中になりました。
実際に会社が倒産したらどうなるのか。
早期退職、退職勧奨に応じたら、その後どうなるのか。
何歳以上、どのような経歴の人の求人が厳しいのか。
彼らは何に対して後悔しているのか。
不幸にもホームレスに転落したら、稼ぐ手段は?食事は??
この本は、見方によっては人生サバイバル読本であると言えるでしょう。

『今日、ホームレスになった 13のサラリーマン転落人生』の読書録

『まさかこんなことになるなんて5年前は想像もしていなかった。』(P10)
『まだ40半ばだったので転職先はいくらでもあると思っていました。』(P12)
『本当に倒産でもしたら退職金なんてもらえないから、頂けるものだけ頂いて別の会社に移った方が得策だと
判断したんです。でも、これがすべての原因になってしまったんだな。』(P12~13)
『自分では財務のプロだなんて思い上がっていたけど、やはり年齢で除外されます。
まあ、37、38歳が限界、税理士資格があっても40歳までってところでした。』(P14)
『中高年は会社で厳しい立場にいるけど、絶対に自分から退職しないことだよ。』(P17)
『ホームレスなんて遠い存在だと思っていたけど、いざ失業すると、簡単になってしまうものだった。』(P29)
『技術系か特許関係、法務などの専門的な仕事をしていた人は、比較的簡単に再就職できたようでしたが、
私みたいな営業や事務管理部門の人は惨憺たる状況でしたね。』(P34)
『大学まで出て、比較的大きな会社で管理職をやっていたけどそんなものは何の役にも立たなかった。
サラリーマンなんて会社がコケたら一巻の終りってことさ。』(P49)
『45歳以上の社員を対象に勧奨退職の募集があったんです。この時に手を上げていたらなあ、と悔やみましたね。
私は勤務22年目でしたので、早期退職なら加算金が付いて1300万円ぐらいの退職金がもらえたはずでした。

裁判所に会社更生法の適用を申請

管財人の管理下で営業は継続することになりましたが、労働条件は大幅に切り下げられました。
~月給20万円~当面の間は賞与の支給もない~退職した~退職金は規定の20%しか支給されませんでした。
それも分割~』(P54)
『50過ぎたら作業職、運転手、警備員ぐらいしか求人がありません。』(P55)
『年齢の高さはその人間の能力や人格まで否定される要素じゃないと思うけど、どこへ行っても年齢が高すぎると
言われて、馬鹿らしくなってしまいました。』(P68)
『募集条件では55歳までとなっていた会社でも面接してみると「あなたの年齢では同僚とうまくやっていけない」
なんて言われて不採用です。資格や専門的能力のない元中小企業の事務職なんて売り込めるものがないという
わけなんです。』(P88)
『私、もう57歳でしょ、職安へ行っても求人ファイルさえないんです。』(P90)
『割増の退職金をもらって辞めた方が得だと思いました。辞めたことに対しては後悔していません。Sデパートは
破綻しちゃったものね。最後まで残った人たちは大変だったでしょう。退職金だってほとんど出なかったらしい
からね』(P131)
『廃業後は職安通いをして勤め口を探しましたが、51歳ですからね。職安には求人ファイルさえありません。』(P133)
『俺は高卒だし、資格や特技がないので紹介してもらえるのは警備員、販売員、工場作業員だけだよ。
~職安にも通ったんですが、いい仕事、大きい会社は大卒、経験者が絶対条件になっているんです。』(P166)

さいごに

本書の登場人物は全て男性です。
本書でそのことに言及はしていませんが、そもそもホームレスに女性が少ないのは確かなようです。
女性は日頃から横のつながりを大事にしているために、2008年年末~の派遣切りの時にも路上生活ではなく
知人友人の家に身を寄せていた・・・そのため、2008年末の日比谷公園「派遣村」でも映像に映し出されて
いたのは男性ばかりだった・・・とは新聞で書いてあったことです。

ところで、本書で一つ引っかかったのは、倒産、リストラにあった夫に対する妻の対応です。
夫側の取材のために真実はわかりませんが、本書から該当箇所を抜粋してみると

『仕事がうまくいかなくなりだした頃から妻との関係も悪くなっていましてね~離婚しました。いつまでも収入の
よかったときのことが忘れられない女だった』(P25)
『離婚したのは~女房のヤツ、浮気してやがったんだよ。』(P44)
『女房とは何度か話し合いの機会を持ったけど「もう嫌なの」の一点張りでした。』(P51)
『「平日の昼間に夫が家にいるのはみっともないからどこかへ行ってよ」なんて言われちゃいましてね』(P69)
『「K銀行員の妻というのが私の自慢だったのに、どうしてくれるのよ」なんて言うんです』(P79)
『女房はお金の苦労ばかりで嫌になっちゃったんだろうね。差し押さえの通知書が来たときにケンカして出ていったよ。』(P124)
『商売が下火になり始めた頃から妻は終始イライラしているようでした。』(P134)

金銭的な問題だけではない・・・夫婦のことは夫婦にしか分からない・・・かもしれませんが、
どこか一抹の寂しさを覚えます。