武田邦彦『国債は買ってはいけない!』の読書録

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武田邦彦『国債は買ってはいけない!』

単行本:240ページ
著者:武田邦彦
出版社:東洋経済新報社
発売日:2007年(平成19年)5月18日発行

投信も保険も信用ならないから
「国債で安定運用」という常識は非常識?
ベストセラー『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』の著者による、
目からウロコの一冊。

庶民のお金を吸い取る三つの仕組みが働いている。
一つめが日本の国債を買うこと。
二つめがアメリカの国債を買うこと。
そして三つめが証券会社の勧める株を買うこと、である。
すでに庶民一人あたり1600万円ぐらいは
吸い取られて戻ってこないが、
さらに吸い取る仕組みが働き続けている。
この三つの方法でなぜお金が吸い取られるのかを明らかにしよう。
(第1章より)

目次

はじめに

【第1章】 お金を吸い取る三つの仕組み

1.国債は五回払う
2.日本人が働き、アメリカ人が遊ぶ
3.株をギャンブルにする

【第2章】 お金の原理原則

1.血が通った物価
2.お金はどこに居て、何をしているのか?
3.ファンドという商売の実体

【第3章】 お金の誤解

1.積立年金は戻ってこない
2.年金が受け取れなくなる日
3.石油代金は戻ってくる?

【第4章】 お金の現状

1.しかたなく政府が使っている
2.お金を余らせたのは誰か?
3.お金の土台を揺るがす新商売の登場
4.景気、インフレ、そしてお金の民主主義

【第5章】 誰でも儲かるお金の話

1.不老不死でお金を増やす方法
2.「永久資産」を作る方法
3.時代を見る目

おわりに

『国債は買ってはいけない!』の読書録

本書は、個人が大切にされない現代社会においてお金の「知」を身に付けるための本である。

『本書では、国債のマジックから話を始めて、物価、年金、ドル、株、預貯金まで、私たちの人生に深く関わるお金の仕組みを解説し、まずはお金を守る「知」を獲得することを第一とする。 そして後半は積極的に打って出て、永久的に安心できるお金の儲け方に話を及ぼそうと思う。』(P5「はじめに」)

タイトルから想像するに、国債がその他の金融商品に比べて優位性がどうなのか、個人として国債を購入する場合に利率や安全性がどうなのかといったことを具体的な数値や事例を用いて経済的観点から解説しているのだろう・・・ そう期待して本書を購入したのだが、実際に読んでみると経済本というよりも道徳本に近く、国債について直接触れているページ数もそれほど多くはなかった。

『「知」がない情報は力にはならない。だから「国債を買うと利子がつく」などと錯覚してしまう。5%の利子と言われると言われると毎年5%もらえると思ってしまう。 まさか、国債を買うと何倍も損するなどとは思いもしない。「5%」というのは単なる情報で、「何倍も損をする」というのが「知」である。』(P4「はじめに」より)

『「国債は債券だから「国債」は国が借りる借金だ」と思うのが錯覚の第一である。』(P14)

『トリックを見破るために、まず国民がAさん、Bさんの二人しかいないとしよう。政府は、国民Aさんに利率1%で100万円の国債を売り「期限の5年が来たら必ず返します」 と約束する。でもこのお金は使ってしまうので、Aさんの国債を返す期限が来ると「税金」という名前でAさんとBさんから利子を含めて半分ずつ取って105万をAさんに返す。 そういう仕組みが国債である。(略)自分が国債を持って行って100万円を返してもらう時、その中に自分自身の税金もお隣さんの税金も入っていることに気が付かない。』(P22)

国債を買うと、元本+利率分が返ってくる。 本書での指摘は、そのこと自体の金融商品としての優劣ではなく、国債を購入する時に支払った個人のお金に対して、戻ってくるお金も新たに国民から調達した税金なり国債であって、 得するどころか知らないうちに損をさせられているということである。 (国が行う事業は商売が成り立たないような公共事業・・・『「国債で行う仕事は赤字になる」と断定してよい。』P24)

すなわち、国民が国債発行の自転車操業的な枠組みの中に組み入れられているということであるのだが、個人が国債を買おうが買うまいが、 いずれにしろ国民は損をさせられているという。(「自分だけ得すれば・・・」が成り立たないことについては31ページから32ページに解説があるが、残念ながら理解することができなかった。)

『自分が100万円の国債を買えば、自分も全体としては200万円ほどのマイナスになるが、5万円の利子だけは見ず知らずの人に払わせている。』(P34。利子の5万円は仮定の数字。)

マイナスになる話は、その前を読まなければ意味不明であるが、少なくとも国債を購入した人は、購入しない人に比べて利子分だけ得をするに過ぎないようである。(理解できていないのであいまいな表現で…)

以下、『「貯めれば減る」「使う人が得をする」「この世に手数料で儲ける人がいる」「かなり儲かる仕事に使わないと減る」』(P36)という国債を買わない理由にもなっているお金の原則の話を織り交ぜつつ、 次々に話が展開されている。

当ページ記載:2010年6月20日

最後に

本書は、Amazonのカスタマーレビューや書評ブログ などにより賛否が分かれている一冊で、酷評も目に付く。

個人的には、国債について損をさせられているという「国民全体」での話は現状認識として理解できるものの、
それがどうして「国債を買ってはいけない!」というタイトルのような話になるのかが理解できなかった。

また、大まかな数字を用いた説明箇所がいくつかあるのだが、そのいずれも漠然とした説明であったために、
胸にストンと落ちることはなく・・・
さらに、5章「誰でも儲かるお金の話」では、投資先の結論もさることながら、実績や根拠の提示のないままに
教訓のような話が続き、読後感の悪さにつながってしまった。

一方で「投資は良いが投機はダメ」「額に汗して稼ぐのが正しい」というある種の道徳的な話が散見されたが、
その内容については、ほとんどが共感するものであった。