日本の中枢に巣くう「ステルス複合体」とは何か!? 中川秀直『官僚国家の崩壊』の読書録

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中川秀直『官僚国家の崩壊』の読書録

単行本:283ページ
著者:中川秀直
出版社:講談社
発売日:2008年(平成20年)5月30日第1版発行

自民党元幹事長、
政治生命を賭けた書
日本の中枢に巣くう
「ステルス複合体」
とは何か!?

目次

まえがき-見えざる抵抗勢力

【序章】 日本を滅ぼす「ステルス複合体」の正体
偽装事件と天下りの共通点
エリートたちが劣化した理由
「ステルス複合体」の「本尊」
「究極の勝ち組」とは誰か
いま日本国民は選択を迫られている

【第1章】 霞が関主導の罠
「官愚」を乗り越える「民賢」
55年体制下の官僚主導の風景
政治家を操作する「やまびこ方式」
官邸をいかに官僚が支配しているか
「官愚」の凄まじい抵抗
権限外の絶大な権力を無責任のまま行使する者
匿名の人々がつくり出す「空気」の恐怖
「空気」をつくるインフォーマルな人脈
お茶の間が主計官に
歪んだエリート教育が亡国を招く
役人の「段取り」ベルトコンベアーとは
大臣が官僚人事に介入できない事情
メディアを沈黙させる「官喝」
「特落ち」が怖いがために
政治記者の変質で霞が関は
「官僚内閣制」とメディアの関係

【第2章】 「ステルス複合体」との死闘
山一證券最後の社長の大学は
「いまは昔」の接待風景
「ノーリスク・ハイリターン」を信じた末に
天下り社長と刺し違えた生え抜き
東大マルクス主義学者が政府に協力した理由
竹中大臣が霞が関に対抗した方法
官僚の手口を封じ込める方法
民間人を疑心暗鬼にさせる官僚
政治任用の拡大
事務次官会議の反対を無視して
100年ぶりの大改革
日本文化の悪しき側面とは
日本軍と「ステルス複合体」の同質性
「ステルス複合体」を支える神話

【第3章】 大転換する政治
東大法学部卒が官庁に入らなくなった理由
変わり始めたエリートの質
英国の官僚とアマチュアリズム
党人派と官僚派のバトル
清和研総理が4代続く時代背景
IT時代に求められる能力とは
他人に奉仕すると生まれる脳内物質
楽しく働くことを阻む「ステルス複合体」
バブルと「失われた10年」で学んだもの
小泉総理が若者に「リスペクト」されたわけ
若者の中に増える「社内起業家」とは

【第4章】 美しい心を育む「美しい国」
国際競争力を高める「デザイン力」とは
必要不可欠なインフラは「美しい景観」
イタリア・アッシジに学ぶ街づくり
エリートたちの悲劇
蹄鉄の連続の末に
事実無根の怪文書
「上げ潮」政策の礎
バッシングの嵐
改革に必要な黒子とは

【第5章】 復活か破滅か-岐路に立つ日本
官僚が嫌う「カオスの縁」とは
逆境のときの「大戦略」
先の大戦の教訓
小泉総理が大切にしたコンテクスト
日本の危機の本質
幻となった森訪朝の裏で
日中与党交流協議会の本当の意味

【第6章】 21世紀の大戦略
「根拠のない楽観主義」を防ぐものとは
ロシアを翻弄した日本軍の複眼思考
「アジア先進二強の共存」に備えて
日米中三国関係はどうなる
NATOへの参加を視野に
ロシアが北方領土を返す条件
日米安保の現状維持を望む中国

【第7章】 地方に学ぶ日本資本主義の英和
坂本龍馬の夢-高知・福井・北見
ケネディが尊敬した上杉鷹山の精神-米沢
再評価すべき二宮尊徳の教え-相馬
道徳教育の模範-川島
民間の公共事業でつくられた京浜工業地帯-川崎
寄付の文化のすばらしさ-富山
「三方よし」の近江商人の教え-滋賀

【第8章】 再び「日昇る国」へ
変化を拒むものは消える
現代の「成金」批判の底流にあるもの
民間が公共を担う時代
「環境・IT・コンテンツ」ハブ国家
「ステルス複合体」VS.地方
沖縄にあった日本の進むべき未来
「育成型移民国家」の構想
円熟した大人が楽しめる観光立国
農業・農村の疲弊をもたらした構造的欠陥
「戦後農協レジーム」からの脱却
「建・農一体」で新たなチャンスを

【第9章】 日本国の大改造
経済構造改革から政治構造改革へ
官僚内閣制を助長するものとは
天下りの元凶とは何か
単純小選挙区制の導入を
政府与党二元体制=官僚内閣制からの脱却
ノンキャリアの局長も当たり前に
公共事業は道州政府で
地方へ20兆円の税源移譲を
国民総背番号制の導入を
ルール違反は割が合わない社会に
国の本当の債務残高は280兆円
消費税は道州政府の財源
霞が関が指導力を失った理由
霞が関主導から政治主導に

おわりに-政治は「永遠の運動体」

どんな本?

著者の前書『上げ潮の時代』は「経済」をメインとした本だった。
ページも多く字も小さめ…苦手な部類の本だが内容は具体的で示唆に富むものであり、
多少の難しさはあれど読み進めるうちにワクワクするような「期待感」を感じさせた。
(それが正しいのかどうか横に置いておくとして。)

一方で、自民党議員の書ということもあり、グランドデザインは共感しつつも議員と官僚との長年の癒着の中でこのような経済戦略を実現できるものなのか? という疑念はぬぐいきれないままで、どこか不完全燃焼だった。

本書『官僚国家の崩壊』は、その経済成長戦略を実現可能にするための「人(官僚、政治家、組織・・・)」
に焦点を当てた1冊。(話の本筋として)

その予告編と言うべき文が『上げ潮の時代』の終章「官僚との凄まじい攻防戦の始まり」にある。
『小泉政権の5年半は、官僚との関係では、政治主導=総理主導の政策決定が貫かれ、「官僚主導の終りの始まり」だった。 安倍政権が目指すべき方向は、この小泉改革の成果を土台にした、「省庁再々編」の断行である。官僚主導の「霞が関モデル」から抜け出せないと、本当の改革はできない。』

本書では、官僚機構、経済界、学会、マスコミなど古い秩序の維持をよしとするエリート勢力、既得権益者を「ステルス複合体」と呼び、 主に官僚とのかかわりの中からステルス複合体の性質・問題等を鋭く暴き、ステルス複合体の「解体」を求め、政治主導システムへの変革を説いている。

確かに、この通りに変革できれば「国益よりも省益」というような官僚組織から脱し、
国民のためになる戦略に対し、迅速に変化対応していける組織へと生まれ変わるのかもしれない。

しかし・・・
2008年金融危機以降の政治の姿はどうだろうか。
いつ選挙があってもおかしくない状況の中、国民の生活よりも我が身かわいさ、党利党略ばかりが目に付いた。
本書には希望があるが、当分、官僚の思惑通りに進むことは避けられないように思えてならない。

『官僚国家の崩壊』の読書録

『増税の議論の本質は、経済成長にあるのではない。無駄を残したままの増税とは、劣化したエリートの延命のための負担を国民に押し付けることを意味する。だから国民は怒っているのだ。』(P2)
『劣化したエリートたち、そう「ステルス複合体」に属する人たちは、「安心できる社会」や「弱者救済」の旗を掲げるだろうが、それは自らの身分保障と既得権益の確保のいい換えに過ぎないのだ』(P3)
『このまま官僚主導体制を続け、「日沈む国」になるのか、政治主導に切り替え、「日昇る国」として甦るのか-いま、日本は興亡の分水嶺に立たされているといっても過言ではない。』(P3)

『ほとんどの官僚希望者は、日本をよりよい国にしようという志に燃えて各省に入ってくる。しかも、みな飛び抜けて優秀な人材ばかりだ。そんな彼らがなぜ、志を失ってしまうのか。 22歳で硬直した組織に参加した人間は、どんなに優秀でも、可能性を奪う方向にトレーニングされ、入省時を頂点としてどんどん頭が固くなっていく。それに耐えられない若手は次々と 組織を飛び出す。結果、いっそう優秀な人材が組織にいなくなるという悪循環に陥っているのだ。官僚のレベル低下はむしろ政治の問題といえるだろう。』(P21-22)

『「選挙民の直の声だと思っていた陳情は、官僚が用意した台本にすぎないのか」 「主導権をとっていたのは圧力団体ではなく、官僚機構なのか」 私には強い衝撃であった。』(P34)
『就任四ヶ月目に、村山総理がふと洩らした言葉を今も鮮明に覚えている。 「ここは籠の中の鳥だから」-。』(P39)
『大所高所については立派な意見をいう官僚が、自らの権益確保、天下り先確保となると、 なりふり構わずいろいろな仕掛けをしてくる。』(P40)
『日本の官僚は「政策企画」において絶大な影響力を持つ。』(P42)
『突然、大臣や有力政治家のいった覚えのない話、本人の意思とはまったく 正反対のコメントが流布される。この裏には、たいていの場合、官僚が絡んでいる。』(P44)

『まず、「上げ潮派」の反対勢力を「財政再建派」と名づける。このネーミングにより、上げ潮派は財政再建に反対しているとの負の印象を国民に与える。 実際は、上げ潮派は財政再建と経済成長の両立を目指しているのだが、こちらの真意は伝わりにくくなる。そして、そのことにより、上げ潮派に急進改革派の印象を 与えることで、上げ潮派と中間派との分断を謀る。』(P46)
『「特落ち」とは、特ダネを一社だけ報道できないで落とすことをいう。(略)経済面の記事をよく読んでいただければ、官庁に対して批判的な記事はまずないことに気づくはずだ。』(P58)
『改革を期待された民間人や国会議員の多くが結果を出せないのは、たいてい、「官僚は有能だ。私のいうことをきいてくれる」と単身、役所に乗り込み、ミイラ取りがミイラになり、 その機関の官僚によって操られるようになるからだ。』(P83)

『官僚機構も一つの運命共同体であり、上にあげる情報にはバイアスがかかる場合がある。金融不良債権問題や年金記録問題が典型だろう。官僚機構からバイアスのかかった 情報しかあげられない場合、行政の長は、その情報に従って動かざるをえない。』(P86)
『情報は内部で共有し、過失については外には漏らさない。この体質が「隠す文化」を生んでいる。年金記録問題はその代表例だろう。』(P92)
『優秀な人材が生きがいをもって働くことができるよう、公務員制度改革を断行しなければならない。公務員制度改革とは、優秀な人材を解放して、 霞が関を生きがいをもって働ける職場に変えることを意味する。』(P100)
『日本が戦力的に優勢の時代だった戦後の高度経済成長期は、戦略不在=霞が関主導でもよかった。 しかし、日本経済は、1990年代に失速、急激に国際的地位を低下させている。』(P154)

『日本では、なんでもいい加減に分類したがる。安易なラベル貼りが横行している。 市場原理主義批判はその典型だ。しかも、明らかに政治的思惑が絡んでいる。』(P211)
『日本が目指すべき21世紀の国家目標は、「環境・IT・コンテンツ」ハブ国家である。』(P220)
『公務員制度改革がなぜ必要なのか。それが官僚機構を中核とする「ステルス複合体」を溶解させる入り口だからである。ここから、道州制、政治体制改革、憲法改正にいたる 日本の再構築が始まる。』(P242)
『これまでは後にも先にも、ノンキャリといわれる人が本省の局長になったのは、渡辺美智雄大蔵大臣(渡辺喜美議員の父君)のとき一度だけだ。そのとき、役所は大慌てだったそうだ。』(P254)
『年金制度については、一階部分の基礎年金はユニバーサルな制度とするために税方式(財源を税とし、給付要件を年齢など保険料納付期間以外のものとする)に移行するとしても、 基礎年金財源は、国の財政硬直化をふせぐために、目的税ではなく一般財源とすべきであろう。二階部分は所得比例の保険料による社会保険方式とする。』(P268)