『週刊ダイヤモンド 2010年7/10号 特集:消費税ウソホント』の読書録

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『週刊ダイヤモンド 2010年7/10号 特集:消費税ウソホント』の読書録

週刊ダイヤモンド 2010年7/10号 特集:消費税ウソホント
週刊ダイヤモンド:132ページ
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2010年(平成22年)7月5日

表紙

繰り返される混沌
民主党内も賛否両論

財政健全化目標
実現性に疑問符

5%では全く足りない
本当に必要な増税論

消費税の2大キーワード
「軽減税率」
「給付つき税額控除」
とは?

欠陥だらけの消費税
制度のお粗末

特集目次(P24~P52)

[24] 消費税ウソ/ホント

【Part1】 繰り返される混沌
[26] 「10%」をめぐり民主党は分裂
[29] 11年度予算編成の大混乱は必至
[32] 財政再建には14~19%アップが必要
[33] [Interview] 小野善康 大阪大学社会経済研究所所長

【Part2】 裸の日本財政
[34] 国民を混乱させる多数の指標
[37] 2~3年後にリスク”顕在化”
[40] [Column]銀行・生保の国債保有リスク拡大

【Part3】 どうなる?消費税
[41] 消費税据え置きの陰で負担に歪み
[43] 消費税増税の2大キーワード
[47] 欠陥だらけの消費税制度
[50] [Interview] 神野直彦 政府税制調査会専門家委員会委員長

『週刊ダイヤモンド 2010年7/10号 特集:消費税ウソホント』の読書録

2010年7月11日参議院選挙1週間前に発売された本書の特集は『消費税』。
内容は順に、政治的視点から消費税をめぐる歴史、消費税導入が待ったなしである財政の現状と今後の財政予測、
財政再建に本当に必要な消費税率、日本の借金を表す指標の読み方、日本財政楽観論に対する見解、
社会保険料負担・所得税について、消費税増税論議で登場する「複数税率」「給付付き税額控除」についての
諸外国の現状や問題点・課題、現状でも存在している消費税の欠陥とインボイス・番号制について・・・

個人的に学べた点は次の2つ。
1・・・消費税の複数税率が事実上困難であること
2・・・日本の借金をネットで見る場合に意外な盲点があること

消費税の複数税率・・・諸外国でも苦心

P43~45では、諸外国の複数税率の実例が記されている。(表あり)
複数税率の大きな問題は、何を軽減税率の対象とするかという点で、
標準税率と軽減税率の分け方に疑問を感じるものも少なくない。

『たとえば、フランスでは原則として「贅沢品か否か」で標準税率か軽減税率かの線引きがなされる。贅沢品に分類されるチョコレートには、19.6%の標準税率が 適用されるが、板チョコに限っては、安価で庶民的であるとの理由から軽減税率が適用されているのだ。

さらにフォアグラ、トリュフ、キャビアの世界3大珍味では、キャビアだけに 標準税率が適用され、国内産業が多いフォアグラとトリュフについては、軽減税率が適用されている。国内産業の保護の観点からこうした措置が取られているのだが、こうなると 各業界の利権が大きく絡んでくる。

その場で食べるか否かが運命の分かれ目になる場合もある。』(P43~44)

P44~45に記されている複数税率の問題点の記載部分を抜粋、まとまると次のようになる。

各国、軽減するものの対象、率がバラバラ(英国、フランス、ドイツの表)で、
これだけを見ても、日本の複数税率の導入が事実上困難であることを想像させる。

フランスの例で、マーガリンは標準税率(19.6%)、バターは軽減税率(5.5%)というものもあるが、
企業体力が落ちている日本でこのような微妙な分け方をしたら、軽減されない側の業界団体も黙ってはいない。
ましてや人気取り政権で・・・。

日本の借金のグロス・ネット論争・・・相殺できない資産項目

本書を読むまでは、「財務省が日本の借金を大きく見せるためにグロスで言っている…資産を差し引きネットで見るべき」的な 指摘こそ正しいと思っていたのだが、そうでもないことに気づかされた。

日本の債務をグロス(粗債務)で見るのかネット(純債務)で見るのかという話について、
ネットで見る際の差し引く資産に問題があることをP36では指摘している。

『次の問題は差し引く資産の内容だ。「国民経済計算」の金融資産で、大きいのは「対外証券投資」110兆円、「社会保障基金」200兆円、「株式・出資金」99兆円などである(08年度)。 この3項目で金融資産の8割を占める。

(略)社会保障基金は政府の持つ資産で最大級のものだが、これは、将来の年金など社会保険の給付のための積立金だ。もし政府の借金の返済に使うと、国民への年金給付は不可能になってしまう。

公的年金制度は、むしろ”暗黙の債務”だとの見方もできる。これも議論となるところであるが、政府が保険料の支払を受けてすでに給付を”約束”している金額が830兆円。 そこから積立金140兆円と税金投入分190兆円を差し引いた”不足分”は、500兆円に上る。もしこれを考慮すると、政府の負債は相殺どころか大幅に拡大してしまう。』

実際に、公的年金の積立金は、老後世代の年金給付と現役世代の保険料負担の収支の差が過大になる時に積立金を取崩しながら賦課方式を維持させていくよう予定されており、 その積立金を日本の借金から差し引くということは妥当性に欠くと思われる。

”暗黙の債務”はについては、公的年金制度は賦課方式で運営され続けるのだから、すでに約束された支給額(現在分+将来分)に対する支払原資が現時点ですべて確保されていなくとも問題はなく、 資産・負債とバランスシートで表す事自体不適切である・・・という考え方があり、本書指摘の通り議論の分かれるところ。 (仮に現時点で年金制度を解散した場合には莫大なツケ…債務が残ることになる)

また、株式・出資金についても問題があることを指摘。

『株式・出資金は、政府系企業や政府系金融機関、あるいは第3セクターへの出資が多いと思われる。引きはがすのは簡単ではないし、資産が劣化している可能性もある』(P36)

結局、対外証券投資110兆円の部分だけが相殺可能との見方を示している。

『なお、国際比較において、グロス債務残高とネット債務残高の違いが問題となるのは日本のみである。日本が突出して金融資産が多いためで、他国はグロスで見ても ネットで見ても、たいした違いにはならない。』(P36)

「株式・出資金」のところは詰めが浅く、本文の記述だけでは実際のところどの程度の相殺が可能なのかが見えてこない。ただ、いずれにしろ相殺できるとされる政府試算のうち、 実際には相殺できないものも相当数含まれていることだけは理解できた。