厚生年金・国民年金増額対策室 > 年金読書録(年金、年金生活、社会保障関連の本) > 山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』の読書録
新書:204ページ
著者:山田昌弘
出版社:筑摩書房
発売日:1999年(平成11年)10月20日第1刷発行
目次
【序章】 パラサイト・シングルの時代
コラム 探偵の職業と生活
【第1章】 リッチなパラサイト・シングル
最も豊かな年代
豊かさをもたらすもの
経済的豊かさの構造
生活コストの負担なき立場
ブランド消費の主役
人間関係上の満足度
自己実現上の豊かさ
大人と子どもの使い分け
【第2章】 パラサイト・シングルと結婚問題
パラサイト・シングルの自己増殖
独身者は一人暮らしではない!!
パラサイト・シングルは増えたのか?
平均寿命の延び
1980年代:親同居未婚者の増大
未婚化、晩婚化とパラサイト・シングル
未婚化とパラサイト・シングルの悪循環
高度成長期の結婚
低成長期の結婚難
結婚はゆとりを失わせるイベント
パラサイト・シングルの結婚観
キャリアウーマンの結婚観
専業主婦志向の女性の結婚難
パラサイト男性の結婚難
未婚化、少子化の本当の原因
【第3章】 未婚化不況-パラサイト・シングルの経済的影響
パラサイト・シングルの経済的影響
日本列島総不況
パラサイト・シングルは少子化の直接要因
少子高齢化と日本経済のゆくえ
パラサイト・シングルのパラドックス
若年失業の増大と労働の趣味化
高齢者就労の維持
【第4章】 依存主義の台頭-パラサイト・シングルの社会的影響
まる金とまるビ
親の経済的利用可能性が階層を決める
メリットクラシーの崩壊
高度成長期の若者
二極分化する若者
承認欲求の肥大
パラサイトできない若者の不満
変革を求める青年の消失
【第5章】 低成長化とポスト青年期の出現-諸外国と比較した日本の若者
日本固有のパラサイト・シングル現象
自立が早かった若者
ポスト青年期の出現
ポスト青年期の多様性
国によるポスト青年期の相違
社会・文化的要因
政治・経済的要因
ポスト青年期の三類型
アメリカ-自助努力を迫られる競争社会
スウェーデン-若者への社会保障の進展
不況の深刻化とパラサイト化
自助と福祉と親依存のバランスは可能か?
【第6章】 パラサイト・シングルの形成-日本のポスト青年期
パラサイト・シングルは日本的か?
パラサイト・シングルの成立条件
「子どものためになんでもする親」
親世代の経済的余裕
高度成長期の若者をめぐる経済環境
日本的企業・労働慣行とパラサイト・シングル
標準的ライフスタイル志向
【第7章】 パラサイト・シングル社会の未来-依存主義からの決別を
夢のある社会は可能か?
仕事と家庭の両立は若者の夢になりうるのか?
非現実的なパラサイト・シングルの夢
パラサイト・シングルのジレンマ
パラサイト・シングルの不安
パラサイト・シングルは日本社会の行き詰まりの象徴
若者の自立が日本社会を変える
親から引き離す方策
若者の自立支援策
家族のリストラクチャリング
パラサイト・シングル社会の未来
あとがき
山田昌弘氏が「パラサイト・シングル」という言葉を最初に使用したのは、
1997年2月8日の日本経済新聞の夕刊の生活家庭欄「増殖するパラサイト・シングル」というタイトルの論説で、
当時の映画「パラサイト・イヴ」にあやかったのだという。(P11、P12、P203より)
その意味するところは、
であるが、言葉を直訳すると
となる。
そして、その後「パラサイト・シングル」という言葉は一般的なものとなるのだが、
その意味の取り扱いについては注意が必要となる。
本書(1999年10月発行)には続編と言うべき本山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』(2004年10月)があるが、
そのわずか5年間の間に社会の状況は大きく変わり、「パラサイト・シングル」の性質も大きく変容した。
一言で言えば、生活が苦しいパラサイト・シングルが増加したのだ。
本書において描かれるパラサイトシングルの本流は、やろうと思えば親同居から抜け出して一人暮らしも可能なのに、 基本的な生活コストを依存できる親同居の暮らしが捨てがたく、いつまでも親元に居続けリッチな生活を送るパラサイト・シングルであるのだが、 続編では、一人暮らしをしたくとも親同居から抜け出したら生活ができない、あるいは非常に厳しい生活となるパラサイト・シングルが本流となっている。
これは、1998年の大不況により若者を取り巻く雇用環境が大幅に悪化して、
特に若者を中心に、収入が少なく不安定な非正規雇用者が増加したことが関連している。
同じ「パラサイト・シングル」であっても、本書『パラサイト・シングルの時代』を読んだ後に受ける「パラサイト・シングル」に対する理解・イメージと、 続編『パラサイト社会のゆくえ』を読んだ後に対するそれとは大きな違いがある。
『パラサイト・シングルの時代』表紙より
「何の気兼ねもせずに親の家の一部屋を占拠し、
自分の稼いだお金でデートしたり、海外旅行にいったり、
車やブランドものや、彼氏や彼女へのプレゼントを買う。
このように、学卒後もなお、親と同居し、
基礎的生活条件を親に依存している未婚者を
『パラサイト・シングル』と呼ぶ。」
『パラサイト社会のゆくえ』表紙より
「不良債権化したパラサイト・シングルは、
もうリッチに生活を楽しむ余裕はない。
パラサイトしていた宿主の親は、逆に自分に寄りかかってくる。
結婚を前提にキャリアを積んでこなかったフリーター女性は、
経済的困窮に陥る。
嫁が来ることを前提にしてきた男性は、
家事や介護負担に直面して慌てるケースが今後増えるであろう。」
こように、本書で述べられていることが「その後の時代では当てはまらない」という事実もあるが、
以下では、本書『パラサイト・シングルの時代』に絞り、ポイント等を記してみる。
パラサイト・シングルが、なぜ豊かな生活を送ることができるのか。
34ページには、それを示す一つの公式がある。
『経済的生活水準=(生活のためのコスト)+(好きに使える小遣い)』
つまり、一人暮らしならば生活のためのコストを稼ぐことで汲々としなければならないが、
親と同居していれば自分で稼いだお金のほとんど全てを自分のために使うことができる。
本書においては、「社会人のこずかい未婚・結婚別」や「独身OLの高額商品所有率」のデータを示して、
パラサイト・シングルがいかにリッチな生活を送っているかを指摘している。
確かに、若いうちは正社員でも給料は少ないのだが、その多くを自由に使えるのであれば
若いうちから贅沢な暮らしが出来てしまう。
しかも、同居であれば家事などの非金銭的な便益も享受できてしまうのだからなおさらだ。
(「図1-4 身の回りの家事(20代)」を見ると、家事を親に頼る姿が一目瞭然)
イメージとして、一般的に「(社会人の)独身者=一人暮らし」というものがあるかもしれない。
しかし、筆者による1995年の国勢調査の加工データ(図2-2、20歳~34歳)を見てみると、
未婚者のうち、親同居の割合が非常に高くなっていることがよくわかる。
『35歳以下で配偶者のいない成人の大多数は、一人暮らしでは暮らしていない。
未婚者の中で、一人暮らしの人(独居)の割合は、男性で約三分の一、女性ではなんと二割にすぎない。』
(P60より抜粋)
女性の職場進出…言葉から受ける印象は、ともすると男性同様バリバリ働く女性の姿である。
そして、やりがいのもてる仕事を見つけた女性が、
結婚~出産~育児を通じて職を去らなければならない恐れがあるから、
なかなか結婚へ踏み切れなくなっている・・・とも思える。
しかし、表向きとは別に、未だに男性と女性の職業格差は存在する。
『(企業が女性を)周縁労働力としか見ておらず、やりがいや昇進が見込めるような仕事を与えない』(P83~84)
『多くの未婚で働く女性は、事務でコピーとりをしたり、店員だったり、ウェイトレスだったり、パソコンに向かってデータを打ち込んでいたり、工場で検品していたりする。
昇給の機会も少ないし、がんばっても給料が大きく上がるわけもない。』(P180)
女性自身の専業主婦志向も一因として指摘されているが、いずれにしろ女性の職場進出とは言っても、
結婚を躊躇させるほどやりがいのある仕事に就いている女性は多くはない。
つまり、未婚の増加は「仕事」そのものよりも、パラサイト生活で得られた豊かの方に未婚増の原因が存在する。
本書では、パラサイト・シングルを減らすことで、経済発展に貢献できる旨記されている。
その論理のキモは世帯数増加で、パラサイトしている1000万人のうち1割が一人暮らしをするだけでも100万戸の住宅需要が出て、 しかも洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、掃除機、テレビ、パソコン、自家用車、机、いす、寝具…これら家電や家具、その他生活に必要な 基礎的な消費需要が生じ、その経済効果たるや計り知れないというものだ。
『不況対策として挙げられているのが、買い替え需要を喚起するための、金融緩和、金利引き下げなど、いわゆる「財布の紐」を緩ませる対策である。 しかし、「買い替え」の需要には限度がある。逆にいえば、「買い替え需要」が旺盛だったバブル経済期が異様だったのだ。経済の基礎は、基礎的消費である。 その基礎的消費を喚起する「新たな世帯」が増えないことには、根本的な不況脱出にはならないのではないか。』(P97)
親同居税・・・親と同居して生活するパラサイト・シングルは、実質的に親から贈与を受けているのだから、贈与税のようにいくらかの税を課すというもの。
親の所得税控除の廃止・・・親と同居できる子供とパラサイトできる子供とでの不公平を無くす意味でも、親に扶養されている成人の子供については所得控除の対象から外すというもの。
逆年金や住宅優遇・・・例えば30歳までに自立(親と別居した形の自立)して生活した場合に、若い年齢ほど有利な給付および住宅優遇を行うというもの。
※この他にも若者自立のための企業・職場慣行の改革も述べられている。
個人的には、逆年金や住宅優遇が好感が持てる。 本書には、この点の財源の話は無いが、例えば高額年金受給者の年金を一部カットして、それを財源に若年に回すなどの工夫があっても良いと思われる。 何しろ、手取り15万円そこそこの若者が月20万円の年金プラスアルファ就労収入のある高齢者を支えるような姿が、健全で持続可能な国の形であるとはとても思えない。
本書は、先述の通り時代とずれてしまっている記述も一部にはある。
例えば、女性の専業主婦志向やパラサイト・シングルの心理面を表す記述において、
本書発売時点においては共感できたかもしれない箇所も、その後の時代においては・・・?