データで読み解く日本の家族 山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』の読書録

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山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』

新書:187ページ
著者:山田昌弘
出版社:筑摩書房
発売日:2004年(平成16年)10月10日初版第1刷発行

表紙

不良債権化したパラサイト・シングルは、もうリッチに生活を楽しむ余裕はない。
パラサイトしていた宿主の親は、逆に自分に寄りかかってくる。
結婚を前提にキャリアを積んでこなかったフリーター女性は、経済的困難に陥る。
嫁が来ることを前提にしてきた男性は、家事や介護負担に直面して慌てるケースが今後増えるであろう・・・。

目次

はじめに-社会学ほどやりにくい商売はない

序章 パラサイト・シングルの変質-1998年問題

Ⅰ 永久就職は今や昔-平成結婚事情

1章 「離婚、1分49秒に1組」
2章 2050年にお年寄り35%超す
3章 4人に1人「できちゃった婚」(1)
4章 4人に1人「できちゃった婚」(2)
5章 卵子バンク開設へ
6章 バレンタイン、手作りで「友チョコ」
7章 大学・短大、増える募集停止

Ⅱ 欲しいモノがない-子ども社会の変容

8章 3人に1人が夢がない
9章 パラサイト親子の背後に祖父母あり
10章 「お年玉2年連続減少」
11章 子どもの学力低下、4人に3人が「不安」
12章 「不登校」という言葉に潜む責任回避
13章 「なんちゃって制服」増殖
14章 別学?共学?やまぬ論争
15章 ハリー・ポッターに見る理想の学校・家族

Ⅲ パラサイト社会の裏側

16章 中年女性がプリモプエルにはまる理由
17章 「若年フリーター増に警鐘」(1)
18章 「若年フリーター増に警鐘」(2)
19章 中年男性の自殺急増
20章 「犬だって鍼灸」-ペット狂想曲
21章 家族を映す年賀状
22章 年金、年金、また年金(1)
23章 年金、年金、また年金(2)
24章 「中高年独身者の57.4%が将来に対して不安」

おわりに-努力すれば報われる社会の再興は可能か

あとがき

『パラサイト社会のゆくえ』の読書録

本書は、1999年10月に発行された山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』の続編と言うべき本である。 同じパラサイト・シングルをテーマとしているのだが、パラサイト・シングルについての体系的な解説・分析については『パラサイト・シングルの時代』の方が詳しい。

しかし、5年の間に時代は大きく変わり、それに伴い『パラサイト・シングルの時代』で語られる「パラサイト・シングル」像は鮮度を失った。 その点で、「パラサイト・シングル」を理解するには『パラサイト・シングルの時代』1冊だけでは足りず、変化した「パラサイト・シングル」像が解説されている 『パラサイト社会のゆくえ』と併せて読む必要があると思われる

(本書の序盤でも記されていることだが、例えば携帯電話の普及前と普及後で人々のコミュニケーションの態様が変化するように、社会学は生ものである)

当ページでは、以上のことを断った上で『パラサイト社会のゆくえ』について触れていく。

リッチなパラサイト・シングルから余裕のないパラサイト・シングルへ

『パラサイト・シングルの時代』で語られていた正社員で「リッチな生活を送るパラサイトシングル」というものは、 日本社会の経済環境や若者を取り巻く雇用状況の変化によって、もはや典型的な存在とは言えなくなった。

とりわけ『1997年1月の北海道拓殖銀行、三洋証券、山一証券など金融機関の連鎖的倒産が起き、それを起点に企業や金融機関の不良債権が明るみに出て、リストラという言葉が、 事実上、「人員整理」と同じ言葉として使われるようになった(P30抜粋)』時期以降、企業は非正規社員の活用を増やし、そのしわ寄せは主に新規学卒の若者へ・・・

フリーターや派遣社員のように低収入で不安定な雇用条件で働く若者が次第に増大したことで、 経済的余裕や心理的余裕の無いパラサイトシングルが増加した。

『パラサイト・シングルの時代』では、パラサイト・シングルは生活の基礎的部分を親にパラサイトしていたことで享受できていた「豊かさ」を捨てがたいために パラサイト生活を続けていたものが、『パラサイト社会のゆくえ』では経済面など現実的な問題として、自立したくとも自立できずにパラサイト生活を送るという姿にガラッと変容 してしまったのだ。(もちろん全部ではない)

なお、前者のパラサイト・シングルの理解については、山田昌弘氏が『パラサイト・シングルの時代』内で次のように指摘しているように、 さらだたまこ『パラサイト・シングル』(1998年12月発行)が参考になる。

『そこでは、実際にパラサイト・シングルしている人々(主に女性)の生活と意識がルポタージュされていて、たいへん面白い。なにせ、著者のさらだ氏が、准パラサイト・ シングル生活を送っていることが綴られているのだ。面白いだけではなく、理由別に見たパラサイト・シングルの分類など、研究者から見ても参考になる情報に溢れている。(P20)』

実際に読んでみると、経済的には自立可能なパラサイト女性たちが、親と同居することで何らかの便益を享受してうまくバランスが保たれている(保たれてしまっている?)生活 が、その心情とともに描かれている。やはり、『パラサイト社会のゆくえ』で語られている余裕の無いパラサイト・シングルとは違い、 葛藤や悩みについては理解できつつも、どこか余裕を感じる内容となっている。

「好きでフリーター」説が否定された2003年『国民生活白書』

ところで若者の雇用の問題、特にフリーターの増加については、好んでフリーターをしているものと考えている方が少なくない。しかし、2003年版『国民生活白書』のアンケート結果によると、 フリーターを希望してフリーターをしている若年フリーターはわずか14.9%でしかなく、72.2%は正社員を希望している。(P134)

・関連外部リンク
2003年『国民生活白書』7ページ「図14 もともとフリーターになりたかった人は少ない」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h15/youshi/2syou.pdf

では、どうして若者の間でフリーターが増加しているのか?
その理由は、下記のように非情でドライなものだ。
『パラサイト社会のゆくえ』のP135~P136より抜粋する。

『私は、東京学芸大学の就職委員として企業訪問を行い、多くの企業の人事担当の方にお話を聞く機会を得た。そこで受けた印象は、 「企業は、明らかに若者を選別し始めている」というものだった。どんなに儲かっている企業であれ、いや、好業績の企業だからこそというべきか、 10年前に比べ、正社員採用を大幅に減少させている。

特に、いわゆる女性向きとされた一般職、高卒の正社員職は大幅に削減され、多くの企業が、その代わり派遣やバイトを増やすと回答していた。 つまり、企業は、正社員として育てたい優秀な社員を少数採用し、単純労働の下働きは、使い捨て可能な派遣やバイトですますという姿勢 が明らかなのだ。その理由は、経済が構造転換して、企業の中でこつこつ仕事を覚えていく職が少なくなっていることによる。

つまり、IT化、グローバル化といったニューエコノミーの浸透により雇用が不安定化し、能力が発揮できる若者は将来性のある職に就けるが、そうでない 若者は低賃金の使い捨て労働者になるしかないということだ。(P31、P100)

ただ、若者が失業したり低賃金で働いていても親元にパラサイトすること、すなわち家庭がバッファ(緩衝材)となっているために、その問題はなかなか表面化してこなかった。 しかし、本書18ページで「パラサイト・シングルの不良債権化」と表現しているように、若者が年老いていく親にパラサイトすることには限界があり、 次第に経済的にも家事の面でも親を頼ることができなくなる状況へと追い込まれていく。

果たして国はそのような現実に対して、どのように向かい合おうとしているのか?

年金制度がこじれた原因

本書では、1998年を象徴的に、社会・経済が大きく様変わりしている様子が記されている。 終盤の22章には、そうした記述を背景として年金制度がこじれた原因を次のように断じている。

『年金制度がここまでこじれた原因は、社会・経済システムの変化に年金制度が追いついていないからである。 追いついていないというよりも、社会や経済が変化しているのに問題を先送りして、その場しのぎの対応をしてきた「つけ」がまわってきたのである。』(P161)

現行の年金制度の前提は次の通り。(P162)

ところが、
『1975年ごろからこの前提が崩れ始める。しかし、抜本的な制度改革はなされずに、前提が完全に崩れた現在、三つの問題が「同時」にでてきてしまったことが、 年金問題を深刻にしている。』(P161)

本書発行の2004年においても早急に年金制度の抜本改革をすべきところだったが、その後も本格的な改革は先送りされ、 2009年の財政検証(5年に1度の年金制度の見通しを示すもの)のいかにも数字合わせと言える内容には各所で批判が噴出した。

関連:当サイト発行のメルマガより
【2009/2/27】第15号 ◎年金不信を増幅させた『平成21年財政検証』
http://www.office-onoduka.com/mag2/015_20090227.html

本書172ページには、30代半ばのフリーターの話「5年先の生活もどうなっているかわからないのに50年先の心配なんか出来ない」が記されているが、 当ページ執筆2009年5月現在では、30歳以降のパラサイトシングルは、収入が低くても年金制度の免除制度を利用できない。

なぜなら、厚生年金に加入できていれば別だが、フリーター等で国民年金に加入している場合、もし本人が国民年金の保険料を納められない場合には世帯主が代わりに保険料を払わなければならないからだ。 (所得を合算しても基準以下ならば免除対象となる)

もっとも、30歳未満のパラサイト・シングルの場合は若年者納付猶予の仕組みを利用できるが、 その場合でも免除とは違い、追納しなければ将来の年金に反映されない。

そもそも、免除制度を本人の所得のみで適用すべきでは?という疑問もあるが、 後から納付しなければ年金額に反映されない納付猶予のしくみについては、 年長フリーター数が増加している状況をかんがみて、適用年齢を30歳未満ではなく40歳未満、もしくは年齢制限を設けない方が良いのではないかと思われる。 (あくまで現行の社会保険方式を前提とした一考察)

前書、本書を通読して思うこと

まさに就職氷河期のド真ん中に大学を卒業した私としては、本書『パラサイト社会のゆくえ』で語られるパラサイト・シングル および若者の厳しい就業状況についての記述は、非常に理解しやすく共感する箇所も多かった。

努力すれば報われる世代と努力をしても報われない世代・・・おそらくこの間にある意識の差は、そう簡単には縮まらない。 しかし、前書や本書で書かれているような事実認識によって、 ロストジェネレーション(失われた世代)で不遇を味わう人たちに対しての視線、例えば「個人の努力不足」「能力不足」「意識の問題」等と一蹴 されるようなことはなくなるものと思われる。(・・・と期待したい)