やどきり非婚族の本音と理由 さらだたまこ『パラサイト・シングル』の読書録

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さらだたまこ『パラサイト・シングル』

単行本:204ページ さらだたまこ
出版社:WAVE出版
発売日:1998年(平成10年)12月25日第1版第1刷発行

やどきり非婚族の本音と理由
30歳独身。実家で両親と同居中。今のところ結婚の予定なし。
TV、ラジオ、新聞、雑誌で話題!
流行語にもなったパラサイト・シングルの現状をルポした初の書。
それってやっぱりヘンですか?

目次

プロローグ

【第1章】 お母さんがお嫁さん

1.綾子さんのパラサイト・シングル計画
パラサイト・シングルといってもパターンはいろいろ
『お母さんがお嫁さん』のシングル・ライフ
36歳、OL。『母娘で』終の棲家計画はちょっと寂しい
母さん、お茶!
夫婦にも似たパラサイト母娘
パラサイト娘が巣立つとき

2.母は娘になぜ夢中になるの?
パラサイトしない仲良し母娘
母親の嫁度チェック
槽糖の妻のような母娘
海外に見る、パラサイト傾向
パラサイト娘は理想が高い
お母さんの理想の作品
現実逃避のパラサイト
依存できるのは母親だけ

【第2章】 一卵性母娘

1.弥生さんに見る一卵性母娘ライフ
娘のお嫁さんタイプと一卵性タイプ母娘の違い
一卵性母娘のパラサイト
一卵性母娘の胸のうち
一卵性母娘も外野の声には勝てない
弟に対する父の面影と女のジェラシー
やっぱり母親は息子に弱い

2.一卵性母娘の親離れ・子離れ
パラサイト娘の自立を阻む壁
結婚に至らない理由
初恋のトラウマ
親の期待に応える?『貞操観』
子離れの逆効果

【第3章】 恋愛トラウマと自立ジレンマ

1.恋愛にまつわるエトセトラ
シングル女性の謎
鵜の目、鷹の目、親の目
『超カッコワルー』な出来事
一人暮らしコンプレックス

2.パラサイト・レボリューション
親には語れない恋の話
精神的自立のための条件
母こそいちばんの味方
もうひとつの壁、それは・・・

【第4章】 オーバーホール

1.このままでいいのか症候群
脱パラサイトへの試みをしてみよう
人生総取っ替え症候群
環境を変えると必ず何かが変わる
アイデンティティーと目的が語れないとき

2.結婚する、しない?
フランス式結婚観
新しいパートナーシップと家族の在り方
バラエティ豊かなシングル・ライフへの道
新しい形のカップルの時代
理想のシングル・マザー

3.未来に向かうパラサイト・シングルたち
パラサイト・シングルにとってゾッとする話
バランスのいいパラサイト・ライフのすすめ
ブーメランするパラサイトな娘たち
ご近所パラサイト
変わらなくちゃは親までも
心地よいパラサイト・ライフを目指して・・・

エピローグ

さらだたまこ『パラサイト・シングル』の読書録

「パラサイト・シングル」という言葉は、社会学者の山田昌弘氏が作った言葉である。 その山田昌弘氏がはじめて「パラサイト・シングル」に関してまとめた本を出版する1999年10月よりも前に本書が誕生した。

そして、そのような前後関係もあり、山田昌弘著『パラサイト・シングルの時代』の本文中にも さらだたまこ著『パラサイト・シングル』のことが触れられている。

『パラサイト・シングルの時代』で本書を推奨

山田昌弘著『パラサイト・シングルの時代』の20~21ページには、本書のことについて次のように記されている。

『そこでは、実際にパラサイト・シングルしている人々(主に女性)の生活と意識がルポタージュされていて、たいへん面白い。なにせ、著者のさらだ氏が、准パラサイト・シングル 生活を送っていることが綴られているのだ。面白いだけではなく、理由別に見たパラサイト・シングルの分類など、研究者から見ても参考になる情報に溢れている。ぜひ、 本書と併せて読まれることをお勧めする次第である。

ただ1点、訂正させて頂きたいのは、さらだ氏が、パラサイト・シングルを成人後も親と同居する「女性」と書いている点である。私は、男女かかわりなく、親と同居し、 リッチな生活をする未婚者をパラサイト・シングルと呼んでいる。』(抜粋)

最後の性別に関わる部分については、少なくとも2000年6月20日第3刷発行の本書においては、女性と限定しているような記述は見当たらないが、 本書で登場している人物は全員女性であり、パラサイト・シングルに関連する本について本書のみを読んだ場合には、もしかしたら「パラサイト・シングル=女性」 というイメージを持ってしまうかもしれないと感じた。

しかし、本書エピローグ203ページには『ここでは、独身の「パラサイトする娘たち」が主役であって、それ以外のパラサイトする独身男性などに焦点を当てていない。(抜粋)』 と記されていることから、最後まで読めばパラサイト・シングル=女性と述べているわけではないことは理解できる。

また、本書は、

『社会現象としてのパラサイト・シングルを問題提起したり、現象を分析、解説するといった趣の本ではなく、あくまで、まだパラサイトという迷路に迷い込んだまま、 突破口を見つけようとしている女性たちの等身大の心情を綴ったものにすぎないが、しかし、単に大人になりきれない精神的に未熟な依存心の固まり、みたいには思ってほしくない。 それぞれにパラサイトする理由があって、悩み、考えている。その心の内側が伝えられたら、という気持ちでまとめたものである。』(P203~P204抜粋)

最初の「社会現象~解説するといった趣の本」は、まさに山田昌弘著『パラサイト・シングルの時代』と一致しており、山田昌弘氏が言うように2冊を併せて読むと 、確かにパラサイト・シングルの理解も促進されると思われる。

留意点・・・時代の変化とパラサイト・シングルの変容

本書のパラサイト・シングル女性たちは、山田昌弘氏の『パラサイト・シングルの時代』で描かれているパラサイト・シングル(の時代)と符合している。すなわち 著者のさらだたまこ氏をはじめ、経済的には自立しようと思えば自立できる人たちがメインなのである。

しかし、山田昌弘氏が5年後の2004年10月に発行した山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』には、 1998年の大不況以降のすっかり様変わりしたパラサイト・シングルの姿が描かれている。

そこには、フリーターなど低収入かつ不安定な働き方をする若者のパラサイト・シングルが増え、 その深刻な模様が記されているのだが、時代の変化やパラサイト・シングルの変容を考慮に入れると、さらだたまこ氏の『パラサイト・シングル』についても 過去タイプのパラサイト・シングル像であるとの留意は必要であると思われる。

例えば、
『海外旅行も行かないから、OL十五年もやっていればそれなりに貯まるのよ』(P24抜粋)
という、以前であれば何でもないことが、難しくなっていたり、
あるいは
『両親は、少なくとも年に一度は、私のフランス行きに便乗してついて来る。』(P199抜粋)
という、これも以前であれば平均的な若い女性の姿であったものが状況が変わってきている。

山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』の17ページの図表0-3に「女性海外旅行者の年代別構成比」というデータがあるが、 それによると1990年と2000年の比較において、とりわけ20歳~29歳の女性においてはその数が激減しており、『パラサイト・シングルの最盛期は1990年頃と推定できる(P17)』と述べられている。 パラサイト・シングルの変容を捉える象徴的なデータではないだろうか。

ただ、そうは言っても「パラサイト・シングル」の態様はそれぞれであり、その後どんな不況になったとしても、本書で書かれているようなパラサイト・シングル はいなくなることはない。 最低限の生活費を稼ぐだけでも大変であるために「そんなの共感できない」と感じる人が増えてくることはあるかもしれないが・・・。

『パラサイトする娘たちの多くは、育ってきた過程で身につけた豊かさを捨てるほどなら、あえて自立は選ばないというところに共通点がある。 つまり、親離れを阻む壁として、まず、経済的な要素がまず大きく立ちはだかる。』(P100より抜粋)

ここからも、本書(の時代)において描かれる「豊かを捨てれば自立できるパラサイト・シングル」と、 その後の山田昌弘氏『パラサイト・シングルのゆくえ』で描かれるフリーター等の「自立したくとも自立できないパラサイト・シングル」との質的な違いを感じる。

筆者自身が准パラサイト・シングル

本書がおもしろいのは、筆者自身も准パラサイト・シングルであることだ。
友人・知人のパラサイト女性の様子も記述されているが、それゆえ内容には説得力がある。

『親元で暮らすということは、いろんな意味での依存があって、パラサイトの仕方も人それぞれだ』(P16) というように、筆者は経済的にはパラサイトしていないが、両親と同じマンションの廊下を隔てたすぐの所に一人で暮らしをし、留守時の仕事の電話の応対や来客時のお茶だしなど その他の部分で親(母親)にパラサイトしている。(P18)

筆者は自分の母娘の関係を『お母さんがお嫁さん』と称しているが、スチュワーデスや添乗員、看護婦、学校の先生など多忙な女性は、お嫁さん的お母さんに支えられているのだという。

ちなみに、『お母さんがお嫁さん』タイプは母娘が向き合っているのだが、並んで手をつないで二人で同じ方向を見ている母娘を筆者は『一卵性母娘』と分類している。

パラサイト・シングルの心情

そして、パラサイトしているからといっても良いことばかりではなく、時に親子でケンカをし、時に異性との関係においてパラサイトであるがゆえの悩みを抱えていたり、 時にパラサイト生活の行き詰まりを感じたり・・・パラサイト生活をしていなければ理解できないであろう心情が本書には豊富に記されており、思わず引き込まれる。

『私自身も、自分というものがしっかりと見えているときは、精神的にも穏やかになれるし、それなりに充実感を得られれば、パラサイトしていることにわだかまりなどなくなってしまう。 しかし、何か先が見えなくなったとき、自分自身を見失いそうになったとき、いまだパラサイトしている自分が、どうしようもなく不完全で、不自然で、つらい存在になるのだ。』(P159抜粋)

筆者の略歴を見ると高学歴で仕事にも恵まれているように思えるが、そんな筆者でも心に『モヤモヤ(P6、P202)』を抱えている。

パラサイト・シングルの未来

『世の識者たちが指摘するのは、今後パラサイトする子供たちが、親の介護の必要性に迫られたときに問題が深刻化するという。』(P181抜粋)
このように、パラサイトの方向は、次第に「子供が親に」から「親が子供に」へとシフトしていく。

一方で、今後は結婚などで一度親元から離れて自立した人でも、離婚や失業、あるいはそうでなくとも経済的負担の軽減のために、 再び親元にパラサイトする人たちが増えると筆者は予測している。(P191)
いずれにしろ、親子間のパラサイトはこれまで以上に増えることは間違いなさそうである。

最後に・・・パラサイト・シングル女性たちの恋愛・非婚事情の本

本書は『パラサイト・シングル』という題名の本であるが、記述内容から判断すると多少のズレを感じる。
面白く読めることには違いはないが、内容としては、両親(特に母親)との依存関係にあるパラサイト・シングル女性たちの(デリケートな部分を含めた)恋愛・非婚事情がメインであるため、 「どんな本か?」を示すために、あえて個人的にタイトルを付けるならば『パラサイト・シングル女性たちの恋愛・非婚事情』・・・?