150兆円を本当にコントロールできるのか?玉木伸介『年金2008年問題-市場を歪める巨大資金』の読書録

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玉木伸介『年金2008年問題-市場を歪める巨大資金』

単行本:238ページ
著者:玉木伸介
出版社:日本経済新聞社
発売日:2004年(平成16年)8月25日第1版第1刷発行

目次

【序章】 知られざる巨大リスク-2008年問題

財投改革と全面的な自主運用への移行
運用益を追求する運用になるか
金融・資本市場にどのような影響を与えるか
80年代以来の「自主運用」や「グリーンピア」に対する批判
積立金問題と年金に対する信認

【第1章】 公的年金積立金という巨大な資金プール

1.公的年金は巨大な資金の流れ
一般会計税収に匹敵する年金給付
保険料収入は伸び悩み
公的年金積立金の巨大さ
2.細心の注意を要する積立金運用
積立金運用収入は金融情勢次第
これから一層注意が必要な積立金運用
3.機動的運用の可能な規模を超えていないか
150円と150億円の違い
150「億」円と150「兆」円の違い
資金量150兆円のヘッジファンドはない
4.今次年金改革で積立金はどうなったか
積立金は2009年度までは小幅の取り崩し
運用収入は引き続き「虎の子」
運用組織の独立行政法人化
「グリーンピア」で高まった年金資金の行き先への関心

【第2章】 財投改革の死角

1.「古き良き時代」は終わった
「古き良き」年齢構成
「古き良き年齢構成」と年金制度
「古き良き」お金の流れ
2.「財投の肥大」に焦点が当たった財投改革
財投の「肥大」
自主運用のあり方についての議論は不足
3.自主運用で年金制度にとってのリスクは増大
80年代から行なわれていた自主運用
財投改革で増大する年金特別会計にとってのリスクとコスト

【第3章】 公的年金への誤解を解く

1.年金は個人向け「金融商品」ではない
似ているのは外見だけ
給付金額は将来の政府と国会が決めてしまう
いいところも沢山あるのが公的年金
政府はどう説明してきたのか
アメリカでは給付は契約上の権利ではないと裁判所が判断
2.公的年金は「移転」の制度である
高齢者が勤労せずに生きていくための3つの方法
赤の他人のためにお金を出すのが賦課方式年金制度
「移転」のために「賦課」する制度
「移転」を司れるのは政府だけ
3.勤労世代の「負担」は「給付」であって「拠出」ではない
勤労世代の「負担」とは何か
「積立金」があるときは「負担」を「拠出」で計ってはいけない
「運用益」でも「負担」を減らすことはできない
4.公的年金の方程式
年金制度は「国民所得制約」に服する「パイの切り分け」の制度
積立金取り崩しでは国民所得制約を回避できない
「移転」は勤労世代の許容限度内でなければならない
「許容限度制約」は積立金で回避できる

【第4章】 「積立金」は「蓄え」か

1.つみたてきんものがたり
2.積立金のイメージを正す
「移転」から「冨」は生まれない
「積立金」は「剰余金」ではない
「積立金」が「大きなパイ」を表すときとは?
バランスシートで考えよう
もし非効率に使われていたらどうなるか
米国では「積立金は会計上のごまかし」という主張もある
積立金の額だけで考えてはいけない
「危機」はいつ来るのか
3.「積立金」はなぜ貴重か
積立金の取り崩しは政治的に容認
積立金は「合意の蓄積」
「合意の蓄積」のメリットは「時間を買う」こと
運用益はもっとも「痛みの少ない」給付原資

【第5章】 積立金運用のジレンマ

1.そもそも運用の目的は?
グリーンスパン議長による「ゼロサムゲーム」という指摘
運用益の獲得は無意味?
公的年金積立金の市場運用と資金循環
資金をどのようにして市場に戻せばよいのか
2.政府が大株主になってしまう
どのくらいのスケールの株主か
株式投資などに対する政治的圧力
専ら被保険者の利益のために
株式の議決権をどうするのか
政府は「行動する株主」になるべきか
政府の他の政策との利益相反
海外投資をすれば問題は一部回避、でも悩みは尽きない
「運用益極大」一本槍で大丈夫か
3.運用益極大は「中間目標」に過ぎない
「最終目標」と「中間目標」
退却も時には必要
「運用益極大」は効率的な資源配分のための手段
保険料を上げてでも公益を確保するという含意

【第6章】 海外の積立金運用におけるイノベーション

1.全額を国債に運用する米国
多額の積立金を有する米国の公的年金
運用は非市場性国債
2.独立組織で株式や不動産を買うカナダ
90年代に抜本的見直し
強い独立性の基本は理事会メンバーと理事長の選任方法
3.ほとんどの資金を国外に運用するアイルランド
National Pensions Reserve Fund(NPRF)の設立
NPRFの独立性はカナダのCPPIBほどではない
資産運用の中身は国外・株式中心、国債運用は法律で禁止
4.各国の議論の成果とイノベーション
米国における株式投資についての理論的整理
独立した運用組織のイメージの明確化
カナダのCPPIBの経験1・・・独立性と社会的投資
カナダのCPPIBの経験2・・・株式の議決権
カナダのCPPIBの経験3・・・国民との積極的なコミュニケーション
アイルランドの経験1・・・「a strictly commercial investment mandate」という工夫
アイルランドの経験2・・・タバコ問題
アイルランドの経験3・・・カナダほどではない国民との対話の努力
5.出口が狭い日本

【第7章】 積立金の出口を探せ!

1.独立した運用組織の必要性と限界
日本の独立行政法人は独立性が低い
何のための独立性か
「運用益極大」に必要な独立性
利益相反の弊害軽減に必要な独立性
積立金運用益に関する「客観的な情報の提供」に必要な独立性
運用組織の政府からの独立性の限界
2.独立した運用組織の限界を国民との対話によって広げる
国民への説明の努力が特に必要な3つの理由
国民、市場との対話のイノベーションこそ必要だ
運用組織の「目標」と「被保険者の利益」
「暴走」の心配と「安全装置」
国民を安心させるためのイノベーション
包括的な説明は独立性を高める
3.運用組織と市場
金融・資本市場の機能確保と運用組織の独立性
運用組織と金融・資本市場との対話
4.政府による民間資産保有・運用という重いテーマ
政府が民間試算を運用益のために保有することには、基本的な無理がある?
積立金を被保険者・国民に「フェアに返す」ことはできない
出口はあるのか?

おわりに
参考文献
参考資料
[BOX]
国民所得制約と許容限度制約の導出
経済学者のハイエクの指摘
カナダの年金制度と憲法
国内投資禁止の提案


関連・・・『年金積立金問題』をテーマにしている本


以下読書録作成予定