ドキュメント「最底辺生活」 川崎昌平『ネットカフェ難民』の読書録

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川崎昌平『ネットカフェ難民』

新書:231ページ
著者:川崎昌平
出版社:幻冬舎
発売日:2007年(平成19年)9月30日第1刷発行

25歳、低収入、一泊2,000円。
これこそが、
現代の貧困だ!
日本人が初めて直面する新しい危機。

ネットカフェ難民は、こう考える。
1.金 月9万円要る。生きている限り金がかかる。
2.仕事 日雇いバイトに登録して、携帯が鳴るのを待つ。
3.時間 仕事がない日はパチンコで稼ぐ。古本を読んで過ごすのが安上がり。
4.体調管理 週1のシャワー。栄養源はスティックシュガー。薄着厳禁。
5.性欲 音を立てないでこっそり処理。部屋に常備のティッシュ使用。
6.マイホーム 30年ネットカフェ生活を続ければ買える。

表紙

金も職も技能もない25歳のニートが、
ある日突然、実家の六畳間からネットカフェの一畳ちょいの空間に居を移した。
パソコンで日雇いバイトに登録し、
日中は退屈で単純な労働に精を出す。
夜は11時以降が入店条件の6時間深夜パックで体を縮めて眠りを貪り、
延滞料金をとられないよう、朝は早く起床。
時にファミレスや吉野屋でささやかな贅沢を楽しむ。
やがて目に見えないところで次々に荒廃が始まった・・・
メディアが映し出さない『最底辺』の実録。

目次

【0日目】 ネットカフェ難民前夜
1.ニート、臨時収入を手にする
2.ニート、ひとしきり考える
3.ニート、旅立つ
【1日目】 ネットカフェ難民の一日は、夜、開く
【2日目】 ネットカフェの定義
【3日目】 ネットカフェ難民はホームレスではない
【4日目】 ネットカフェ難民と2ちゃんねる
【5日目】 お金と睡眠
【6日目】 ネットカフェ難民、パチンコに負けてタバコを拾う
【7日目】 ネットカフェ難民、日雇い労働を決意する
【8日目】 ネットカフェ難民は旅人か
【9日目】 機械にさせればいい仕事と機械よりも安い人間の存在
【10日目】 一週間以上同じパンツをはく方法
【11日目】 漫画家を目指すフリーターと目標がないネットカフェ難民
【12日目】 感動とは何か
【13日目】 ネットカフェ難民と性欲
【14日目】 傘がないネットカフェ難民
【15日目】 マクドナルド難民化するネットカフェ難民
【16日目】 ネットカフェ難民の対人処理能力
【17日目】 体調管理について
【18日目】 不意に訪れる変化
-ネットカフェ難民が怖がるものとは
【19日目】 リセットボタンは押さないがセーブはしたい
-ネットカフェ難民の心意気
【20日目】 職務質問を受けたらどうするか
-ネットカフェ難民対警察官
【21日目】 立ち食いソバに卵を落とすか落とさないか
-ネットカフェ難民の葛藤
【22日目】 頼むから静かにやってくれ
-ネットカフェ難民の小さな希望
【23日目】 カップラーメンは路上で食え
-ネットカフェ難民が知る情報
【24日目】 想像力が勝負の決め手
-ネットカフェ難民の最後の武器
【25日目】 磨耗する心
-ネットカフェ難民の病
【26日目】 長期滞在時の注意事項
【27日目】 即決採用バイトとまずいフリードリンク
【28日目】 ネットカフェ難民の血
【29日目】 割に合わない給料と仕事ではない作業
【30日目】 生きる楽しみ
【31日目】 無題

『ネットカフェ難民』の読書録

当ページ記載日:2009年11月20日

筆者は、
・筆者は高学歴(東京芸術大学大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻修了)である。
・「まれに」とはいえ1日5万円もの収入を得られる絵の家庭教師をしている。
・戻ることができる家(都内近郊)がある。
ということで、ネットカフェ生活から抜け出すことができない正真正銘?の「ネットカフェ難民」ではないと思われるのだが、31日間身を持ってネットカフェ難民生活を体験。

日銭を稼ぎながらネットカフェを転々とする暮らしとはどういうものか?
どういう気持ちでネットカフェ難民をし、どのような心の変化が起こるのか?
収入は?仕事は?食事は?娯楽は?性欲は?・・・
ネットカフェ難民のリアルに迫った一冊である。

なお、127ページには、筆者がネットカフェ難民になった理由は経済的背景が原因ではないとして、
「厚生労働省の発表によれば「寝泊りのためにネットカフェを利用する住居喪失者」の数は全国で約5,400人だとか。この数字をネットカフェ難民の総数とするのは誤りだ。 ネットカフェ難民は、日雇い労働のために生きているわけではない。少なくとも僕は、ネットカフェ難民をやりながら「思考」している。 就労問題や社会経済の理論を振りかざしてネットカフェ難民を語るのはいかにも実態に適うように見えるし、また事実意味のある切り口なのだろうが、 それですべてを見通せると思ったら間違いである。人間はお金の計算だけをする動物ではない。ネットカフェ難民を考えるキーワードは、むしろもっと形而上的な部分にあるような予感がする。簡単に言えば、合理主義の終焉、あるいは新しい合理哲学の実践の兆候、気配、漠とした予感が、ネットカフェ難民の勃興と展開とに顕在化しつつあるのではないか」
とある。

本書を読み進めるうちに抱く若干の違和感・・・原因はここにあった。
「ネットカフェ難民」は経済、雇用の切り口で語られることが多いのだが、それだけでは見通せないものがあると・・・
とすると、個人的に抱いていた「戻る家がなくネットカフェ生活から抜け出すことができない人」をネットカフェ難民だとする考えも間違っていたのかもしれない。(そうすると、筆者のようなタイプのネットカフェ生活者も「ネットカフェ難民」と言えることになる。)

ネットカフェ難民とは?

・64ページより
「ネットカフェ難民にとってネットカフェが家であるとすれば、この家は非常に限定的な機能しか果たせていない。つまり、寝る場所としての役割である。 細かいポイントを挙げ連ねればいくらでもあるにはあるのだが、最も重要な部分が「睡眠をとるための場所」としての機能であるとすれば、極論してしまうと、 ネットカフェ難民とは、睡眠にお金を払う人種であると定義することができる。宿泊にお金がかかるのではない。眠る行為に、対価が発生するのである。 こんなに不経済なことはないとも思うが、しかし、どうしようもない事実である。ただで眠りたければ、ネットカフェ難民をやめて、別の難民となるしか、ない。」

・70より
ネットカフェ難民は住宅ローンを日払いする人種
1日の支払い額は少ないほどよい。安い場所に人気が集まるのは道理。」

ちなみに、204ページのマンション案内の仕事のところでは1日平均2,000円ネットカフェに使った場合の試算が記されているが、改めて計算するとすごい金額となることがわかる。
1ヶ月=6万円
1年間=72万円
10年間=720万円
30年間=2160万円

152ページより
ネットカフェ難民とは、できる限りの無駄と無意味を重ねた上で入るべき修羅の道であるから、20代前半ぐらいまでは様子を見ていてもいいんじゃないかしら、などとも思う。」

最後に

本書のいたるところにネットカフェ生活のノウハウが記されており、その点も非常に興味深く読むことができた。
・スポーツ新聞は簡易カイロや即席トイレットペーパーにもなり、体を拭けば消臭効果があること。
・ネットカフェによっては、フリードリンクのみならず、フリーフードとしておにぎりや味噌汁などが出ること。
・ネットカフェ難民にとっての歯ブラシは、非常に価値あるアイテムであること。
・下着などをコインランドリーで洗濯するより、新たに買ってしまったほうが安上がりな場合があること。
・シャワーの際、服も一緒に洗ってしまうと安上がりであること。
・ネットカフェ難民にとってエアコンが健康上の大敵であること。
その他、性欲処理に関する生々しい記述、オブラートに包まないその書きぶりに「リアル」を感じた。

また、筆者の次著、川崎昌平『若者はなぜ正社員になれないのか』では、心機一転、正社員として働くべく 就職を切望し、就職活動に励む記録が記されている。本書と併せて読むと、その心境の変化に驚かされる。