川崎昌平『若者はなぜ正社員になれないのか』の読書録

厚生年金・国民年金増額対策室年金読書録(年金、年金生活、社会保障関連の本) > その他 > 川崎昌平『若者はなぜ正社員になれないのか』の読書録

厚生年金・国民年金増額対策室

川崎昌平『若者はなぜ正社員になれないのか』

新書:222ページ
著者:川崎昌平
出版社:筑摩書房
発売日:2008年(平成20年)6月10日第1刷発行

実録・26歳無職の就職活動
仕事求む!

表紙

格差社会だの下流社会だのといった言葉が躍る様を観察するに、
下側の人間たちは、やり玉にあげられ、分析され、論じられ、利用されるばかりで、
メッセージを発する権利を奪われているような感慨に陥る。
されど、貧乏人も無職も、格差の底辺に分類される人間ではあれ立派な人間である。
考える部分も当然ある・・・

大学新卒の就職戦線は空前の売り手市場・・・
しかし、その陰で、就職氷河期に正社員の座を得られなかった若者たちは、
新卒者に偏った企業の採用慣行の壁にはばまれ、
再チャレンジの機会を十分に与えられずにいるとされる。
彼らの直面している「現実」とはいかなるものか?
本書は、大学を出た後、日雇いバイトで稼ぎつつネットカフェに寝泊りするという生活を
続けてきた男が、一念発起、正社員の身分を手に入れるべく行った就職活動の実録である。
苦闘の果てに彼は何をつかむのか?

目次

【序章】 定職が欲しい
ある面接にて
就職活動を開始した理由について
「普通」へのあこがれ
本書について

【第1章】 とにかく落ち続ける
妄想から始まる第一歩
大企業を志す
まずは銀行を
突きつけられる選択
とりあえず応募
なぜ新卒時に就職活動をしなかったのか
とにかく落ち続ける
はじめての筆記試験
まるで歯が立たない!
惨敗からの学習
三つの扉
就職活動のジレンマ

【第2章】 「やりたいこと」が見つからない
ダメな若者の一人として
ダメの自己分析
「やりたいこと」とは何か
「やりたいこと」と「仕事」の関係
ジョブとワークの差異
働かざるもの、「やりたいこと」を口にするべからず
未来を知ってしまった絶望と、未来を知らない絶望
反未来の思想
無気力な若者たち?

【第3章】 面接という名の地獄
はじめての筆記試験突破
はじめての面接
はじえてのグループディスカッション
余計なひと言
学生たちと情報交換
まぶしい高学歴
26歳は不利ですか?
浪人について
はじめての二次試験
自転車をどう売り伸ばすか?
もっと大きなものを賭けます!
アドバイスをもらう
お前は何をしたいんだ
三度目の面接

【第4章】 ハローワークへ行こう
最後の自問、簡潔な自答
適正を見出す思考
手を動かす仕事へ
大企業と中小企業
インデックスでしかない知識との決別
ハローワークへ
ハローワークの利用方法
ハローワークの人々
ハローワークのお膳立て
怒られて賢くなる
合理的な採用試験
クライアントとの打合せ
仕事に対する自信

【第5章】 ウチで働いてみませんか?
派遣労働と正規雇用の差異
厭世論風思考
覚悟の意味
自己否定という愛
フラフラしていた時代のツケ
三種類の企業-企業を知るための就職活動
役に立たない面接技法
最後の面接
一握りの決意

おわりに

『若者はなぜ正社員になれないのか』の読書録

当ページ記載日:2009年11月24日

本書『若者はなぜ正社員になれないのか』(著者26歳)は、2007年9月に『ネットカフェ難民』を発行した川崎昌平氏(著者25歳)の次作にあたる書で、前作同様自身の体験をベースにしている。
前作もそうであったが、外野からの分析や見解ではなく、当事者はどう行動、思考しているのかということについて、
著者の体験・目線を通じて「リアル」を感じることができる点が本書の最大の魅力であると思われる。

就職活動

学生時代はもとより卒業してニート兼ヒキコモリ、時にはネットカフェ難民をしていてもなお就職活動から縁遠い生活を送っていた筆者であるが、 本書では、就職についての並々ならぬこだわりが詳細に語られている。
その心境の変化がいかにも興味深い。

「まだ20歳を過ぎたばかりの頃、大学生が行う就職活動を見ていて、「大学とは窓口に呼ばれるまで4年も待たされる職安か。否、学問をする場所のはずである。 だのに、ろくに学ばず、論じず、思考しないから、日本の教育および研究は質・量ともに低下の一途うぃたどるのだ」と思っていたのだが、今となってはそんななまっちょろい 空念仏を吠えている場合でもない。天下国家に想いを馳せるよりも前に、明日のわが身を案じねばならぬ。 就職である。就職こそ、この境遇を打破する最善にして唯一のアクションのはずだ。僕はそう信じた。」(P15)

2年間にもおよぶ無職生活の何がつらかったのか。
その記述も具体的であり、つらさが伝わってくる。

「まず何といってもお金がなく、加えて社会から認められておらず、ついでに心の余裕がなく、おまけに未来もない。このままでは遠からず廃人である。 ご近所さんの視線は日に日に厳しくなり、盆暮れ正月、親戚の集まりなどに顔を出してもなんだか肩身が狭い。昼過ぎなどに目覚めてしまった日には、言い尽くせぬ罪悪感、 起きたてなのに疲労感、飽きるほど何かをしたというわけでもないのに倦怠感、ほとほとイヤな気分になる。」(P13)

タイトルと中身のギャップ

読み手にもよるかもしれないが、本書はタイトルから受けるイメージと内容とでは少なからずギャップがある。

「本書は、前述のような環境を脱するべく、無為の日々から生じた願いを成就させるべく、実際に行った就職活動、より実情に即して言えば「大学を出た後、 二年近くふらふらしていた人間が心を入れ替えて開始した一連の就職活動」の顛末を正確に記録し、綴ったものである。同時に、働くことの意味、労働とは何かについて、 思考を重ねた文章でもある。決して就職活動指南書などではないし、その狙いも筆者にはない。また、同じような境遇にある若者たちの思考や動向を統計的に分析・研究したものでもない。」(P17)

アマゾンの書評でも指摘されていたが、個人的にも想像していたものと内容とは一致しなかった。
しかし、学者や専門家などの社会的成功者による本ではない・・・むしろ 「いい歳ぶら下げて定職に就かなかった若者(P17)」の生の声というのは、一般的にはあまり知ることのできない貴重なものであることから、読後感は決して悪いものではなかった。

ただ1点、最後の結末を除いては・・・
(書類選考で落とされ、面接で落とされ、就職活動を重ねながらついに念願を果たす筆者であったが・・・!?)

本書の効用

19ページに記されている「本書の効用」より

最後に

本文とは関係がないが、前書『ネットカフェ難民』同様本書においても難しい言葉が度々登場した。

隠遁(いんとん)を決めた(P12)
天啓を手にした(P16)
無職無知蒙昧(むしょくむちもうまい)の26歳(P26)
蓋(けだ)し名文である(P32)
堅牢(けんろう)なフレーム(P34)
鼎(かなえ)の軽重(P37)
人生における僥倖(ぎょうこう)(P40)
斯界(しかい)を上り詰める(P85)
宣伝と謗(そし)る(P90)
双方向だと喚(わめ)いた(P99)
寂寥(せきりょう)(P118)
長袖(ちょうしゅう)善く舞い、多銭(たせん)善く商う(P156)
厭世論(えんせいろん)(P190)
畢竟(ひっきょう)(P201)

筆者は、東京芸術大学大学院美術研究科卒という学歴がありつつも、ただひたすら自らを卑下している。
しかし、文章からは文学的な匂い、インテリの匂いがプンプン漂うし、面接のやり取りから頭の回転の速さもわかる。
おまけに前書からは対人処理能力の高さも伺えたし、剣道二段、柔道二段と身体能力も人並み以上であると言える。
自らを「下側の人間(P17)」としつつもポテンシャルは人並み以上・・・
これから本書を読まれる人のために、その点だけは指摘しておきたい。