東京経済急上昇、景気はどんどん良くなる!! 財部誠一『東京から日本経済は走り出した』の読書録

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財部誠一『東京から日本経済は走り出した』

単行本:238ページ
著者:財部誠一
出版社:講談社
発売日:2003年(平成15年)11月25日第1刷発行

東京経済急上昇、
景気はどんどん良くなる!!

グッチが推定90億円で銀座の不動産を購入。
六本木ヒルズ・汐留シオサイト・品川グランドコモンズなどが続々オープン。
日本経済全体としても新日鉄など重厚長大産業の復活、松下電器の変身など展望は明るい!!
驚愕のデータと綿密な取材をベースに、東京の一極集中から一転突破へと、
まったく新しい視点で経済をとらえ直した画期的日本再生論!

日本は歳をとりすぎた。老人のようだ。
猜疑心とひがみばかりが強くなり、新しい価値観を頑として受け入れようとしない。
変化の質を問うことなく、変化そのものが嫌悪の対象となってしまう。
これだけは本当にいいたい。
いま東京にいて「景気が悪い」などという認識しか持てない人はたとえ二十代であっても老人である。
自らの人生を思うように送れている人もいれば、そうでない人もいるだろう。
不遇を嘆いている人もすくないはずだ。
だが東京の復活は間違いない。(本文より抜粋)

目次

【プロローグ】 東京経済ずばりエキサイティング
日本はもはや不況ではない
ルイ・ヴィトン・ジャパンの驚異的な収益力
バブル時代をも超えた東京の建設ラッシュ
東京から、新しい時代が生まれる

【第1章】 重厚長大産業の復活
70パーセント増益が評価されない理由
若者の目で日本経済を見る
インフレ要因となった中国
続々と復活する上場企業
返信する巨人・松下電器
部分最適を捨て全体最適をめざす

【第2章】 東京マンハッタン計画
丸ビルが丸の内の様相を変えた
街は生きている
街が活性化するための条件
森ビルの執念が生んだ六本木ヒルズ
洗練された日常をめざす品川グランドコモンズ
企業の自前のビルが増えている
億の価値が持つ意味
触手を伸ばしてきた外国資本
大人の顧客を想定する
ホテル界に激震が走る
観光立国を真剣に考えるときがきた

【第3章】 銀座の海外ブランドを歩く
銀座の不動産をめぐり巨額資金が動く
アジアの銀座から世界の銀座へ
並木通りから新橋方向へ
老舗和菓子店にも『銀座』は不可欠
中央通りを京橋方向へ
銀座四丁目から銀座二丁目へ
マロニエ通り、松坂屋周辺の再開発

【第4章】 再開発プロジェクトが動き出した
超一流ホテルが続々建設される観光地・東京
緊急整備地区の要となる東京
職・住・遊の混合をめざす六本木周辺
防災の見地からも望まれる八重洲再開発
日本一の超高層ビルを構想する西新宿
実利をめざす錦糸町駅前
最先端IT拠点をめざす秋葉原
総合複合施設をめざす大崎
歴史遺産よりも発展を選んだ表参道
教育環境をも考える芝浦
再開発の経済効果はどうか

【第5章】 WILLを持つ人々
『ミシュラン』の一つ星レストラン
出店攻勢、そして上場へ
料理人の苦しみ、経営者の苦しみ
札幌をフランス文化の拠点に
「ひらまつ」ブランドを支える理念
「ひらまつ」の経営戦略
商店街をダメにしたのは誰か
再生を支える理念探し
ブランドを確立した「さか本」
「ひらまつ」と「さか本」には共通点がある

【第6章】 地方からブランド創りは始まった
顧客はブランドに何を求めるか
変わらない大阪、変わり続ける名古屋の違い
デパート販売で大収益をあげた『いかめし』
東京直結が新たな観光名所を生んだ
巨大市場をめざした企業だけが生き残る
農業で地方の活性化を

【エピローグ】 東京経済を掘り起こす
「神のごときミケランジェロ」

『東京から日本経済は走り出した』の読書録

当欄記載は、本書が発売されてから約6年後の2009年8月。
2008年には金融危機があり、それ以前とそれ以後とでは環境がガラリと変わってしまった。
本書では、都市再開発および都会のハイクラスなブランド、飲食店などについての成功事例、プロセス、
戦略などが数多く紹介されているが、当時と現在とでその評価を変更せざるを得ない部分も少なくないと思われる。
(商売の真髄のような普遍的な記述箇所も多いのだが・・・)

まるで文字で読む東京ウォーカー

本のタイトルと帯により、世の中の閉塞感を打破し、将来の日本に希望が持てるような画期的なアイデアが記されていることを期待して本書を手にしたのであるが、 観光立国の話を除くと東京都心部の再開発プロジェクトや敷居が高そうな都内の洗練された飲食店等の記述が大半であり、やや思っていたものとは違っていた。

『本書は東京を楽しみながら、東京を学び、そして東京を踏み台にして飛躍するための本である。』
(P238抜粋)

ただ、東京出身の私としても知らないことが多く、興味深く読むことができた。
グーグルアースも併用すれば、ちょっとした観光気分も味わえる。

ルイ・ヴィトンの記述で感じた違和感

本書プロローグには、ルイ・ヴィトン・ジャパンをはじめ海外ブランドの販売実績拡大に関する記述があり、
『この実態を知らずに、日本を「消費不況」と断じるのは大きな間違いだ。スーパーや百貨店といった既存の小売業者の売上高が減っているからといって、 消費不況だなどと理解するのはある種の現実逃避と言わざるを得ない。売り上げ低下を景気のせいにしたくなるのは人情だが、日本人の消費意欲は衰えていない。 それどころか、銀行倒産が集中した98年以降、日本人がルイ・ヴィトンのバックや財布を購入する姿といったら、「買う」というより「買い漁る」と表現したほうがいい くらいの勢いだった。』(P19抜粋)
としている。

本当にそうなのだろうか?
もし、主要な購買層が『パラサイト・シングル女性』であったとしたら・・・?

山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』(1999年ちくま新書)
第1章「リッチなパラサイトシングル-ブランド消費の主役」では、次のような分析がなされている。

『このように、基礎的生活のコストをほとんど負担しないで、ある程度の生活水準を享受できるというのが、パラサイト・シングルの豊かさの基礎にある。 (略)フリーターだとしても、5万円から10万円は稼ぐだろう。そのうち親に私のが1~3万円なら、自由に使える小遣いが10万円になったとしてもおかしくない。図にあるように、 男性33%、女性は41%以上の未婚社会人の小遣いが10万円を超えているのだ。その小遣いの使い道も、今の若者の豊かさを反映している。この不況になっても、バックや高級衣服 などのブランドものの需要は落ちていない。そのわけは、パラサイト・シングル女性が買い捲くっているからである。

同ページ掲載、日経産業消費研究所が1995年に行った調査「不況知らずの高額消費OL」では、
過去1年以内の海外旅行や高額商品購入、乗用車所有などの調査結果が示されている。
また、
『それでなくても、様々な所で消費の主役として出てくるのがパラサイト・シングルなのである。あるデパートで、クレジットカードなどで高額の消費をする層を調査したところ、 年収の低い20歳代OLが最も多かったという記述もあった』
(P42抜粋)
としている。

そのパラサイト・シングル。
非常に不安定な存在で、その行く末は・・・
山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ』(2004年ちくま新書)(表紙より抜粋)
『不良債権化したパラサイト・シングルは、もうリッチに生活を楽しむ余裕はない。パラサイトしていた宿主の親は、逆に自分に寄りかかってくる。 結婚を前提にキャリアを積んでこなかったフリーター女性は、経済的困窮に陥る。』

売れていることに違いはないが、買い手の属性を考えるとイマイチ納得性に欠ける。
また、外資ブランドの売上高が全体に与えるインパクトはどれくらいなのかといったデータが示されていないので、
一部の盛況ぶり、および本書で示されているような話だけで全体として「不況である」「不況ではない」と判断することは難しい。 もっとも、商売不振を不況のせいにしたとたんに進歩がなくなることから、不況であっても不況不況言うな!
という趣の話なのかもしれないが、個人的にはスッキリしないものが残った。

不況ではないの?

本書の出だしは、次のようにしてはじまる。

『日本はもはや不況ではない
どう考えても東京の景色は回復している。
いや、「回復している」などというレベルではない。
「絶好調」といってもいいくらいである。
日本経済の現状にいまだ自信を持つことができない人たちには東京の現実がまるで見えていない。
ここ数年間の東京の変化といったら、世界の度肝を抜く速さで変貌し続ける上海と比べても遜色のないほどだ。』
(P10抜粋)

東京の現実とはどんなものなのだろう?

『東京人の旺盛な消費意欲が向かう先は、ブランドもののバッグや腕時計だけではない。東京の人間は「食」に対しても 貪欲をきわめている。おいしいもののためならば、いくらカネを使ってもかまわないという人たちが東京にはあふれている。 企業の接待ではない。個人がポケットマネーでうまいものを求めて東京中を食べ歩いているのだ』
(P12抜粋)

あふれている・・・
いったいどれくらいの割合で、そのような人たちが存在するのだろうか?
生まれも育ちも東京都特別区だが、まわりは庶民そのものでつつましく生活している。
特に、若い人たちは雇用環境に恵まれない人も多く、一部の勝ち組以外そのような暮らしは別世界に過ぎないというのが実感だ。

もちろん、人口ボリュームがある分、1食ウン万円のお店も栄えてしまうのが東京の器の大きさなのだが、
『現実には一度のディナーに3万円、4万円も使ってもかまわないという個人のお客さんが東京にはいくらでもいる。』
(P195抜粋)
というほどのものはないように思われる。

また、景気の影響は小さいとする付加価値の高い本書記載のような飲食業であっても、
不況の波には勝てないのでは?と感じさせる記事を見つけた。
日刊ゲンダイ2009年8月1日号より関連記事を引用する。
(本書発売から6年後の記事)

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高級クラブの次は「オシャレ飲食業」に不況の荒波

『高級クラブの次はオシャレな飲食業がどんどん淘汰されている』
不良債権の動向に詳しい金融関係者と話していると、こんな話が漏れてきた。 昨秋からの大不況で、企業の接待費が急減。銀座や六本木の高級クラブが相次いで淘汰されたのは承知していたが、現在は一連の動きが次のフェーズに移行しているというのだ。

このネタ元によると、高級クラブなどを除けば、日銭が着実に入ってくるレストランなど飲食業は、比較的不況に強い業種として金融関係者の間ではとらえてきたという。 「創作和食や創作○○料理、小ジャレた内外装のカフェ風店舗、個室ブームで業種を伸ばしてきた業者が多かった」とされる。

(中略)

現在はこうした路線の店が窮地に追い込まれているというのだ。「残業代カットとともに、自腹で来店していた客が離れたほか、若者の外食離れが顕著で客足が頭打ち」 なことが直接的な要因という。このほか、都心の地価下落の速さに比べ、「店舗の家賃の下落が緩慢なため、客足が落ち始めたことで家賃の負担が経営を圧迫している」のだとか。

金融機関の融資担当者に尋ねると、「生き残るのは全国チェーンの居酒屋、あるいは持ちビル内で営業するオーナー系の店舗くらい」との答え。不況の荒波で外食産業も 様変わりしようとしている。』

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本書195ページには、バブル崩壊後、法人需要が減少、高級レストランや高級料亭の客足減少、
そして経営が苦しくなったことについて、
『「景気が悪い」となる』が、
『景気の善し悪しよりもお店固有の問題のほうがはるかに大きい』
(P195抜粋)
と断じている。
今回の大不況もそういうことになるのだろうか?
そうだとすれば、倒産した社長さんや従業員の方々が気の毒でならない。

「不況で厳しいけれども、そんな中でも健闘している企業がある」
というスタンスなら私のような庶民にでも理解できるのだが・・・