『週刊東洋経済 2009年10/31号 特集:年金激震! 民主党政権でどう変わる?!年金 老後のおカネ大解明』の読書録

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厚生年金・国民年金増額対策室

『週刊東洋経済 2009年10/31号 特集:年金激震!』の読書録

週刊 東洋経済 特集『年金激震!』2009年10月31日号
週刊 東洋経済:150ページ
出版社:東洋経済新報社
発売日:2009年(平成21年)10月26日発行

表紙

年金激震!
民主党政権でどう変わる?!
老後のおカネ大解明!

JALで火がつく?【企業年金カット】
【年金Q&A】よくある疑問と勘違い
なぜパンクした?【ねんきん特別便】
【年金破綻論】のウソ・ホント

特集目次(P32~P99)

[32] COVER STORY 民主党でどう変わる?!年金激震
[34] 図解 あなたは「年金」をどこまで知っていますか?
[36] 一問一答 民主党政権で「老後のおカネ」はどう変わる?

[38] Part1 年金はいくらもらえるか?
[38] 年金をもらうとき押さえておくべき全ポイント
[42] 年金Q&A よくある疑問、勘違い

家計シミュレーション 老齢年金編
[44] 一般家庭の場合
[48] 大企業勤務の場合
[50] 自営業の場合
[52] COLUMN 葬られたパートの年金
[54] 定年後も働き続けるときは、減額調整に注意
[56] 年金カットをカバーする、定年退職後の働き方
[58] 企業年金と退職金の知って得する基礎知識

家計シミュレーション 遺族・障害年金編
[60] 大黒柱に万が一の場合
[62] 共働きの妻にもしも・・・の場合

[64] Part2 年金不信はなぜ広がった?
[64] 「間違った批判」に惑わされないためのポイント
[70] カリスマ講師 細野真宏が見た年金騒動

6大「年金破綻論」を大検証
[72] 誰が何を間違えたのか?
[72] 1.経済前提が甘い
[74] 2.世代間不公平論
[76] 3.公的年金の債務超過論
[78] 4.積み立て方式移行論
[80] 5.未納の増加で破綻する
[82] 6.基礎年金の税方式化

[84] COLUMN 社会保険制度の歴史
[86] 世界銀行から始まった「年金不信の誤解」
[88] 民から公へ逆戻りする南米の年金民営化

[90] Part3 記録問題はなぜ起きたか?
[90] 社保庁が起こした大失態、問題の全体像
[96] 単なる大企業病、内側から見た社保庁の実態

『週刊東洋経済 2009年10/31号 特集:年金激震!』の読書録

※当ページ記述2009年11月9日

今号の週刊東洋経済の特集は「年金」でパート2が最も興味深い。
「年金不信はなぜ広がった?6大『年金破綻論』を大検証 誰が何を間違えたのか?」として巷の年金批判論を検証しているのだが、 批判の多い現行年金制度に対して珍しく?擁護の側に回り話を展開しているのである。
経済前提の甘さや世代間不公平論、公的年金の債務超過論等6つの論について、誰が主張してどこに問題があるのかということを図表を用いて解説。 もしかしたら今号をきっかけとして反論、再反論、再々反論・・・といった流れが起きてくるかもしれない。

誰が何を間違えたのか・・・1.経済前提が甘い(P72~P73)

2009年の財政検証で厚生労働省が出した各種経済前提(実質経済成長率・物価上昇率・名目賃金上昇率・運用利回り)について、 過去10年間の平均値で計算したケースを取り出して新聞各紙が年金悲観報道を行ったことにふれ、過去10年間は 未曾有の経済停滞時期の時期と重なるために、指標は極端に低いものとなると指摘。

ここでは全体として「過去10年平均」の前提値で長期的展望を語ることの不適切さが記されており、それについてはなるほどと思わせるのだが、 一方で厚生労働省が出してきた各種指標(経済中位の基本ケース)そのものについての詳しい解説がないために、 指標についての疑問は解消できなかった。

この「経済前提の甘さ」については、厚生労働省の計算(例えば財政再計算P165より賃金上昇率の説明を見ると、2009年度以降の「賃金上昇率は、労働力人口1人当たり実質GDP 成長率と同程度とみた。」という設定や、その他専門的かつ複雑で一般には理解しがたい計算が行われている。)の方法自体が正しく、 それを経済前提とすることも問題ないとする立場をとるか、あるいは計算方法自体が妥当性を欠いていると見るのかによって、出された結論に対する受け取り方が異なる。

とりわけ2050年の専業主婦世帯の所得代替率を2004年の財政再計算「50.2%」→2009年の財政検証「50.1%」とするなど数字合わせ的な色合いが濃いだけに、 ただでさえ甘いという感覚を抱かせる経済指標に疑いの目が向けられるのは仕方がないかもしれない。

関連:年金不信を増幅させた『平成21年財政検証』

誰が何を間違えたのか・・・2.世代間不公平論(P74~P75)

現行の公的年金は、世代によって掛けた保険料に対して将来受給できる給付額の倍率に差が生じており、単純に老齢年金だけの金額比較で言えば、旧世代の人ほど得であり、 若い人ほど損をする仕組みになっている。

関連:若者単身の厚生年金 実質1倍以下(平成21年財政検証)

しかし、歴史的に見ると日本経済の成長に伴いインフレは進み、実質的な賃金水準も上昇・・・例えば当時の所得に占める「食費・保険料」の割合は現在と変わりがないという ような事象や、私的扶養の負担の軽減、その他旧世代の負担により出来上がった社会資本の恩恵など、単純に年金を経済原理だけで 世代間不公平を語ることは不適切・・・いくつかそのような指摘がなされている。

また、仮に2009年の財政検証で示された標準モデル世帯の「厚生年金(基礎年金)÷納めた保険料」の倍率を、1944年生まれで80年以降生まれと同じ2.3倍に置き換えてみると、 現在のモデル年金の22.3万円が11.2万円(本誌推定値)となってしまい、これでは老後の所得保障の柱にはならないとしている。

※世代間不公平論についての反論は、2004年財政再計算(厚生年金・国民年金 平成16年財政再計算結果) の284ページ「1.世代別の給付と負担の関係-1.世代間の給付と負担の関係を見る上での背景」にも同様の記述がある。
http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/report/pdf/section5.pdf(PDF:969.01KB)

誰が何を間違えたのか・・・3.公的年金の債務超過論(P76~P77)

ここでは、ひたすら一橋大学の高山憲之教授のバランスシート論に対しての反論を行っている。
一言で言えば、賦課方式を積立方式のようにして扱っているというものだ。
ただ、個人的には高山氏の著書「信頼と安心の年金改革」に記されているバランスシート論は、単に公的年金財政をストック面でチェックして 年金財政を可視化しようとしたものに過ぎず、本誌の指摘は理解できるものの問題があるとは思えなかった。

また、本誌の[ここがポイント!]によると「『バランスシート論』なる、ここまで混乱した議論は日本だけの現象」としているが、 上記の高山氏著書193ページには「公的年金問題をバランスシートから斬る。そのための先駆的な作業は内外とも1990年代にはじまった。 OECDや世界銀行、そしてスウェーデン、ドイツ、シンガポール、アメリカなどである。日本でも大蔵省(現財務省)が国のバランスシートを 1999年3月末時点のものから毎年作成するようになった。そして日本における公的年金のバランスシートも2000年3月末時点の計数がそこで公表されている。」と記されている。 ・・・どう見たら良いのだろう?

誰が何を間違えたのか・・・4.積み立て方式移行論(P78~P79)

賦課方式(世代間扶養)で運営されている現在の公的年金制度を積み立て方式(個人勘定)の方式で運用し直そうとする考え方が「積み立て方式移行論」であるが、 本誌での解説の通りデメリットが大きい。

最大のデメリットは「二重の負担問題」で、現役世代は自分の老後のために積み立てる保険料の負担に加え、引退世代の負担も必要になってくる。 また、積み立て方式は超長期の資産運用を行うため、インフレに対する対応にも不安を残す・・・「老後の所得保障の柱であるため、将来の給付額が不確定で、 経済変動に弱いことは大きなデメリットといえるだろう。(P78)」

誰が何を間違えたのか・・・5.未納の増加で破綻する(P80~P81)

ここも本誌の解説の通り、未納は年金制度の破綻を生む問題ではない。
また、よくある「厚生年金が未納を肩代わり」という説についても間違いであることを指摘。厚生年金加入者間の所得再配分は確かに行われているが、 それは国民年金の未納者の肩代わりとはならず、国民年金の未納の分は国民年金の積立金から立て替えている・・・未納者の未納分は、将来の給付に反映されない・・・ その分積立金は立て替える必要がなくなり積立金が回復・・・このような流れにあって、未納が年金財政に与える影響は大きくないとしている。

※この「厚生年金が未納を肩代わり」の記述箇所には注意が必要。 ダイヤモンド2010年2月20日号58ページより引用すると・・・『未納・未加入がまじめな加入者に不利益を与えていることである。国民年金制度の基礎年金拠出金算定の頭数から未加入者と未納者が 除かれている結果、単価の上昇を通じて、まじめに保険料を支払っている厚生・共済・国民年金の加入者にしわ寄せを及ぶ』とあり、国民年金の未納・未加入の影響は、単に本人の保険料支払の有無→給付の大小という域 を超えていることが説明されている。

誰が何を間違えたのか・・・6.基礎年金の税方式化(P82~P83)

基礎年金の税方式化とは、社会保険方式で運営している基礎年金を全面的に税に置き換えて国民年金の保険料を廃止&厚生年金の基礎年金部分の保険料率も引き下げ・・・それにより 未納・未加入者等の問題を解消しようというものである。

ここでは、社会保険方式と税方式との比較、税方式化で必要となる財源(追加額・消費税率換算)、家計部門・企業部門の負担の増減(企業負担は減り、家計負担は増える) 、税方式でも残る低年金問題(制度移行後すぐに満額もらえるとの誤解が多いが・・・)の4点が図解入りで解説されている。 「保険料軽減支援制度」など税方式化で図られる目的のいくつかについては他の方法でも実現可能であるとし、全体としては税方式化よりも望ましい制度案があるとしている。

その他読書メモ

【民間の保険料は公的年金の2倍以上】(P61)
国民年金保険料 月掛金 14,660円 → 民間の保険料(3種合計)月31,753円
老齢基礎年金 → 個人年金保険 月25,719円
障害基礎年金 → 介護保険 月4,673円
遺族基礎年金 → 死亡保険 月1,361円

あくまで本誌独自の試算だが、老齢年金よりも存在の薄い「障害・遺族」年金にも着目すると、
公的年金がいかに有利な保険であるかが理解できる。
専門家が公的年金の有利性を一般の人に説明する時にも使えそうな資料である。