高橋菊江『女性の年金権』の読書録

厚生年金・国民年金増額対策室年金読書録(年金、年金生活、社会保障関連の本) > 高橋菊江『女性の年金権』の読書録

厚生年金・国民年金増額対策室

高橋菊江『女性の年金権』

古書:222ページ
著者:高橋菊江
出版社:学習の友社
発売日:1984年(昭和59年)1月30日初版

目次

はじめに

第1部 女性の一生と年金

【第1章】 女性の年金を考える
Ⅰ 公的年金こそ老後保障の柱
1.不安の色濃い女性の老後
2.老後問題の中心は女性問題
3.家族扶養は困難な時代に
4.生活できない年金水準
5.予想以上にかかる老後の生活費用
6.つよまる年金への不安
Ⅱ 「女性の年金権」その前提となすべきこと
1.社会保障の原点とこんにちの到達点
2.世界の婦人運動の高波に洗われて
3.女性の年金権をめぐる動き
4.実のある「女性の年金権」とは

【第2章】 年金制度における女性の位置-その実態と問題点
Ⅰ 職場に働く女性の場合
1.低い賃金、短い勤続が年金に反映
2.現実を無視した改悪-保険料値上げと年金支給年齢の切り上げ
3.すべての働く女性は厚生年金加入を
4.パートも厚生年金に加入できる
5.共働きの夫の遺族年金
6.給付の不利な通算老齢年金
7.脱退手当金を受け取った人の救済を
Ⅱ サラリーマンの妻(専業主婦)の場合
1.妻の加給年金は月1万5000円だけ
2.半分では生活できない遺族年金
3.再婚をはばむ遺族年金の受給権取り上げ
4.離婚すると年金はゼロ
5.遺族年金と母子年金・老齢年金との併給調整
6.サラリーマンの妻(専業主婦)の国民年金加入
Ⅲ 自営業や農漁村に働く女性の場合-国民年金
1.低水準・25年加入の国民年金
2.母子年金、寡婦年金の支給条件は前近代的差別

【第3章】 私たちの年金はこれからどうなる-年金「改革」の動向とそのねらい
1.73年「福祉見直し」からはじまった年金改悪
2.「行政改革」の標的となった年金制度
3.年金「改革」の7つのポイント
4.政府・自民党の年金改悪スケジュールと最近の動向
5.厚生省の「21世紀の年金を考える」
6.年金水準切り下げと保険料アップ-政府「改正」諮問案は国と企業の責任の回避

【第4章】 女性の年金要求-その内容と課題
1.切実さをます女性の年金要求
2.年金にたいする女性の要求と課題

【第5章】 年金改悪阻止と改善の運動
1.年金は本当に崩壊するのか-私たちの要求の展望はどこに
2.あらためて、社会保障の原則に立とう
3.ひろげよう、年金改悪阻止と改善のたたかいを

第2部 年金制度のポイント

【第1章】 年金制度の現状としくみ
Ⅰ 年金制度の現状
Ⅱ 年金制度のしくみとあらまし
1.加入資格について
2.保険料について
3.長い目で人生設計を

【第2章】 年金はいつどんなときに受けられるか
Ⅰ 事故によって障害になったとき
1.厚生年金の場合
2.共済年金の場合
3.国民年金の場合
4.障害福祉年金の場合
Ⅱ 夫に先立たれたとき
1.厚生年金の遺族年金
2.通算遺族年金
3.共済年金
4.国民年金
5.福祉年金
6.児童扶養手当
Ⅲ 年をとったときの老齢年金
1.厚生年金
2.共済年金
3.国民年金
4.通算老齢年金
5.老齢福祉年金

【第3章】 知らないと損をする年金メモ
1.年金診断は50歳から
2.被保険者証がみつからないとき、2枚あるとき
3.請求なくして年金なし
4.物価スライド制
5.年金と税金
6.年金の支払い時期
7.年金の未支給分はどうなるか
8.年金学や受給資格の算定などに不服な場合
9.年金からの融資制度

【資料】
[1] 年金制度における婦人の年金保障および婦人の地位改善についての要望
[2] 最低保障年金を確立し、安定した年金制度をめざして、日本共産党の年金改革への提言
[3] 暮らせる年金制度の実現をめざして-社会党の一元化計画 日本社会党
[4] 年金制度についての共産党・社会党の考え方
[5] 主要国における65歳以上人口比率の推移・他


『女性の年金権』の読書録

※当ページ読書録記載2009年8月18日

9,990円

この金額は、2009年8月18日現在のアマゾンの中古販売価格である。
手元にある1984年発売の本書は2008年に2,000円程度の段階で中古購入したものだが、
紙は黄ばみ所々にシミもある・・・さすがに9,990円まで行くと躊躇してしまう金額だと思われるが、
一般の人は別として、年金を業とする人にとっては決して高過ぎる金額ではない。

1986年(昭和61年)年金改革時点の背景がわかる

1986年(昭和61年)は、昭和36年の「国民皆年金」成立以来極めて大きな年金改革が行われた年。
本書は当時の改革の草案を材料とし、とりわけ女性の年金を中心とした年金の現状や問題点を取り上げて、
その改革の背景や経緯について話を展開している。

著者(高橋菊江氏)が本書を書いた理由

著者が本書を出版した理由は次の3点。(「はじめに」より)

雇用における女性差別・・・昇給、昇格、採用、職務上の差別、結婚、出産、育児などの早期退職慣行、定年設定の差別のように、低賃金・短い職業人生となりうる状況は、 「賃金額」と「勤務期間」で評価される年金額にも反映してしまう。

女性の置かれている老後のキビシイ状況

女性の老後は、男性以上に厳しいものだと言える。(P26より4項目抜粋)

(1)は、女性の方が男性よりも5歳も平均寿命が長く、かつ平均的な結婚年齢3歳差という要素も合わせると、女性は夫の死後8年ほど一人暮らしをする計算となる。 (4)は、家賃や光熱費のように、一人暮らしなったとしても単純に半分にできない固定的な費用も…。 (関連:ゆとりある老後に必要な生活費、最低限必要な生活費はいくら?

厚生省年金局「21世紀の年金を考える」における女性の年金権に関する指摘

1983年5月2日に厚生省年金局は「21世紀の年金を考える」を公表。
その中で示された女性の年金権に関する指摘は以下の3点。

一つ目の「被用者の無業の妻で国民年金に任意加入しなかった者については、離婚した場合、十分な年金保障に欠けるケースがあること。」は、個人的に社会保険労務士試験の 講義でも第3号被保険者を含めた基礎年金制度誕生部分の解説で習ったように、年金制度を理解するための説明としては最適である。 ここだけを取れば、女性の年金権について考慮された前向きな改革であったと捉えても問題はない。

しかし、1つ目の後半についてはそれまで女性の支給開始年齢が女性の方が若く、保険料率も女性の方が低かったことを是正する必要性を説いている。 さらに、2つ目3つ目について言葉を変えれば、厚生年金は世帯の年金(2人分の年金)だから、妻が国民年金を受給すれば3人分の年金となり、妻が厚生年金を受給すれば4人分の年金となる…つまり 過剰給付だと言っている。(「女は万事トクをしている」という一方的な見方・・・年金改悪の根底になる見方だと筆者は指摘。)

これについて、筆者は「女性のおかれている賃金や雇用差別をはじめとする社会的な条件を無視し、たんなる財政負担軽減の立場からだけの改悪をめざすくわだてといえましょう。」 (P37)とし、実のある女性の年金権確立のためには「女性のおかれている階層や立場の別にかかわりなく、一生のうちに出合うさまざまな事故-障害、夫の死亡、離婚、老齢化など- にあたって、公的な年金給付によって、健康で文化的な最低限度の生活がいとなめる実質的保障を、国と資本家の負担で行わせること」(P40)が必要だとしている。

昭和61年改正政府諮問案=改悪案(筆者呼称)

昭和61年4月実施を予定される政府の改正諮問案について、筆者はその問題点をまとめている。
下記に、比較的わかりやすい改悪箇所を抜き出してみる。(P94~)

【給付水準の3割ダウン】

国民年金は40年拠出で現行月額7万5,400円だが、基礎年金になり月額5万円で頭打ち…34%ダウン。
厚生年金は標準世帯で現行20万5,549円だが、妻の基礎年金を含めて16万6,735円…18.9%ダウン。
厚生年金で妻が任意加入していた金額を改革後夫婦年金額総額で比較…40.6%ダウン。
厚生年金で単身女性の老齢年金での比較…35%以上のダウン。(P96~P97より)

【保険料は3倍に】

厚生年金保険料は現行男子10.6%だが、経過を経て2030年からは38.8%。
同じく現行女子は9.2だが、経過を経て2030年からは男子と同じ38.8。
国民年金は現在月額5,830円だが、将来は1万3,000円に引き上げ。

【10歳もおくらされる女性の支給開始年齢】

基礎年金支給65歳に合わせて、女性厚生年金55歳支給、男性厚生年金60歳支給を経過を経て
共に65歳支給開始に引き下げ。

【国庫負担は大幅カット】

この点は盲点となっていたが、なるほど国の負担は軽くなっている。
国民年金は現行給付費の3分の1が国庫負担だが、改革後は基礎年金の3分の1となる。
40年加入の場合、現行月額一人2万2,620円だが、改革後は月額一人1万5,000円となる。
厚生年金の国庫負担も、現行給付費20%なので、
4万2,000円(40年加入の場合、ボーナス除く月収25万4,000円の妻帯男子)だが、
改革後は「基礎年金」の3分の1となり、全体としての国庫負担は大きくカットされる。

その他、物価スライドの改悪、遺族年金の改悪、35歳以上中高齢特例の改悪・・・etc。

『政府が「女性の年金権」付与をとなえて、「基礎年金」を創設したところまでは是としたとしても、その内容は形骸化されたもので、サラリーマンの妻である女性にとっても 夫である被保険者にとっても、また働く女性にとっても大幅な給付水準のダウンと保険料のアップというはさみうちの収奪強化となっていることは明らかです。 こうした政府改悪案の基本的な内容について、女性は決して許容できるものではありません。』(P105より抜粋)


関連・・・『女性の年金』をテーマにしている本