15人の底辺労働者の実態 増田明利『今日、派遣をクビになった』の読書録

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増田明利『今日、派遣をクビになった』の読書録

『今日、派遣をクビになった』
単行本:222ページ
著者:増田明利
出版社:彩図社
発売日:2009年(平成21年)6月10日第1刷発行

帯(表紙)

今夜もネットカフェで寝ます
ドン底の不景気で派遣を切られた人々、
彼らはどこに向かうのか? 衝撃のノンフィクション
派遣切り、ネットカフェ難民、再就職難・・・

「いきなりですよ・・・、
明日から来なくていいと言われて、
それからずっと、
ネットカフェ暮らしです」

目次

注:本書内では、各事例それぞれに名前が記されているが、ここでは性別・年齢のみ表記。

はじめに

【第1章】 日雇い派遣はツラいよ

甘い言葉に騙されて(28歳・男性)
ネットカフェが僕の家(29歳・男性)
日雇い派遣は蟻地獄(34歳・男性)
免許をなくしたトラックドライバー(29歳・男性)

column [職を失う非正規労働者]
◎テレビでは報道されない 年越し派遣村訪問

【第2章】 就職氷河期が尾を引いて

たった一言でさようなら(28歳・女性)
家を貸してもらえない(32歳・男性)
フリーターの終着点(29歳・男性)
埋められない格差(29歳・男性)

column [ネットカフェ難民の総数は?]
◎派遣切りの事件簿 恐い事件が増えている

【第3章】 一度は正社員だったのに

今日生きていくことを考える(45歳・男性)
3分の1に下がった年収(56歳・男性)
卵がけご飯は贅沢品(46歳・男性)
ヤドカリ生活も4年目(33歳・男性)

column [派遣労働者の実像]
◎人材派遣会社社員の憂鬱 斡旋する側もキツイよ

【第4章】 泥沼のフリーター生活

気付いたら手遅れだった(31歳・男性)
無気力フリーター生活(28歳・男性)
中年フリーターの憂鬱(52歳・男性)

おわりに

『今日、派遣をクビになった』の読書録

※当ページ記述2009年8月26日

本書は、著者の前書『今日、ホームレスになった 13のサラリーマン転落人生』と同様に、
どこにでもありそうな普通の人生を送っていた人がいつのまにか転落していく様子が描かれている。
派遣や日雇い派遣をしながら簡易宿泊所、ネットカフェ、図書館、マックなどを転々とする暮らし・・・
きっかけは新卒就職の失敗、倒産、リストラ、交通事故など様々であるが、
非正規労働者→正社員の道の険しさはすべてに共通する。
その多くはとても自己責任論で片付けられるものではないと感じるものだった。

1人目.28歳男性(P18~27)

きっかけは会社の倒産。 派遣会社の求人広告「月収27万円以上」を見て働くも、多いと説明されていた残業や休日出勤も月に15時間程度しかなく、割増分含めても実際は21万円~22万円。 雇用期間1年希望もとりあえず6ヶ月とされ、社会保険も加入できず。宿舎無料と言われるも、光熱費・管理料などの名目で月に2万円天引き。自分で入る国民年金と国民健康保険の保険料で月に2万5千円 掛かるので本当の手取りは多くて15万円、少ないと11万円。半年後契約終了と告げられ、4日で宿舎を明渡すことになる。

日雇い派遣は、もっともらしい理由でお金をむしり取る。初登録時ユニフォームとして、トレーナー、チノパン、カッター、軍手を普通より高い金額で購入。 日給も広告では8000円~1万円だが交通費込みで7000円。夜勤でも9000円とかが多い。給料受け渡しは派遣会社の事務所までもらいに行く。社会保険なし。 建設や解体の現場では社員に支給される安全靴や防塵マスクはなくヘルメットだけ貸与。シンナーやトルエンの塗装でも派遣は鼻と口にタオルを巻いて我慢。

2人目.29歳男性(P28~39)

きっかけはコストカットのためのリストラ。 日雇い派遣をしてネットカフェを転々とする暮らし。日雇いの処遇、賃金、生活の厳しさを語る。建設現場で働いた時には爪を剥がしてしまったが、「気をつけろ」とキズバン 1枚渡されただけだったという。「派遣労働者の安全」がないがしろにされている実態がよくわかる。

3人目.34歳男性(P40~49)

きっかけは期間工の雇い止め。製造業派遣、臨時、アルバイトを転々として、その後日雇い生活へ。しかし、派遣会社が業務停止命令を受けて仕事ができずに住まいも失い、ネットカフェや公園で 夜を明かす暮らしとなる。

30歳前での求職活動の話では、新聞の求人やヤングハローワーク、ジョブカフェも募集年齢はたいがい28歳まで。正社員の枠も無い訳ではないが、学歴・経験・年齢で除外される。日雇いをしていると 、求職活動で収入がなくなることすなわち暮らしていけないということになるので、求職活動の余裕、やる気が失せてくるという。

5人目.28歳女性(P73~85)

就職氷河期の就職難。派遣で暮らしている。派遣にはボーナスがないので、ボーナス時期には社員との処遇の違いを実感。2005年頃派遣は重宝されていたが、 その理由については「簡単ですよ。便利な人たち、都合のいい人たちだからです。」と真を突いた答え。

女性は一般職で雇うよりも、派遣で埋めたほうがいいと考える企業が多い…派遣の交通費は時給に含まれているのが一般的…職安の求人は中小・零細ばかりで雇用形態も半分以上が非正規。 紹介状をもらい面接に行ったら求人票の条件と違うこともあった…オジさんの中には派遣は手下という見方をする人が多い…経験を元にした話はとても具体的。

7人目.29歳男性(P96~105)

就職氷河期就職難。不本意ながら新卒フリーターとなる。20代前半はアルバイトの働き口が多く月20万円以上稼げていた。 フリーター歴6年、期間工になるものの労働条件は正社員とは大違い。「何年か働いたら正社員に登用する」との話も実現せず、1年6ヶ月で雇い止め。

30歳間近だとアルバイトの口すら狭くなり日雇い派遣が本業に。住まいも失いネットカフェ難民になる。「ネットカフェ難民なんてマスコミが大袈裟に言っているだけだと 思っていたけど、簡単になってしまうものなんだよね。ホント怖いよ。」(P104)

8人目.29歳男性(P106~115)

就職氷河期の就職難。新卒で派遣社員に。派遣と社員の格差、将来への不安を語る。社員は1年間療養しても身分と収入が保証されるが、派遣は2週間の療養でも雇い止め。 「正社員登用あり」となっていても、自分の知る限りでは良くて契約社員止まりだという。

9人目.45歳男性(P125~135)

きっかけはリストラによる早期退職。職安で求人情報を検索してもほとんどが年齢で引っ掛かり、アルバイト的なものでも事務や販売では40歳までと言われるという。 日雇いで暮らすも、中高年では多くは紹介してもらえずに生活困窮。警備員やビル清掃なら50歳でも使ってくれるところがあるとのこと。

10人目.56歳男性(P136~145)

きっかけはリストラによる早期退職。50代半ばだと職安のパソコンに出てくるのはタクシーやトラックドライバー、警備員、飲食関係、マンションの管理人、清掃員といった 職種だけ。ただ、60歳を過ぎれば賃金は低いもののそれなりの仕事があるという。

15人目.52歳男性(P206~217)

きっかけは会社の倒産。経営陣が雲隠れし、給料は国の立替払い制度を利用できたものの、退職金はなく人生設計も狂う。2年前の希望退職に応じていれば900万円の退職金を手にできたと 嘆くが、こればかりはどう転ぶかわからないだけに不運としか言いようがない。49歳で職探しを始めたが・・・

「わたしのような中高年世代はもちろん、30歳前後の人も鬼気迫る表情でパソコンの画面を見つめているんです。他人事じゃないって分かっているんですが、その光景に ぞっとすることがありますよ。」(P217)

会社員時代には中高年の就職難について「贅沢を言っている」「能力がない」と思っていて、自分がその立場になって初めて現実の厳しさを身に沁みた…と記しあるが、 やはり、その立場に立ってみて初めてわかるということについては仕方がないことなのかもしれない。

しかし、そうだとすれば日本の政治家には生まれたときから道が用意されていた世襲議員の割合が多く、国民の雇用、生活の厳しさについてどれだけわかってもらっているだろうかという 不安はぬぐいきれない。

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最後に

正規・非正規での処遇の格差は、これまでは非正規の主役のほとんどが主婦や学生など補助的収入の稼ぎ手であり、そこそこの稼ぎがあれば それなりの生活を送ることができたために大きな問題となることがなかった。(シングルマザーは別。これまで問題が表面化されなかっただけ。)

しかし、現在では家計の柱となるべき男性の非正規労働者が増加している…正規社員で働く人と非正規で働かざるを得ない人(補助的でなく)の間には人生においても歴然とした格差が生じる。 (最近では正規も安全牌ではないが…)

企業活動において、その存続のために経済的な側面から人的コストを抑えることは欠かせないが、一方で労働的価値が向上していかない非正規労働者を増やして低コストで都合よく利用しているだけでは、 長期的には企業や国全体としての国際競争力が低下してしまうことにもなりかねず・・・。 もっとも、非正規労働者同士の夫婦では子供が産めないといような賃金水準が続くようであれば、早晩労働力そのものが枯渇してしまうかもしれない。