早期退職の損得を考える際、「転職後の賃金」や「退職金」、「割増加算金」など目先のお金に目が向きがちですが、早期退職後の進路による「将来もらえる年金額への影響」については、なかなか目が届きにくいのが現実です。
しかし、年金も「単年」で見るのではなく、「生涯」の受給総額でみると「こんなに違ってくるのか」というような印象を持たれるかもしれません。
50歳・勤続28年・月収35万円で早期退職すると
日刊ゲンダイ(2009年3月14日)『年金・損しない最低知識』によると、50歳男性(勤続28年、これまでの平均給料35万円)の厚生年金に加入している会社員が早期退職して国民年金に移る場合(ここではバイトや請負など厚生年金に加入しない働き方を想定)と、会社に残り厚生年金に入り続ける場合(50歳以降昇給なしで平均給料35万円のままを想定)とを比較すると、65歳からもらえる年金額に32万円もの年金額の差が出ると試算しています。
進路 | 50歳から60歳まで | 65歳から支給の年金額 |
早期退職 | 国民年金に加入 | 165万円 |
会社に残る | 厚生年金に加入 | 197万円(+32万円) |
65歳から年金額で単年32万円の差は・・・
男性平均寿命約80歳まで生きると15年=480万円の差。
100歳まで35年生きるとなんと1120万円の差。
早期退職後、国民年金の保険料を払えずに未納である場合には、さらに1年につき2万円もの年金額の差(15年ならば総額30万円の差)となります。
長生きしそうな人ほど影響大です。
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正規社員・非正規社員の賃金格差は50歳-54歳で最大
2008年末~の雇用切りのニュースでは、ハローワークで職を求める中高年労働者の映像がたびたび放映され、中高年労働者の雇用情勢の厳しさを改めて感じさせられました。
ここでは「正社員」と「非正規社員」の賃金について見ていきます。
平成21年3月25日に厚生労働省が公表した
「平成20年賃金構造基本統計調査(全国)結果
(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou
/z2008/index.html)」
によると、正社員と非正規社員の賃金格差は50歳~54歳でピークを迎え、男女計の正社員の平均賃金39万3900円に対し、非正規社員の平均賃金(19万1300円)で、非正規社員の賃金は正規社員の49%となっています。
以下、男性に限って話を進めていきます。
上記図は「平成20年賃金構造基本統計調査(全国)」の第6図雇用形態、性、年齢階級別賃金の男性の図です。
非正規社員の賃金が昇給なしのほぼ一定で推移しているのに対し、正社員は50歳~55歳のラインまで年齢と共に順調に昇給し、格差が拡大している様子がわかります。
また、次の表も男性のみとなりますが、第6表「雇用形態、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」、第7表「雇用形態、性、企業規模別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」、第8表「雇用形態、性、主な産業別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」のうち、対前年増減率を取り除いたものです。(賃金の単位は百円単位を切り捨てつつ、表記を千円→万円としました。)
表からは「小企業では正社員の賃金自体が低いので、非正規社員との賃金格差が相対的に小さい(正規100:非正規71)」ということや、「情報通信業では非正規社員の賃金が高いために、正社員と非正規社員との格差が小さい(正規100:非正規85)」ということが読み取れます。
年齢階層 | 正社員 | 非正規社員 | 正規・非正規格差 (正規=100) |
年齢計 | 34.5万円 | 22.4万円 | 65 |
20歳~24歳 | 20.7万円 | 18.0万円 | 87 |
25歳~29歳 | 24.7万円 | 20.1万円 | 82 |
30歳~34歳 | 29.1万円 | 22.1万円 | 76 |
35歳~39歳 | 33.9万円 | 231万円 | 68 |
40歳~44歳 | 39.1万円 | 24.4万円 | 62 |
45歳~49歳 | 42.2万円 | 24.2万円 | 57 |
50歳~54歳 | 43.3万円 | 24.6万円 | 57 |
55歳~59歳 | 41.0万円 | 23.8万円 | 58 |
60歳~64歳 | 32.4万円 | 23.8万円 | 74 |
65歳~69歳 | 29.4万円 | 20.4万円 | 69 |
企業規模 | 正社員 | 非正規社員 | 正規・非正規格差 (正規=100) |
大企業 | 39.7万円 | 27.6万円 | 58 |
中企業 | 33.6万円 | 22.6万円 | 67 |
小企業 | 30.2万円 | 21.4万円 | 71 |
産業 | 正社員 | 非正規社員 | 正規・非正規格差 (正規=100) |
産業計(下記以外含む) | 34.5万円 | 22.4万円 | 65 |
建設業 | 33.6万円 | 27.1万円 | 81 |
製造業 | 33.1万円 | 21.9万円 | 66 |
情報通信業 | 38.2万円 | 32.3万円 | 85 |
運輸業 | 29.2万円 | 20.8万円 | 71 |
卸売・小売業 | 35.5万円 | 21.2万円 | 60 |
金融・保険業 | 46.9万円 | 31.0万円 | 66 |
飲食店、宿泊業 | 29.2万円 | 19.8万円 | 68 |
医療、福祉 | 37.6万円 | 20.9万円 | 56 |
教育、学習支援業 | 44.6万円 | 25.5万円 | 57 |
サービス業 (他に分類されないもの) | 33.4万円 | 21.3万円 | 64 |
中小企業の退職金の世間相場
早期退職を考える上では、そもそも退職金がどの程度なのかということは把握しておきたいところです。
自分の会社の退職金規定が、世間一般の退職金の平均と比べて高いのか低いのか。
ここでは、勤め人の7割が働いている中小企業の「退職金」世間相場を見てみます。(東京都産業労働局の『中小企業の賃金・退職金事情(平成20年版)』より)
※1.モデル退職金(退職一時金のみの企業データ)の調査産業計の箇所から抜粋しました。※2.資料元表内の退職金の平均は1000円単位ですが、ここでは1000円単位を切り捨てて万単位で表記しました。
学歴 | 勤続 | 年齢 | 自己都合の場合の 平成20年退職金の平均 | 会社都合の場合の 平成20年退職金の平均 |
高校卒 | 20年 | 38歳 | 304万円 | 352万円 |
25年 | 43歳 | 465万円 | 522万円 | |
30年 | 48歳 | 646万円 | 704万円 | |
35年 | 53歳 | 836万円 | 875万円 | |
37年 | 55歳 | 916万円 | 984万円 | |
定年 | - | 1130万円 | ||
高専・ 短大卒 | 15年 | 35歳 | 211万円 | 273万円 |
20年 | 40歳 | 348万円 | 409万円 | |
25年 | 45歳 | 527万円 | 595万円 | |
30年 | 50歳 | 726万円 | 801万円 | |
35年 | 55歳 | 904万円 | 982万円 | |
定年 | - | 1168万円 | ||
大学卒 | 15年 | 37歳 | 226万円 | 283万円 |
20年 | 42歳 | 380万円 | 452万円 | |
25年 | 47歳 | 579万円 | 657万円 | |
30年 | 52歳 | 798万円 | 889万円 | |
33年 | 55歳 | 929万円 | 1026万円 | |
定年 | - | 1225万円 |
この数値は東京都内の中小企業(全産業)平均ですので、同じ企業規模でも全国の中では高い数値となっているものと思われます。
従業員300人未満の中小企業全体としての退職金の平均のみならず、「10人~49人」「50人~99人」「100人~299人」における平成12年、平成14年、平成16年、平成18年、平成20年の各年ごとの中小企業の退職金の平均については
『中小企業の賃金・退職金事情のメインページ(http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/monthly/koyou/koyou-chincho.htm)』から各年のデータをご覧ください。
なお、『中小企業・中高年サラリーマンの退職金の平均』のページでは、上記資料を元に平成12年~平成20年のデータの比較表を作成しましたので、過去からの退職金の平均の推移を知りたい方は併せてご覧ください。
また、「中小企業の退職金はわかったが、大企業や公務員と比べるとどうなの?」という疑問をお持ちの方は、『公務員(07年度)と大手・中小企業(08年)の退職金平均』のページをご参考いただけたらと思います。
早期退職と割増加算金
企業が行う希望退職募集や、雇用調整を目的とした早期退職における優遇制度においては、退職金に上乗せされる割増加算金が支払われることがあります。
【希望退職募集とは・・・】
希望退職募集とは、業績が悪化した企業などが「余剰人員の削減」「整理解雇の回避」を目的として、目標が達成されるまで緊急避難的に行われるものです。
「今なら良い条件の割増を出すので退職しませんか?」といった
退職勧奨(※)を伴うことが一般的です。
※退職勧奨
企業側の退職勧奨に対して、退職するかどうかを決めることは従業員の自由です。退職に応じる義務はありません。
参考:(退職勧奨について)『被勧奨者は何らの拘束なしに自由に意思決定をなしうるのであり、いかなる場合も勧奨行為に応じる義務はない(鳥取県教員事件・鳥取地裁判決昭和61年12月4日労判486号)』
【割増加算金の決め方は?】
割増加算金の決め方は、ほぼ次のいずれかとなります。
- 基本給×何月分
- 年齢区分に対する絶対額
- 年齢区分に対する退職金の割増率
「希望退職募集」や「セカンドキャリア支援制度」の違い等については
独立行政法人 労働政策研究・研修機構内部ページ
(http://www.jil.go.jp/kikaku-qa/taishoku/J06.html)
に詳しい解説があります。
『2000年から2001年にかけて、著名な大企業が相次いで早期退職優遇制度を実施しました。例えば50歳で月例給与の30~40ヵ月分もの加算金を通常の退職金に上乗せする事例などが次々と報道され話題を呼びましたが、これらはいずれも上記の希望退職募集に分類されるものです。常設型のセカンドキャリア支援制度では、年齢にもよりますが、おおむね月給の12~24ヵ月程度というところが多いようです。(上記外部リンク先より抜粋)』
割増は、企業の財務状況や雇用調整ニーズの強さ等、企業ごとに決められるものですので、その水準は千差万別です。
関連する中小企業の2つのデータ
ここで本来ならば、「希望退職募集」などにおける中小企業での割増相場(一般的には、中小企業の希望退職募集での割増は基本給の6~12ヶ月分とされている。)を示したいのですが、該当するデータがありませんので、その周辺情報として関連データを2点ほど見ていきます。
一つは、中小企業の中での「早期退職優遇制度」の設置割合。
もう一つは、解雇など会社都合で従業員を退職させた場合における、中小企業の割増金(退職金規定外の割増退職金)の支払状況です。
1.中小企業の中での「早期退職優遇制度」の設置割合
東京都産業労働局の
「平成20年版中小企業の賃金・退職金事情(http://www.sangyo-
rodo.metro.tokyo.jp/monthly/koyou/chincho_20/index.html)」
によると、退職一時金に「早期退職者優遇」のための特別加算制度があるという企業数は、従業員300人未満の集計企業894社のうちわずかに36社(4%)に過ぎません。(ここでは常設している早期退職の優遇制度を指しています)
これを、企業規模でさらに3つのグループに分けると次の表のようになります。(第10表-6「退職一時金の特別加算制度(複数回答)」より抜粋)
区分 | 集計企業数 | 早期退職者優遇 |
調査産業計 | 894社 | 36社(4%) |
10人~49人 | 460社 | 6社(1.3%) |
50人~99人 | 295社 | 13社(4.4%) |
100人~299人 | 139社 | 17社(12.2%) |
このように、中小企業では早期退職優遇制度の割増制度は少数派です。
類似データとして、生命保険文化センターの調査報告書である
『平成14年度「企業の福利厚生制度に関する調査」(http://www.jili.or.jp/research/report/fukurikousei8th_4.html)』
の第三部 退職給付制度の現状と方向性→第1章 退職給付制度の導入状況→第1節 企業の導入状況→5.早期退職優遇制度→「早期退職優遇制度の導入の有無」のデータも見てみます。(注:こちらの表には従業員300人以上の企業のデータが「全体」の中に含まれています)
区分 | 導入している |
全体 | 4.8% |
10人~49人 | 1.6% |
50人~99人 | 3.0% |
100人~299人 | 10.4% |
300人以上 | 26.1% |
常設タイプの「早期退職優遇制度」は大企業中心の制度で、中小企業は解雇あるいは臨時的な希望退職募集で雇用調整することが多いようです。
2.解雇等の際の「割増金」の支払状況(中小企業)
解雇など会社都合で従業員を退職させた場合、中小企業では退職金規定外の割増金というのはどの程度支払われているのでしょうか。
東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成20年版)」第10表-7「解雇等にによる退職の場合の割増退職金の支払状況」より抜粋します。
区分 | 集計企業数 | 支払実績あり | 平均支払月数 |
調査産業計 | 987社 | 130社(13.2%) | 2.51月 |
10人~49人 | 506社 | 50社(9.9%) | 1.79月 |
50人~99人 | 319社 | 55社(17.2%) | 1.55月 |
100人~299人 | 162社 | 25社(15.4%) | 5.85月 |
「退職金規定外の割増金」ということなので、会社都合の退職金規定で計算された退職金のみを支払った場合には「支払実績あり」には含まれません。
なお、支払実績あり130社を「労働組合」の有無で分類すると、下記表のようになります。(同P30より抜粋)
区分 | 集計企業数 | 支払実績のある事業所数 | 平均支払月数 |
調査産業計 | 987社 | 130社(13.2%) | 2.51月 |
労働組合あり | 129社 | 22社(17.1%) | 5.08月 |
労働組合なし | 858社 | 108社(12.6%) | 1.98月 |
「絶対に辞めちゃ駄目だ。」
『中高年は会社で厳しい立場にいるけど、絶対に自分から退職しないことだよ。いびられたって馬鹿にされたって会社にしがみついていた方がいい。特に大手企業にいた人は、外に出たら自分の力なんて屁みたいなものだったと思い知らされるよ。絶対に辞めちゃ駄目だ。失敗した私が言っているんだから間違いない。(P17)』
増田明利「今日、ホームレスになった―13のサラリーマン転落人生」には、13人のホームレスが、どのような経緯で今のようなホームレス生活を送ることになったのかという実話が克明に記されています。
13人中9人は40代~50代の方で、元は高給エリートサラリーマンであったり経営者であったりするのですが、誰もが特別な存在ではなく普通の人生を送っていた普通の人たち。
そのうち1人目に登場するのが、上記コメントの元大手商社マンです。
40代半ばで諸手当込みの月収が55万円だったところ、会社が傾き希望退職の募集(退職勧奨あり)。会社に残れば諸手当込みの月収は30%カットで32万~33万になり、希望退職に応じれば退職金プラス10か月分の上乗せ。
会社が倒産しては退職金ももらえなくなるし、40代半ばならば転職先もあるだろうと考えて後者を選択。手取りで約2300万円の退職金をもらい、2000万円をマンション繰り上げ返済、残り300万円で再就職活動に。
自己都合退職とされる不運もあり、雇用保険面での不利益から、思うように再就職先が見つからない誤算もあって、生活費やら息子の学費やらで失業給付までに資金も乏しく・・・
退職1年後、ようやく小さな会社の事務員の職を得るが、2年後に突然解雇。
その後は夫婦共にパート(本人は時給900円)→借金増大→マンション売却→家庭崩壊→52歳雑誌拾いで公園暮らし・・・まさに転落の一途です。
また、本書には、逆に早期退職の退職勧奨に応じず様子を見ているうちに会社の状況は改善せぬまま倒産。退職金が規定の20%(しかも分割)しか支払われずに後悔する事例もあり、現在のように倒産件数が多い世の中にあっては、その選択も難しくなってきています。
※2008年の全国の企業倒産(負債1000万円以上)は、1万5千件を超えて5年ぶりの高水準。(東京商工リサーチ)
※2008年度の上場企業の倒産件数は45件で戦後最悪の件数。
(帝国データバンク)
退職金いくらで定年前に辞める?
最後に、日経新聞(2009年4月11日「NIKKEI PLUS1 賢実家計」)に掲載されていた興味深いアンケート結果をご紹介します。
アンケート内容は「定年前に会社を辞めるよう上司から言われた時、退職金をいくらもらえば辞めてもいいと思いますか?」というもの。
(調査の方法…調査会社のマクロミルに依頼し、インターネットで実施。対象は子供のいる全国の成人既婚男女で、有効回答は618人(男女半々))…本文まま
多い金額から上げると次のようになります。
- 3000万円以上5000万円未満(33%)
- 1000万円以上3000万円未満(25%)
- 5000万円以上7000万円未満(19%)
- 7000万円以上1億円未満(10%)
- 1000万円未満(8%)
- 1億円以上(5%)
『夫が早期退職したが毎月の支出で退職金がみるみる目減りして焦った』(千葉県のパート・アルバイト女性、40)