会社員が入る厚生年金は、個人の給料の額に応じて保険料が決まる形になっています。給料の約15%(平成19年9月~20年8月水準)を厚生年金の保険料として支払うのですが、負担は会社と会社員が半分ずつです。
月の給料が50万円ならば、厚生年金保険料は約75,000円。
その半分の約37,500円を会社が負担し、残り半分を会社員の給料から天引き。会社が会社負担分とあわせて国に保険料を納めます。もちろん厚生年金の保険料が高い人ほど、その分将来受け取る年金が高くなります。
しかし、会社員の給料から天引きされる厚生年金の保険料が、納められるはずの国ではなく不正に抜き取られていたとしたら・・・
入っているはずの厚生年金に加入していないことにされている。または、高額の給料で高い保険料が天引きされているのに、実際には安い給料で国に登録されている。会社員の見えないところでそのようなことが行なわれている可能性があるのです。
しかも、厚生年金給与記録の不正減額については、一部社会保険事務所の指導の下で行なわれていたということもあり・・・被害がどれだけになるのか想像もつきません。
厚生年金給与記録の不正減額と不正利得金額例
厚生年金の給与記録を正しく届け出た場合と、不正に減額して届け出た場合とでは、国に納める厚生年金保険料はどのくらいの違いになるのでしょうか。給与50万円を15万円に不正減額した場合を見てみます。(厚生年金保険料14.996%:平成19年9月~平成20年8月分)
【給与50万円における正規の厚生年金保険料負担】
- 会社負担=37,490円
- 会社員負担=37,490円
【給与15万円における正規の厚生年金保険料負担】
- 会社負担=11,247円
- 会社員負担=11,247円
【この場合の会社の不正利得と会社員の不利益】
- 会社の不正利得金額・・・(会社負担として本来納めるべき37,490円 - 不正減額で国に納める11,247円) + (会社員から天引きしている37,490円 - 不正減額で国に納める11,247円)=52,486円
- 会社員の不利益=37,490円 - 11,247円=差額26,243円・・・その保険料分の増えるはずの年金が増えなくなります。
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会社は、本来ならばこの会社員一人に対して、厚生年金の保険料としてマイナス37,490円の負担をしなければならないところ、給与記録を不正に減額したために負担が減ってマイナス11,247円に。
なおかつ会社員は自分の知らぬところで給与記録の減額が行われ、会社はちゃっかりと高い給料の厚生年金保険料37,490円を徴収していますので、差額26,243円は会社の不正利得となります。
そこから会社が負担する11,247円を支払えば、14,996円が浮く・・・すなわち本来の負担37,490円どころかプラス14,996円になりますので、不正処理の前と後では52,486円も違いがでてくるわけです。
厚生年金被保険者記録不正のパターンは?
- 1.厚生年金に加入なし。従業員も承知していて天引きが行なわれていないパターン。
- 2.厚生年金に加入なし。従業員の給料から天引きだけは行なわれているパターン・・・例えば退職日を月末ではなく月末1日前にして、退職する月分の厚生年金保険料が発生しないにもかかわらず、最後の月分も余計に天引きするなど。
- 3.厚生年金に加入。給与記録は不正に減額したにもかからわず、従業員からは元の給与の水準で厚生年金保険料を天引きするパターン
2のパターンの場合、年金記録(厚生年金被保険者記録)自体に穴が開きますので、比較的不正を見つけるのは容易かと思いますが、問題は3のパターンです。
3の場合は厚生年金保険料の納付実績があることから、そこに不正があるという事実はなかなかみつけられません。古い記録になれば1ヶ月の給料が1万円、2万円ということもあり、現段階からその当時もらっていた給料の水準をチェックすることは容易ではありません。
もっとも年金記録のチェックにおいて、給料(標準報酬月額)まで目を配らせる人はそう多くはないと思いますが。