旧自公政権「2481万件」vs民主党政権「414万件」
民主党政権が終了して半年。
今回は、民主党議員が政権交代の成果としてアピールしていた「2860万件(2012年6月時点)」という消えた年金の解明実績についての検証です。
結論から言えば、民主党は、旧自公政権時代の実績(※)が無かったかのような表現によって、実績を過剰にアピールしていると言わざるを得ず、実際には、政権交代後の2012年6月時点での解明実績の増加件数は、わずか「374万件」でした。
※5095万件もの「消えた年金(宙に浮いた年金記録)」が確認された平成18年6月から平成21年9月までに旧自公政権内で解明した「2481万件」の年金記録。
旧自公政権時代 | 民主党政権時代 |
平成18年6月~21年9月 (3年3か月) | 平成21年9月~24年6月 (2年9か月) |
平成21年9月時点 | 平成24年6月時点 |
解明件数の計算について |
平成21年9月時点のデータは、社会保険庁の「年金記録問題へのこれまでの取組(平成21年10月30日)」の中の「未統合記録の全体像(平成21年9月)」を使い計算しました。
まずは、旧自公政権時代の実績である平成21年9月時点のデータを計算します。 具体的には、平成24年6月時点のデータで言う所の「解明された記録」の該当部分である1・2・4を合算します。 次いで、民主党政権時代の実績ですが、平成24年6月時点の実績総数を計算しつつ、そこから平成21年9月時点の実績を差し引くことで、純粋に民主党政権内で解明した消えた年金の件数を計算します。(「消えた年金」は、ここでは5095万件の宙に浮いた年金記録のことを指します。以下同じ。) 平成24年6月時点のデータは、日本年金機構の「未統合記録(5095万件)の状況と今後の対応(平成24年6月時点)」を使います。
先ほどとは形式が異なりますが、内容は同じですので、1と2の(ア)(イ)を合算します。 2855万件-2481万件=374万件 |
政権が終了する2012年12月までの全期間で見ても「414万件」という、政権交代に込められた期待を裏切る結果に終わっていたのです。
(この場合、旧自公政権も民主党政権も共に3年3か月での実績。図と計算はページ下部。)
民主党政権で2860万件が回復したとのアピール事例
民主党が、消えた年金の解明に大きく寄与したことは事実です。
しかし、平成24年6月時点の実績として、旧自公政権「2481万件」に対して民主党政権「374万件」という解明件数の開きがある以上、旧自公政権時代を含む通算「約2860万件」の回復を、すべて政権交代後の成果であるかのごとくアピールする民主党議員の姿勢には違和感を覚えます。
野田前首相の街頭演説から
まずは、民主党のホームページより、野田前首相の街頭演説を引用します。
「自民党政権下で消えた年金を2860万件分回復。これぞ政権交代の成果」渋谷で野田代表 野田佳彦代表は7日午後、東京・渋谷で街頭演説し、自民党政権下で消えていた年金記録を政権交代後に2860万件分回復したことを報告するとともに、 略
そして政権交代以降の取り組みについて、「民主党政権は消えた年金を国家プロジェクトとして当時の長妻昭厚生労働大臣のもとで探してきた。そして2860万件、1300万人分、1兆7千億円見つかった。こうしてようやく年金をもらえるようになった人が出てきた」「政権交代の前と後では、この年金記録行政のあり方ひとつとってもちがうと思いませんか」と聴衆に呼びかけた。 略
回復した年金総額については「1兆7千億円は1万円札を平積みしていくと高さ1万7千メートル、航空機が飛んでいる世界に及ぶ。1万円札は1グラム、1兆7千億円は170トンにもなる。それだけの大きなお金が消えていた。政権交代によって民主党政権はそれを見つけることができた。政権交代前とは大きな違い」と訴えた。 民主党ホームページより引用 |
政権交代の前後では大違いだとの印象付けがありますので、消えた年金の解明件数の多寡については、
旧自公政権時代(小) <<< 民主党政権(大)
であろうと解するのが自然です。
「こうしてようやく年金をもらえるようになった人が出てきた」という発言も、旧自公政権時代には年金記録の解明が進まなかったとの誤った印象を与え、「2860万件」すべてが民主党政権時代の成果であるかのように聞こえます。
下記も、野田前首相の演説です。(3か所)
「野田代表、福島県いわき市で演説 国民にとって必要な改革を前へ。決断する政治の継続訴える」 いま問われているのは「やらなければならないことを前に進めることができるのか」「それとも昔の政治に後戻りしてしまうのか」「時計の針を戻してしまうのか」だ。 社会保障は政権交代の前と後では全然違う。消えた年金記録がわれわれの政権になってどんどん回復してきた。5千万件も消えていたものを、2860万件回復することができた。 ------------------------------ 「野田代表、本八幡駅前で政権交代の成果や経済政策を訴え」 野田代表は、政権交代の前と後で変わったことは、今まで分からなかったことや隠されていたことが明らかになってきたことだ述べ、「私たちは国家プロジェクトとして解明に当たり、消えた年金5千万件のうち2860万件を見つけ、1300万人分、1兆7千億円分をお戻しした」(略)と説明した。 ------------------------------ 改革を、この国を前に進めていこうと呼びかけ さいたま市で野田代表 はじめに、安倍政権時の2007年に発覚した消えた年金記録の問題に言及。コツコツと保険料を納めていたにもかかわらず受給年齢になっても年金をもらえない人が出てきたというこの問題に対し、民主党政権は国家プロジェクトとして取り組み消えた年金記録のうち2860万件、1300万人分、1.7兆円分の年金記録を発見したと説明した。 ------------------------------ 引用元は民主党のホームページですが、動的リンクである可能性もあるためリンク表示はしません。「TOP >ニュース」で辿っていくか、サイト内検索BOXでタイトルを入力することでリンク先を表示させることができます。 |
「5千万件も消えていたものを、2860万件回復することができた。」
「5000万件」という数字も「2860万件」と同様に、誤解を与えるような使われ方をしています。
ここでも政権交代の前後で違うと述べた上で、「消えた年金記録」→「民主党政権でどんどん回復」、「5000万件消えていた」→「2860万件回復」とすることで、文脈からは、政権交代時点で5000万件消えていたものが政権交代後に2860万件回復したと読めてしまいます。
この表現から、5000万件消えていた(正しくは宙に浮いていた)のは「政権交代の3年3か月前の段階」であり、2860万件は「野党時代も含めた実績」だと正しく理解するのは、まず不可能でしょう。
辻元清美議員のホームページから
次は、民主党の辻元清美議員のホームページに掲載されていた、公開討論会の応答の一部からの引用です。
辻元清美オフィシャルサイト:つじもとWEB 穴を塞ぐことのひとつは、消えた年金。まずこの穴を塞がなければなりません。私たちが政権を引き継いだとき、5000万件の未統合の年金がありました。今、現状ご報告いたしますと、2860万件の解明が終わりまして、1671万件の統合が進み、みなさんの消えた年金、1.7兆円分、今のところ解読ができました。この穴ぼこが開いていたこれをまず引き続き、できるだけ早く塞いでいく。 サイト内ページ「衆議院選挙予定候補者の公開討論会が行われました。」より引用 |
5095万件の消えた年金(宙に浮いた年金記録)が確認されたのは平成18年6月であり、政権交代する平成21年9月には2481万件の年金記録が解明されていました。
つまり、政権を引き継いだときには、
5095万件-2481万件=2614万件
「2614万件」の未統合記録があったというのが事実です。
「私たちが政権を引き継いだとき、5000万件の未統合の年金がありました。」
これは、明らかにアウトです。
岡崎トミ子議員の街頭演説から
次は、岡崎トミ子議員の街頭演説からの引用です。
新潟での街頭演説 「戦後続いた自民党政治の負の遺産は数々あった。まず、ずさんな管理体制のもと、多くの国民のみなさんの年金記録が5000万件分も失われた『消えた年金問題』については政権交代後に民主党が2860万件回復させ、その額は1兆7000億円、保険料を払われた方々に年金と してお返しすることができた」 民主党ホームページより引用 |
「政権交代後に民主党が2860万件回復させ」が誤解を生む表現であることは、すでに述べた通りです。
たまたま民主党のホームページに掲載されていたので岡崎議員の発言も取り上げましたが、推測するに、民主党議員の多くが同様のアピールを行っているような気がしてなりません。
蓮舫議員のツイッターから
次は、蓮舫議員のツイッターからの引用です。
蓮舫@renho_sha(twitter) 消えた年金記録問題。民主党政権時代に2,860万件を見つけ、1,300万人分、1兆7,000億円分をお戻ししましたが、まだ問題は解決されていません。政権交代後にこの流れが失速しないように注視。 下記URLより引用 |
「民主党政権時代に2,860万件を見つけ」ていませんので違います。
岡崎議員のように、年金に詳しくなさそうな議員であれば、レクチャーされたまま話をしているのだと思えなくもありませんが、蓮舫議員は、政権交代前の鋭い追及を見ても、消えた年金問題のスペシャリストだと言えますので、どうしても作為的なものを感じてしまいます。
リーフレットから
次は、マニュフェスト達成状況をアピールするリーフレットです。
マニュフェスト達成状況・大分県連版 『報道はすべてを伝えない!マニュフェスとはどうなっているのか?お答えします!』 「消えた年金」 【マニュフェスト】 【現状】 下記URLより引用 画面キャプチャ |
これには注釈がありませんので、普通に読むと「民主党政権による2年間の集中的な取り組みの成果として、2860万件の記録が回復できた」と読めてしまいます。
マニュフェストから
最後は、2012年民主党マニュフェストです。
ここで、ようやく次の一文を確認できました。
「※野党時代から含めて、解明した年金記録は2,860万件
(H26年6月時点)」
(2012年民主党の政権政策 Manifesto(マニフェスト)15ページ表の欄外)
2012年 民主党の政権政策 Manifesto(マニフェスト)
http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2012.pdf
なるほど、多くの人の目に触れるマニュフェストは正確に記載してある・・・と思いきや、ここでは左の平成19年12月時点の「5000万件」が違いました。
画面キャプチャ
これは、「未統合記録の全体像(平成21年9月)」の平成19年12月時点のデータを見ると確認できますが、実際には、平成19年12月時点での解明は1000万件ほど進んでいます。
下記は、平成19年12月時点の未統合記録の件数の計算です。
平成19年12月時点の未統合記録 |
上記計算同様に、平成24年6月時点のデータで言う所の「解明された記録」の該当部分である、平成19年12月時点の1・2・4を合算します。 1…死亡が判明した者等の記録(360万件) よって、平成18年6月時点の未統合記録の件数5095万件から、解明された件数を引くと、 これが、平成19年12月時点の未統合記録の件数です。 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/dl/s1030-8a.pdf |
正しい記載にするには、「平成19年12月時点」を「平成18年6月時点」と訂正するか、もしくは「平成19年12月時点」をそのままにして「5000万件」を「3965万件(あるいは4000万件)」と訂正するのかのどちらかしかありません。
現状の「平成19年12月時点=5000万件」という記載のままでは、旧自公政権による消えた年金の解明に費やした期間が「3年3か月」→「1年9か月」と不当に短縮されしまうため、読み手に対し、2860万件の解明の多くが民主党政権内でなされたものとの誤解を与え続けることになってしまいます。
民主党政権の全期間(3年3か月)の成果
民主党政権の全期間における解明件数の増加数は414万件でした。
旧自公政権時代 | 民主党政権時代 |
平成18年6月~21年9月 (3年3か月) | 平成21年9月~24年12月 (3年3か月) |
平成21年9月時点 | 平成24年12月時点 |
解明件数の計算について |
平成21年9月時点の計算は、最初の表と同じであるため省略します。 民主党政権時代の実績は、平成24年12月時点の実績総数から平成21年9月時点の差し引くことで、純粋に民主党政権内で解明した消えた年金の件数を計算します。 平成24年12月時点のデータは、日本年金機構の「未統合記録(5095万件)の状況と今後の対応(平成24年12月時点)」を使います。 1と2の(ア)(イ)を合算します。 2895万件-2481万件=414万件 |
最後に
ここまで、消えた年金について、旧自公政権時代と民主党政権時代の解明件数の違いを見てきましたが、政治は結果責任ですので、政権交代前の喧伝ぶりから考えれば、少なくとも、民主党が民主党政権時代の成果として強調できるような材料は見当たりません。
期間ごとの解明件数も、民主党政権の初期ほど多く、最期の方になると解明件数の落ち込みは顕著となり、平成24年6月から12月までの半年では40万件しか解明が進展しませんでした。
平成24年12月時点での解明が必要な年金記録が2201万件ですので、年金記録の回復を待つ高齢の方のためにも、現状の取り組み方を早急に再構築しなければならないことは明白です。
問題は、その解明スピードの大幅な鈍化を一般の人が知らないばかりか、多少の表現の違いこそあれ「民主党政権で2860万件回復」という順調に解明が進んでいるかのようなアピールをされることによって、消えた年金に関する人々の問題意識が薄れることにあります。
ただでさえ、いまだ解明されていない年金記録は、比較的難易度が高く、1件当たりの解明に時間もコストも掛かるようになってきている中で、世論の理解と後押しが無ければ「費用対効果」の声が重しとなることでしょう。
このまま解明が停滞することのないよう、まずは厳しい現状が広く知られることを期待します。