年金の『甘い経済前提』2009年当時の批判発言禄
\ | 運用利回り | 賃金上昇率 | 物価上昇率 |
2009年 財政検証(※1) | 4.1% | 2.5% | 1.0% |
2012年 民主党試算(※2)(※3) | 4.1% | 2.5% | 1.0% |
※1:2009年(平成21年) 財政検証 ※2:2012年 民主党試算 ※3:「民主党の試算」は、一応、政府・民主党ともに非公式であり、民主党調査会が厚生労働省に計算させた独自の試算ということにされています。しかし、2012年3月5日の衆議院予算委員会第五分科会の応答で明らかにされたところによると、自民党の河野太朗議員が、確定済みの直近のデータ(足元の現実の数字)も含めて試算するよう事前に厚生省に求めていたところ、小宮山厚生労働大臣(民主党)がそれを拒み、2009年財政検証で使用されていた経済前提を使うよう官僚に指示したということですので、実務上だとはいえ、厚生労働大臣も経済前提について確認しているわけです。また、この試算以外に政府・民主党による試算が存在しないことから、ここでは事実上の「民主党の試算」ということで話を展開しています。(なお、厚生労働省が現実的な数字に置き直して推計を出すまでに掛かる時間は数時間程度だということも、河野議員により明らかにされています。) |
上記表は、上段に2009年(平成21年)2月23日付で公表された5年に1度行われる公的年金制度の『財政検証』における長期の経済前提を示し、下段に2012年2月10日に公表された民主党の新年金制度の試算における長期の経済前提を示しています。
かつて自公政権は、これら経済前提のもと年金給付削減の調整機能を働かせれば、モデル世帯において現役世代の50%水準以上の年金を受け取り続けることが可能であるとして「年金100年安心」(年金「100年安心」発言録)をうたっていたのですが、それに対する大勢の評価は「楽観的」「非現実的」「つじつま合わせ」というものでした。
2009年秋は衆議院選挙を控えていましたので、民主党議員は、ここぞとばかりに衆議院議員、参議院議員問わず舌鋒鋭く批判を展開していたものです。
2009年当時の民主党議員4人の国会発言
2009年、予算委員会など国会の中で『経済前提』に関する批判・追及を展開していた民主党議員は、調べた限りで5人でしたが、社会保険労務士でもある内山晃議員はすでに民主党を離党していますので、2012年3月現在でも民主党議員である4人についての国会発言を抜粋します。
掲載の順番は、以下の通りです。
1…2009年(平成21年)6月19日-梅村聡議員
2…2009年(平成21年)6月19日-長妻昭議員
3…2009年(平成21年)6月18日-川合孝典議員
4…2009年(平成21年)6月2日-蓮舫議員
なお、抜粋は、経済前提に関する発言部分を恣意的に抜粋したものであり、赤字部分は当方で重要と判断したものを色変換し、読みにくい漢数字はアラビア数字に直しています。
抜粋の目的は、経済前提の見直しが、事実上の民主党の約束事であったことを示すことにあります。
民主党では、コトあるごとに「個人の判断」「個人の見解」「個人の意見」という言い訳が聞かれますが、さすがに国会での発言まで安易に否定できるものではないはずです。
1…2009年(平成21年)6月19日-梅村聡議員
● 第171回国会 参議院本会議 第31号 平成21年6月19日 ○梅村聡君 民主党・新緑風会・国民新・日本の梅村聡です。(略)5年前、2004年の年金改革において、政府・与党は100年安心の制度であることを強調しました。しかし、次第にその看板のメッキがはげ、実はいいかげんな中身であったことが暴露されつつあります。その端的な証拠と言えるのが、今回の審議の過程で明らかになった財政検証のずさんさであります。例えば、財政検証の経済前提は、5年前の財政再計算における前提より高い、名目賃金上昇率2.5%、名目運用利回り4.1%を用いており、これまでの経済情勢に照らしても極めて実現性の低い数字に基づくものとなっております。 |
2…2009年(平成21年)6月19日-長妻昭議員
● 第171回国会 衆議院本会議 第41号 平成21年6月19日 ○長妻昭君 民主党の長妻昭でございます。(略)民主党は、本法案審議を通じて、現行の年金制度を生活できる年金とするため、最低保障年金の創設、年金の一元化など、抜本改革を主張してまいりました。政府の年金の財政検証でも、楽観的過ぎる経済前提の問題、所得代替率50%を維持するモデル世帯がほとんど存在しない問題など、数々の論点を指摘してまいりました。しかし、政府は、まともに答えようとしません。現行制度の微修正では日本の年金制度はもたないことを率直に認めることが、国民の利益にもつながります。年金制度が続いても、生活できない年金であれば、何のための年金なのですか。 |
3…2009年(平成21年)6月18日-川合孝典議員
● 第171回国会 参議院 厚生労働委員会 第17号 平成21年6月18日 ○川合孝典君 民主党・新緑風会・国民新・日本の川合孝典でございます。(略)さらに、本法案の審議を通じて浮かび上がったのは、100年安心をうたった2004年の年金改革が早くも破綻しつつあるという事実であります。政府は、厚生年金の給付水準を現役時代の収入の50%確保という公約を掲げてきましたが、実はそれが極めて甘い経済前提に基づくものであり、現行制度のままでは実現不可能な状況となっていることが明らかとなりました。厚生労働省は、この経済前提に基づき、モデル世帯の年金給付水準が2038年以降、50.1%に固定されると試算していますが、最新の年金保険料納付率61.1%を基に試算すると48.9%となり、既に50%割れとなっていることも審議を通じて明らかとなりました。これは明らかな政府の公約違反であり、年金制度に対する国民の信頼が更に揺らぐことは避けられません。 |
4…2009年(平成21年)6月2日-蓮舫議員
● 第171回国会 厚生労働委員会 第12号 平成21年6月2日 ○蓮舫君 もう一つは、5年に1回行われる財政検証なんですが、モデル世帯の所得代替率は辛うじて50.1%で、2004年の政府の公約を維持はしているんですけれども、経済前提を少し厚労省の想定とずらす、低く見積もることによってこの5割はあっという間に割り込みます。制度自体がもはや100年安心、維持可能性について私は大きな問題があると思っております。本当はこの厚労省のこうした見込みが外れると一番だれがその負担を負うかというとこれは国民であって、保険料の引上げとか給付の大幅削減という形で将来世代に大きなツケを先送りしてはいけないと私どもは考えております。 ○蓮舫君 100年間にわたる年金財政の見通しを検証する前提というのは、私は相当堅めに見るべきだと考えています。世界経済危機とか金融危機、あるいは新型インフルエンザの問題など、今、世界経済、特に日本もかつてない状況に置かれていると思っております。もちろん、こうした危機を克服するために、国内も世界も世界協調で経済を押し上げるための努力をするべきだとも思っておりますが、こうしたリスクも織り込んだ現実的な経済前提で財政検証を行う方が、私は国民に対する年金制度への信頼につながってくると思うんですが ○蓮舫君 運用利回りを0.5%高めに設定すると、給付水準を実は2%押し上げる効果があると。だから、この利回りというのはやっぱり相当堅めに見ないと給付水準に私は大きな誤差が生じる、誤差どころか大きな間違いが生じると思っているんですけれども、大臣、今までの話を伺っていて、私たちはやっぱり疑いを持たざるを得ないんですよね。確かに、一時期、単年度だけを切り取って、こんなに損が出たじゃないか、こんなに見通しが悪いじゃないかという数値を置くことで100年を見ることはできませんけれども、せめてこの10年、20年の数値を入れていったところで、どう計算しても5割の所得代替率というのは私は維持ができない。どうしても楽観的にあるいは逆に置いた数字だと見ざるを得ないんですが、いかがでしょうか。 ○蓮舫君 いや、今回の財政検証で唯一現実的だなと私たちが思うのは出生率だけです。それ以外は非常に甘い。 ○蓮舫君 あるべき姿を前提に置くというのを否定はしませんが、あるべき姿までどうやって到達するかという政策も一緒に出していただかないと、それは極めて楽観的な数字だと私たちは思います。賃金上昇率も、やはりこれは相当驚くほど高い数値が前提となっています。財政検証の前提では2.5%、実質1.5%プラスと想定されているんですが、平成10年から19年までの実質賃金上昇率の単純平均でも、これはマイナスなんです。 ○蓮舫君 いや、厚生年金財政において賃金上昇率は収入そのものに直結するから、こここそ相当リアルな数字を置かなければ楽観的だという批判は免れないと思うんです。資料五を御覧いただきたいんですが、民主党として厚労省に試算をお願いしました。実質経済成長率、物価上昇率、名目賃金上昇率、名目運用利回りを、それぞれ過去10年平均、過去20年平均の数値を経済前提として置いていただいて試算をしていただいた結果です。過去10年の平均値の試算は、四ですね、ここではマクロ経済スライド調整は、これは機能しません。平成43年、今から22年後に厚生年金の積立金が枯渇します。過去20年平均の試算、機械的な試算五です。平成62年、41年後に国民年金の積立金が枯渇をします。 ------------------------------------- ここでの過去10年平均、過去20年平均とは次の通り。 平成21年財政検証関連資料(2)
------------------------------------- ○蓮舫君 私どもは何も不安をあおろうとしているわけではなくて、より現実的に、10年、20年間の平均値、実質こういう経済前提だった数字だったらどうだろうかといったときに、やはり今の制度というのは100年安心なんだろうか、この制度設計はそろそろ見直すときに来ているんではないんだろうかという立場に立たせていただいているんです。 平成16年度改正のフレームは大きく4つありました。1つは上限を固定した保険料の値上げ、これは国民に負担を強いました。2つ目はマクロ経済スライドを導入して給付の自動調整を図るとした、これまだ機能していません。3つ目は国庫負担を2分の1に引き上げます。4つ目が積立金の活用。この4つの改正をして、積立金をおおむね100年間で財政均衡を図って、100年後に給付費を1年分だけ残して積立金を保有すると、次世代の給付にそこを充てるんだという説明を平成16年度には受けました。 ところが、財政検証の数値を現実的な過去の平均値を使うと100年ももたない。100年にわたってもちろん経済がマイナス成長になると私たちは見ていませんけれども、前提条件を楽観的にしないと持続可能性がもたないという制度が本当に100年安心なのかどうなのか。大臣、私、ここは御決断をするべきときだと思います。特に今回は相当大きな埋蔵金を活用しますし、制度が本当に100年安心なのか、いかがでしょうか。 |
以上、国会発言の抜粋でした。
2009年2月の財政検証では、2008年までのデータを使用しているので、100年に1度といわれる2008年9月のリーマンショックの影響は完全に吸収されていません。
また、2009年以降の出来事として、第2のリーマンショックの可能性も指摘される「欧州債務危機」が2009年10月ギリシア危機を発端として起こり、日本国内では、2011年3月に1000年に1度の大地震に見舞われ、原発問題と含めて多大な損害を受けました。
さらに、近い将来、同程度の大地震の可能性も十分にあるという予測まであり、首都圏直下型地震での被害予測では、最大112兆円という、現在の年金積立金にも匹敵する経済的被害が想定されています。
そうした状況において、2009年当時でも国会発言のように厳しい追及をしていた民主党が、政権交代後2年半経過してもなお当時の甘い経済前提を使用して新年金改革の議論をしようとしているというのですから話になりません。
2010年から2011年にかけての『アラブの春』のように、今は5年(財政検証は5年に一度)どころか1、2年で世界情勢すらガラッと変わる世の中なのですが・・・。
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