「正直者が馬鹿をみる」「保険料納付者への背信行為」「理不尽」「不公平」・・・広く認知されるほど不満の声が上がりそうな年金の制度が施行されました。
平成22年12月までに自分の年金記録を見直し、誤って第3号被保険者になっていた年金記録を第1号被保険者に訂正したことのある人は要注意。怒りに震えることになるかもしれません。
※注・・・年金の第3号被保険者の99%は主婦(1%は主夫)ですので、ここでは第3号被保険者=主婦として話を展開しています。
平成23年1月1日から施行された『運用3号適用』
平成23年(2011年)1月1日から、『運用3号適用』という新たな年金の制度が始まりました。
これは、例えば会社員の夫をもつ年金種別「第3号被保険者」の妻が、その後夫が脱サラしたことにより夫婦共に「第1号被保険者」となるべきところ、手続き忘れにより妻の年金種別が「第3号被保険者」のままになっているようなケースを想定しているものです。
図のように、夫が会社員から自営業に脱サラした場合、専業主婦をしている妻の年金種別は3号から1号へ変わります。
同じ専業主婦でも、2号(厚生年金)の夫をもつ妻は、年金保険料を納めなくてもよい3号でいられますが、夫が1号(国民年金)になれば、妻の年金種別も法律上1号となり、夫とともに年金保険料を払う立場に変わります。
しかし、中には年金種別の変更手続きを忘れ、もしくはわからないまま届けをしない人もおり、年金種別が誤って3号になったままになっていることもあるのです。(下記図)
その場合、記録上3号になっている間は保険料を請求されることはありませんが、事後的に第1号被保険者であることが判明した場合には、さかのぼって年金記録を第1号被保険者に訂正することになるため、過去2年分の保険料を後払いできた部分を除き1号未納となります。
これにより、今までは老齢基礎年金の額が減らされたり、年金加入期間が足りなくなることにより無年金になるという事態も発生していました。
もちろん、まだ60歳になっていない人については、「1号」に訂正後の国民年金の保険料は自己負担ですし、払えなかった月にかかる将来の年金は減らされてしまいます。
ここまでが、平成22年12月までの話です。
少しかわいそうな気もしますが、きちんと届出義務を果たして、まじめに保険料を納めている「元3号」である「1号」の主婦のことを考えれば、法律通りの妥当な措置であると思われます。
ところが、今回新たに出来た制度では、不整合記録(本当は「1号」なのに「3号」となっていた記録)の「3号」を「1号」に訂正する今までのやり方を変更し、誤りである「3号」になっていた年金記録を「運用3号」とすることで、事実上「3号」と変わらぬ扱いにするようにしたのです。(下記図)
※注1-厳密には62歳以下であれば、最大で過去2年分は「1号」となりますが、その点については図示しておりません。(最大というのは、例えば60際の人ならば過去2年は1号として2年分の保険料を求められますが、訂正する人が61歳ならば、法的に59歳から60歳までの1年分しか1号になり得ません。また、62歳を超える人については過去2年のうちに1号となりうる期間がないので結果的に保険料を求められることはないということです。)
※注2-平成23年3月4日まで、当ページにおいては「この特例の適用には当該過去2年分の保険料納付が必要」であると記載しておりましたが、正しくは、当該過去2年分の保険料納付を「求められる」ものの、手続き時点で納付の意思を示せば、最終的に納付を拒否したとしても2年より前の期間については「運用3号」が適用されるということです。(平成23年3月4日衆議院予算委員会の答弁により判明。)
なお、この点については、平成22年12月14日第19回年金記録回復委員会において「一方で真面目に納めた方への背信行為との指摘があることもごもっとも(略)不公平感を考慮し時効が成立していない期間については公平性の観点から直近2年は払ってもらうことで整理した。」と語られていることと反しており、新たな疑念(過去2年分の保険料納付を「求める」と言う表現で、あたかも過去2年分は納付実績が必須条件であるかのような印象操作をおこなってきた?)が生じたところです。
対象となる年金記録は、昭和61年(1986年)4月以降の不整合記録ですので、平成23年(2011年)1月以降に訂正する人の中には、制度上、長ければ25年を超える年金記録が、「実態1号=未納(誤って3号になっていた年金記録)」→「納付済み扱い」になるわけです。
保険料を払ってきた正真正銘「1号」の主婦からすれば、実態は同じ「1号」にもかかわらず、手続きミスをした方が結果的に得をするという、なんとも理解しがたい不公平な優遇措置となっているのです。