2007年9月6日の新聞各紙記事によると、カップめんや菓子、パスタなどの食品メーカーの商品値上げの他、外食産業の料金値上げを報じています。一見すると年金とは関係のないニュースなのですが、今後じりじりと物価が上がれば「マクロ経済スライド」という仕掛けによって、もらえる年金の価値は次第に下落していく、まさにその前兆となる経済現象なのです。
今後は「デフレ(物価下落)」か「インフレ(物価上昇)」か
持っているお金に対して、モノの値段(物価)が毎年割安になっていくデフレ。平成11年以降の日本は、しばらくその「デフレ」が続いていたのですが、ここにきて様子が変わってきました。平成18年、全国消費者物価指数(価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数)がプラス(0.3%)に転化したのです。(年金の物価スライドでは、生鮮食品含む総合指数を用いる。)
今回のニュースで取り上げられているのは食料品と外食産業の値上げについてですが、原油高騰についてはモノを作るときの原材料費、そして輸送費へも影響し、製造業はもちろん、クリーニング店やタクシーなどのサービス業などへの影響も大きく、技術革新とコストカットによる内部努力だけではいよいよ賄いきれなくなったことの現われです。
今後も新興国の経済成長による穀物需要の高まり、世界的なエネルギー不足など、モノの値段が上昇する要素はたくさんあり、継続的なインフレ基調が予想されます。
物価と年金
物価が上がれば年金額も上がり、物価が下がれば年金額も下がる。このようなしくみを物価スライドと言いますが、平成11年から平成13年の物価下落(平成11年0.3%、12年0.7%、13年0.7%の合計1.7%)に対しては、不況という社会状況を背景とした政治的判断によって年金額は据え置かれることになりました。
よって、14年度以降の年金額は、本来ならば現状よりも1.7%低い金額の年金額となるべきところ、かさ上げされた年金額をもらっているということになるのです。
しかし、デフレが継続している中で年金額を対応させなければ、厳しい年金財政がより厳しくなり、年金制度の維持にも影響を与えるということで、その特例措置はその3年間のみで終了。その後は物価の下落にきちんと対応することになったのです。
ただし、物価上昇にカラクリが・・・
年金の物価対応について、平成16年改正では2つのことが決まりました。
1つはその1.7%の解消です。かさ上げしていた1.7%を本来の姿に戻そうという決定ですが、いきなり1.7%を減額すれば年金生活者の暮らしを直撃しますので、今後物価が上昇した場合には年金額の上昇を控えるということにしたのです。
例えば昨年1%物価が上昇したとしても、100万円の年金は100万円のまま。もらえる金額には違いはありませんが、物価が1%上昇しているので、その実質的な価値は99万円となります。そして、その措置は合計1.7%になるまで続けられます。
もう一つはマクロ経済スライドです。(マクロ経済スライド関連ページ)
これは、物価の上昇に対して毎年0.9%分は対応しないというものです。
物価が1%上昇しても0.1%の年金額の上昇。物価が2%上昇の時には1.1%の年金額の上昇。しかし、物価が0.9%以下の上昇の時には、年金額は0%以下とはなりません。
マクロ経済スライドの例
例えば毎年物価が1%ずつ上昇した場合には、10年後には現状比較で110%の物価となります。しかし、マクロ経済スライドによって、年金額は毎年0.1%しか上昇しませんので、10年後の年金額は101%にしかなりません。
つまり現在の価値で換算すると、100万円の年金額が、おおよそ90万円に目減りしてしまうのです。
それでも、0.9%を超えた分物価に対応するという点は心強いです。今の日本では想像しにくいですが、1年間で50%100%とインフレになることも、ありえない話ではありませんので。
もらえる年金自体を増やしておく
毎年1年間1%以上物価が上昇するというのは極端な例かもしれませんが、今後長い年月を掛けてじりじりと年金額が減っていくことは間違いありません。そのため、年金の繰下げ支給制度を活用するなどして、将来の年金額の下落を吸収できる対策を検討されてはいかがでしょうか。
国民年金の繰下げ受給も、厚生年金の繰下げ受給も、66歳以降に繰下げ申出により、8.4%の増額プラス1月支給を遅らせるごとの増額は0.7%(70歳=42%増額まで繰下げ可能)です。