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その昔、老人医療費(自己負担)は無料でした

2008年4月から後期高齢者医療制度が始まり、75歳以上の高齢者すべてがその対象者となります。

医療に掛かった際の自己負担割合は一般は1割、現役並みの所得者は3割。後期高齢者医療制度の保険料は制度発足時は1割(制度発足時の厚生労働省の試算は全国平均で年に1人7万4,400円)ですが、現役世代人口の減少と高齢者人口の増大を考慮して、この保険料負担割合は徐々に引き上げられていくしくみです。また、地域ごとの後期高齢者医療制度対象者の医療費が増大した時には、それも75歳以上の高齢者の負担する保険料に反映されていくしくみとなっています。(高齢者が健康である地域ほど保険料は安くなるということです。)

このような制度ができた大きな要因は財政的な問題なのですが、かつて老人医療費(70歳以上)の自己負担は、無料だった時代を含めて非常に低く抑えられていました(医療財政の悪化の一要因)。ここではその老人医療費(70歳以上)の自己負担の変遷を見ていこうと思います。(なお、このページの「高齢者」の年齢は、断りのない場合は65歳または70歳のいずれかになります。)

関連:後期高齢者医療制度の情報源(動画など)

1973年1月、老人医療自己負担無料化へ

1973年(昭和48年)1月。
それまで国民健康保険加入の高齢者の医療費自己負担割合が3割、健康保険の扶養家族の高齢者の自己負担割合が5割だったところ、老人医療費の自己負担分を老人福祉法で負担するという形で、老人医療の自己負担が無料になりました。(これ以前の負担割合の変遷は省略)

※1969年に東京都と秋田県で老人医療自己負担の無料化~その他の自治体でも老人医療自己負担の無料化は拡がっていました。

時代は高度経済成長(1955年~1974年)のピーク期。
豊富な税収をバックに国民の声および政治的な背景により、田中角栄内閣が1973年を福祉元年と位置づけ、社会保障の大幅な拡充が図られました。(厚生労働省は医療費増大を危惧して老人医療自己負担の無料化には反対)

1983年2月、老人医療自己負担を定額負担に

老人医療自己負担の無料化から10年。
1983年(昭和58年)2月に老人保健法を施行。
伸び続ける老人医療費を抑えるため、高齢者の自己負担を外来1ヶ月400円、入院1日300円(2ヶ月限度)とすることとしました。

1986年~老人医療自己負担金額の見直し

1986年には、老人医療自己負担金額の定額負担の金額の引き上げの改正をし、1987年(昭和62年)1月からは高齢者の自己負担を外来1ヶ月800円、入院1日400円(2ヶ月限度)とすることとしました。

1992年(平成4年)1月からは高齢者の自己負担を外来1ヶ月900円、入院1日600円(2ヶ月限度)、1995年(平成7年)4月からは高齢者の自己負担を外来1ヶ月1,010円、入院1日700円(2ヶ月限度)、1996年(平成8年)4月からは高齢者の自己負担を外来1ヶ月1,020円、入院1日710円(2ヶ月限度)、1997年(平成9年)9月からは高齢者の自己負担を外来1日500円(1ヶ月4回まで)、入院1日1,000円・・・以下省略

2002年10月老人医療自己負担1割負担の定率化

度重なる定額負担金額の見直しを経て、2002年(平成14年)10月からは、老人医療自己負担は1割負担の定率(上限あり)とすることとなりました。なお2002年10月の改正では、老人保健の対象年齢が5年をかけて70歳から75歳に引き上げられることが決まりました。

裕福な高齢者も低負担だった老人医療

かつての老人医療のしくみは年齢だけで区切っていたため、経済的に豊かな高齢者についても低負担の自己負担でした。

この老人医療の実態について、読売新聞の渡辺恒夫会長は「社会保障構造の在り方について考える有識者会議(平成12年2月23日第2回)」において次のように指摘されています。

『~非常に貧しい高齢者というものは生活保護費とか、他の手段で面倒を見るべきであって、私は73歳ですから高齢者なんですけれども老人医療はただで、1アンプル8万円の注射を打っても530円しか取られない。私はがんの手術をやりましたが、何十万円掛かる大手術をやってもほとんど取られないんですよね。とにかくいつ行っても530円しか取られない。こんなばかなことをやっているから老人医療費が非常にかさんでいる。~』

10年で「老人医療費 / 国民医療費」が2倍になった

厚生労働省「国民医療費」によると福祉元年(1973年)当時は4,289億円だった老人医療費が1974年度には前年度比55%増の6,652億円、その後老人医療費の増加は国民医療費全体の伸びを上回り、1973年当時は国民医療費39,496億円(4兆円)・老人医療費4,289億円で、老人医療費が国民医療費に占める割合が10.8%だったものが、1983年度には国民医療費145,438億円(14.5兆円)・老人医療費33,185億円(3.3兆円)で、老人医療費が国民医療費に占める割合が22.8%となりました。

ツケは後世代が払う

老人医療費の自己負担部分については定額負担から定率負担、そして2008年4月からは後期高齢者医療制度として75歳以上の後期高齢者を別枠にして、75歳以上の方の負担がじわじわ上がるようなしくみ・・・結局は後世代の人ほど負担を背負うしくみとなりました。(昔の高齢者よりもこれから高齢者になる方の方が負担が大きいという意味)

さらに、年金についても後先を考えない年金制度設計が行なわれていました。

年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)
森山和夫氏著の48ページから一部引用します。
『1973年をピークとする高度経済成長期の年金制度は、もともと長期的には持続できないようなしくみになっていた。将来の現役世代が負担する予定のものをはるかに上回る過大な年金支払を約束していたのである。その制度設計の誤りを早期に率直に認めて、根本的に改める必要があったにもかかわらず、ズルズルと引き延ばしてきた。役人も専門家も、1973年スキームが持続するはずがないことはもとからよく知っていたのである。その証拠に、1973年の「財政再計算結果」でも、厚生年金制度を維持していくためには、男性の保険料率は、1978年以降5年ごとに2%程度ずつ引き上げていって、2008年からは19.6%にせざるをえないという、負担増の必要性が明確に述べられていた。』

1973年当時の厚生年金の拠出と受給は、

  • 厚生年金の拠出(保険料率)・・・男性7.6%、女性5.8%(賞与含めず)
  • 厚生年金の受給・・・男性60歳、女性55歳から。報酬比例部分の乗率10/1000

1973年には、物価スライドと賃金再評価制度が導入された年でもあり、このような設計でもつわけがないことはわかりきった話だったわけです。

物価スライド・・・物価の上げ下げに応じてもらえる年金額も上げ下げするしくみ。例えば物価が2倍になれば、100万円の年金をもらっていたひとの年金は200万円になる。この物価スライドは年金受給者の生活水準の安定をもたらし、保険料拠出以上の恩恵を受けられる仕組みであると言える。

賃金再評価制度・・・現役の賃金上昇(名目賃金)と年金額がリンクするしくみ。

追記(2012年5月7日)

当ページをご覧頂いた方から、下記のご指摘を頂きました。

『田中角栄が昭和48年に、老人医療費を無料にしたくだりのところ。カンジンのその後のコトが書いてないではないですか?老人達は、非常に多くの人が病院を占拠する状態となり、ホントウに入院しないといけない人達が入院できなくなってしまった。その結果、病院は老人を追い出す事になりました。この事は明記しておくべきではないですか?!』

当ページの柱が経済的側面であったために記しておりませんでしたが、ご指摘の通り記しておくべきことであると判断いたしましたので追記します。

老人医療費の無料化により、医療を必要とする高齢者の入院増加のみならず、いわゆる要介護の社会的入院(※)も増加し、その結果、入院を必要とする人が入院しにくくなるという弊害が生じました。(※ホテル代わりの社会的入院もあったかもしれませんが)

そして、その後は医療負担額の改革があったもののその割合は小さいものであったため、高齢者による入院割合は、依然として他の世代よりも高いままで推移。(外来も同様の傾向)

参照:平成23年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2011/
zenbun/html/s1-2-3-01.html

((1)のウ:高齢者の受療率は他の年代より高く、国際的にみても高齢者が医療サービスを利用する割合は高い-図1-2-3-6)

国は、高齢化が進む中での増え続ける医療費抑制のため、2008年4月からは『医療費適正化計画(5カ年計画・方針は小泉政権当時に策定)』を実施しており、その中には「療養病床の削減(医療型は一定の削減、介護型は全廃)」が掲げられていることから、病院としては、入院患者の削減などの対応が求められ、そのしわ寄せは、社会的入院として入院していた高齢者のみならず、医療的に入院が必要な高齢者にまで及び、行き場のない高齢者が病院から追い出されるという事態となっているのです。

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