2008年(平成20年)4月から始まる後期高齢者医療制度。今まで自分自身で市町村の国民健康保険に入っていた人も、会社員の子供などに扶養されて健康保険の保険料を払う必要が無かった人も、今後75歳以上の人は一律個人単位で後期高齢者医療制度の被保険者となります。
そして注目すべきは後期高齢者医療制度でかかる保険料が年金から「天引き」される点。これによって、今までの介護保険の保険料の年金からの天引きに加え、後期高齢者医療制度でも保険料が年金から天引きされるということに・・・。しかも、将来的にはその保険料も上がることが想定されているだけに、いまのうちからその仕組みについては知っておいたほうが良いかもしれません。
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後期高齢者医療制度で変わる、知っておきたい3つのポイント
私たち医療制度の利用者の立場で見れば、今までの国民健康保険とほぼ同じようなものである後期高齢者医療制度。新しい制度になり、私たちが知っておきたい点は次の3点になります。
- 1.後期高齢者医療制度の保険料が年金から天引きされる
- 2.後期高齢者医療制度の保険料の決定方法・金額が変わる
- 3.保険証が新しいものになる
※医療の窓口負担についての原則1割という点は今までと同じ。
1.後期高齢者医療制度の保険料が年金から天引きされる
いままでも75歳以上の人については、年金から介護保険料が天引きされていました。(65歳以上が天引き対象)
そして、後期高齢者医療制度の保険料についても個人単位で年金からの天引きが行なわれますので、例えば厚生年金がある夫からも基礎年金(国民年金)しかない妻からも、それぞれに対して自分自身の保険料が年金から天引きされます。
それでは、後期高齢者医療制度の保険料はいったいどのくらいなのでしょう?厚生労働省の試算によれば全国平均で年に1人7万4,400円とされています。これを12ヶ月で割ると1ヶ月6,200円になりますので、国民年金しかもらってないような人ですと、国民年金が満額(年間80万円、1ヶ月6万6,000円)の人でも約1割の負担。介護保険の保険料が全国平均1ヶ月約4,000円ですから、これをあわせると医療保険制度と介護保険制度の保険料だけでも約15.4%を占める計算になります。
つまり、それだけの金額が年金から天引きされることになります。 極端な話、年金生活ギリギリでやっている人で食事が1日3食から2食、ついには1食となった時にさらにニッチもサッチもいかない場合には「食べるのことよりも保険料を優先して支払え」と言っていることに等しいしくみということができると思います。
北九州市で男性が生活保護を打ち切られて「おにぎりが食べたい」と日記を残して餓死した悲劇が思い出されます。
2.後期高齢者医療制度の保険料の決定方法・金額が変わる
国民健康保険との比較で言えば、国民健康保険では市町村を単位として国民健康保険を運営していたのに対して、後期高齢者医療制度では都道府県の中に一つの大きな組織(高齢者医療広域連合)を設けて後期高齢者医療制度を運営することになっています。
そして、保険料も都道府県を一つの塊として決定されます。
例えば東京都ならば、東京都の後期高齢者(75歳以上)の人が医療を受ければ受けるほど、後期高齢者医療制度全体の費用負担が重くなりますので、その分後期高齢者の人が支払う保険料(後期高齢者医療制度全体の費用負担の1割)も高くなります。
よって同じ75歳以上の人でも、住んでいる都道府県によって後期高齢者医療制度の保険料は違ってくることになります。参考までに、2007年12月12日(水)のNHK福祉ネットワーク「後期高齢者医療制度が始まる」で取り上げた全国の保険料の概算を示しておきます。(厚生労働省が出している平均的な年金受給者である年収201万円で計算。医療費との関連も分かるように医療費の全国順位も付記)
【後期高齢者医療制度の保険料の高い3県】
- 1位福岡県 85,100円(医療費1位)
- 2位高知県 81,500円(医療費3位)
- 3位香川県 81,300円(医療費15位)
【後期高齢者医療制度の保険料の安い3県】
- 45位静岡県 61,600円(医療費43位)
- 46位岩手県 60,400円(医療費44位)
- 47位長野県 60,000円(医療費47位)
後期高齢者(75歳以上の人)の医療費が高い県は保険料も高く、医療費が低い県は医療費が安くなる傾向がありますが、香川県のように医療費が極端に掛かっているわけではないが保険料の計算が高くなるというところもあります。
それは、現在はそれほどではなくとも近い将来には医療費が高くなると見込んでいる場合など、人口構成比や財政状況その他各種状況等の判断から、後期高齢者医療制度を取りまとめる広域連合が判断して決定することとされています。
そして、そのようにして決定された保険料は同一都道府県内については、医療を受ける受けないに関わらず同一のものが適用されます。(ただし広域連合によっては市区町村によって差を設けることも可能)
個人単位の保険料の計算方法は、「1人あたり均等に掛かる定額」と「所得(前年における年金などの収入から各種控除をしたもの)に応じた額を保険料率で掛けたもの」を合わせた額です。
各都道府県(広域連合)によって違いはありますが、各広域連合のホームページを覗いてみると、おおむね1人当り均等に掛かる定額が年間3万円~4万円くらいで所得に応じた保険料率が7%~9%くらいとなっていました。
※一概には言えませんが、後期高齢者医療制度が始まる前と後とでは、所得の高い人はより負担が重くなり、所得の低い人は、それまでよりも負担が軽くなる傾向があるということです。
【元健康保険の被扶養者だった人の保険料軽減措置】
今まで年収が低くて息子や娘の扶養に入っていた人は、健康保険に保険料負担なしで入れたところ、今度は国保並みの保険料負担をしなければならなくなります。
そこで一定の期間、医療保険で被扶養者だった人の保険料徴収については、次のような軽減措置が適用になります。
- 平成20年4月~平成20年9月・・・全額免除(無料)
- 平成20年10月~平成21年3月・・・9割軽減(1割負担)
- 平成21年4月~平成22年3月・・・5割軽減(5割負担)
なお、これ以降においてそれまで被扶養者であった人が新たに75歳になる場合には(均等割り部分が)2年間5割軽減になるなど優遇措置もありますが、正確なことは所属する広域連合までお問い合わせを。
3.保険証が新しいものになる
後期高齢者医療制度が始まる前、各健康保険の保険証に加えて、75歳以上であることを証明する受給証のようなものを提示しなければなりませんでしたが、後期高齢者医療制度においては後期高齢者医療制度の保険証1枚で足りることになります。
後期高齢者医療制度では医療そのものも変わる
後期高齢者医療制度では、提供される医療についても変わります。
具体的な決まりは「社会保障審議会」や「中央社会保険医療協議会」で決定されることになりますが、医療機関がどのような治療をどれだけ提供したらいくらになるかと言うような「診療報酬」について新しいものが導入されることが決まっています。
新診療報酬体系導入における前提
医療を良くしようと思えば、小手先の工夫だけでは足りず、どうしてもお金が掛かります。しかしながら、2007年度から5年間、社会保障関係費は、その伸びを年間2200億円ずつ減らしていくことがすでに決まっております。つまり、新医療制度においても医療を充実させるという視点よりも、いかに医療費を削減するかという前提があるわけです。
後期高齢者医療制度の医療
後期高齢者医療制度の医療において、注目したい方向性は次の2点です。
- 1.いきなり大病院に診察に行くなどのムダの防止、および個人の心身の状態の把握による適切かつ効率的な高齢者にふさわしい医療の提供・・・これらを達成するための主治医を持たせるしくみの導入
- 2.社会的入院の防止のための、在宅医療の推進
1については、おそらく主治医以外の医師に診療を受けたときには診療報酬を引き下げることや、主治医以外の医療行為を受けた場合には自己負担額が増えるなどのしくみを導入することが想定されます。
2については、病気ではない後期高齢者を入院させ続けた場合には一定期間経過後には診療報酬を引き下げて、社会的入院に対しての病院側のメリットを喪失させることなどが考えられます。
首都圏後期高齢者医療広域連合リンク
- 東京都後期高齢者医療広域連合
- 神奈川県後期高齢者医療広域連合
- 埼玉県後期高齢者医療広域連合
- 千葉県後期高齢者医療広域連合
- 群馬県後期高齢者医療広域連合
- 山梨県後期高齢者医療広域連合
- 茨城県後期高齢者医療広域連合
- 栃木県後期高齢者医療広域連合
最後に後期高齢者医療制度の保険料のアップについて
後期高齢者医療制度の国の資料によれば、75歳以上の後期高齢者が負担する後期高齢者医療制度の保険料については「開始時点の1割負担というものは状況次第でアップしますよ」と言っていることがよくわかります。
国の資料「後期高齢者負担率の改定方法について」(引用)
世代間の負担の公平路維持するため、人口構成に占める後期高齢者と現役世代の比率の変化に応じて、それぞれの負担割合を変えていく仕組を導入する。これにより、高齢者の保険料による負担割合(1割)は高まり、現役世代の支援の割合は、約4割を上限として減っていくことになる。
- 1.後期高齢者医療制度における後期高齢者の保険料の負担率と、若人が負担する後期高齢者支援金(若人の保険料が財源)の負担率は、制度発足時は後期高齢者は1割、若人は約4割である。
- 2.しかし、今後、後期高齢者人口は増加すると見込まれる一方、若人人口は減少すると見込まれるため、後期高齢者の負担分は支え手が増えるが、若人の負担分は支え手が減っていく。したがって、仮に後期高齢者の保険料の負担率と後期高齢者支援金の負担率を変えないこととすると、後期高齢者1人当りの負担の増加割合と比較して、若人一人当たりの負担はより大きな割合で増加していくこととなる。
- 3.このため、「若人人口の減少」による若人一人当たりの負担の増加については、後期高齢者と若人とで半分ずつ負担するよう、後期高齢者の保険料の負担割合について、若人減少率の2分の1の割合で引き上げ、後期高齢者支援金の負担率は引き下げることとする。
【参考…保険料等の変化(試算)より】
後期高齢者負担率が10%(平成20年度)・・・一人当たりの保険料61,000円(年間)
これが・・・
後期高齢者負担率が10.8%(平成27年度)・・・一人当たりの保険料85,000円(年間)
【計算】
平成20年度と平成21年度の後期高齢者の負担割合は10%で固定ですが、平成22年度以降の後期高齢者の負担割合は2年ごとに次のように決定するとされています。
10%+平成20年度の若人負担割合(約4割)×平成20年度から改定年度までの「若人減少率」×2分の1
※「若人減少率」=平成20年度の若人人口-改定年度の若人人口 / 平成20年度の若人人口
厚労省試算2015年に保険料年8.5万円
厚生労働省は2008年4月11日、後期高齢者医療制度(通称長寿医療制度)で、加入者が負担する保険料の全国平均額が、2015年度には年間85,000円になるとの試算結果を発表しました。2008年度の試算では72,000円でしたが、高齢化の進展による後期高齢者の医療費増加や、現役世代の減少の影響で年間保険料が13,000円増加するとしています。