企業年金連合会は、2007年9月5日、60歳以上の受給資格者の約3割にあたる124万人に、本来支払うべき年金を支給していない事実を公表しました。このニュースを理解するには「企業年金とは?」「企業年金連合会とは?」「厚生年金基金とは?」・・・といくつもの理解が欠かせません。事実、わかりにくいからこそ3人に1人もの年金が支給漏れになっているのです。
企業年金とは?(企業年金連合会の理解の前に)
企業年金は、国民年金や厚生年金のような公的年金とは異なり、会社が従業員の老後のために特別に設けた私的年金です。国民年金が1階、厚生年金が2階、企業年金が3階として例えられることもあります。
企業年金の種類はいくつもありますが、今回のニュースで出てきた企業年金連合会が関係する企業年金は「厚生年金基金」で、働く会社によって厚生年金基金の有無は異なります。
厚生年金基金とは?
厚生年金基金は、3階部分に位置する企業年金ですが、他の企業年金のように単なる3階部分というわけではありません。2階部分の厚生年金の一部も3階部分の厚生年金基金が代行して扱っているために、受給年齢に達した時にもらえる年金も、本来の厚生年金部分の一部が入った3階部分の年金となるのです。
また、厚生年金基金は会社、または業種(例えばタクシー・・・東京乗用旅客自動車厚生年金基金)によって設立されています。
むかし厚生年金基金連合会、いま企業年金連合会
そのような厚生年金基金ですが、一定の条件のもとでは加入していた厚生年金基金から加入を外れなければならなくなります。
厚生年金基金を10年未満で脱退した人のことを「中途脱退者」。そして基金が解散してしまった場合における加入員のことを「解散基金加入員」を呼びますが、それらの人々の年金の記録については「企業年金連合会」という組織によって管理が移ることになるのです。
企業年金連合会は、2005年9月までは厚生年金基金連合会という名称であったために、その厚生年金基金の中途脱退者等の受け皿としてのイメージもありましたが、名称が変わったことによって、どのような組織なのかがわかりにくくなってしまったという事実もあると思います。
「企業年金連合会への年金請求」4つの知っ得
国民年金や厚生年金のように情報が多くなく、自分が加入していたかどうかもわかりにくい厚生年金基金。最低限知っておきたい4つのポイントは次の通りです。(ここでは以下、企業年金連合会への請求に絞ります。)
- 公的年金とは別の請求が必要
- 加入期間が1ヶ月以上であれば年金が受給できる
- 時効は適用にならないので、遡り受給が可能
- 未請求での死亡では、遺族が代わりに受け取ることはできない
公的年金とは別に企業年金連合会へ裁定請求
老齢年金を請求する場合、社会保険事務所へ公的年金(国民年金や厚生年金)を請求するのとは別に、企業年金連合会(中途脱退者等の場合。以下同じ)へ厚生年金基金の裁定請求をする必要があります。(参考:企業年金連合会(港区芝公園)での裁定請求手続)
しかし、多くの人にとってはそのようなことはわかりません。
たとえば社会保険事務所で公的年金の裁定請求をする時に、係りの人が「厚生年金基金の方も忘れないで下さいね。手続きは別ですからね。」などと教えてくれればいいと思うのですが、残念ながら親切な担当者でなければそこまで教えてもらえません。その理由としては、
- 厚生年金基金は、そもそも社会保険事務所で扱う年金ではないから
- 厚生年金基金の説明までしていると一人ひとりの対応時間が長くなり、結果的に待ち時間が長くなるから
ということが考えられます。 私たちにとっては、一つのくくりとして「年金」が存在しておりますので、「国民年金」も「厚生年金」も「厚生年金基金」も「国民年金基金」も、その他の年金も、年金と名のつくものはすべて同じ色ですが、社会保険事務所ならびに年金を扱う機関の人たちにとっては年金ごとに、明確に色分けされています。
この辺をよく注意しておきませんと、「社会保険事務所で手続きをしたからすべて終わった」というミスをしてしまうことにもなりかねません。
公的年金の受給資格とは別の厚生年金基金の年金
厚生年金基金は、加入期間が1ヶ月であっても年金の受給対象となります。公的年金の受給資格は原則25年以上の年金加入が必要ということで厚生年金基金も同じ条件なのではないかと勘違いしてしまいがちですが、公的年金の受給資格要件とは関係ありません。
企業年金連合会の企業年金支給漏れ件数
厚生年金基金の中途脱退者、解散基金加入員などの2006年度支給漏れ件数と総額は、次の通りです。(60歳の受給年齢に達しているもの)
支給漏れ | 全受給資格者 | |
人数 (うち死亡者) | 124万人 (死亡者3万6千人) | 400万人 |
記録件数 | 147万7000件 | 465万6000件 |
年間支給額 | 480億円 | 4380億円 |
未払い額総額 | 1544億円 | - |
なお、中途脱退者の支給漏れが全体の9割以上で117万4千人(1378億円)、解散基金加入員の支給漏れが6万7千人(166億円)となっています。
さらに、1件あたりの支給漏れ金額の平均額は、中途脱退者が1件約1万9千円、加入期間の長い場合の多い解散基金加入員については1件あたり約30万円となっています。
企業年金連合会からの通知は?
企業年金連合会では、年金の受給対象者が59歳と11ヶ月になった段階で裁定請求をするための通知をするようにしているのですが、実際には多くの通知があて先不明で返送されるという事態となっています。
支給漏れとなっている124万人のうち88万人については、企業年金連合会が対象者に対して請求用紙を郵送したにもかかわらず、住所違い等の理由で返却に。29万人については通知が届いたはずだが裁定請求されていないということです。
なお、厚生年金基金から企業年金連合会への承継時点でも通知が行なわれますが、はがき1枚にて通知されるだけです。そのため、自分の年金が企業年金連合会で管理されていることもさえ知らず、申請をしていなくてもそれに気が付かないこともあると見られています。
企業年金連合会の改善策
今回の支給漏れの発表の中で、企業年金連合会は、次のような対策を明らかにしております。
- 新聞広告や連合会ホームページにおいて、権利があるにもかかわらず裁定請求をしていない人へ呼びかけを行なう。
- 専用フリーダイヤル(企業年金コールセンター:0120-458-865)を設置して、相談受付体制を強化する。
- 住所を把握している人で、まだ裁定請求していない人については通知を行なう。
- 本人が所属していた厚生年金基金から企業年金連合会へ年金の管理を引き継ぐ際に、手続き詳細をより詳しく説明する
- 企業年金連合会へ年金の移管が行なわれた人で住所がわからなくなっている人については、市区町村に住民票の交付を求める、および社会保険庁が保管する住民情報を求める等により、その把握を行なう
- 企業年金連合会のホームページにおいて、自分が中途脱退者かどうかの確認や、住所の変更の連絡を行なえるようにするなど改善を行なう
- 本人に対しての通知は、現状の59歳11ヶ月時点だけではなく、55歳到達時など定期的に連合会が保管する年金情報の通知を行なうようにする
特に住所の把握の取り組みについては、いままで行なっていなかったのが不思議なくらいですが、今後は改善されるということです。いろいろ思うところはありますが、今後に期待したいところです。