「いざとなれば生活保護をもらうから、年金保険料は払わない」
国民年金保険料未納増加の背景には、国民年金の満額を受給するよりも生活保護でもらえる金額の方が多いということも、一つの原因として上げられると思います。
しかし、単に年金の受給金額が生活保護の基準(最低生活費)に届かないからということだけでは生活保護は受給できません。ここでは、生活保護の支給金額や条件について、年金の話と絡めながら進めていこうと思います。
生活保護には8つの扶助がある
生活保護は次の8つの扶助から成り立っています。
- 生活扶助:食費や衣料、水道光熱費など日常生活に必要な費用
- 住宅扶助:アパート等の家賃代金
- 教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
- 医療扶助:医療サービスにかかる費用(医療機関までの交通費も含む)
- 介護扶助:介護サービスの費用
- 出産扶助:出産費用
- 生業扶助:就労に必要な技能の習得等にかかる費用
- 葬祭扶助:葬祭費用
このうち通常の最低生活費の計算に使われるのは「生活扶助」「住宅扶助」「教育扶助」です。最低生活費を上回る収入がある場合には、生活保護は適用されません。
最低生活費の例(平成19年度)
最低生活費(生活扶助基準)は、家庭状況や地域により異なります。(データは「社会保障国民会議分科会 所得確保・保障(雇用・年金)3月4日第1回参考資料33ページ」より)
【東京都区部等】
- 標準3人世帯(33歳、29歳、4歳)=167,170円
- 高齢者単身世帯(68歳)=80,820円
- 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)=121,940円
- 母子世帯(30歳、4歳、2歳)=174,540円
【地方郡部等】
- 標準3人世帯(33歳、29歳、4歳)=130,680円
- 高齢者単身世帯(68歳)=62,640円
- 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)=94,500円
- 母子世帯(30歳、4歳、2歳)=140,090円
生活保護受給者のうち65歳以上の年金受給者割合等
福祉行政報告例、被保護者全国一斉調査(個別、各年7月1日時点の抽出調査(10分の1))「社会保障国民会議分科会 所得確保・保障(雇用・年金)3月4日第1回参考資料30ページ」から、65歳以上の生活保護受給者の年金受給状況を見てみると次のようになっています。(平成17年のデータ)
Q:65歳以上人口25,672,005人のうち、65歳以上の生活保護受給者の人数は?
A:556,380人で、対65歳以上人口割合で言うとで2.2%になる。
Q:65歳以上の生活保護受給者のうち、年金を受給している人の人数は?
A:262,320人で、65歳以上で生活保護を受給している人との割合で言うと47.1%になる。全生活保護受給者との割合で言うと1.0%になる。
Q:65歳以上で生活保護を受給している年金受給者の一人当たりの年金受給金額は?
A:45,918円
※保護費は、最低生活費から年金収入を引いた金額が支給されることになる。
公的年金の平均年金月額
自営業など国民年金だけしかないような人は、たとえ満額でも月に老齢基礎年金が6万5千円ほど・・・。生活保護との金額的な不均衡は確かに存在します。次の数字は、公的年金の平均年金月額です。
- 老齢基礎年金の平均年金月額=5.8万円(平成17年3月末時点)
- 厚生年金の平均年金月額=16.9万円(平成17年3月末時点)
- 国家公務員共済組合の平均年金月額=22.4万円(平成17年3月末時点)
- 地方公務員共済組合の平均年金月額=23.2万円(平成17年3月末時点)
- 私立学校教職員共済組合の平均年金月額=21.8万円(平成17年3月末時点)
年金の受給資格期間25年がなく無年金になる人
平成19年12月12日社会保険庁が公表した資料によると、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算して25年に満たない『無年金』となる人(今後70歳までの期間保険料を納付しても25年に満たない人)の人数は次のようになっています。
- 60歳未満=45万人
- 60歳~64歳=31万人
- 65歳以上=42万人
なお、現時点で25年に満たない無年金者のうち、保険料の納付次第によっては25年を満たすことができる人は、
- 60歳~64歳=65万人
- 65歳以上=45万人
上記データの注意事項は次の通り
- 上記年齢は平成19年4月1日現在
- 合算対象期間は含まれていない
- 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年よりも短い場合であっても支給要件を満たす取り扱いとする期間短縮の特例については考慮せず
- 被保険者資格喪失後の死亡情報は収集されていないため、すでに死亡しているものを含んでいる可能性がある
- 共済組合期間など、社会保険庁で把握できていない期間は含まれていない
無年金者の増加は生活保護予備軍の増加・・・年金保険料を払っていない(払えない)フリーター・ニート等一定のボリュームのある層が高齢化したときには、このまま受給資格期間を25年にしたままでは無年金者が一気に増加することも考えられます。(生活保護受給者の増加)
生活保護受給の要件「補足性の原理」
生活保護は、収入要件だけでもらえるものではなく、そのほかいくつかの要件を満たしてはじめて受給できるようになります。
生活保護法第4条によれば「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行なわれる」とあり、次の4つの要素からチェックが行なわれることになります。
1.稼働能力
健康で働くことができる人には働くように助言されます。資格試験や芸の修行ために収入が低いというような理由では認められません。若くて健康的な身体でも、精神疾患により働けず、医師の診断もあるような場合には認められることもあります。また、健康で働くことができ働く意思もあるのに現に働く場がなく困窮しているような場合にも認められる場合があります。
2.資産の活用
預貯金は最低生活費の5割までは認められることになっていますが、それ以上の預貯金は生活費に当てるべきものとされています。生命保険は原則解約。自動車は山間地等で必要性が認められる場合を除き原則保有できず。株券・証券・ブランド品などは保有できず。土地・建物は住居とするもので著しく大きなものでなければ所有可能。
3.他法他施策の活用
生活保護は最後の砦なので、次にあげるものの他、利用できる法律等がある場合には、まずはそちらを優先することになります。
- 国民年金や厚生年金など社会保険
- 雇用保険の失業給付等
- 労働者災害補償保険の各種給付
- 児童扶養手当や児童手当
4.扶養義務の履行
親兄弟その他親族に経済援助ができる人がいる場合には、生活保護よりもその援助が優先されます。どこかで聞いた話では、窓口で申請者の目の前で親類中に電話を掛けて(掛けさせて?)申請を諦めさせたということも・・・
参考文献
市役所福祉課にてケースワーカーをされていた方が書いた本、
生活保護VSワーキングプア (PHP新書 504)は、単にデータでモノを語るのではなく、生活保護行政の内部にいた人だからこそわかる記述が数多くあります。
興味深かった箇所はマスコミ報道のあり方について。
「受給者バッシング」については若い母子家庭の母親や休職中の若者が登場し、「水際作戦」については『多くは高齢者や障害者、病気で働けないなど、一見して「生活が立ちゆかない」ことが明らかな人たち』を登場させ、こちらには『若くて健康な母子家庭の母親や、仕事を探さずに日々を浪費する若者』は登場させない・・・
確かに、不正受給報道があれば「なぜもっと審査を厳しくしないのか」と思い、水際作戦で苦しい生活から抜け出せずにいる方の報道を見れば、「もっと寛容な目で適正な判断ができないものか」と思うところもありますが、もしかしたら知らず知らずのうちに登場人物などでイメージ操作をされていた面もあるかもしれません。
生活保護に関する民間支援組織
補足:生活保護と労働賃金
『働いたら負け』
これはインターネット上の書き込みで見掛けた発言ですが、働いて得られる労働賃金と生活保護の手取りに着目すれば、そのような考え方も理解できないわけではありません。
2010年8月21日、BS11「田中康夫のにっぽんサイコー!」で放送していた生活保護と労働賃金の簡易比較の表をそのまま転載します。
生活保護と労働賃金 | |
生活保護 | 月額 137,400円(東京都・単身者・家賃込み) 教育、医療、出産、介護、葬祭など無料! |
労働賃金 | 800円×8時間×20日間=128,000円 税金、健康保険税(料)、国民健康保険を引くと、 月額 87,300円 地方の最低賃金の場合 約65,000円 |
モラル面はともかく、先述の「年金よりも生活保護の方がいい」状況が存在していることと同様に、一定以下の条件で働かざるを得ない人にとっては「働いて稼ぐよりも生活保護をもらっていたほうがいい」という状況にあるのです。