厚生労働省は2008年11月12日の社会保障審議会年金部会において、厚生年金の標準報酬月額の上限を見直し案を示しました。(朝日新聞2008年11月12日)
その概要は、現在の標準報酬月額の上限62万円を
- その1・・・68万円(年収970万円相当)
- その2・・・83万円(年収1300万円相当)
- その3・・・121万円(年収1900万円相当)
にするというもの。
さらに、現状の厚生年金の仕組み通りの保険料に見合う年金給付をすれば年金支給額が膨らむことになるため、62万円を超えた部分については、その評価を半分にして支給を抑制するというのも案として示されました。
現時点の標準報酬月額
厚生年金の標準報酬月額は現在1級98,000円~30級62万円となっているのですが、健康保険の標準報酬月額は下限・上限ともに厚生年金よりも範囲が広く、1級58,000円~47級121万円となっています。今回出てきた最大引き上げ121万円は、その健康保険の数字と合わせていると思われます。参考までに、下記に平成20年9月分~平成21年8月分の厚生年金・健康保険の標準報酬月額を示した表を掲載いたします。
※1.右側の保険料額は厚生年金の分のみ
※2.一般の被保険者の保険料率(15.35%)の保険料額
※3.保険料額は全額
※4.等級のカッコは健康保険
標準報酬 | 報酬月額 (以上~未満) | 厚生年金保険料額(全額) [保険料率15.35%] | |
等級 | 月額 | ||
(1) | 58,000円 | ~63,000円 | 15,043円 |
(2) | 68,000円 | 63,000円~73,000円 | |
(3) | 78,000円 | 73,000円~83,000円 | |
(4) | 88,000円 | 83,000円~93,000円 | |
1(5) | 98,000円 | 93,000円~101,000円 [厚生年金]~101,000円 | |
2(6) | 104,000円 | 101,000円~107,000円 | 15,964円 |
3(7) | 110,000円 | 107,000円~114,000円 | 16,885円 |
4(8) | 118,000円 | 114,000円~122,000円 | 18,113円 |
5(9) | 126,000円 | 122,000円~130,000円 | 19,341円 |
6(10) | 134,000円 | 130,000円~138,000円 | 20,569円 |
7(11) | 142,000円 | 138,000円~146,000円 | 21,797円 |
8(12) | 150,000円 | 146,000円~155,000円 | 23,025円 |
9(13) | 160,000円 | 155,000円~165,000円 | 24,560円 |
10(14) | 170,000円 | 165,000円~175,000円 | 26,095円 |
11(15) | 180,000円 | 175,000円~185,000円 | 27,630円 |
12(16) | 190,000円 | 185,000円~195,000円 | 29,165円 |
13(17) | 200,000円 | 195,000円~210,000円 | 30,700円 |
14(18) | 220,000円 | 210,000円~230,000円 | 33,770円 |
15(19) | 240,000円 | 230,000円~250,000円 | 36,840円 |
16(20) | 260,000円 | 250,000円~270,000円 | 39,910円 |
17(21) | 280,000円 | 270,000円~290,000円 | 42,980円 |
18(22) | 300,000円 | 290,000円~310,000円 | 46,050円 |
19(23) | 320,000円 | 310,000円~330,000円 | 49,120円 |
20(24) | 340,000円 | 330,000円~350,000円 | 52,190円 |
21(25) | 360,000円 | 350,000円~370,000円 | 55,260円 |
22(26) | 380,000円 | 370,000円~395,000円 | 58,330円 |
23(27) | 410,000円 | 395,000円~425,000円 | 62,935円 |
24(28) | 440,000円 | 425,000円~455,000円 | 67,540円 |
25(29) | 470,000円 | 455,000円~485,000円 | 72,145円 |
26(30) | 500,000円 | 485,000円~515,000円 | 76,750円 |
27(31) | 530,000円 | 515,000円~545,000円 | 81,355円 |
28(32) | 560,000円 | 545,000円~575,000円 | 85,960円 |
29(33) | 590,000円 | 575,000円~605,000円 | 90,565円 |
30(34) | 620,000円 | 605,000円~635,000円 [厚生年金]605,000円~ | 95,170円 |
(35) | 650,000円 | 635,000円~665,000円 | 厚生年金も 引き上げへ? |
(36) | 680,000円 | 665,000円~695,000円 | |
(37) | 710,000円 | 695,000円~730,000円 | |
(38) | 750,000円 | 730,000円~770,000円 | |
(39) | 790,000円 | 770,000円~810,000円 | |
(40) | 830,000円 | 810,000円~855,000円 | |
(41) | 880,000円 | 855,000円~905,000円 | |
(42) | 930,000円 | 905,000円~955,000円 | |
(43) | 980,000円 | 955,000円~1,005,000円 | |
(44) | 1,030,000円 | 1,005,000円~1,055,000円 | |
(45) | 1,090,000円 | 1,055,000円~1,115,000円 | |
(46) | 1,150,000円 | 1,115,000円~1,175,000円 | |
(47) | 1,210,000円 | 1,175,000円~ |
上限引き上げと保険料負担額
標準報酬月額の上限を引き上げた場合、
その最高等級の人の負担すべき保険料額は
具体的にどのようになるのでしょうか?
- 68万円(年収970万円相当)=年間保険料額163万円
- 83万円(年収1300万円相当)=年間保険料額199万円
- 121万円(年収1900万円相当)=年間保険料額290万円
厚生年金の標準賞与額の上限は「1ヶ月あたり150万円」であるため、案の場合は年収に対してまるまる厚生年金保険料が掛かってくるということになります。(賞与は標準賞与額×15.35%)
標準報酬月額上限62万円との比較
標準報酬月額の上限62万円(年収970万円相当)以上の人は、上記表の通り保険料が月9万5千円、年間では賞与からの保険料も含めて148万円の保険料を払っています。
よって、上限が62万円の現在と、案の通りの上限になる場合との年間保険料の負担の差額は次のようになります。
- 68万円=年間保険料額163万円→年間15万円のプラス
- 83万円=年間保険料額199万円→年間51万円のプラス
- 121万円=年間保険料額290万円→年間142万円のプラス
負担増に対する年金支給額への反映
今回の案では、標準報酬月額の上限引き上げとセットで、年金支給額の上昇を抑えるべく抑制の仕組みも検討に含まれています。
会社員の夫と専業主婦で、夫の標準報酬が40年間最高等級だった場合に支給される年金額は、夫婦で月に30万5千円ですが、今回の3つの案において同じように見た時に、上限62万円を越える保険料負担が「負担→給付」となる場合、および「負担→半分の評価での給付」となる場合の年金給付額は次のようになっています。
標準報酬月額上限 3つの見直し案 | 現行のままの 計算方法で年金支給 | 62万円超の部分の 半分を評価して年金支給 |
68万円 | 32.2万円 | 31.6万円 |
83万円 | 36.4万円 | 34.1万円 |
121万円 | 47万円 | 39.5万円 |
年金財政への影響
厚生労働省の試算では、標準報酬月額の上限を引き上げ、徴収する保険料を多くすることで、支給抑制をしなければ年間600億円~3,000億円、半分評価の抑制をした場合には1,200億円~6,000億円もの好転が期待できるということです。
厚生年金は保険料を少ししか納めない人も、多く納める人も、1階部分の年金給付に関しては一律同じ額の給付が受けられるため、絶対額ではなく、もらえる年金全体を「割の良さ」で考えたときには、相対的に低収入の人に有利(高収入の人に不利)な仕組みになっています。(関連ページ:厚生年金の標準報酬月額の最低等級(9.8万円)を40年間払っていたら、年金はいくらもらえる?)
そのため、年金支給の抑制がなくても標準報酬月額の上限を引き上げることで、ある程度の効果が見込まれるわけです。
特に、高給取りの独身者や夫婦共働の人が多いほど、第3号被保険者のしくみが利用できない分年金財政的には有利なのではないでしょうか。