2004年度から2006年度までの3年間に年金受給開始の裁定請求が遅れたために、5年の時効によりもらえなくなった年金の推計が、5万8355人分で推計886億円になることが社会保険庁により明らかにされました。(2007年11月16日)このような請求の遅れによる時効分については、宙に浮いた年金が見つかった時に5年の時効が適用されない年金時効特例法には該当しないだけに、特段の注意が必要です。
時効で失われた年金
年金の請求は、5年が経過すると経過した分から時効によりもらえる権利が消滅してしまいます。すでにわかっている1999年度から2003年度の時効分の年金合計1155億円と合わせると、8年間で2000億円の年金がもらえなくなったということになります。
時効による消滅率は?
普通に年金を請求して、そのうち何人の人が時効でもらえない年金があったのでしょうか。社会保険庁によると、2004年度から2006年度において年金を新たに受け取ったおよそ482万人のうちの1.2%の人において、請求遅れによる時効分の年金が存在したということです。
2006年度に限れば年金の受給が開始された165万411人のうち2万505人に時効分の年金が存在し、これを1人当りに直すと162万円もの金額が受け取れなくなった計算になります。
有り得るであろうケース
今回のニュースでは、具体的な事例はありませんでしたが、年金制度の中で勘違いが多いケースで考えてみると、次のようなケースが想定されます。
仮に60歳から特別支給の老齢厚生年金を受け取れる人で、年金の繰り下げ受給を検討している人だとすると、
- 国民年金、および厚生年金の本来受給は65歳からということを聞いていて、65歳前に年金がもらえることを知らなかった。
- 65歳前に年金をもらうと年金が減額されるものと勘違いしていた。(国民年金の繰り上げ受給と混合)
- 繰り下げ受給をするために、65歳以降も手続きをしなかった。(70歳まで手続きをしなかったものとする)
このようなことにより、60歳から65歳までの5年間分の特別支給の老齢厚生年金はまるまる時効でもらえなくなることも考えられます。
年金額が150万円だとすると、5年分750万円が時効でもらえなくなる計算です。あくまで仮定の話ですが、これと近いものが多いような気がします。
年金請求における5年の時効の疑問
年金給付の時効については国民年金法等にも定められていますが、その元となるものは民法の消滅時効のところにある第169条定期給付債権の短期消滅時効の「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」であると思います。(おそらく・・・)
私は法学部出身ではなく他の法律についての正確性に自信はないのですが・・・年金で5年の時効を適用するのはいかがなものかと思います。
というのも、何かしらの権利があって、それを本人が認識した上で時効を適用するのならよいのです。しかし年金は話が違います。
年金は制度が複雑で、何歳からどのような年金がもらえるのかを知らない人は、割と多く存在します。私などは社会保険労務士になるために何ヶ月も年金の勉強をしたので何とか年金のことがわかるようになりましたが、普通に生活をしていたら年金のことはさっぱりわからないまま老後を迎えていたと思います。
年金の請求が遅れた人は、おそらく大半が故意で請求を遅らせたのではなく、年金の受給権があることを知らない、または勘違いによって5年の時効に掛かったものと思われます。
そういう人たちに対して、「法律だから5年より前の部分はカットしますね」というのはあまりに厳しくはないでしょうか。