年金保険料を払ったのに、社会保険庁に年金記録が存在せずに領収証もない、いわゆる消えた年金対策として、2007年7月4日「年金記録確認中央第3者委員会」の基本法新案が明らかになりました。「明らかに不合理でない」「一応確からしい」の認定2原則とはどういうものでしょうか?
「消えた年金」一歩前進
年金記録もなければ領収証もない「消えた年金」に対し、今までは回復の手段がありませんでした。しかし、今回新たに「明らかに不合理でない」「一応確からしい」という新たな認定原則が出てきたことで、随分と救われる可能性が広がってきたように思います。
判断の基準としては、申し立てた内容が明らかに不合理ではなく、および一応確からしいということが認められ、総合的に見て認定できるとされた場合に消えた年金が回復、認定されることになります。具体的な内容は下記のとおりです。
消えた年金対策 判断の基準1「明らかに不合理でない」
国民年金と厚生年金それぞれにおいて、判断の基準は次のようになっており、明らかに不合理でなければ認められることになります。
国民年金
- 納付したと主張する保険料が、当時の保険料の額と大きく齟齬(そご)していない。
- 特例納付を行ったとする時期が、その実施期間中である。
- 特例納付の手続を社会保険事務所で行っている。
厚生年金
- 加入期間や標準報酬などの申立て内容。
消えた年金対策 判断の基準2「一応確からしい」
国民年金と厚生年金それぞれにおいて、以下のような積極的な周辺事情を関係資料から幅広くくみ取り、周辺事情が発見されない場合でも、本人の申し立てに基づき、当時の具体的状況を再現する中で、総合的に判断するとしています。
国民年金
- 申立期間が少数回
- 申立期間が短期間
- 申立期間中、配偶者など同居の親族は納付
- 家計簿などに保険料支出に関する記載があり、金額が当時の保険料相当額とおおむね一致
- 特例納付を行ったと申し立てる時期に、納付した保険料と一致する金額が預金口座から出金されている
- 家計簿などに特例納付の日付や金額が記載
- 特例納付後は未納期間が存在しない
厚生年金
- 給与明細や賃金台帳などで保険料が控除されている
- 人事記録や雇用主の証言などで、申立て期間と一致した勤務実態が確認できる
- 給与明細や賃金台帳などで標準報酬額が確認できる
認定されない可能性のあるケース
明示されている部分ではありませんが、年金第三者委員会の委員の意見等において、次のものについては判断が難しいとされています。
- 家計簿で、後から数字を付け加えたことがわかる場合や、作成時期に疑念のあるケース
- 本人の記憶だけで保険料支払額に矛盾はないものの、それ以外に証明材料がなく、「性格的に未納は考えられない」と主張するようなケース
- 厚生年金で、年金保険料が天引きされていたにもかかわらず、事業主が保険料をだまし取っているケース
認められないケース
消えた年金対策で一定の認定基準が出てきたことで、逆に見ればこれにあてはまらないものは認定されないということができます。
例えば特例納付の実施期間以外の期間において保険料を納めたと主張することや、当時の保険料とかけ離れた金額を納付したと主張すること、または制度上保険料を納付できない期間において保険料を納付したと主張することなどです。
問題含みの判断材料
第三者委員会の記者会見で、委員長が「(何も証明材料がないような場合)人柄なども判断材料に」と述べましたが、これは極めて危ない要素だと思います。(おそらく「真剣さ」も含まれた発言でしょう)
まず人柄とは?という定義はそもそもありませんし、判断する人によって評価が異なる問題もあります。人によって努力主義と成果主義の人がいるように、「真剣に主張を訴えている姿が本当らしい」と評価する人と、「出された資料や客観的な状況こそ大事。」と考える人など様々です。
また、外見や性格で損をする人も出てくるでしょうし、結局は声の大きい人が勝つというようなことにもなりかねません。
もしくは実務を行う第三者委員に対して恫喝まがいのことをされた場合、臨時の役職の身分において、それを正当に突っぱねることができるかどうか。
さらに、政治家の口利きが入り込む余地も生まれてしまいます。
「人柄」については、「人柄を含めて総合判断」ということも含めて、一切判断材料にしてはいけないものだと思います。
それは不心得者が不正に年金を受給するということよりも、本当に保険料を払ったにもかかわらず人柄で損をしがちな正直者が損をするということの方が何倍も大問題だからです。