消えなくても済むはずの年金も・・・
オンライン内5,000万件の年金記録とは別の「旧台帳1466万件」の年金記録照合作業が2007年12月から行なわれていますが、その現場がいささか問題含みのようです。
※ここでいう1466万件の旧台帳とは、昭和29年4月以前に厚生年金の被保険者資格を喪失し、昭和34年3月までに被保険者資格の再取得をしていない人の年金記録1,430万件と、昭和25年4月以前に船員保険の被保険者資格を喪失した年金記録36万件を合計したマイクロフィルムで保管されたものです。(オンラインには入力されていません。)
「1466万件(1430万件)」年金記録照合作業関連の各報道の流れ
この1466万件(1430万件)年金記録照合作業にかかる報道の始まりは2007年12月末発売の週刊現代1月5日・12日合併号『本紙記者が作業員になってみた!怒りと絶望の「年金照会現場」潜入ルポ」からでした。
その後日刊ゲンダイ2008年1月12日号『もはや絶望的、バイト1300人がやっている「年金照合現場」の驚愕実態』を報じましたが、ここまでは日本人アルバイトの作業現場の話。
そして今度は、週刊現代2月9日号『"年金ドロボー"社保庁の信じがたい不祥事はお台場でおきていた「年金照合現場」で中国人バイトが「大量転記ミス→失踪」』を報じ、この中国人アルバイトの件は1月30日民主党の厚生労働・総務部門合同会議で社保庁側が出席、説明することとなり、1月31日には次のように新聞各紙が報じることとなったのです。
- 日経新聞 『年金記録1,430万件 派遣外国人が入力作業 社保庁、フルキャストに委託、漢字のミス相次ぐ』
- 読売新聞 『年金記録転記で大量ミス 中国人アルバイトが誤記』
- 毎日新聞 『厚生年金 転記作業で派遣の中国人ら大量ミス』
- 東京新聞 『中国人ら大量転記ミス 年金記録 派遣会社に社保庁委託25万件やり直し』
- 日刊ゲンダイ2月1日号 『社保庁年金記録照合やる気なし 目に余る中国人バイトの入力ミス』
外国人アルバイトの転記ミス問題が一際大きく報じられましたが、そもそも1466万件年金記録照合作業は具体的にはどのようなものなのでしょうか?
年金照合要員のアルバイト募集
週刊現代の記者が実際に応募したアルバイト情報は次のようなものでした。(週刊現代1月5日・12日合併号より)
- 官公庁でのお仕事。簡単な事務作業。
- 年齢、経験不問。パソコン入力はありません。
- 中高年の方活躍中!
- 時給1100円+交通費
このような求人広告が2007年11月から1ヶ月間、首都圏就職情報誌、新聞折り込み広告に掲載されていたということです。
採用については「履歴書の提出と30分程度の面接で採用と、いとも簡単に成功した。」とのことで、恐らく他のアルバイトの方々もこのように派遣会社の採用をもらい、社会保険庁の年金照合作業の作業員として派遣されたものと思われます。
合計1300人ものアルバイトメンバーの構成は、
週刊現代『40代以降のオバサンを中心に、リストラされて求職中と思われるオジサンなど中年がほとんどを占める』
日刊ゲンダイ1月21日号『男女比は3対7。圧倒的に中年のオバサンが多いという。』
アルバイトの方への研修
週刊現代『ハケンに対する研修は一度だけ、社保庁職員によって朝から昼過ぎまで行なわれた。一通り説明を受けた後、200人程度ずつグループに分かれて作業を行なう大部屋に向かった』
年金照合作業の作業現場(週刊現代より)
年金照合作業の作業現場となるのは、東京都江東区青海のお台場フジテレビ近くの巨大なビルの8階と9階。
記事を要約すると、200人程度のグループ分けした部屋に分かれて作業。そこには質問ができる監督者が置かれ、そのもとで作業を遂行。
年金照合作業の作業内容
作業内容は元台帳から転写したマイクロフィルムを紙にプリントした分厚い冊子を、オンラインに入力するためのコンピュータ入力用のシートに書き写すこと。
つまり、古い年金記録が印刷された紙を見て、新しい用紙に延々と書き写すだけ。
判読も困難な古い年金記録
とはいえ、元になる年金記録は何50年以上も前のもの。
週刊現代 『そもそも字が潰れていて読めない台帳がこれでもかと出てくるのだ。読めない記録は当然、照合のしようもない。しかも旧台帳は手書きである。対象となるのは戦前から1954年までの年金記録で、そこには旧字体や俗字、さらに草書体まで、さまざまな自体の漢字が混在する。漢字の専門家でもないオジサン、オバサンに読めというほうに無理がある。』
週刊現代『1と6、9と7の見分けがつかないなんてまだ序の口。作業マニュアルを読もうとしないオバサンたちは、転記の仕方さえもわからない。本来なら、崩し字や旧字体は常用漢字にして楷書で書き写すのが決まりだ。が、読めない文字があると作業員たちは「こんなカンジの漢字かなぁ」とダジャレを言いつつ、当てずっぽうで書き写しているようなのだ。』
日刊ゲンダイ1月21日号『オバサンが多いせいか、やたらと私語が多い。ちょっと読めない字や変わった名前があると「なに、これ」「変な名前」と大ハシャギです。最悪なのは、読めないのに形だけ真似て書き写しているケースがあること。なんのために照合作業なのか。なんだか、新たな混乱をつくり出しているようで』
ズサンなチェック?
年金記録の書き写しについて、はじめは2人1組で読み合わせチェック。
ただし、「加藤さん」について「よくあるカトウ」として読み合わせを終えるなど、漢字間違いが起こってもおかしくないような適当なな読み合わせもあったとのこと。(週刊現代)
しかし、その後社保庁は2人でのチェックもやめて1人でのチェックに変更。
日刊ゲンダイ1月21日号『社保庁職員は「読み合わせは最後のチェックです。しっかりやってください」」と言っていたのです。ところが突然「みなさんのスキルがあがったから」と、ひとりでチェックするようになった。本当に大丈夫なのでしょうか。』
週刊現代『~読み合わせをしようにもしようにも相手の声が聞こえない始末。オジサン、オバサンのボソボソ声もこれだけ集まれば業務を滞らせる、立派な「口害」だ。そこで、社保庁はついに「読み合わせ」作業を中止し、「一人読み合わせ」を命じたのだ。自分が書き写したものを、声を出さずに自分で見直せということだが、これがチェックと呼べる代物ではないことは明らかだろう。』
派遣外国人の年金記録照合作業
前記したように、日本人アルバイトでも間違いが起きてもおかしくない転記作業なのですが、驚くべきことに派遣された1300人の中には、片言の日本語しか話せない中国人など外国人が約60人も一緒になって作業をしていたのです。
そして、中国人など外国人を派遣したのは2007年3月27日に東京労働局から労働者派遣法違反で業務改善命令(労働主派遣法で禁止されている警備・建設業務への派遣違反)を受けた「フルキャスト」。
その人数は30人~60人(報道にバラツキあり)とされ、期間は12月10日から12月20日まで(予定では1月末まで)の10日間。すでに作業を終えた25万件~30万件については、その後日本人で全部やり直したということです。
その外国人アルバイトの転記ミスは・・・
- 毎日新聞 1月31日号『田中昭という名前を「田」「中昭」と書き写すなど、姓と名の区分がつかないミスが多発』
- 日経新聞1月31日号『「金田」という姓を「金」と記入する』
- 日刊ゲンダイ2月1日号『「山田純」の場合、姓を「山」、名を「田純」と入力するなどのミスが連発されました。漢字のハネが分からず、「人見」を「人貝」などと誤記したケースもありました』(民主党関係者)
外国人を雇ったことについて・・・
- 読売新聞1月31日号『社保庁によると、人材派遣会社からは、中国人アルバイトについて「日本語を話せ、漢字も書ける」と説明を受けていたという。』
- 東京新聞1月31日号『社保庁は「まさか派遣会社が外国人を連れてくるとは思わなかった」と釈明」』
- 毎日新聞1月31日号『社保庁は「ミスのあった記録件数は分からない。派遣会社からは、テストした優秀な人を選んだと説明があった」と釈明。フルキャスト広報室は「全員、日本国内の定住者か留学生で、漢字の読み書きはできた。このような結果になり申し訳ない」と話している。』
- 週刊現代『社保庁に問い合わせてみると、社会保険業務センターから次のような回答が返ってきた。「たしかに外国人の方も一部おられました。漢字圏の方で、きちんと日本語もしゃべれるし、漢字も読める方々なんです。しかし、われわれのほうで作業結果を確認したところ、適性を欠くということになったので、派遣業者に申し入れ、交代してもらいました。現在は外国人の方はいません」』(当週刊現代の記事は、まだ中国人アルバイトの具体的な人数や転記ミスの詳細などがわからない段階でのもので、中国人アルバイトが作業場から突然居なくなったことについての問いとその答えです。)
当該年金照会作業現場への視察について
日刊ゲンダイ2月1日号『民主党の山井和則衆院議員はこう言った。「社保庁に対し、この作業場への視察を要求しましたが、「個人情報保護法の観点」などの理由で拒否されました。この期に及んでも、隠蔽体質は変わっていません」』
1466万件のうち約2割最大300万件が統合困難
2008年1月24日第7回年金業務・社会保険庁監視等委員会で社会保険庁が明らかにしたところによると、1466万件の旧台帳において転記作業ができたのは8割ほどで、約2割が判読できないとのこと。
産経新聞1月25日号によれば、その数最大300万件に上ると試算。
判読困難なマイクロフィルムは戦後混乱期の古いものであるために不鮮明で読み取れず、かといってこれにかわる別の記録も残されている可能性が低いため、当該年金記録は基礎年金に統合できず、老齢年金や遺族年金に反映されないままになる可能性は大きいものと思われます。
なお、この件で対象となるのは現在70歳以上の方です。
年金支給漏れに係る時効は撤廃(年金時効特例法とは?)されたことから、わずかな期間でも年金記録が見つかれば20年分、30年分といった年金が一時金として支給されます。もちろんその後の年金も、増えた分が受け取れます。
しかし、週刊現代のスクープをはじめとする一連の報道を見ていると、人の一生を左右する大事な年金記録の転記作業を単純労働だとして専門知識もないアルバイトに任せてよかったのかどうなのか…また、朝から昼までたった1度の研修でやれるものなのか…
多少費用が掛かっても、校正業のような緻密な作業の専門家にお任せるような仕事ではなかったのかと思えてなりません。
週刊現代『この業務を請け負う社保庁の「社会保険業務センター」の担当者に聞くと、「派遣職員が記入したデータが正しいかのチェックは職員がしますので、チェック体制は取れています」とは言うんだけど、ほんとに大丈夫?』
読めない記録を解読する書道家
2008年2月16日日刊ゲンダイによれば、当該年金記録1466万件の書き写し作業において、毎日30人~90人の書道家が読めない字の解読のヘルプをしているということです。
同じく日刊ゲンダイの記事から、ある関係者の話として
『ああ、書道家ね。その通の大家とおぼしき人物が数十人の弟子を引き連れて来て、確かに解読作業はしています。弟子たちが読めない字は、別室で控えている先生のところへ持っていって、解読をお願いする。ま、優雅なものですよ。(引用)』