第29号 年金、みんな怒っています!|設定バラバラ 年金財政検証「物価上昇率」でみる経済前提の恣意性

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第29号 年金、みんな怒!|設定バラバラ 年金財政検証「物価上昇率」でみる経済前提の恣意性

号数…第29号
発効日…【2015/3/30】
件名…設定バラバラ 年金財政検証「物価上昇率」でみる経済前提の恣意性
┏━━ ●  年金、みんな怒っています!  ● 第29号

 ◎ 設定バラバラ 年金財政検証「物価上昇率」でみる経済前提の恣意性

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          【 平成27年3月30日版  第29号 】


5年に一度行われる公的年金の財政検証。
(直近では平成26年と平成21年に実施。平成16年以前は財政再計算。)

年金見通しの経済前提として「運用利回り」「賃金上昇率」「物価上昇率」など
が用いられていますが、もはや指摘するまでもなく、その前提は甘いものと
なっています。

そこで今回は「物価上昇率」に限定し、設定の仕方と実績との差異の程度を
確認してみることにしました。

結論から言えば、恣意性ありありの設定で、導き出された結果の数値は、やはり
その後の実績よりも高めでした。


●物価上昇率の設定の仕方

下記は、いずれも長期の物価上昇率の設定の仕方です。

比較として「過去○年間の」の部分に着目してみると、
各回によって5年・10年・20年・30年とバラバラで、決め方に統一性がないこと
がわかります。

-----------------------------------

【平成6年財政再計算】(2.0%と設定)

平成6年財政再計算における、消費者物価上昇率については昭和63年から平成4年
までの5年間の実績の平均が2.2%であること、「生活大国5か年計画」における
見通しが2%程度であることを勘案して設定したところである。

→ 5年間の実績の平均が2.2%

-----------------------------------

【平成11年財政再計算】(1.5%と設定)

物価上昇率は、予測することが難しい性格のものであることから、ある程度の
長さの過去の実績を踏まえることとし、実績平均が過去10年間で1.5%であるこ
とから、1.5%と設定している。

→ 実績平均が過去10年間で1.5%

-----------------------------------

【平成16年財政再計算】(1.0%と設定)

平成21(2009)年以降は、消費者物価上昇率の過去20年(昭和58(1983)から
平成14年(2002)年)平均が1.0%であることや、内閣府の「改革と展望-
2003年度改定 参考資料」において、平成16(2004)年度から平成20(2008)年度の
平均消費者物価上昇率が1.0%であることから、1.0%と設定した。

→ 平成21(2009)年以降は、消費者物価上昇率の過去20年(昭和58(1983)から
平成14年(2002)年)平均が1.0%

→ 平成16(2004)年度から平成20(2008)年度の平均消費者物価上昇率が
1.0%(4年間)

-----------------------------------

【平成21年財政検証】(1.0%と設定)

長期の物価上昇率の前提については、日本銀行金融政策決定会合において議決
されたものとして、「『中期的な物価安定の理解』は、消費者物価指数の前年比
で0~2%程度の範囲内にあり、委員毎の中心値は、大勢として、1%程度と
なっている」とされていることを踏まえ、長期の前提として、1.0%と設定する
こととされた。

-----------------------------------

【平成26年財政再計算】(0.6%~2.0%に設定)

物価上昇率の設定について、これまでの財政検証では、日本銀行の見解、過去の
実績の平均値、内閣府による試算などを参考にして設定されてきた。今般の物価
を巡る動向をみると、日本銀行は「物価安定の目標」を新たに導入し、
消費者物価の前年比上昇率で2%とすることとされている。また、内閣府試算
では2020年前後の物価上昇率は経済再生ケースで2.0%、参考ケースで1.2%と
なっている。さらに、これらのみに捉われず下方に幅を設定するケースとして、
過去30年間の実績値の平均0.6%も考慮することとした。
具体的には、経済再生ケースに接続するもの(ケースA~E)については、
1.2%から2.0%の幅、参考ケースに接続するもの(ケースF~H)については
0.6%から1.2%の幅で設定するものとし、経済成長率(実質)が高くなるほど
物価上昇率も高くなるという関係になるように各ケースにおける長期の
物価上昇率を設定した。

→ 過去30年間の実績値の平均0.6%

-----------------------------------

※資料元

・平成6年財政再計算~平成21年財政検証まで

第14回社会保障審議会年金部会「年金財政に
おける経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」
(平成25年12月4日)資料1-2の29ページからの抜粋。

・平成26年財政検証

「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方につい
て」-検討結果の報告(平成26年3月12日)資料2の10ページよりの抜粋。

-----------------------------------

このようにして並べてみると、各回ごとに、鉛筆なめなめ都合の良い設定の仕方
をしているのではとの疑念が生じます。


●設定した物価上昇率とその後の実績

平成元年(1989年)以降の設定と実績は次の通りです。

概ね、高めの設定に対して低めの実績となっていることがわかります。

-------- 実績 │平成元│平成6│平成11│平成16│平成21│平成26│
平成元年(1989年)△2.3%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成2年 (1990年)△3.1%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成3年 (1991年)△3.3%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成4年 (1992年)△1.6%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成5年 (1993年)△1.3%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
---------------│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成6年 (1994年)△0.7%│△2.0%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成7年 (1995年)▲0.1%│△2.0%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成8年 (1996年)△0.1%│△2.0%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成9年 (1997年)△1.8%│△2.0%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成10年(1998年)△0.6%│△2.0%│△2.0%│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
-------------------│-↓-│-↓-│-↓-│-↓-│
平成11年(1999年)▲0.3%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│-↓-│-↓-│-↓-│
平成12年(2000年)▲0.7%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│-↓-│-↓-│-↓-│
平成13年(2001年)▲0.7%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│-↓-│-↓-│-↓-│
平成14年(2002年)▲0.9%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│-↓-│-↓-│-↓-│
平成15年(2003年)▲0.3%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│-↓-│-↓-│-↓-│
-----------------------│-↓-│-↓-│-↓-│
平成16年(2004年)△0.0%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│▲0.2%│-↓-│-↓-│
平成17年(2005年)▲0.3%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△0.5%│-↓-│-↓-│
平成18年(2006年)△0.3%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.2%│-↓-│-↓-│
平成19年(2007年)△0.0%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.5%│-↓-│-↓-│
平成20年(2008年)△1.4%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.9%│-↓-│-↓-│
---------------------------│-↓-│-↓-│
平成21年(2009年)▲1.4%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│▲0.4%│-↓-│
平成22年(2010年)▲0.7%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△0.2%│-↓-│
平成23年(2011年)▲0.3%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.4%│-↓-│
平成24年(2012年)△0.0%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.5%│-↓-│
平成25年(2013年)△0.4%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.8%│-↓-│
-------------------------------│-↓-│
平成26年(2014年)△2.7%│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△2.2%│△2.6%│
平成27年(2015年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△2.5%│△2.7%│
平成28年(2016年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.7%│
平成29年(2017年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.2%│
平成30年(2018年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
-----------------------------------│
平成31年(2019年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成32年(2014年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成33年(2015年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成34年(2016年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成35年(2017年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
-----------------------------------│
平成36年(2018年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成37年(2019年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成38年(2020年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成39年(2021年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成40年(2022年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
-----------------------------------│
平成41年(2023年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△2.0%│
平成42年(2024年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△1.2%│
平成43年(2025年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△1.2%│
平成44年(2026年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△1.2%│
平成45年(2027年)---│△2.0%│△2.0%│△1.5%│△1.0%│△1.0%│△1.2%│

※表について

・実績
 → 年平均の全国消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数)の対前年比変動率
・平成元・平成6・平成11・平成16 → 財政再計算
・平成21年・平成26年 → 財政検証
・平成元・平成6・平成11については、資料が見つからずに足下の経済前提が
分からなかったため、すべて長期前提の設定を記した。
・平成16・平成21・平成26については、足元の経済前提も反映させたが、平成21
は経済高位・中位・低位のうち経済中位のものを抽出し、平成26については、
経済A~経済Hまでの8段階の経済シナリオのうち、5段階目の経済Eのものを
抽出した。


●おわりに

ここでは触れていない「賃金上昇率」「運用利回り」についても、概ね
高めの設定 → 低めの実績 → 次回一段低い設定 → さらに低めの実績 ・・・
ということが繰り返されてきました。

今回、設定の仕方については、経済前提のほんの一部分しか見ていませんが、
おそらく、そちらでも似たような形で恣意的に結果を導いていたのではないかと
推測できます。

もっとも、平成26年財政検証では、流れが一変しました。

もはや理想的な設計図が描きにくくなったとみえ、
どれが標準のケースかがわからない8通りもの経済ケースが登場したのです。

そこには、厳しい政治判断が求められる3つのオプション試算が示されており、
現行の年金制度での一定の給付水準の維持のためには、高成長や痛みが欠かせ
ないことが明らかにされました。

しかし、オプション試算の一つであるマクロ経済スライドの見直しにおいて、
調整率のフル適用が見送られる公算が大きい現状を見ると、早くも4年後と
なった次回の財政検証も、その中身はより厳しいものとなりそうです。

戻って物価上昇率の設定。

次回の「過去○年」も、小さく注目しておこうと思います。

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