労働者?管理監督者?判断ポイント|社会保険労務士の関連テーマ

厚生年金・国民年金増額対策室 小野塚社会保険労務士事務所 : 社会保険労務士 > 労働者?管理監督者?判断ポイント

厚生年金・国民年金増額対策室

労働者?管理監督者?判断ポイント

  1. 会社の指揮監督下で働いているか
  2. 報酬は賃金なのか、役員報酬なのか
  3. 業務執行権の有無(重要な経営判断が行えるかどうか)
  4. 休みや労働時間、休憩が自由裁量かどうか
  5. 報酬等、一般労働者に比べ待遇面で優遇かどうか

部長、課長、店長、支店長など役職名に関係なく、上記の条件に該当しなければ管理監督者とは言えず、労働基準法の規制を受けることになります。 よく、課長に昇進したら管理監督者ゆえに残業代が出なくなり、平社員だった頃と比べてかえって賃金が低下してしまった… というようなお話を聞きますが、その場合管理監督者の要件を満たしませんので、休日や労働時間については労働者の扱いとなります。 ※定額の役職手当、管理手当てという性質のものが支給されていても、明らかにそれでは補えないような場合。

マクドナルド事件で見る判断のポイント

日本マクドナルド事件の1月28日の東京地裁判決(原告は管理監督者でない…割増賃金を支払えとしたもの)においては、いくつかのわかりやすい肯定的判断と否定的判断が示されました。 一部ピックアップしてみます。

アルバイトを採用する権限か社員を採用する権限か

アルバイトを採用する権限を持っていても、社員を採用する権限まで持っていない・・・この点について、管理監督者であるかどうかの判断においては、 経営者との一体性という観点で、裁判所は否定的な材料としてとららえています。さらに、社員の人事考課にも原告は関与しているが、あくまで一時評価者としての関与であって、最終決定まではさらに原告の上司 による二次評価等も必要としていることも同様のとらえ方をしています。

『店長』はおそらく規模が問題になる

判決文から注目箇所を引用します。
『~、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、 経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえような重要な職務と権限を付与されているとは 認められない。』(いえよう…原文のままです。)

この箇所の少し前。店長は、店舗運営におけるいろいろな決定を行う重要な存在ではあるけれど、社としてのブランドイメージを保つために、 営業時間を決められていたり、メニューも独自に開発できない。仕入先も、価格も自由にはならない。すなわちいろいろマニュアル化された中での運営が義務つけられていて、 元々独自性を発揮しようにも相当に縛りがあるでいしょ・・・ということを言っています。

そしてこの引用文。 特に「店長の職務、権限は店舗内の事項に限られる」という部分は、「店長」と名のつく人たちの立場が、経営者との一体性の判断においては管理監督者とはいえない・・・ 言葉通り読むとそう取れなくもありません。 ただ、おそらくは、一定の店の規模(従業員数)も考慮に入れての表現かと思われますが、この判決を読んでいると、ほとんどの外食チェーンやら全国展開、地域展開している 外食、小売の店長さんは『管理監督者ではない』と言えるのかもしれません。

金銭面での処遇

最近の「管理監督者」関連の裁判では、待遇面を重視しているといわれます。 特に賃金がどうなったのかは重要なファクターです。 ポイントは、いわゆる管理職になる前となった後、もう一つは下位職との比較です。 マクドナルド事件では、一つ下の下位職(ファーストアシスタントマネージャー)の賃金との比較が焦点となり、 平均的と言えるB評価の店長(店長全体の40%)の年収は下位職のそれよりも上回るものの、 その差はわずか44万円(月に4万円程度の差)。評価が低い店長(C評価)に至っては下位職の平均年収を下回ります。(ただし、S評価・A評価は上回る。)以上が賃金の概要ですが、裁判では次のように述べています。

『~店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると、上記検討した店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、 十分であるといい難い。』

残業代を払いたくないがために、名目だけ管理職にしているような会社は、「経営者との一体性」「労働時間の自由裁量性」など他の観点でも 管理監督者とはいえない実態があるのならば・・・。「私は管理監督者ではない」として会社を訴えた裁判では、 「いえいえ、あなたは管理監督者ですよ」と会社側の主張を認めた判例は、平成20年2月現在では昭和62年3月大阪地裁の「徳州会事件」から平成20年2月の大阪地裁の「日本ファースト証券事件」までのわずか6例しか ないのが現状です。(30数例は労働者側勝利)

もし管理監督者でないという判定がなされたら?

部長、店長等、名目上管理監督者として働いていた分の時間外労働、休日労働、深夜労働などの既労働分の支払いを訴求して請求することができます。 ただし、賃金の請求権の時効は2年です。 よく新聞等で従業員が労働基準監督署に申告して、未払いサービス残業代過去2年分○億円などと報じられることがありますが、 それはこの時効分が考慮された結果計算されたものだからです。

1日1万円分のサービス残業だとして2年で700万円を超えますから、新聞に登場するような社員の多い大企業では、すぐに数十億円などという規模の金額になります。 管理監督者だけの問題ではなく、本来払うべき従業員に対しても正当な計算で支払わない… そのツケは限りなく大きいですね。



管理監督者とは