「老後資金なので株や投資信託は怖いけれど、長期定期預金なら確かだろう。」・・・実はそこにも落とし穴があります。
最近では5年間10年間というように長期間でお金を預けるものもあり、途中で金利のアップが予定されたものも多く見かけますが、そこには私たち金融の素人には何のことか分かりにくい「満期繰上特約」や「期間延長特約」といったものが付いている場合があります。
「満期繰上特約付定期預金」や「期間延長特約付定期預金」というコトバの語感から、単純に『特約』なので私たちに有利なものなのかな?と思いきや・・・実はこれは私たちに不利なしくみだったのです。
資産を堅実に守っていかなければならない年金生活者の方や、退職金が入り、これからまとまったお金を運用しようとする方は特に要注意だと思います。
「満期繰上特約」も「期間延長特約」も同じ
満期8年の定期預金で「4年の満期繰上特約付」
もしくは、
満期4年の定期預金で「8年の期間延長特約付」
この2つの商品設計は同じです。
前者は、一応8年で満期になる定期預金ですが、金融機関の判断により、満期を4年に繰り上げることができるというもの。
後者は、一応満期は4年ですが、同じく金融機関の判断により、満期を8年に延長することができるというものです。
どちらに転んでも客側に不利?
満期繰上特約や期間延長特約は、金融機関にとって都合のいいしくみです。
例えば、満期4年(年金利1%)で期間延長特約8年だとします。
4年時点で市場金利が2%になっていたら、金融機関が新たに預金を集めるコストは金利1%分高くなりますので、満期4年ものの定期預金の期間を延長した方が有利です。(客は、新たに高い金利の定期預金に預け変えたいと思っても、中途解約できない、または中途解約をしても違約金が発生するので損をする。高い金利で預け変えて得られたであろう利益が機会損失。)
一方、4年時点で市場金利が0.5%になっていたらどうでしょう。
金融機関にとっては、新たに預金を集めた方が安いコストで済むことから、満期4年(年金利1%)の期間延長をすることは(金融機関にとって)損をすることになりますので、満期4年のまま期間は延長しないことになるでしょう。(この場合、客としては市場よりも0.5%分高い金利で預けられるので延長して欲しいところだが、選択肢は金融機関にある。)
なお、「満期繰上特約」も同じことです。
8年の満期でも、金融機関の都合で4年に繰上可能。こちらも繰上げるか否かの選択肢は金融機関にあり、私たちの利益よりも金融機関の利益が優先されます。
金融庁ホームページから
金融庁のホームページにある「預金・融資等に関する利用者からの相談事例等と相談室からのアドバイス等」のページの『期間延長特約付(満期繰上特約付)定期預金の販売に関する相談等(http://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice01.html:中上部)』には、次のような注意書きがあります。(引用)
『(ここから)
- 期間延長特約付(満期繰上特約付)定期預金への預け入れに当たっては、以下の点を参考にしながら金融機関より十分説明を受けた上で検討することをお勧めします。
- 原則として中途解約はできない取扱いとされています。仮に解約が可能であっても、解約に伴う費用を求められ、元本割れする場合もあります。
- 満期日を決めるのは金融機関になります(例えば、原則3年を満期としながら、金融機関側が市場の動向等を基に満期日を5年に延長するかどうか決定します。)。満期日が延長されても、原則として中途解約ができないため、ご自身の資金計画等に不都合が生じないか予め確認しておくことが重要です。
※原則5年を満期としながら、満期を3年に繰り上げる場合には、満期繰上特約付定期預金との名称になっているようですが、満期日を金融機関側が指定するという意味では、商品の設計に違いはありません。
(ここまで)』
お得なようでお得じゃないステップアップ型定期預金
長期定期預金の中で、固定で右肩上がりに金利が増えることを約束したものがありますが、そこにも満期繰上特約が付いています。たとえば次のような金利ステップアップ型定期預金だとします。
- 据置期間1~4年目=金利1%
- 据置期間5~6年目=金利2%
- 据置期間7~8年目=金利3%
これも満期繰上特約が付いていれば金融機関の判断で満期を「4・6・8年」に繰上げることができるようになります。
つまり、いずれの節目においても金融機関が損をしない選択がなされるわけで、ステップアップすればするほど客が損をしている可能性がとても高いのです。(その時点の高い金利を享受できないという機会損失の意味で)
もし据置期間5年目に突入したとしたら、それは市場金利が2%よりも高く、7年目に突入したら市場金利が3%よりも高くなっている可能性が高いのです。どちらも金融機関にとっては満期を繰上げるよりも有利だからこそ預け入れを継続させているということです。
表面上は金利がステップアップして有利に見えるかもしれないのですが、このように定期の預け入れが長期になればなるほど私たちには不利なしくみになっているのです。
極端な話、インフレが高騰して市場金利が10%になったとしても、当初予定された1%2%といった固定の金利でしか預け入れができず、中途解約も許されない・・・逆に金利が低くなり、客側に有利だと途中で解約させられる。(もしくは期間延長させられる)
これが、「満期繰上特約」や「期間延長特約」のしくみです。