国民年金と同じく厚生年金でも年金の給付制限の規定があります。なお、国民年金は「給付の制限」で、厚生年金は「保険給付の制限」です。
全面的な制限(故意の保険事故)
- 被保険者又は被保険者であつた者が、故意に、障害又はその直接の原因となつた事故を生ぜしめたときは、当該障害を支給事由とする障害厚生年金又は障害手当金は、支給しない。(厚生年金法第73条)
- 遺族厚生年金は次のものには支給されない。●被保険者又は被保険者であつた者を故意に死亡させた者には、支給しない。●被保険者又は被保険者であつた者の死亡前に、その者の死亡によつて遺族厚生年金の受給権者となるべき者を故意に死亡させた者についても、同様とする。●遺族厚生年金の受給権は、受給権者が他の受給権者を故意に死亡させたときは、消滅する。(厚生年金法第76条)
※解説・・・1は全部又は一部ではなく、一切支給しない。2は親族を死亡させて遺族厚生年金をもらおうとするようなケース。また、遺族厚生年金を独り占めしようとするようなケース。
全部又は一部の制限
被保険者又は被保険者であつた者が、自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となつた事故を生ぜしめ、若しくはその障害の程度を増進させ、又はその回復を妨げたときは、保険給付の全部又は一部を行なわないことができる。(厚生年金法第73条の2)
※解説・・・ここは法令によって異なるところで、「故意の犯罪行為」について労災は厚生年金と同じだが、健康保険では「故意の犯罪行為」は全面的給付制限事由となる。故意の犯罪行為とは、急がないと目的地に遅れてしまうなどの理由で車で猛スピードで走り事故をする等。
障害厚生年金の額の改定制限
障害厚生年金の受給権者が、故意若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、その障害の程度を増進させ、又はその回復を妨げたときは、第五十二条第一項の規定による改定を行わず、又はその者の障害の程度が現に該当する障害等級以下の障害等級に該当するものとして、同項の規定による改定を行うことができる。(厚生年金法第74条)
※解説・・・たとえば故意等で障害の状態を悪化させて、2級から1級の状態にもっていったとします。その時に、障害の改定をしないばかりか、3級にだってすることができるという規定です。さすがに障害厚生年金の受給権までは消滅させる規定はありません。
保険財政に関する制限
保険料を徴収する権利が時効によつて消滅したときは、当該保険料に係る被保険者であつた期間に基く保険給付は、行わない。但し、当該被保険者であつた期間に係る被保険者の資格の取得について第二十七条の規定による届出又は第三十一条第一項の規定による確認の請求があつた後に、保険料を徴収する権利が時効によつて消滅したものであるときは、この限りでない。(厚生年金法第75条)
※解説・・・つまり、保険料を払っていなかった部分に関しては、未納・滞納の場合2年間という時効がありますので払いたくても払えない状態となります。よってその期間分の保険給付を行わないことで帳尻を合わせます。しかし、事業主がきちんと届出をして、役所が納付書などを送ってこなかった場合などして保険料が取りっぱぐれになったときは、役所の怠慢であり、被保険者または被保険者であった者に不利にならぬよう給付制限は行わないことになっています。
ちなみに空白に期間の扱いは、被保険者であった期間ではあるが納付していない期間とされます。障害年金や遺族年金などでは3分の2の保険料納付要件がありますが、これについて分母には計算されるものの、年金額の計算においては分子には参入されないというような扱いとなります。ただ、このあたりの問題はかなり細部の部分であり、必ず役所での確認が必要です。
協力義務に関する制限
年金たる保険給付は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その額の全部又は一部につき、その支給を停止することができる。(厚生年金法第77条)
- 受給権者が、正当な理由がなくて、第九十六条第一項の規定による命令に従わず、又は同項の規定による当該職員の質問に応じなかつたとき。
- 障害等級に該当する程度の障害の状態にあることにより、年金たる保険給付の受給権を有し、又は第四十四条第一項の規定によりその者について加算が行われている子が、正当な理由がなくて、第九十七条第一項の規定による命令に従わず、又は同項の規定による診断を拒んだとき。
- 前号に規定する者が、故意若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、その障害の回復を妨げたとき。
保険給付事務に関する制限
受給権者が、正当な理由がなくて、第九十八条第三項の規定による届出をせず、又は書類その他の物件を提出しないときは、保険給付の支払を一時差し止めることができる。(厚生年金法第78条)
※解説・・・最後の2つは読んで字のごとくですが、定められた手続はきちんと踏んでいきましょうということです。