年金制度は、事実婚の妻を遺族年金の対象にするなど先進的な面がある一方で、古臭い考え方も今の時代までスライドしてきています。その一つが遺族年金の夫と妻の受給要件の違いです。
遺族年金から見た年金の夫婦像
遺族年金は、国民年金が遺族基礎年金、厚生年金が遺族厚生年金ですが、それぞれ受給要件は違えど、根本に流れている基本精神は共通しています。
それは、「夫は一家の大黒柱として家族を養うもの」「妻は専業主婦。夫に守られる存在」ということです。例え話として、夫婦で子供なしのケースと、夫婦と子供一人のケースで遺族年金の受給要件を見てみます。
夫婦と中学生の子供1人。夫が受け取る遺族年金は?
夫婦と中学生の子供1人。体の弱い夫のために妻が働き家計を支えています。そして不幸にも妻が亡くなり夫と子供だけに。さて遺族年金は?
まず、国民年金の遺族基礎年金は子供が受給権を取得しますが、父と同居しているために支給停止です。そして、厚生年金については子供に対して遺族厚生年金の権利が発生します。ただし、18歳までです。
夫婦のみで子供なし。夫が受け取る遺族年金は?
同じく体の弱い夫と、家計を支える妻。妻が亡くなった場合、遺族厚生年金は、夫が55歳未満の場合には権利が発生しませんので何ももらえません。
夫が55歳以上60歳未満の時は、遺族厚生年金の権利は発生しますが、60歳まで支給停止で60歳からの支給となります。
夫が60歳以上のときは、すぐに遺族厚生年金が支給されます。
妻がもらう側なら遺族年金は?
まず国民年金の方の遺族基礎年金は、そもそもの受給要件が「子のある妻、または子」です。その上に子が受給権を持つ時には「子の父若しくは母があるときは支給停止」となっています。つまり夫に遺族基礎年金を支給するという発想はそもそも無いのです。
そして、厚生年金の遺族厚生年金は、夫に対しては55歳など年齢の要件がありましたが、原則妻に対しては年齢要件はありません。(30歳未満の妻に対する遺族厚生年金は、5年間の有期給付)
男性に辛い時代
昔は当たり前だった「夫1人で一家を支えていく」ということも、いまでは正社員になるのも難しく、そのため収入も限られてきています。しかもパートや派遣、請負といった働き方においては身分も不安定で、いつ誰がリストラされるかもわかりません。
もはや、昔のような「男性は一つの会社で正社員として働き続け、一家を支え続ける」という労働スタイルを前提とした各種要件は、今の時代には適応していないのではないかと思います。
今は、40歳でも職探しが厳しい世の中だというのに、なぜ夫は55歳以上でないと、遺族年金の受給権すら発生しないのでしょうか。リストラされてなかなか職に就けない夫にも遺族厚生年金は支給してもらえないのでしょうか。
また、父子家庭には遺族基礎年金が実質的に支給されないのはどうしてでしょうか。夫婦共働きによって何とか生活していけるような人はこれからますます増えると思うのですが、夫にも遺族基礎年金を支給できるようにしないと、子供の格差にもつながりかねないと思うのですが・・・
確かに女性のほうが男性よりも就職しにくい現実はあります。しかし、昔ほど男性が容易に職に就ける環境にないのですから、たまには良い方(現在の妻の受給要件)に合わせることも、年金の信頼回復のためには必要な取り組みではないでしょうか。