年金未納者問題は、本当のところ年金財政にどのような影響を与えているのでしょうか?
年金未納を「現在」という視点でとらえると、国民年金の未納者が増えることで年金収支は悪化する・・・1人当りの基礎年金拠出金の増加により、厚生年金など被用者年金制度の収支が悪化(積立金の減少)することになります。
しかし、「将来」という視点で見ると、年金未納が多いほど未納期間分の年金給付は少なくなります。
このことは、第24回経済財政諮問会議(平成19年10月25日)資料の「年金制度をめぐる課題」(PDFファイル)21ページに図示されています。
本当は・・・未納が多いと年金財政が助かる?
国民年金(老齢)について個別の生涯収支でみてみると、拠出を給付が上回るしくみとなっています。保険料がざっくり14,000円、年金もざっくりと年間80万円とすると、保険料総額が40年×14,000円=560万円。もらえる年金額は80万円×20年(65歳から85歳までとして)=1,600万円(15年で計算しても1,200万円)。多少数字を変えたところで名目上の収支(総額)がプラスになることに変わりはありません。
このように、そもそもの約束している年金額は、国庫負担がなければ維持できない水準となっているのです。さらに、保険料の負担に比べて給付が上回る要因としては、次のようなものが上げられます。
- 物価が上昇すれば、年金額も上昇する
- 現役世代の賃金が上昇すれば、年金額も上昇する(新規裁定者)
- 医療の発達などで寿命が延び、年金受給期間が延びる
これらにより、名目上の保険料負担金額から約束された年金水準をはるかに上回る年金給付となる可能性さえ秘めています。(年金額の上昇を抑制させる働きを持つマクロ経済スライドの話は省略します。)
・・・ということは、未納が解消し、全員が保険料を納めるようになれば、それだけ将来の年金財政が苦しくなる・・・と言えなくもありません。特に団塊ジュニア世代(一般に1970年~1974年生まれ)の先頭が年金生活を開始する2035年には人口構成的にも大変なことになります。高齢化率は30%を超えると予想されていますし、2040年には約35%になるとされています。
収支が厳しい時には積立金を取り崩して・・・といいますが、積立金の約半分が不良債権と化している「年金のウソ―隠される積立金147兆円」といった話や、株式・債権等運用による損失も懸念されるところですので、気持ち心もとないところもあります。
未納者数は全体の5%
未加入者・未納者の公的年金加入対象者全体(すなわち基礎年金の加入者)に占める割合は5%程度です。
また、保険料で見てみると、2005年度の第1号被保険者の人数は2,157万人なので、国民年金保険料13,580円×12月=35,150億円。第1号被保険者保険料納付実績値が19,480億円なので、保険料が納められていない分は15,670億円(この中には免除されている分もありますので、粗未納額とします)です。よって、粗未納額は44.6%。
これ(粗未納額15,670億円)を、公的年金保険料収入総額(263,242億円)で割ると、5,9%。
免除や半額免除等も含めて計算すると・・・国民年金の納付率は67.1%(実際に納付された保険料を第1号被保険者が本来納めるべき保険料で割ったもの)なので、その反対にあたる32.9%が未納率。さらに、未納額が公的年金全体に占める割合は・・・
※「年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)150ページ」には2003年度の詳しい計算が掲載されております。免除等を抜いた真の未納額(2003年度10,978億円)を公的年金保険料収入総額(2003年度273,157億円)で割り、4.0%になるとの結果が出ています。
いずれにしろ計算対象の組み合わせ次第で大きな数字が出てきます(25歳から29歳までの未納率が44.5%。免除・納付猶予者を含めると全体でも半分近くになる等)が、少なくとも未納問題が公的年金制度全体を脅かすとまでは言えないと思われます。
社会保険方式vs税方式
経済財政諮問会議で提出された図表・・・従来国は未納による損失、年金制度への影響など比較的ネガティブなメッセージを伝えてきました。しかし、長期的財政面だけの話とはいえ、このたび「未納が問題ない」というメッセージを発したことは驚きでした。
これは、公的年金の基礎年金税方式化によるメリットとされる未納問題の解消という話に対し、元々未納問題が年金制度の持続に与える影響は限定的だということを示すためのもので、どうやら社会保険方式を堅持したいとする姿勢が感じ取れます。
※社会保険料・・・年金の掛け金は、財務省を通さない特別会計で管理されます。その使われ方は、一般会計とは違い国会のチェックも働かないため、無駄使いや流用が行なわれやすい・・・厚生省(年金官僚)にとっての利権(年金教育に使えるなど、まだ拡大解釈の余地を残している)・・・社会保険方式を堅持したいとする裏側の理由(あくまで私見)。
われわれの掛け金を食い散らす年金官僚たちがいる!「少子・高齢化で年金崩壊」のウソを暴き(帯)・・・オススメ図書「年金大崩壊」(岩瀬達哉氏著:講談社) 頭に血がのぼりやすい方・心臓の強くない方は読まないほうが良いです。
本人が損をする未納は、年金不信への意思表示
宙に浮いた年金記録・消えた年金問題と進みの遅い事後処理、不正免除問題、保険料の無駄使いなどの年金への不信。それに、国民年金と厚生年金の年金給付格差、第3号被保険者、世代間格差、国民年金と厚生年金で異なる遺族年金の対象範囲など年金の不公平。
これら年金に対するそれぞれの立場で感じる怒りが、「未納」という行為になって表れているのではないでしょうか。
なにしろ未納は「町会費」や「給食費」未納などタダ乗り行為とは違い、本人が損をする行為です。(「未納は損」ということへの理解不足の場合、国による年金の教育機会や説明責任の問題。)。ある意味自分を犠牲にしての意思表明でもあります。
未納対策の強化もよいのですが、不信・不公平に対する不満の解消もしっかり取組んでいただきたいところです。