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特権的な「市議年金」の年金額

『市議年金2012年にも破綻』
公費投入過去10年で1100億円
大合併で受給者増
(2008年12月26日読売新聞1面より)

『市議年金岐路』
現役から「廃止」の声
存続には税負担増
(2009年2月13日読売新聞「スキャナー」より)

全国の「市」と「東京23区」の議員が加入する『市議年金』が、数年で破たんの見通し・・・

参考:市議会議員共済会の積立金の推移

市議年金共済会の積立金の様子

直近では平成18年にも改正を行ったにも関わらず、これほど急激な財政悪化をもたらした原因としては、「市町村合併が大規模かつ急速に進展したこと」「行政改革に連動した議員定数・議員報酬の削減」(地方議会議員年金制度に関する研究会報告書(平成21年2月)http://www.nactva.gr.jp/resource/topics_files/20090204144313.pdf 1ページ「はじめに」より)が上げられています。

参考:市議年金の現役会員数と年金受給者(退職年金と遺族年金)の推移

市議年金の年金受給者と現役世代の推移

もちろん、このような要因は大きいです。

しかし、市議年金で支給されている年金額(退職年金額、以下同じ。)及びその支給要件を見ると、そもそも市議年金の存在自体が特権的であり時代にそぐわないものであるようにも思えます。

市議年金の支給要件の概要

市議年金は、次の要件を満たした場合に支給されます。

  • 議員を退職した者
  • 議員の在職期間が12年以上
  • 65歳以上(55歳~64歳までの経過措置あり)

在職3年以上12年未満の場合は退職一時金の支給です。

年金額の計算方法

市議年金の計算式の原則は下記一番上の式になりますが、財産権などの関係から、古い世代の年金が比較的守られる一方で、新たに年金受給者になる人ほど不利な仕組みとなっています。

平均標準報酬年額は、退職日の属する月以前12年間の掛け金の基礎となった標準報酬月額の総額を12で割った金額です。

【平成19年4月1日以降の在職期間しかない者】
平均標準報酬年額×{35/150+0.7/150×(在職年数-12年)}

【平成19年3月31日以前の在職期間を有する者】
平均標準報酬年額×{36/150+0.72/150×(在職年数-12年)}

【平成15年4月1日以降平成19年3月31日までの間に
給付事由を生じた既裁定者】
平均標準報酬年額×{40.5/150+0.81/150×(在職年数-12年)}

【平成15年3月31日以前に給付事由を生じた既裁定者】
平均標準報酬年額×{45/150+0.9/150×(在職年数-12年)}

市議年金の年金額早見表(在職期間12年の場合)

在職期間12年の場合の市議年金の年金額早見表
標準報酬
月額
(1)~平成15.3
既裁(45/150)
(2)平成15.4~19.3
既裁(40.5/150)
(3)~平成19.3
在(36.0/150)
(4)平成19.4~
(35.0/150)
160,000円576,000円518,400円460,800円448,000円
170,000円612,000円550,800円489,600円476,000円
180,000円648,000円583,200円518,400円504,000円
190,000円684,000円615,600円547,200円532,000円
200,000円720,000円648,000円576,000円560,000円
210,000円756,000円680,400円604,800円588,000円
220,000円792,000円712,800円633,600円616,000円
230,000円828,000円745,200円662,400円644,000円
240,000円864,000円777,600円691,200円672,000円
250,000円900,000円810,000円720,000円700,000円
260,000円936,000円842,400円748,800円728,000円
270,000円972,000円874,800円777,600円756,000円
280,000円1,008,000円907,200円806,400円784,000円
290,000円1,044,000円939,600円835,200円812,000円
300,000円1,080,000円972,000円864,000円840,000円
310,000円1,116,000円1,004,400円892,800円868,000円
320,000円1,152,000円1,036,800円921,600円896,000円
330,000円1,188,000円1,069,200円950,400円924,000円
340,000円1,224,000円1,101,600円979,200円952,000円
350,000円1,260,000円1,134,000円1,008,000円980,000円
360,000円1,296,000円1,166,400円1,036,000円1,008,000円
370,000円1,332,000円1,198,800円1,065,600円1,036,000円
380,000円1,368,000円1,231,200円1,094,400円1,064,000円
390,000円1,404,000円1,263,600円1,123,200円1,092,000円
400,000円1,440,000円1,296,000円1,152,000円1,120,000円
410,000円1,476,000円1,328,400円1,180,800円1,148,000円
420,000円1,512,000円1,360,800円1,209,600円1,176,000円
430,000円1,548,000円1,393,200円1,238,400円1,204,000円
440,000円1,584,000円1,425,600円1,267,200円1,232,000円
450,000円1,620,000円1,458,000円1,296,000円1,260,000円
460,000円1,656,000円1,490,400円1,324,800円1,288,000円
470,000円1,692,000円1,522,800円1,353,600円1,316,000円
480,000円1,728,000円1,555,200円1,382,400円1,344,000円
490,000円1,764,000円1,587,600円1,411,200円1,372,000円
500,000円1,800,000円1,620,000円1,440,000円1,400,000円
510,000円1,836,000円1,652,400円1,468,800円1,428,000円
520,000円1,872,000円1,684,800円1,497,600円1,456,000円
530,000円1,908,000円1,717,200円1,526,400円1,484,000円
540,000円1,944,000円1,749,600円1,555,200円1,512,000円
550,000円1,980,000円1,782,000円1,584,000円1,540,000円
560,000円2,016,000円1,814,400円1,612,800円1,568,000円
570,000円2,052,000円1,846,800円1,641,600円1,596,000円
580,000円2,088,000円1,879,200円1,670,400円1,624,000円
590,000円2,124,000円1,911,600円1,699,200円1,652,000円
600,000円2,160,000円1,944,000円1,728,000円1,680,000円
610,000円2,196,000円1,976,400円1,756,800円1,708,000円
620,000円2,232,000円2,008,800円1,785,600円1,736,000円
(1)平成15年3月31日以前に給付事由を生じた既裁定者…平均標準報酬年額×{45/150} (2)平成15年4月1日以降平成19年3月31日までの間に給付事由を生じた既裁定者…平均標準報酬年額×{40.5/150} (3)平成19年3月31日以前の在職期間を有する者…平均標準報酬年額×{36/150} (4)平成19年4月1日以降の在職期間しかない者…平均標準報酬年額×{35/150}
表の年金額は市議年金の退職年金が支給される最低基準の12年での金額であり、 12年以上議員をしているものについては上限30年までは先述計算式の通り、さらに多くの年金額となる。

例えば12年間を通して平均的な標準報酬月額(ほぼ月収)は50万円だとすれば、すでに年金を受給している人のうち多い人(1列目の人)で180万円、間もなく年金を受給するような人(3列目の人)は144万円の年金がもらえるわけです。

なお、市議年金の掛金率の推移は次の通りです。

  • 昭和37年12月1日~昭和40年5月31日=5/100
  • 昭和40年6月1日~昭和47年3月31日=7/100
  • 昭和47年4月1日~昭和50年3月31日=9/100
  • 昭和50年4月1日~昭和53年11月30日=9.5/100
  • 昭和53年12月1日~昭和62年3月31日=10/100
  • 昭和62年4月1日~平成7年3月31日=10.5/100
  • 平成7年4月1日~平成15年3月31日=11/100
  • 平成15年4月1日~平成19年3月31日=13/100
  • 平成19年4月1日~平成20年3月31日=14.5/100
  • 平成20年4月1日以降=16/100

厚生年金と変わらないような負担率。しかも12年という短い期間で表のような多額の年金が受給できるのです。(厚生年金の保険料の方は半分は事業主負担。しかし、形式的には折半負担だが、実質的には厚生年金の保険料の全額を本人が負担しているという考え方もある。)

名より実を取る年金減額逃れの議員辞職

平成19年(2007年)3月。
全国各地の市議会議員のうち、平成19年4月までの任期であった引退予定の議員の一部(?)が、1ヶ月早い3月末において議員辞職する珍現象が起こりました。そのワケというのが、平成19年4月からのの12.5%の年金減額でした。(早見表でいうと2列目になるか3列目になるかという違いがあるため、1ヶ月分の報酬を捨ててでも年金減額を防ぐ方が得との判断があった。)

● 平成19年(2007年)4月3日神奈川新聞

【任期満了前に7人”駆け込み”辞職、議員年金の減額逃れか】

『統一地方選を前に引退を表明している相模原市議会(定数49)の市議7人が、任期満了前の3月末で辞職していたことが2日、神奈川新聞の調査で分かった。法改正で4月から退職年金(議員年金)の給付水準が引き下げられたため、減額逃れを狙った“駆け込み”辞職と認める元議員もおり、市民からは批判の声が上がっている。(略)同市議会事務局の試算では、7人に支給される退職年金は年額約201~265万円。任期満了後だと約179~236万円で、年間平均約24万円が減額される計算だった。(略)副議長経験者は「名誉より実を取ったということ」と、年金の減額”回避”が理由と認めた。一方で、引退を表明したものの辞職していないある市議は「辞職も考えたが、市民の信託を受けている以上、最後までやり通すのが議員の使命」と話した。』

● 平成19年(2007年)4月12日西日本新聞

『統一地方選で行われる市町村議選に出馬せず引退する九州の地方議員の中に、今月末の任期満了を待たず、3月中に辞職した議員が22市町村で65人いることが、西日本新聞の調べで11日、分かった。地方議員の年金制度改正で、4月以降の辞職は年金と退職一時金が減額されるため、大半の議員がこれを避けようと駆け込みでバッジを外したとみられる。』

選挙で投票した人もがっかりでしょう。

現役の市議会議員にも廃止等の声

読売新聞2009年2月13日より

『国民の年金も大変厳しい。国に負担を求めることが正しい選択なのか』(北海道富良野市議会議長)

『安定した継続ができればよいが無理』(宇都宮市議長)

『支持者から特権的だといわれ、制度自体が迷惑』『(在職12年で得られる受給資格について)議員が議席に執着する要因』(埼玉県和光市市議)

『議員活動はあくまでボランティア。年金などで将来の生活が保証されないと議員にならないというのではおかしい』(地方議員を職業のようにとらえる考え方について福島県矢祭町町議)

『先進国で地方議員に年金制度があるのは米英独の一部大都市に限られ、人口規模を問わず一律に制度化しているのは世界でも類例がない』(立正大学渡部記安教授・社会保障論)

読売新聞2008年12月26日より

『雇用対策など自治体がやるべきことが数多くある中で、議員年金に税金をさらにつぎ込むことは疑問だ』(一橋大学高山憲之教授・公共経済学)

ネットで議員だよりを公開している長野県安曇野市市議さんのPDFファイルから
http://www.childnet.ne.jp/junko/pdf/tanemaki25.pdf

『03年からは、掛金率増、特別掛金率増、公費負担率増、給付削減等の制度改正が実施されました。これを避けようと同年の統一地方選(任期満了)前の3月に「駆け込み辞職」する地方議員が各地で現れ批判の的となりました。

地方議員年金については、短い加入期間で受給資格が得られる、公費(税金)負担率が高い、他の年金と併給できるなど、特権的な扱いはなしにすべきです。破たんする前にキチンと整理して、「廃止」にしたらどうでしょうか。』

「廃止」でも莫大な公費負担が・・・

先の地方議会議員年金制度に関する研究会報告書(平成21年2月)には、平成22年度末をもって議員年金制度(都道府県議会議員共済会・市議会議員共済会・町村議会議員共済会)を廃止にした場合の財政負担額の試算が記されていて、それによると「年金受給者が年金給付を選択し、その他の者が一時金給付を選択した場合」では、

  • 都道府県議会議員共済会=925億円
  • 市議会議員共済会=9683億円
  • 町村議会議員共済会=2830億円

の財政負担(公費負担)が必要になるとのことです。

国会議員の年金廃止の際もそうだったように、たとえ制度がなくなっても保険料を掛ける人が居なくなるだけで、すでに得られた既得権(受給権…一時金・年金給付)はなくないのです。

しかし、現役1人で3人の年金受給者を支える現状、廃止は難しいからと自転車操業をズルズル継続していれば公費負担総額は増えるばかり。

国民年金や厚生年金のこれまでの改悪度合いを考えると、市議年金の改正はまだまだ足りるとは思えないですし、もし存続するのなら厚生年金と同じくらいの水準でもよいのでは?とも思うのですが・・・

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