現在、国民年金の保険料は2年を経過すると納付することができなくなる仕組みになっていますが、
社会保障審議会年金部会ではその見直しが検討されています。(平成20年11月27日中間整理[年金制度の将来的な見直しに向けて]の項目4の2年の時効を超えて保険料を納めることのできる仕組みの導入を参照。)
現在でも、国民年金保険料の免除・納付猶予にかかる『追納』のしくみにおいては10年前までの遡り納付が可能ですが、考え方としてはその追納の仕組みを取り入れたもので、事後納付を認める期間に関しては次のような3つの案が浮上しています。
- 1.10年程度・・・現行の免除期間にかかる保険料追納期間が10年であることや、国民年金の強制加入終了60歳時点から任意加入制度に最大10年加入できることとの均衡を考慮。
- 2.5年程度・・・時代時代で支払われる高齢者への年金給付は、その時代に支払われた現役世代の保険料で賄うという賦課方式の考え方(世代間扶養)からすると、事後納付期間を長期化させることは適当ではない。また、納付額が著しく多額とならないようにするためには5年程度が相当。
- 3.当初5年間限定で、保険料軽減支援制度(低年金・低所得者対策の新たな案)の導入と併せて事後納付の期間を10年間に拡大・・・保険料軽減支援制度が導入されれば、2の懸案の納付額が多額になる問題がある程度改善できる。
現行の追納制度における国民年金保険料の支払額
国民年金の保険料の免除や納付猶予制度を利用した場合の『追納の仕組み』は、過去2年間を過ぎた過去10年までの期間について加算が行われ、通常納付よりも多くの金額を納付する必要があります。
次の表は、平成20年度中に国民年金保険料を追納した場合に、その追納保険料額や実際の納付額がどのようになるかを一覧にしたものです。
平成20年度中に追納した場合の追納保険料額・追納加算率 | |||
---|---|---|---|
免除期間(年度) | 保険料額(当時) | 追納額 | 追納加算率(加算額) |
平成10年度 | 13,300円 | 16,590円 | 24.7%(3,290円) |
平成11年度 | 13,300円 | 15,950円 | 19.9%(2,650円) |
平成12年度 | 13,300円 | 15,320円 | 15.2%(2,020円) |
平成13年度 | 13,300円 | 14,740円 | 10.8%(1,440円) |
平成14年度 | 13,300円 | 14,180円 | 6.6%(880円) |
平成15年度 | 13,300円 | 13,970円 | 5.0%(670円) |
平成16年度 | 13,300円 | 13,770円 | 3.5%(470円) |
平成17年度 | 13,580円 | 13,810円 | 1.7%(230円) |
平成18年度 | 13.860円 | 13.860円 | - |
平成19年度 | 14,100円 | 14,100円 | - |
追納保険料額=当時の月額+追納加算額(当時の月額×追納加算率)
追納保険料額の10円未満の端数処理:5円以上10円に切り上げ、5円未満切り捨て |
この追納の加算率は、従来年金積立金の運用利回りを使っていたのですが、平成17年4月からは『10年ものの新規発行国債の表面利率』を踏まえたものに引き下げられました。
なお、表を見て混乱しそうな注意点として、平成17年度からの国民年金保険料の段階的な引き上げがあります。これは、平成17年度から毎年280円(実際には280円が年度によって前後することがある。)を引き上げつつ平成29年度に16,900円で固定させるというもので、そのため現年度(平成20年度の国民年金保険料14,410円)に支払う国民年金保険料よりも、例えば「平成16年度の追納保険料額1月分13,770円の方が安い」というような逆転現象も生じます。
2年を超えた遡り納付の保険料支払総額シミュレーション
上記のように、2年の時効後も国民年金保険料を納付できるようにした場合には一定の加算が行われるわけですが、ここではまとまった期間の後納付のケースを考えるため保険料支払い総額シミュレーションを見てみます。(社会保障審議会年金部会で示されたもの。スペースの都合上40年前はカット。)
\ | 5年前 | 10年前 | 15年前 | 20年前 | 25年前 | 45年前 |
1月分 | 15,800円 | 17,200円 | 18,700円 | 20,300円 | 22,100円 | 31,000円 |
1年分 | 189,300円 | 206,000円 | 224,100円 | 243,800円 | 265,200円 | 371,600円 |
5年分 | 918,600円 | 996,100円 | 1,083,700円 | 1,179,000円 | 1,282,600円 | 1,796,900円 |
10年分 | - | 1,914,600円 | 2,079,700円 | 2,262,600円 | 2,461,600円 | 3,448,600円 |
15年分 | - | - | 2,998,300円 | 3,258,700円 | 3,545,300円 | 4,966,700円 |
20年分 | - | - | - | 4,177,300円 | 4,541,400円 | 6,362,200円 |
【積算の前提】
国民年金保険料が将来に向かって月額15,000円と仮定し、かつ、後納するに際し保険料に乗じる加算率について、現行の免除期間等に係る追納制度の加算率1.7%(前年に発行された10年国債の表面金利の平均)を用いて計算。 |
例えば60歳時点において保険料を後納する場合、55歳からの5年分で90万円、50歳からの10年分だと190万円もの支払総額となります。過去に遡るほど加算率(加算額)が大きくなるため、積算するとより大きな違いとなるのです。
後納の恩恵は高所得者に限る?
近年、国民年金保険料の納付率の推移(年齢別)を見ると若い人の納付率低下が顕著で、特に免除等も未納に含めた「実質納付率」はより厳しいものとなっているのですが、若者に増えている非正規雇用者もしくは無職となっている人たち(未納・免除者等)が将来保険料をまとめて支払えるように状況が好転するとは思えず、活用するとすれば、おそらくは「あと数ヶ月で受給資格期間(25年ルール)」という動機の場合に限定されるような気がします。
もし今「2年の時効を超えて国民年金保険料を納めることのできる仕組み」が導入されたとしても、それを十分に使えるのは現時点での中高齢者のうちの一部の高所得者のみというのが実際のところではないでしょうか。
もっとも、「他の社会保険制度との均衡」「納付意欲の低下」「債券管理事務の増大」などの課題も多く、この仕組みが実現する可能性はかなり低いものと思われます。