国民年金の遺族給付は、18歳未満の子供の存在が主となる遺族基礎年金です。どんな時に遺族基礎年金が支給され、その年金額はいくらなのか、どうしたら支給停止になってしまうかなどを、ご説明いたします。
国民年金の遺族基礎年金
国民年金の遺族給付は定額制です。老齢基礎年金が年金の基礎部分として存在するのと同じように、国民年金だけの人は遺族基礎年金だけが支給され、厚生年金から遺族厚生年金が支給される人は、1階が国民年金の遺族基礎年金、2階が厚生年金の遺族厚生年金を支給というように、2階建てで遺族年金が支給されることになります。
遺族基礎年金の支給要件
国民年金の遺族基礎年金は、夫に対しては支給されません。子供のいる妻、または子供のどちらかが支給対象ですが、それには次の2つのどちらの要件も満たしていなければなりません。
【 死亡する人の要件 (次のいずれかを満たす必要あり) 】
- 被保険者
- 被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満のもの。
- 老齢基礎年金の受給権者
- 老齢基礎年金の受給資格期間を満たしているもの
1は、国民年金の第1号被保険者(自営業、無職等)、第2号被保険者(会社員、公務員等)、第3号被保険者(専業主婦等)いずれかであればいいということで、言い換えれば現役の人です。2は、元1の人たちで、国民年金の強制加入被保険者を抜ける60歳から年金をもらい始める65歳までの空白期間です。2の人たちは、受給資格期間の25年を満たす必要はなく、保険料納付済期間さえ満たしていれば要件を満たします。
3は、年金をもらっている人ですが、なかなか想定しづらいです。というのも、通常は65歳以上ですから、その人たちに18歳未満の子供がいるという設定だからです。4は、国民年金の受給資格期間25年を満たしている人たちで、65歳には達していない人です。海外にいても問題ありません。
【 保険料納付要件 】
ここは障害基礎年金と同じです。死亡日において被保険者(上記1番)または被保険者であった者(上記2番)は、死亡日の前日において死亡日の属する月の前々月までに被保険者があるときは、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が、その被保険者期間の3分の2以上を満たしていることが必要です。
「被保険者があるときは」といっていますので、被保険者になってすぐになくなった場合などは保険料納付済期間は問われません。ここを言い換えれば、3分の1を超えて滞納していてはダメですよということです。また、国民年金の老齢基礎年金の受給資格期間を見る時に使用する「合算対象期間」はここでは使えません。
【 保険料納付要件(特例) 】
上記保険料納付要件を満たせない場合でも、過去1年に未納・滞納がなければ保険料納付済期間を満たすものとしてくれます。たとえば、40歳まで国民年金保険料を未納していた人が、国民年金の第1号被保険者として1年間保険料を納める、または会社員になり厚生年金保険料を1年間納める、このような場合で亡くなったとしても、過去1年間の保険料実績があるので、その他の要件が整えば遺族基礎年金が支給されます。もちろん免除期間で1年でも大丈夫です。
条文的にいえば、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間(当該死亡日において被保険者でなかったものについては、当該死亡日の属する月の前々月以前における直近の被保険者期間にかかる月までの1年間)に保険料納付済期間および保険料免除期間以外の被保険者期間がない(滞納期間がない)場合は、保険料納付要件をみたしたこととされる。
わかりにくいカッコ内を解説すると、例えば国内で国民年金第1号被保険者だった人が、海外に行き任意加入被保険者にならない場合、国民年金に入っていた直近の期間を1年さかのぼって要件を見るということです。
以上、保険料納付要件の特例を見てきましたが、死亡日において65歳以上である人は、この特例は使えません。
遺族基礎年金をもらえる遺族とは?
国民年金の遺族給付、遺族基礎年金を受けることができる遺族は、被保険者または被保険者であった者(=被保険者等)の、子のある妻、または子であり、被保険者等の死亡当時、その者に生計を維持され、次の要件を満たしている必要があります。
【 子 】
子については、被保険者等(父または母)の死亡の当時18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満であって障害等級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。つまり、高校卒業前の子です。
【 妻 】
妻については、被保険者等(夫)の死亡の当時、そのものによって生計維持されていたその者(夫)の子と生計を同じくすること。ここでいう子は夫の連れ子、いわゆる継子でも遺族基礎年金は支給されます。
なお、考え方として、原則はあくまで子供に支給するのが遺族基礎年金の基本精神です。国民年金の遺族基礎年金は、子供に出すけれど保護者があるのならば保護者に出すという性質のものです。ですので、子のない妻には支給されません。
では、被保険者等(夫)の死亡の当時、胎児であった子が生まれた時はどうなるか。その時は、その子は将来に向かって、生まれたときから被保険者等の死亡当時、そのものによって生計を維持していたものとみなし、妻は、当該被保険者等の死亡の当時、その子と生計を同じくしていたものとみなされます。仮に夫死亡が3月で、5月に子供が生まれたら、妻は5月から子のある妻として扱われます。
●内縁の妻の場合は?遺族基礎年金の対象となる可能性があります。
●夫が死亡した場合の妻の連れ子(夫と養子縁組していない場合)は?遺族基礎年金を受けることのできる遺族にはなりません。●ここでいう生計維持とは?被保険者等の死亡当時、その者と生計を同じくし、かつ、年間850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められるもの以外をいいます。
遺族基礎年金の裁定請求
遺族基礎年金は、「国民年金遺族基礎年金裁定請求書」を市区町村または社会保険事務所に提出することによって裁定請求を行ないます。
遺族基礎年金の年金額は?
遺族基礎年金は国民年金の給付ですので、収入等は関係なく、子供の人数によってのみ年金額が変化します。子供の数と年金額の関係は次の通りです。(平成19年度)
子のある妻に支給される年金額
- 1人のとき 1,020,000円
- 2人のとき 1,247,900円
- 3人以上は1人につき75,900円を加算
子のみに支給される年金額
- 1人のとき 792,100円
- 2人のとき 1,020,000円
- 3人以上は1人につき75,900円を加算
遺族基礎年金の土台は、国民年金の老齢基礎年金の満額と同じ金額の792,100円です。そこに子供の人数による加算が行われるため、妻に支給する遺族基礎年金には、必ず子の加算が入ります。
●子供が複数で、子供が遺族基礎年金を受給する場合は?この場合は上記方法によって総額を計算し、子供の人数の頭数で割り、均等に支給することになっています。子供が3人の場合は、遺族基礎年金は1,095,900円になりますので、3で割ると365,300円。これが子1人当りの額となります。
遺族基礎年金の年金額の改定
遺族基礎年金の取得後、加算の対象となる子供が次の要件に該当したために子の数に変動が生じたときは、その増減した日の属する月の翌月から年金額が改定されます。
なお、増額事由は、妻が遺族基礎年金の受給権を取得した当時、胎児であった子が生まれた時だけですので、次にあげるものは減額改定事由となります。また、子供がいずれもいなくなれば減額ではなく失権ですので、ここでは1人は必ず減額改定事由に該当しないものとします。
【 遺族基礎年金の加算額の改定事由 】
- 死亡したとき
- 婚姻をしたとき(事実婚を含む)
- 妻以外のものの養子(事実上の養子を含む)となった時
- 離縁により、死亡した被保険者等の子でなくなった時
- 妻(子にとっての母)と生計を同じくしなくなった時
- 18歳達した日以後、最初の3月31日が終了した時
- 障害等級に該当していた子が、該当しなくなった時
- 20歳に達した時
3は、祖父母の養子になるなど。6は、障害等級に該当する場合を除きます。7は、18歳未満到達年度以内を除きます。
遺族基礎年金が支給停止になるとき
【 遺族補償による遺族基礎年金の支給停止 】
遺族基礎年金は、被保険者等の死亡について、労働基準法の規定による遺族補償が行われる時は、死亡日から6年間、その支給は停止される。なお、労災の遺族補償年金の場合ならば遺族基礎年金とは併給で、削られるのは遺族基礎年金ではなく、労災側の遺族補償年金のほうです。
【 子供に対する遺族基礎年金の支給停止 】
子供に対する遺族基礎年金は、次のどちらかに該当したときに支給を停止するとされています
- 妻(子供から見れば母)が遺族基礎年金の受給権を有する時
- 生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき
1は、労災の遺族補償年金のように、受給権がまわってくるということはなく、妻と子の両方に受給権が発生します。そして、その場合は子に対して支給を停止するのです。「生活のために節約したり、きちんとお金を使えないでしょ」ということでしょうか。支給停止になるからといって、妻と子の遺族基礎年金の合計支給額自体は変わりありません。
また、子の規定により、夫には遺族基礎年金が出ないことが分かります。子に対して遺族基礎年金の受給権が発生しても、夫(子に対しては父)がいることで、遺族基礎年金は支給停止になるからです。これが妻(子に対しては母)ならば、妻に遺族基礎年金が支給されることになります。
【 所在不明による遺族基礎年金の支給停止 】
- 妻に対する遺族基礎年金は、妻の所在が1年以上明らかでない時は、受給権を有する子の申請によって、所在が明らかでなくなった時にさかのぼって支給停止されます。そして、妻はいつでもその支給停止の解除を申請することができます。
- 遺族基礎年金の受給権者である子が2人以上いる場合で、その子のうち1人以上の子の所在が1年以上明らかでない時は他の子の申請によって、その所在が明らかになった時にさかのぼって支給停止されます。そして、遺族基礎年金の支給を停止された子は、いつでもその支給停止の解除を申請することができます。遺族基礎年金の支給が停止され、またはその停止が解除された場合は、支給が停止され、または解除された日の属する月の翌月から遺族基礎年金の額が改定されます。
1は、夫が亡くなったときに妻が蒸発をしていた場合など、戸籍上は妻が存在するが事実上はいないケースです。子の申請によって、さかのぼって妻の遺族基礎年金が支給停止され、子に対してはさかのぼって遺族基礎年金が支給されることになります。2は、1と同様の考え方で、複数の子供だけが受給権者のケースです。
遺族基礎年金の失権
【 妻の遺族基礎年金失権事由 】
- 死亡した時
- 婚姻(事実婚を含みます)をしたとき
- 養子(事実上の養子を含みます)となったとき(祖父母など、直系血族、直系姻族の養子になる場合を除きます)
- すべての子が遺族基礎年金の減額改定事由に該当するとき
3は、直系血族、直系姻族の養子になるときは支給停止、4は、子のある妻の「子」がいなくなってしまうことになりますので遺族基礎年金を失権します。
【 子供の遺族基礎年金失権事由 】
- 死亡した時
- 婚姻(事実婚を含みます)をしたとき
- 養子(事実上の養子を含みます)となったとき(祖父母など、直系血族、直系姻族の養子になる場合を除きます)
- 離縁によって、死亡した被保険者等の子でなくなったとき
- 18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了した時(障害等級に該当する障害状態にあるときを除く)
- 障害等級に該当する障害状態にあったものが、その事情がやんだ時(18歳に達した日以後の最初の3月31日までの間にある者を除く)
- 20歳に達した時
5は、18歳到達年度前までに障害の状態になれば失権しません。
ここで一つ問題です。ここに、夫、妻、子供(中学生の男の子)の3人家族がおりました。不幸にも夫を事故で亡くし、遺族基礎年金が支給されることになるのですが、妻と子は一つ屋根の下で暮らしているので子は支給停止。妻に対して遺族基礎年金が支給。
そして、数ヵ月後、今度は妻が子を連れてAさんと再婚することになりました。すると、妻は遺族基礎年金の失権事由に該当しましたので、遺族基礎年金の受給権は消滅です。では、子の遺族基礎年金の支給停止は解除されるのでしょうか?
答えはNOです。それでもなお、妻(子にとっての母)と、再婚相手と同居しているからです。
では、さらに子は妻の再婚相手のAさんと養子縁組をしました。この場合、子供の遺族基礎年金は失権するのでしょうか。
答えはNOです。妻の再婚相手の養子になるということは、直系姻族の養子ということですから支給停止扱いに変わりはありません。
子が遺族基礎年金を受給するには、子が妻と再婚相手のAさん2人に対して生計を同じくしない必要があります。遺族基礎年金というものがもともと家計の屋台骨を亡くしたときの最低限の保障をするものですので。