※平成21年度の年金額は据え置きとなりました(=2008年の消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数)は2007年比1.4%の上昇にとどまったため、実質的には1.4%の目減り)
国民年金や厚生年金など公的年金の受給額は、基本的には生活水準を一定に保つために物価に連動する仕組みとなっています。(物価が上がれば年金受給額も上がり、物価が下がれば年金受給額も下がる・・・「年金スライド」)
2008年は原油高や穀物高による物価(急)上昇・・・2009年度(2009年4月~)の年金額はとりわけ物価に連動してほしいところですが、2009年度は次の2つの事情により最大で2.6%分の物価連動は行なわれない・・・つまり法律上は年金据置となることが決まっているのです。
- 「1.7%の特例」という過去のツケ
- 「マクロ経済スライド」という年金給付抑制システム
過去の物価上昇率と年金スライド率
公的年金は、毎年物価上昇率(全国消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数))の変化に応じて年金スライドが実施されますが、ここでは平成に入ってからの一定期間の「物価上昇率」「年金スライド率」を見てみます。(関連:物価上昇率の推移)
/ | 物価上昇率(年次) | 年金スライド率(年度) |
平成元(1989) | 2.3% | 「財政再計算」 |
平成2(1990) | 3.1% | 2.3% |
平成3(1991) | 3.3% | 3.1% |
平成4(1992)年 | 1.6% | 3.3% |
平成5(1993) | 1.3% | 1.6% |
平成6(1994) | 0.7% | 「財政再計算」 |
平成7(1995) | -0.1% | 0.7% |
平成8(1996) | 0.1% | 0.0% |
平成9(1997) | 1.8% | 0.0% |
平成10(1998) | 0.6% | 1.8% |
平成11(1999) | -0.3% | 「財政再計算」 |
平成12(2000) | -0.7% | 0.0% |
平成13(2001) | -0.7% | 0.0% |
平成14(2002) | -0.9% | 0.0% |
平成15(2003) | -0.3% | -0.9% |
平成16(2004) | 0.0% | -0.3% |
平成17(2005) | -0.3% | 0.0% |
平成18(2006) | 0.3% | -0.3% |
平成19(2007) | 0.0% | 0.0% |
※平成18(2006)年の物価上昇率は0.3とプラスでしたが2006年の賃金変動率がマイナスとなり、平成19(2007)年度の年金スライド率は0となりました。(平成16年(2004年)年金改正により、賃金変動率は5年ごとの年金額改定から毎年の年金額改定において勘案されるようになりました。ただし68歳以上の年金額改定は物価のみ勘案。)
「1.7%の特例」とは?
表の赤い字の箇所をご覧ください。
平成11年から平成13年まで物価上昇率がマイナスになっているにもかかわらず、平成12(2000)年度から平成14(2002)年度までの3年間においては、年金受給額を下げることなく据置(0%)としています。
これは、当時政府与党の政治的配慮によって、「特例」として年金額を据え置いたものですが、デフレにより予想以上に長い期間物価下落が続き、このままでは年金財政への影響も大きいということから3年間「1.7%」分で特例をストップすることとし、次年度(平成15年度)からは原則通り物価下落に応じて年金額を下げることとなりました。
そして、2004年の年金改正では平成17(2005)年度以降物価が上昇した時に「1.7%」分年金額の上昇を抑え、その特例分の解消をすることになりました。(負担がかからぬよう数年かけて積算での解消を想定し・・・)
しかし、平成19年(2007年)まで物価は上がることがなく、平成20年度の年金でもまだ0.1%の解消も行なわれない中で、平成20年に一気に物価上昇。「1.7%」分一気に解消が行なわれることが濃厚となったわけです。
「マクロ経済スライド」とダブルで2.6%も
日本人の長寿化(社会全体でみると年金給付費用の増大につながる)と少子化(具体的には、現役世代の年金加入者減少率の直近3年間平均をみる。)による年金財政を一定程度調整する必要から、物価上昇率が一定率(0.9%)まで年金額の引上げを行わないことが2004年改正で決まりました。計算例としては次のようになります。
- 物価上昇率が-1%=年金スライド率は-1%
- 物価上昇率が0%=年金スライド率は0%
- 物価上昇率が0.5%=年金スライド率は0%
- 物価上昇率が0.9%=年金スライド率は0%
- 物価上昇率が1.0%=年金スライド率は0.1%
- 物価上昇率が2.0%=年金スライド率は1.1%
このように、物価上昇率がプラス0%~0.9%までだと年金額のアップは見送られ、0.9%を超えると「-0.9%」をした分が年金額上昇分となります。(物価上昇率がマイナスの時には、この仕組みは何も影響しない)
そして、この仕組みは「1.7%の特例」の解消が済んだ後に実施される予定となっているのですが、もし単年で1.7%を超える物価上昇率となった場合には、同時にマクロ経済スライドが適用されることになりますので、「1.7%+0.9%=2.6%」という計算が成り立ちます。
つまり、2009(平成21)年度の年金については2008年(平成20年)の物価上昇率次第で最大2.6%分の年金が実質減額されることになるのです。
実質年金カットがなくても厳しい今の物価上昇
平成20年7月25日付け総務省統計局の「平成20年6月分全国消費者物価指数」によると、私たちの生活に密着したモノほど物価が上昇し、頻繁に買わないものほど物価上昇が低いか低下していることがわかります。
年金スライド率を決定するのは、全国消費者物価指数(生鮮食品を含む総合指数)ですが、この傾向を考えると、そもそも普通に物価上昇率(全国消費者物価指数)通りに年金受給額をアップさせても足りないくらいです。
次は、参考までに平成20年5月と6月の昨年同月比の一部品目の消費者物価指数(全国)を見てみます。
一部「食品」品目の昨年同月比の消費者物価指数(全国)
食品は購入する回数も多く、物価上昇が生活に与える影響は大です。ビスケットが5月前年比1.3%から6月前年比14.6%になるなど、平成20年後期にかけてさらに厳しい局面となりそうです。
/ | 平成20年5月 | 平成20年6月 |
スパゲティ | +32.2% | +33.2% |
チーズ | +27.7% | +27.3% |
チョコレート | +23.2% | +22.8% |
即席めん | +20.7% | +21.4% |
食用油 | +16.6% | +19.5% |
食パン | +12.0% | +18.5% |
落花生 | +12.2% | +15.2% |
小麦粉 | +11.0% | +14.9% |
ビスケット | +1.3% | +14.6% |
バター | +10.6% | +14.3% |
よく行くドンキ・ホーテで、ここ数年常時98円均一だったカップラーメンが128円均一となっている・・・100円ショップで買えるサラダドレッシングの種類が半減している・・・などなど食品に関しては物価上昇が肌で感じられます。
一部「エネルギー」品目の昨年同月比の消費者物価指数(全国)
エネルギーに関しては原油関連の値上がり幅が大きいです。ガソリン代もリッター200円に近い水準になり、2008年夏は熱海・鬼怒川など安・近・短が主流だったとのこと。
今後のエネルギー価格は・・・20世紀10億人の先進国が謳歌していた繁栄を、21世紀は28億人の経済発展国(BRICs:ブラジル (Brazil)、ロシア (Russia)、 インド (India)、中国 (China) )の人たちが欲するようになるため、資源・エネルギーも3倍4倍必要になる・・・一時的な価格の上下はありつつも長期的には上昇基調にあることは間違いなさそうです。
/ | 平成20年5月 | 平成20年6月 |
電気代 | +3.5% | +3.5% |
都市ガス代 | +3.0% | +3.0% |
プロパンガス | +8.6% | +8.7% |
灯油 | +27.6% | +42.2% |
ガソリン | +18.0% | +24.2% |
一部「耐久消費財」品目の昨年同月比の消費者物価指数(全国)
テレビやパソコンなど耐久消費財の指数が大きく下がっていますが、耐久消費財は数年に1度しか買わないため値下がりを実感しにくい分野です。
/ | 平成20年5月 | 平成20年6月 |
テレビ(薄型) | -20.7% | -21.0% |
パソコン(デスクトップ型) | -19.6% | -21.2% |
パソコン(ノート型) | -36.0% | -37.7% |
カメラ | -27.8% | -28.9% |
老齢基礎年金(国民年金)は年金生活の基礎
1.7%特例の解消は1回限りですが、マクロ経済スライドは一定期間(おおむね2025年までとされている)継続されることになっています。
マクロ経済スライドは、後世代との負担・給付の均衡を図る意味でも必要な制度ですが、2004年の年金改正当時と比べると年金生活者を取り巻く環境は一変・・・。せめて生活の基礎的部分を支える老齢基礎年金(国民年金)だけでも完全物価スライドに戻すというような、何らかの改正があってもよいのでは?と思います。