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分子にだけ含まれる所得代替率の『税金・社会保険料』

『所得代替率50%確保!』

平成16年財政再計算の時も、平成21年財政検証においても、政府は「所得代替率50%」(もらい始めた時点の年金)を年金給付水準の守るべきラインとして位置づけているのですが、そもそも所得代替率とは何を意味しているのでしょうか。

【所得代替率の計算式】

所得代替率 = 名目年金給付額
(税と社会保険料を差し引く前の給付額)
可処分所得
(税と社会保険料を差し引いた後の所得)

所得代替率は、現役世代の平均手取り収入(可処分所得)に対して、高齢者が受給できる年金額(名目年金給付額)の割合を示していますが、「税金・社会保険料」に注目してみると、分子(もらえる年金)にだけ自由に使うことの出来ない「税金・社会保険料」(=支払って手元から無くなるはずの「税金・社会保険料」)が含まれていることがわかります。

つまり、もし
『所得代替率=自由に使える年金/自由に使える現役収入』
というイメージを持っていたならば、税金と社会保険料の分を取り除いて考えなければ、実態を過大評価してしまうことにもなりかねないのです。

モデル厚生年金世帯の所得代替率(平成21年財政検証)

夫が厚生年金に40年加入し、同い年の妻が40年間専業主婦であるという「モデル世帯」における年金給付水準(夫・妻合計)はどのようになっているのでしょうか。

平成21年度時点の年齢(生年度)別の「65歳時点の年金受給額」と、それから20年が経過した「85歳時点の年金受給額」とを表にして見てみます。

なお、データは
平成21年財政検証関連資料(1)
-年金制度における世代間の給付と負担の関係等-(PDF:4.80MB)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0526-6e.pdf
の9ページ「生年度別に見た年金受給後の厚生年金の標準的な年金額(夫婦2人の基礎年金含む)の見通し-平成21年財政検証、基本ケース-」の数値を使用します。

ただし、使用するのは所得代替率のみで、現時点の会社員の平均収入35万8000円をそれぞれの所得代替率に掛け合わせることで、「現在感覚でいくらに相当」するのかを見ていきます。

計算例
35万8000円×50.1%=17万9358円

平成21年度年齢
(生年度)
65歳時点の所得代替率
(65歳時点の年金受給額)
20年後の所得代替率と年金受給額85歳時点の所得代替率
(85歳時点の年金受給額)
65歳
(1944年度生)
62.3%
(月額22万3034円)
43.2%
(月額15万4656円)
60歳
(1949年度生)
60.1%
(月額21万5158円)
41.5%
(月額14万8970円)
55歳
(1954年度生)
56.9%
(月額20万3702円)
40.1%
(月額14万3558円)
50歳
(1959年度生)
55.5%
(月額19万8690円)
40.1%
(月額14万3558円)
45歳
(1964年度生)
54.0%
(月額19万3320円)
40.1%
(月額14万3558円)
40歳
(1969年度生)
51.9%
(月額18万5802円)
40.1%
(月額14万3558円)
35歳
(1974年度生)
50.1%
(月額17万9358円)
40.1%
(月額14万3558円)

資料元では、例えば平成21年度で65歳(1944年度生まれ)の人の場合、65歳時点は「所得代替率62.3%で22.3万円」、85歳時点では「所得代替率43.2%で24.8万円」となっています。また、年金をもらうのが後になる人(若い人)ほど、受け取れる名目年金給付額が高くなっているために前者ならば「時間が経過するごとに年金額が増えるの?」後者ならば「若い人ほど有利なの?」というような勘違いや混乱を生じかねません。

そこで今回は、所得代替率を現在の現役手取り収入の値で計算し直してみたのですが、これにより世代間格差の実態と、年金受給開始後20年後の年金額の2点について感覚的に理解することができました。

もっとも、これは厚労省の描いたバラ色の未来を前提とした結果であって、現実的には割り引いて考えなければなりません。

週間ポスト(2009年6月12日号)では、「出生率が上がらず、経済も回復しなかった場合」には65歳時点の所得代替率43.1%(月額15万4千円)→85歳時点の所得代替率34.5%(月額12万4千円)と推計しています。(金額は上記同様に現在状況に直したものとなっている。)

さらに、「長寿化が進み、保険料納付率も回復しない場合」まで条件が加わると、65歳時点の所得代替率は40.0%(月額14万3千円)→85歳時点の所得代替率33.0%(月額11万8千円)という推計となっており、これが現実のものとなってしまえば・・・考えただけでも恐ろしくなります。

関連ページ
平成21年財政検証データを用いた単身の場合の厚生年金の収支
http://www.office-onoduka.com/nenkinblog/2009/06/_121.html
年金不信を増幅させた『平成21年財政検証』
http://www.office-onoduka.com/mag2/015_20090227.html

65歳以降、なぜ所得代替率が下がるのか

65歳以降、所得代替率が下がるのはどうしてでしょうか。

年金には「物価水準に応じた変動(物価スライド)」と「現役世代の賃金水準に応じた変動(賃金スライド)」の2つの変動のしくみがあるのですが、賃金スライドについては65歳新規裁定時を最後に適用されず、現役世代の賃金(実質賃金)が上昇したとしても、それがもらえる年金額に反映しません。

また、65歳以降にも適用される物価スライドは、当分の間「マクロ経済スライド」という物価・賃金の上昇による年金額の上昇を抑制するしくみにより、物価が上昇したとしても年金額が増えなくなります。

すなわち、これらの理由により、上記表のように次第に所得代替率が低下して、65歳と85歳の年金では大きな開きとなるのです。

所得代替率が高ければよいとは限らない

平成21年の財政検証に関するBSテレビ番組の中で、ある議員さんが不思議なことを話していました。

その内容は、上記表の左上の所得代替率「62.3%」が、平成16年財政再計算の際には「59.3%」だったことから、批判ばかりではなくこのような点もきちんと見て欲しいと言うのです。(「平成16年度に65際になる人の65歳時点の年金」の所得代替率が59.3%で、「平成21年度に65歳になる人の65歳時点の年金」が62.3%・・・3%アップしている点を評価してほしいという意味です。)

しかし、所得代替率は高ければよくて低ければ悪いという単純なものではありません。

下記表は、平成21年2月23日に行われた社会保障審議会年金部会の一場面で、年金数理課長の発言を抜粋したものです。所得代替率59.3%から62.3%になった理由について述べられています。

第14回社会保障審議会年金部会議事録 平成21年(2009年)2月23日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/txt/s0223-5.txt

(略)この両者の割り算を行いまして、所得代替率、足下で62.3%ということでございます。16年の財政再計算のときには、これは足下59.3%という数字があったわけですが、それよりも足下で所得代替率は上がっている。

これはモデルの対象となる現役男子の手取り収入のところですが、こちらのところが、16年のときの数値よりも下がっているということで、厚生年金、報酬比例の年金は賃金が低くなるとそれに乗率がかかってくるという仕組みですのでそれに応じて年金額も低くなり、所得代替率としては基本的にほとんど変わらないわけですが、基礎年金の部分のところは基本的に定額ということですので、賃金が下がるとそこのところは代替率としては持ち上がるということがございまして、所得代替率が足下で高まっておる。これは基礎年金について高まっているということです。

国民年金、厚生年金は2階建てで、1階部分の国民年金(基礎年金)は定額で支給されますが、2階部分の厚生年金は報酬比例で支給されます。

そして、現役世代の賃金水準が低下した時には、2階部分の年金は低下する一方、1階部分の年金は低下しないため、全体として見れば、所得代替率はアップする結果となったのです。(65歳時点の新規裁定時においては、年金は現役賃金水準の影響を受けます。)

もともと所得代替率は、ざまざまな要因で上下する非常に掴みにくい指標ではあるのですが、今回の上昇要因は「現役世代の賃金水準の低下」であることは確かなので、これを素直にプラス評価することはできません。

『等』を用いて所得代替率50%確保?

今回の財政検証では、限られた条件における一部分だけを指して「所得代替率50%確保」と言っているわけですが、国民年金の納付率を現在の納付率に近い65%で計算すると、所得代替率は49.2%~49.35%に低下するという試算になっています。

【直近の国民年金納付率】
関連:国民年金保険料の年齢階層別「納付率」の推移
http://www.office-onoduka.com/nenkinblog/2009/02/post_161.html

  • 平成14年度=62.8%
  • 平成15年度=63.4%
  • 平成16年度=63.6%
  • 平成17年度=67.1%
  • 平成18年度=66.3%
  • 平成19年度=63.9%
  • 平成20年末現在=60.9%

財政検証では、次の資料の5ページ目の下(4)「その他の前提」の箇所に「~直近の実績データ等を基礎として設定」としているので、本来であれば直近の実績データを基礎に用いるべきところだと思うのですが、なぜか80%の納付率を前提に、その他データと共に「所得代替率50.1%」が導き出されました。(結論ありき?)

国民年金及び厚生年金に係る財政の現状及び見通し
-平成21年財政検証結果-(PDF:448.10KB)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0223-9g.pdf

衆議院厚生労働委員会(平成21年(2009年)4月15日)では、
この件に関して次のような答弁がなされました。

第10号衆議院厚生労働委員会 平成21年(2009年)4月15日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/
kaigiroku/009717120090415010.htm

○山井委員

(略)これは大臣、この四ページにも書いてございますが、今回の試算の前提、平成二十一年度の財政検証の諸前提ということで、一番下に線が書いてありますが、「直近の実績データ等を基礎として」と、「直近の実績データ」と書いてあるじゃないですか。直近の実績データだったら六五%じゃないですか。大臣、いかがですか。

○舛添国務大臣

これは、この前もさんざんあなたと議論をしたと思います。直近の実績データをじゃないんですよ。「等」なんですよ。「等」というのは、実績データと違うものを「等」の中に入れるということなので、だから、データではなくて行政目的ですよ。だから、この前も言ったじゃないですか。「等」なんです。

「等」と言えば・・・
(議員の事務所費問題について)

厚生労働省:平成19年9月4日付閣議後記者会見概要
http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2007/09/k0904.html

○舛添大臣

(略)水道光熱費等なんて、「等」という字が書いてあったら、そこに全部ぶち込むとかいうことができるので、こういうものはもっと明言をするということなので、何とか何とか等と、「等」というのが一番くせ者なので、それはもう、明言するか(略)

今回の「等」こそ『くせ者』なのですが・・・

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