今の年金制度は、全員拠出が原則の社会保険方式です。にもかかわらず、保険料を負担せずに被保険者になれる国民年金の第3号被保険者制度に対しては、長く問題視されつつも、ズルズルと今日に至っております。
国民年金の第3号被保険者とは?
国民年金の第3号被保険者とは、ごく一般的に言うと、会社員の夫に扶養されている20歳以上60歳未満の妻のことです。
正確には、厚生年金や共済年金に加入しているもの(国民年金の第2号被保険者)に扶養(年収130万円未満)されている、20歳以上60歳未満の配偶者です。
第3号被保険者割合は、の99%が妻、1%が夫となっていますので、ここでは妻と断定して話を進めます。
第3号被保険者の問題点「不公平感」
第3号被保険者問題の一番問題とされているのが保険料負担の不公平感です。第3号被保険者の保険料は誰が負担しているかと言えば、第2号被保険者全員で負担しているわけで、その中には母子家庭の母や、独身女性、共働き女性も含まれています。
また、将来自分の年金を受け取るのに、自分で保険料を払わなければならない自営業妻の専業主婦、自営業共働きの女性、厚生年金に入れない母子家庭の母、学生から無職の人まで、第1号被保険者と比べても不公平感はぬぐえません。
片方では保険料を払い、片方では保険料負担なしで同じ金額の年金を受け取る。所得が低い人や障害があって保険料が免除になっている人ならまだ保険料負担がないことに納得できますが、その免除の人たちは免除の種類に応じて受け取れる年金額は2分の1、3分の1など削られたものになってしまいます。
それに対して第3号被保険者は、第1号被保険者、第2号被保険者と同じく、基礎年金はカットなしの全額給付です。専業主婦(第3号被保険者)のいる家庭というのは、育児・介護等やむをえないケースを除き、夫一人で家計を支えることができる比較的恵まれた世帯ということができますので・・・(最近ではそうでもないかもしれませんが。)
負担か給付の改善はいずれ・・・
第3号被保険者については、負担を高めるか給付を抑制する、または話は大きくなりますが年金一元化による最低保障年金に組み入れるなどをしないと、第3号被保険者に対する不公平感はなくならないように思います。
負担については、例えば専業主婦(第3号被保険者)のいる会社員の夫(第2号被保険者)については、個別に保険料を割高にするなど・・・
もしくは給付について改善するのなら、第3号被保険者期間は保険料全額免除期間や保険料半額免除、保険料4分の1免除等と同じ扱いにするといった具合です。
保険料の負担なく、給付は保険料負担者とまったく同じというのは、さすがにもう改善しなければいけない時期に来ていると思います。
第3号被保険者の問題点「就労制限」
第3号被保険者は魅力です。誰だって保険料の負担がなくなるのでしたらそうしたいと思います。しかし、そのせいで年間130万円未満の収入になるように自らの就労を制限し、その結果女性の賃金低下・女性労働者の地位低下を招いているとことも問題視されています。
また、社会全体としても、少子高齢化において労働力確保が課題となる中で、1千万人の第3号被保険者の問題は、労働力確保の足かせになっていると言えなくもありません。
パート労働者の厚生年金適用拡大と第3号被保険者問題
当面従業員300人以上の会社のパート労働者にしか、厚生年金の適用拡大は行われないことになりましたが、その目的は厚生年金の保険料確保だけではありません。
第3号被保険者を厚生年金に加入させることで、結果として第3号被保険者を減らしていこうとすること、妻自身の厚生年金加入を20年以上とすることで、年間40万円の配偶者加給年金を削減しようとするのが真の狙いであるとも言われています。
本当ならば、第3号被保険者の要件である年収130万円未満をたとえば65万円未満にするなど手を打ちたいところなのかもしれませんが、既得権ともなっている第3号被保険者制度ですから、ダイレクトに改正することは難しいのです。
「世帯で見ると年金給付に差がない」から平等?
夫一人が働く世帯(厚生年金)と共働きの世帯(厚生年金)とで、個人ではなく世帯単位で見た場合、年金額は変わらない、だから不公平はないとする理屈がありますが、これは本当でしょうか。
確かに、夫一人50万円稼ぐ世帯と、共働き共に25万円稼ぐ世帯とで比べた場合、どちらの世帯も年金の受給額は同じになります。保険料も収入に応じた金額ですから、このケースでは両者とも合計額に差はありません。
よって「負担も給付も同じだから平等でしょ」とするのがこの考え方ですが、これは所得に代えられない部分を無視した考え方です。
例えば、育児・介護。
自由時間のない共働きの場合、身内に任せられないときは、料金を払いサービスを利用することになります。
料理に時間を掛ける、趣味に時間を費やす。
共働きでは難しく、外で働く以上外食に頼らざるを得ないこともあり、必要経費がかさみます。
そして子供の教育に時間を費やすこと、
時間もお金も掛けるほど子供の将来に結びつくことから、目に見えない投資とも言えます。
その他ゆとり、余暇、人付き合い・・・
所得では平等でも、生活水準まで考慮に入れると平等であるとはとても思えません。
第3号被保険者導入の歴史
第3号被保険者は昭和61年(1986年)4月、基礎年金制度ができた時に誕生した制度です。それまで国民年金、厚生年金、共済年金はそれぞれ別々の管理運営がされており、国民年金については、夫が厚生年金加入者である専業主婦は任意加入でした。
そのため、国民年金に任意加入しない妻もおよそ3割存在し、離婚した場合には将来無年金となる怖れがありました。
そこで、将来自分自身の基礎年金を受け取れるように、厚生年金加入の夫を持つ専業主婦については保険料無拠出で年金に加入できる制度、第3号被保険者が誕生したのです。
第3号被保険者導入の背景
第3号被保険者制度が導入された昭和61年(1986年)当時、国民年金は財政的にピンチの状態でした。主な原因は保険料と年金給付のアンバランスと、加入者数の減少ですが、参考までに国民年金の保険料と年金額の推移を記してみたいと思います。
- 1970年7月~=450円(保険料)|96,000円(年金額)|213
- 1975年1月~=1,100円(保険料)|240,000円(年金額)|218
- 1980年4月~=3,770円(保険料)|504,000円(年金額)|133
- 1984年4月~=6,220円(保険料)|504,000円(年金額)|81
- 1985年4月~=6,740円(保険料)|504,000円(年金額)|74
- 1986年4月~=7,100円(保険料)|504,000円(年金額)|70
- 1990年4月~=8,400円(保険料)|681,300円(年金額)|81
- 1998年4月~=13,300円(保険料)|799,500円(年金額)|60
- 2005年4月~=13,580円(保険料)|794,500円(年金額)|58
それぞれ最後の数字は、年金額を1ヶ月の保険料額で割った金額です。保険料に対する年金給付の割合の時代による差を知るための単なる目安です。この数字から何かを読み解くというものではありませんが・・・
関連:第3号被保険者に関する内部リンク
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厚生年金の財源をあてにした?
国民年金の財政が厳しいので、年金の統合を機に厚生年金の保険料で国民年金の財政難をカバーすることになりました。
そして厚生年金の定額部分は基礎年金に合わせるように抑えられたので、その中から厚生年金加入者に扶養されている第3号被保険者に対しては、無拠出で基礎年金をもらえるように、しくみが構築されたのです。
結局のところ厚生年金にだけ負担を強いることになるので、第3号被保険者はその分の見返り??
年金一元化で解決がベスト!?
いずれ年金一元化が実現するのならば「税金による最低保障年金」「保険料による所得比例年金」とあるときに、第3号被保険者は前者の中に組み込むのが一番自然ではないかと思います。
もしくは先述した負担か給付の対策を・・・
この第3号被保険者問題は今後も目が離せません。