日本においては、公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)を受給するために、原則として各年金制度を通算して25年以上加入していなければ1円も年金がもらえないという仕組みとなっています。(例外:厚生年金20年加入で年金受給の特例とは? 年齢だけで受給資格期間(25年)が短くなる人とは?)
その原則25年間の期間のことを「受給資格期間」と言いますが、諸外国の年金制度を比べてみると、受給資格期間が25年もの長期間である国は例外的で、おおむね10年程度で受給資格期間自体がない国も散見されます。
諸外国の年金受給期間の現状は?
具体的に諸外国の受給資格期間はどのようになっているのか。
下記表をご覧ください。
※第13回社会保障審議会年金部会(平成20年11月19日)参考資料集第3分冊の1ページ『協定締結・署名済国及び協定協議国の年金制度における受給資格期間について(数値2007年)』より転載・注釈転入・一部加筆編集あり。
諸外国の年金制度の受給資格期間 | |
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アメリカ | 10年相当(40加入四半期) 1000ドル(118,000円)の収入につき1四半期が付与される(最高で年間4加入四半期まで)。 |
イギリス | なし 2007年の法改正により受給資格期間は撤廃。ただし、1945年4月6日より前に生まれた男性及び1950年4月6日より前に生まれた女性は、 旧法が引き続き適用され、年金受給には、それぞれ11年又は9.75年の被保険者期間が必要。 |
ドイツ | 5年 |
フランス | なし |
ベルギー | なし |
チェコ | 25年 受給資格年齢(61歳10ヶ月、子を養育していない女性60歳)から受給する場合。なお、65歳から受給する場合は15年。 |
オランダ | なし |
カナダ | OAS税方式(Old Age Security:老齢保障制度)10年居住 CPP(Canada Pension Plan:カナダ年金制度)なし |
豪州 | AP税方式(Age Pension:社会保障制度)10年居住 →「10年連続して居住」又は「連続して5年、合計10年」のいずれかを満たすこと。 SG(Superannuation Guarantee:退職保障制度)なし |
韓国 | 10年 |
スペイン | 15年 |
イタリア | 5年 |
アイルランド | 5年相当(260週) 2012年より10年相当(520週) |
ハンガリー | 15年 |
スウェーデン | なし 保証年金については最低3年の居住期間が必要 |
ルクセンブルク | 10年 |
25年という最も受給資格期間の長いチェコにしても、日本の老齢基礎年金および老齢厚生年金、退職共済年齢の原則の年金支給開始年齢である65歳から受給する場合には「15年」ということになっており、諸外国とのバランスにおいては、日本の25年ルールはいかにも長いと言わざるを得ません。
受給資格期間25年を短縮する議論
第13回の社会保障審議会年金部会においても、この受給資格期間の見直し(「基礎年金の受給資格期間(25年)の見直し」)は重要なテーマの一つになっているのですが、議事録に目を通すと、大方10年程度に短縮すべきとの声が多いようです。
ここでは、議論で出てきた受給資格期間短縮についての肯定的な意見と否定的な意見について、要素だけ箇条書きで分類してみようと思います。(意味が同じものも複数あります。また、要約している関係で、原文とはニュアンスが異なって伝わる可能性があることをご留意ください。)
25年の短縮について肯定的な意見
・納付した保険料を確実に年金に結び付けたいという国民意識が高い。
・無年金者対策として、25年を短縮すべき。
・諸外国の年金制度に比べて期間が長い。
・25年を満たせない、または25年が高い壁であった人については保険料納付の意欲向上につながる。
・25年を1月でも欠けてしまうと、厚生年金や共済年金の加入者にとっては1階部分の老齢基礎年金のみならず、老齢厚生年金や退職共済年金も合わせて受け取れなくなってしまうので、保険料掛け捨ての影響が大きい。
・国際化により外国人労働者も多くなっていることも考慮する必要がある。
・免除などの仕組みがあるといっても、国民に対する年金教育が不十分。
25年の短縮について否定的な意見
・受給資格期間の計算では合算対象期間も算入できることになっている。
・一定の者は、70歳まで国民年金に加入できる任意加入制度がある。
・任意加入や合算対象期間、免除等の配慮を考慮すると、25年ルールを満たせない人というのは、逆算すれば15年以上も未納がある人だ。(残るは不届き者であろうという意)
・受給資格期間「25年」により納付意欲を向上させている。
・受給資格期間は、一定の年金額を保障するという最低保障的な機能も持つ。(期間短縮により低額年金者を増やしてしまう。)
・滞納者増加の恐れがある。
・年金財政に影響を及ぼす恐れがある。
・受給資格期間をなくした場合に年金制度に1月だけ加入した人に月額138円(66,000円÷480月)の年金を支給することになると、行政コストが増大する。(老後保障の意味合いも薄れる。)
・所得が低いなど保険料納付が困難な場合には免除制度がある。(国民年金)
・外国との比較においては、外国の場合、所得がある場合に限って制度適用されること対して、日本の場合は所得がなくても制度適用をし、免除を認めているという点で違いがある。
・40年間全て国民年金免除の場合の年金月額は33,008円。免除なしで20年国民年金に加入した場合の年金月額は33,008円、10年国民年金に加入した場合の年金月額は16,500円というように、受給資格期間を短縮した場合には40年間免除の人よりも少ない年金月額となるような逆転現象が生じる。
中間的な意見
25年を一時的に短縮するが、経過的に意味ある給付水準の受給資格期間に戻す。国民年金では所得の低い人には免除できる仕組みがあるが、現状では実態と免除適用に乖離がある。これについて、国が把握する所得情報により職権適用で免除することができるようになれば、残る未納者は「不届き者」と言うことができる。
今は、年金教育なり年金制度の周知徹底が不十分であったのであるが、これを徹底させ、職権適用と合わせる事で、「知らずに24年間加入したが25年に届かなかった」という不幸も防げるようになる。議論は、このあたりをセットにしたものが必要。