平成22年7月以降、100歳以上高齢者の所在不明実態が次々に明らかになってきていますが、これを受けて一部諸外国から日本の長寿世界一(日本女性:86.44歳)に対して疑問の声が上がっています。
しかし、100歳以上高齢者に限って言えば、いくら長寿国とはいえ日本人総人口に対する100歳以上高齢者の割合は小さなものであり、『平均寿命』に与えるインパクトは微々たるものであると言えそうです。
100歳以上の人口割合(1-全体、2-男性、3-女性)
計算に用いる資料は次の2点です。
●厚生労働省:百歳高齢者に対する祝状及び記念品の贈呈について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/09/dl/h0911-3g.pdf
平成21年9月1日現在データ
URLは公表資料PDFの全体版。5ページ目の平成21年データを使用。
●総務省:平成21年10月1日現在『人口推計』
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2009np/pdf/2009np.pdf
PDFファイル。10ページ目の平成21年データを使用。
1.100歳以上の人口割合(全体)
100歳以上の人口「40,399人」
日本人の総人口「1億2751万人」
40,399人÷1億2751万人≒0.0003168%
2.100歳以上の人口割合(女性)
100歳以上の女性人口「34,952人」
日本人の女性人口「6538万人」
34,952人÷6538万人≒0.0005345%
3.100歳以上の人口割合(男性)
100歳以上の男性人口「5,447人」
日本人の男性人口「6213万人」
5,447人÷6213万人≒0.000087%
3156人に1人しか存在しない100歳以上高齢者
100歳以上高齢者の人口割合「0.0003168%」の裏を返せば、
3,156人に1人しか100歳以上の人が存在していないことになります。
消えた100歳以上高齢者が与える『平均寿命』への影響
仮に人口3,156人の一つの町があり、平均寿命は80歳とします。
たった1人居るはずだった100歳のおばあさんが実は50歳で亡くなっていたとすると、この町の平均寿命はどのくらい変化するでしょうか。
ここでは『平均寿命』を恣意的に計算してみます。
まず、平均寿命を「町人全体の実寿命の総和」を「町人口3156人」で割ったものとします。
●年齢の総和=3,156人×80歳=252,480歳
ところが100歳のおばあさんは50歳で亡くなっていたので「-50歳」します。
●修正後の年齢の総和=252,480歳-50歳=252,430歳
これを町人口3,156人で割って平均寿命をだしてみると
●平均寿命=252,430歳÷3,156人=79.984157609歳
平均寿命への影響は
●80歳-79.984157609歳≒0.0158歳
実際の日本人女性の統計で計算
次に、上記と同じように実際の日本人女性で計算してみます。
100歳以上の女性人口「34,952人」
日本人の女性人口「6538万人」
日本人女性の平均年齢「86.44歳」
100歳以上の人は一律100歳とし、極端ですが「34,952人」全ての人が50歳で亡くなっていたとして計算してみます。
●年齢の総和=6538万人×86.44歳=56億5144万7200歳
減少するのは「34,952人」の(100歳-50歳=50歳)分なので
34,952人×50歳=174万7600歳分を減らします。
●修正後の年齢の総和=
56億5144万7200歳-174万7600歳=56億4969万9600歳
改めて女性の総人口で割って平均年齢を導きます。
●56億4969万9600歳÷6538万人=86.41歳
平均年齢の差は
●86.44歳-86.41歳=0.03歳
※注:実際の平均寿命は現時点の0歳児の平均余命を表しています。本来の平均寿命を求める計算は非常に複雑です。(参考外部リンク:平均寿命 - Wikipedia)
厚生労働省統計『平均寿命』への影響
平成22年8月7日東京スポーツによると、厚生労働省が公表している『平均寿命』は、その統計のとり方や算出方法により今回の100歳以上高齢者の所在不明騒動の影響はないとのことです。
平均寿命を発表している厚労省は「(今回の騒動による)影響はどとんどない。見直すということはない」と涼しい顔だ。100歳以上の行方不明者が続出しても「平均寿命に影響がない」という主張には2つの根拠があるという。 一つは平均寿命のデータは国勢調査を用いている点だ。今回の問題は自治体が戸籍や住民基本台帳を基に訪ねたところ、更地や転居で行方がわからなくなっているケースが続出。一方、国勢調査は生活実態を把握するため調査員が、原則的に全ての世帯を訪問しているため、精度はかなり高いというワケだ。 もう一つは平均寿命の算出方法。「超高齢層の方の確認が取れないとなっても、もともとそのデータは使っていない」(厚労省) ただ国勢調査もアテにならないとの見方もある。訪問調査しても家族が不在者をいるように装う場合があり得るからだ。 慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授は「100歳以上をすべて100歳と仮定し、600人生存していなかったとすれば、女性の平均寿命は0.0015歳下がる」と試算した。 現在、自治体は主に100歳以上を再調査の対象にしているが、これを80歳以上まで範囲を広げれば、所在不明者の数はケタ違いとなる可能性もある。 土居教授は「失踪者が毎年8万人ほどいるのに除籍されていないとなると日本の人口統計は不正確だということになるかもしれない。もし完璧に統計が取れた場合でも、平均寿命は1歳も下がることはない」と指摘。女性の場合、仮に0.2歳下がり86.24歳になって2位の香港の86.1歳とは小差になる。 ※東京スポーツ平成22年8月7日号より引用 |
100歳以上高齢者について、所在不明の実態があっても『平均寿命』に影響しないということは、『平均寿命』で表される年齢は実際の寿命の実態よりも若干かさ上げされているということでしょうか。
ちなみに、統計上の100歳以上の高齢者人口は、平成元年から平成19年までの間に10倍以上に増加し、その後も高い増加傾向をみせています。
所在不明問題『役所の怠慢』との厳しい声も
100歳以上高齢者所在不明問題では、個人情報保護法の弊害など役所を擁護するような論調がある一方、役所の怠慢を指摘する声も聞かれます。
「人手が足りない」「高齢者の監視や、家庭の中に入る権限はない」・・・。所在不明が発覚した自治体からは、こんな声が漏れているというが、こんなのはウソッパチだ。長寿で知られる長野県のある行政担当者はこう言う。 「例えば、長野でも男女の長寿率が高い佐久市(人口約10万人)では、100歳以上と88歳の高齢者表彰を行っているが、500人近い対象者にはすべて連絡を取って、訪問しています。東京は100歳以上が約3500人いるとみられているが、各自治体の職員が1人1件でも訪問すれば何でもない。介護保険の利用状況など確認手段もある。要は行政側のヤル気の問題です」 ※日刊ゲンダイ平成22年8月6日号より引用 一方で、自治体の側からは、調査対象を広げると業務が膨大になりすぎ、費用もかかるため事実上無理だ、との声も上がる。個人情報保護法による「壁」を指摘する向きもある。 しかし、片山善博・元鳥取県知事は、こうした指摘について「言い訳だ。役所の怠慢」と切り捨てた。8月11日の「朝ズバッ!」で、「(調査対象を広げる)金がないというが、使う方の優先順位を間違っている」と断罪した。個人情報保護法の関連でも、役所が外部にもらすのが問題なのであって、「目的外利用の禁止」を調査できない理由として持ち出すのは「怠慢」だとの考えを示した。 ※J-CASTニュース平成22年8月11日配信分より引用 役所の怠慢もここに極まれりだ。「消えた高齢者」問題で神戸市がきのう(10日)、仰天の調査結果を発表した。市内に住民登録された100歳以上の高齢者847人のうち、ナント105人もの所在がわからないというのだ。しかも、国内最高齢の113歳を上回る114歳以上が書類上は18人もいるのに確認作業を怠っていたのだから、「税金ドロボーの役立たず」と言うしかない。 「不明者の最高齢は東灘区の125歳の老婆です。日本はおろか、世界最高齢になる可能性もありますが、担当の役人はほったらかし。老婆の住民票上の住所は29年前から市が管理する公園になっていました。普通の感覚なら担当者が”おかしいな””どこへ行ったんだろう”と思うものですが、公務員に”?”はないのでしょうかね」(神戸市政事情通) ※日刊ゲンダイ平成22年8月12日号より引用 |
高齢所在不明者急増のウラに貧困ビジネス?
2010年(平成22年)8月17日の日刊ゲンダイ「溝口敦の切り込み時評『高齢者の所在不明者急増のウラで蠢く貧困ビジネス』」に、高齢者の所在不明者が増えていることの背景の一端を感じさせる興味深い記事が掲載されていました。
内容は、とある30歳前後の詐欺犯男性の話で、彼は出頭を前提に弁護士を探している一方で、時効まで逃げ切ることも考えているとし、なんと戸籍を5つも用意している(それぞれ当人から購入したもの)とのこと。
以下抜粋します。
私はウソだろうと思った。Aが中年ならともかく、Aと年格好が合う30前の男がおいそれと戸籍を売るはずがない、と。Aは「それが売るのだ」と断言した。 「こっちがカネを貸し、ギリギリに縛った男は若くても簡単に戸籍を売る。もともとそいつはネットカフェや公園に沈んでいるんだから、戸籍なんか必要じゃない。売れるものならなんでも売るのがやつらだ」 なぜこんなことを書くかといえば、所在不明の高齢者問題が騒がれているからだ。全国で100歳以上の不明者は約280人に上るとか。100歳以上は極端だが、65歳以上の人口はすでに約2500万人。他方、警察庁は約1万7000人の身元不明死者のデータを持つ。 貧困ビジネスに明らかなように、貧しく孤立している者は暴力団や半グレ(カタギとの境界上にいる)にとって、十分食い物にできる資源なのだ。戸籍も使えるし、生活保護の受給や借金の世話で大半を巻き上げられる。まして高齢者からは年金の横取りも狙える。 ※日刊ゲンダイ平成22年8月17日号より |
100歳未満の所在不明者は?
ここまで100歳以上の所在不明者についてみてきましたが、所在不明となっている人の中には60歳くらいから所在不明であった事例もあり、当然ながら現在の100歳未満の人についても所在不明者がたくさん存在するものと思われます。
とりわけ年金の不正受給について考えると、主に年々人口が増加している65歳以上の所在確認は欠かせません。
65歳以上の人口(前年比) | |
平成16年 | 2487万人(+51万人) |
平成17年 | 2576万人(+89万人) |
平成18年 | 2660万人(+84万人) |
平成19年 | 2746万人(+86万人) |
平成20年 | 2821万人(+75万人) |
平成21年 | 2900万人(+79万人) |
総務省平成21年10月1日現在『人口推計』より |
なお、現在のところ厚生年金の経過措置や国民年金の繰上げ受給など65歳未満でも老齢給付を受けられる仕組みがあるため、平成22年3月末現在の老齢給付の受給者数は約3360万人も存在します。
100歳以上高齢者の人口が約4万人ですので、仮に75歳以上の人に限って調査するとしてもその対象は1371万人(総務省人口推計・平成21年のデータ)で、100歳以上人口比で言えば約340倍にものぼります。
100歳以上の調査だけでも右往左往している現状を見ていると、5000万件の宙に浮いた年金記録問題と同等の深刻な問題であるように感じられます。(高齢者所在不明者の住所が駐車場になっていたケース等、知っていて放置していたとしか思えないようなケースも散見され、おそらく問題の構造はどちらも似たようなものでしょう。)