国民の年金法はコロコロ変えられるのに、
国会議員年金(廃止法)だけは高値安定のままです。
今回は、キャッチコピー『身を切る改革』が空しく聞こえる
改革なき「廃止後」の国会議員年金を取り上げます。
廃止後も高水準のままの国会議員年金
(計算方法については、後述の「民主党議員が将来受け取る国会議員年金額」の注釈欄の所に記載してあります。)
この図は、2012年11月現在はもちろん、まさにこれから落選・引退(以降「退職」)する国会議員が65歳以上であれば受給できる国会議員年金の最低額(在職10年の場合の議員年金額)です。
受給要件は、2006年3月までに国会議員として在職期間10年(10年0か月から10年11か月まで)を有していること。
「あれ、国会議員年金って無くなったのでは?」
そのように思う方も少なくないと思われますが、「廃止法」は、その言葉のイメージとは違い、実際には在職9年11月まで、及び将来の新人国会議員の議員年金を無くすことで「廃止」とされ、2006年3月までの期間で在職10年以上の国会議員の議員年金は、廃止されないばかりか、その削減もわずか15%カットという小さな変更で決着が図られたのです。
在職10年のケースでいうと412万円から350万2000円。
(412万円×85%支給=350万2000円)
このような現職議員の議員年金について、2006年当時野党であった民主党は、独自法案においてで支給しない(0円)と決めていたのですが、数の論理で自民党・公明党の法案が現行の「廃止法」となりました。
【政権交代で政策を実現できる立場にチェンジ】
それから3年が経過した2009年9月。
民主党は、政権交代により与党に立場を変え、晴れて政策決定権を獲得。
これにより「廃止法(国会議員互助年金法を廃止する法律)」を見直す環境は整ったはずなのですが、政権交代後さらに3年が経過した2012年11月現在においても、そのような動きが見られないのです。
もちろん、「廃止法」は決定事項なので、見直さなくても法的にも何ら問題はありません。
しかし、国民の年金法である「国民年金法」「厚生年金保険法」などの改正・改悪ぶりを考えると、国会議員の自分の年金だけ特別扱いとするのは理不尽に思えます。
政権交代前の民主党は、抜本改革で安心できる年金制度にすると言っていたのですが、結局は自公政権からの現行制度の法律改正で対応するやり方を継承。
(民主党政権においても、影響の小さな改正のみならず、今後においては、厚生年金の支給年齢の引き上げや厚生年金基金の廃止など、老後の生活設計が崩壊しかねない法律改正を検討中。)
つまり、民主党の年金法に対する姿勢を見れば、同じく年金の法律である廃止法についても、変える必要性があれば法律改正するのが筋でないかと思うのです。
ついでに言えば、当時も民主党が批判の材料にしていた国会議員年金の財政問題は、2006年当時の公費負担割合72%、そして2012年現在では公費負担100%と変化していますので、この点からも「廃止法」の必要性は高まっていると言えます。
下記図は、在職10年の現職国会議員が将来年金を受給する場合の、2006年当時の旧法、自公案、民主党案の簡易比較です。
2006年廃止法施行前の民主党の主張
次に、2004年・2005年マニュフェストより、国会議員年金について民主党がどのように主張していたのか、その文言を見てみます。
マニュフェストの主張 |
2004年版8ページより 「年金制度一元化に向けて、議員年金を廃止。「特権」ではないかと国民からの批判も高まっている議員年金は廃止します。国民と同じ年金制度に一元化して、格差や不公平のないものへと切り替えます。」 2005年版23ページより 「議員年金をただちに廃止します。現在の国会議員互助年金制度はただちに廃止し、国会議員も国民と同じ公的年金に加入することとします。」「議員年金をただちに廃止します。現在の国会議員互助年金制度はただちに廃止し、国会議員も国民と同じ公的年金に加入することとします。」 |
ここまでならば、「廃止」の定義次第で現行の廃止法をも正当化することが可能ですが、民主党が2006年の独自法案で出してきたものは、現役議員「支給なし」、OB議員「30%支給カット」という自公案との大きなギャップのある具体的な数字でしたので、現行廃止法を見直さないこと自体、時間が経てば経つほど不作為であるとみることができるのです。
下記表は、削減割合を支給割合に直したものです。
\ | 在職10年以上現職 | OB |
自民党・公明党 | 85%支給 | 90%~100%支給 |
民主党 | 年金支給なし。 (掛け金の50%を返還)」 | 70%の年金支給 |
※参考外部リンク
自民党松本純衆議院議員HP内
http://www.jun.or.jp/report/2006/060131-honkaigi.pdf
PDF:2ページ目「与党案・民主党案の主な相違点」
さらに、廃止法制定前の討論においては、次のように述べています。
「現職議員はすべて将来の年金受給を放棄します。」 「何より、この国の財政を考え、また、隗より始めよとみずからが痛みを感じる改革が必要だと考えている以上、この程度は当然だと考えています。」 「しかし、与党案では、すでに年金受給資格を得ている現職議員には痛みがほとんどありません。」 (2006年1月31日衆議院本会議第5号速記録より) |
「与党案」とは、自民党・公明党の廃止法案のことです。
法律が施行された2006年4月以降、2012年11月現在においてもなお、この「痛みがほとんどない」議員年金の新規受給が発生し続けており、当然、民主党議員にも議員年金は支給されます。
2006年4月当時から2012年11現在まで継続して民主党に所属している国会議員の議員年金額を見てみます。
民主党議員が将来受け取る国会議員年金額
国会議員年金は、2006年3月までの在職期間で受給額が決定しますので、すでに将来受け取る議員年金の額は確定しています。
年金額の把握の仕方は、「在職期間」を計算した上で、「国会議員互助年金法」に示された計算式より出された答えに「国会議員互助年金法を廃止する法律」で示されている削減額を引きます。
下記表は、民主党議員の「廃止前の年金額」「廃止後の年金額」「民主党の主張していた年金額(0円)」の比較したものですが、全てに0円と表示したのは、当時の民主党の主張と現実との差異をより明確にするためです。
なお、この年金額は、将来受給できる『国会議員年金だけ』の金額ですので、国会議員年金とは別枠で受け取れる「国民年金」「厚生年金」「共済年金」「企業年金」「国民年金基金」「地方議員年金」その他もろもろの年金については、下記の金額に含まれておりません。
在職期間 (~2006年3月) | 廃止前 (~2006年3月) | 現廃止法 (2006年4月~) | 民主党案 (2006年当時) |
10年(10年0か月~10年11か月) | 412万円 | 350万2000円 | 0円 |
● 平田健二 参議院議員(10年9か月) ● 小川勝也 参議院議員(10年10か月) | |||
11年(11年0か月~11年11か月) | 420万2400円 | 357万2040円 | 0円 |
● 田中眞紀子 衆議院議員(11年7か月) | |||
12年(12年0か月~12年11か月) | 428万4800円 | 364万2080円 | 0円 |
● 枝野幸男 衆議院議員(12年9か月) ● 小沢鋭仁 衆議院議員(12年9か月) ● 玄葉光一郎 衆議院議員(12年9か月) ● 藤村修 衆議院議員(12年9か月) ● 前原誠司 衆議院議員(12年9か月) ● 横光克彦 衆議院議員(12年9か月) ● 海江田万里 衆議院議員(12年10か月) ● 樽床伸二 衆議院議員(12年10か月) ● 仙石由人 衆議院議員(12年11か月) | |||
13年(13年0か月~13年11か月) | 436万7200円 | 371万2120円 | 0円 |
● 池田元久 衆議院議員(13年0か月) ● 北澤俊美 参議院議員(13年9か月) ● 直嶋正行 参議院議員(13年9か月) | |||
14年(14年0か月~14年11か月) | 449万9600円 | 378万2160円 | 0円 |
● 輿石東 参議院議員(14年5か月) ● 柳田稔 参議院議員(14年5か月) | |||
15年(15年0か月~15年11か月) | 453万2000円 | 385万2200円 | 0円 |
● 岡崎トミ子 参議院議員(15年2か月) ● 前田武志 参議院議員(15年9か月) ● 田中慶秋 衆議院議員(15年9か月) | |||
16年(16年0か月~16年11か月) | 461万4400円 | 392万2240円 | 0円 |
● 赤松広隆 衆議院議員(16年2か月) ● 大畠章宏 衆議院議員(16年2か月) ● 岡田克也 衆議院議員(16年2か月) ● 髙木義明 衆議院議員(16年2か月) ● 細川律夫 衆議院議員(16年2か月) ● 松本龍 衆議院議員(16年2か月) | |||
17年(17年0か月~17年11か月) | 469万6800円 | 399万2280円 | 0円 |
● 田中直紀 参議院議員(17年9か月) | |||
18年(18年0か月~18年11か月) | 477万9200円 | 406万2320円 | 0円 |
19年(19年0か月~19年11か月) | 486万1600円 | 413万2360円 | 0円 |
● 川端達夫 衆議院議員(19年9か月) ● 鳩山由紀夫 衆議院議員(19年9か月) | |||
20年(20年0か月~20年11か月) | 494万4000円 | 420万2400円 | 0円 |
● 玉置一弥 衆議院議員(20年8か月) | |||
21年(21年0か月~21年11か月) | 502万6400円 | 427万2440円 | 0円 |
22年(22年0か月~22年11か月) | 510万8800円 | 434万2480円 | 0円 |
23年(23年0か月~23年11か月) | 519万1200円 | 441万2520円 | 0円 |
24年(24年0か月~24年11か月) | 527万3600円 | 448万2560円 | 0円 |
25年(25年0か月~25年11か月) | 535万6000円 | 455万2600円 | 0円 |
● 藤井裕久 衆議院議員(25年4か月) ● 中井洽 衆議院議員(25年9か月) ● 菅直人 衆議院議員(25年10か月) | |||
26年(26年0か月~26年11か月) | 543万8400円 | 462万2640円 | 0円 |
● 江田五月 参議院議員(26年8か月) | |||
27年(27年0か月~27年11か月) | 552万800円 | 469万2680円 | 0円 |
28年(28年0か月~28年11か月) | 560万3200円 | 476万2720円 | 0円 |
29年(29年0か月~29年11か月) | 568万5600円 | 483万2760円 | 0円 |
● 中野寛成 衆議院議員(29年5か月) ● 鹿野道彦 衆議院議員(29年5か月) | |||
30年(30年0か月~30年11か月) | 576万8000円 | 490万2800円 | 0円 |
31年(31年0か月~31年11か月) | 585万400円 | 497万2840円 | 0円 |
32年(32年0か月~32年11か月) | 593万2800円 | 504万2880円 | 0円 |
33年(33年0か月~33年11か月) | 601万5200円 | 511万2920円 | 0円 |
● 石井一 衆議院議員(33年11か月) | |||
34年(34年0か月~34年11か月) | 609万7600円 | 518万2960円 | 0円 |
35年(35年0か月~35年11か月) | 618万円 | 525万3000円 | 0円 |
36年(36年0か月~36年11か月) | 626万2400円 | 532万3040円 | 0円 |
● 渡部恒三 衆議院議員(36年5か月) |
以下は、表の注釈です。
計算の根拠などを記しています。
議員名および在職期間について |
議員名は、「FRYDAY」2012年4月13日号85ページの表から2012年11月現在も引き続き民主党所属である議員を抜粋し、在籍期間は同表記載のままの転載です。(資料元で「在籍」期間としているところを、当ページでは、資料元の説明箇所を除き「在職」期間と表現しています。国会議員互助年金法では「在職」期間という表現だからです。) |
国会議員年金額の計算について |
年金額についても上記資料元に表示されていましたが、念のため「国会議員互助年金法」および「国会議員互助年金法を廃止する法律」をもとに改めて計算し直しました。 その結果、資料元では在籍10年の議員年金額の計算について、法律の規定通りに350万1999円としている関係上、上記表の年金額よりもすべて1円少ない金額で表示されています。上記表では、在籍10年の議員年金額を350万2000円で計算しています。(差異の原因は、おそらく分数の処理の仕方の違い。) 【廃止前の年金額】 「国会議員互助年金法」第9条(普通退職年金及びその年額)より そして、「国会議員互助年金法」附則 抄(11)より ここまでで、廃止前の年金額が計算できます。 ※外部リンク ★ 廃止前の在職10年の分の年金額 年金額(10年分)=歳費年額×150分の50 ★ 廃止前の在職11年超の年金額(1年あたり) 年金額(11年超の1年分)=歳費年額×150分の1 例えば在職期間15年ならば 次いで、廃止法施行後の年金額の計算です。 【現廃止法による年金額】 「国会議員互助年金法を廃止する法律」第9条(現職国会議員の普通退職年金の年額)より ※外部リンク ★ 廃止後の在職10年の分の年金額 年金額(10年分)=歳費年額×150分の50×100分の85 ★ 廃止後の在職11年超の年金額(1年あたり) 年金額(11年超の1年分)=歳費年額×150分の1×100分の85 在職期間15年ならば、上記例の計算結果を使い、 なお、関連として、掛け金(納付金)について触れておくと、 「国会議員互助年金法」第23条1項より 歳費月額は歳費年額の「12分の1」ですので「103万円」です。そして、それを100分の10した「10万3000円」が、2006年3月まで月毎月納めてきた納付金ということになります。 さらに、期末手当からの納付もあります。 「国会議員妓女年金法」第23条2項より 廃止前2006年3月直近では、その金額は約3万円でした。 【ページ最初の掛け金10年分「1266万円」の計算】 以上より、2006年3月まで10年間分の掛け金総額は、 計算のもととなる「歳費月額」は、過去を遡るほど少ない金額になっており、この計算方法で通用するのは1994年12月から2006年3月までです。 |
最多人数の在職12年組には、大物議員が名を連ねています。
民主党が、マニュフェストで議員年金廃止を訴えたのは2004年からですので、それは、計算上、当該議員が在職10年をクリアして間もなくということになります。
単に、偶然が生んだ状況なのかもしれませんが、政権交代後3年間を見ていると、ついよからぬ勘繰りをしてしまいます。
国会議員年金と国民年金の比較
次に、すべての国民が加入している国民年金と国会議員年金についての比較をしてみます。
その理由は、議員年金が問題化した2006年当時、よく国会議員が話していた理由が本当かどうかを知るためです。
『高い掛け金を払っている=議員年金の額も高い』
ただし、国会議員年金は10年で受給資格が得られ、最低350万2000円の年金額が確定するのに対し、国民年金は25年で受給資格が得られ、年金額が満額となるのは40年保険料を払った場合ですので、ここでは、どちらも「10年」の掛け金(保険料)に対してもらえる年金額の大小で比較します。
国民年金は、「掛け金(保険料)1か月分×12月分×10年分」で10年分総額を計算し、年金額は、40年納付で満額ですので、満額を4で割ることで掛け金(保険料)10年相当分の年金額を計算します。
あくまで恣意的な仮定のもとでの計算ですが、その結果は次の通りです。
\ | 10年分の掛け金 | 左記分の年金額 |
議員年金 | 1266万円 | 350万2000円 |
国民年金 (2012年度) | 179万7600円 (月額14980円×10年分) | 19万6625円 (年額78万6500円÷4) |
国民年金 (将来世代) | 202万8000円 (月額16900円×10年分) | 13万8620円 (年額55万4482円÷4) |
【議員年金の掛け金と年金額について】 上記の民主党議員の国会議員年金額の注釈の箇所に記してあります。 【国民年金(2012年度)について】 10年分の掛け金(保険料)は、2012年度の国民年金保険料額「14980円」を10年間納付し続けた場合の金額を示しており、現実に今から10年間納付した場合には、2017年度まで予定されている保険料引き上げに伴い、これよりも大きな金額となります。 計算は、14980円×12(月)×10(年)=179万7600円 です。 年金額は、10年の掛け金(保険料)の納付に対応する部分ですので、2012年度の満額が40年納付=「78万6500円」ですので、これを「4」で割ることで10年分の納付対応部分の年金額が導き出せます。 計算は、78万6500円÷4=19万6625円 です。 【国民年金(将来世代)について】 将来世代の国民年金は、まず掛け金(保険料)は、2017年度の国民年金保険料の引き上げが終わる「16900円」を採用しています。 計算は、16900円×12(月)×10(年)=202万8000円 です。 そして、年金額は、「物価スライド特例分の解消」の2.5%減額と、2038年度までの「マクロ経済スライド」における基礎年金27%削減の2点を考慮しているため、2038年度以降の年金額ということで計算しています。 物価スライドの特例分の解消は、具体的には、2013年10月分から2015年4月分にかけて合計2.5%の年金減額が行われるもので、マクロ経済スライドの方は、2009年の財政検証によると、2012年度から2038年度にかけて基礎年金を27%削減させるものですが、現在の所1度も発動がないために、ここでは2012年度の国民年金額を基準に削減後の額を計算しました。 計算は、満額ベースで2038年度の国民年金額を算出してから10年納付分の年金額を計算します。 (2012年度の40年納付満額)78万6500円×(100-29.5)% 55万4482円÷4=13万8620円 なお、マクロ経済スライドによる基礎年金の削減「27%」の数字については、2009年財政検証を見ても出所がわかりませんでした。そこで、下記に参考外部リンクを載せておきます。 ※参考外部リンク1 ※参考外部リンク2 |
これでもまだイメージが湧かないのは、単に「10年」の期間で揃えただけで、金額が1ケタ違うこともあるかと思います。
そこで今度は、上記結果を利用して、「掛け金(保険料)1万円あたりの年金額」を計算してみることにします。
掛け金(保険料)1万円あたりの年金額
今度は、掛け金(保険料)を同じ「1万円」に揃えましたので、出てきた金額がそのまま両者の違いとなるわけです。
すなわち、1万円の価値です。
国会議員年金は、掛け金「1万円」が年金額「2766円」になりますので、最初の図に書いたように「3.615年」で元が取れる計算になります。
10000円÷2766円=3.615(年)
同様に、国民年金(2012年度)は、保険料「1万円」が年金額「1093円」になりますので、「9.14年」で元が取れる計算になります。
10000円÷1093円=9.149(年)
さらに、国民年金(将来世代)は、保険料「1万円」が年金額「683円」になりますので、「14.64年」で元が取れる計算になります。
10000円÷683円=14.641(年)
図の通り、国会議員年金との比較では、国民年金(2012年度)で2.53倍、国民年金(将来世代)で4.04倍と、明らかな差異があることがわかりました。
「特権」と言われていた国会議員年金ですが、廃止後でもそれは変わっていないのです。
国会議員年金の減額私案
ここまで国会議員年金の優遇ぶりを見てきましたが、感情的には、民主党が主張していたように、国会議員年金を完全廃止(現役ゼロ円)にしてもらいたい気持ちはあるものの、一応、議員年金がもらえるという約束のもとで掛け金を納付してきたという実績はありますし、完全に廃止にするとなると、在籍期間の長い議員ほど他の年金制度を利用するというような代替措置が取りにくい面もあり、現実的ではありません。
しかし、2006年当時にはすでに公費負担72%の破たん状態であり、廃止後まもなく100%となった現実を見れば、国民の理解を得られない「特権」は放棄してもらわなければなりません。
そこで、野田首相のキャッチフレーズ「明日への責任」ではありませんが、政治家は、国民以上に将来世代への責任を負っていますので、上記に示したような、将来世代が受け取る国民年金のリターン割合に合わせた議員年金とするのが最も現実的な改革案ではないかと思うのです。
そして、今後、将来世代の国民年金のリターン割合が下がるのであれば、それに連動して国会議員年金も削減し、その逆もあるという仕組みにするのです。
具体的には、国民年金(将来世代)と同様に、国会議員年金も「14.641年」で元が取れるようにします。
在籍10年の国会議員年金をベースに考えると、掛け金総額1266万円を14.641年で回収するということで、年金額は「86万4695円」となります。
さらに、在籍11年以上の国会議員年金は、これまでの計算方式を変更し、在籍10年「86万4695円」を1年あたりの金額に直した金額を加算するということにすれば、在籍10年のお手盛り部分を排除できる上に、国民年金と同じ、加入期間に比例して増加する年金の仕組みにすることがきでます。
11年目以降の1年加算分の計算は、
86万4695円÷10(年)=8万6495円(1年分)
となり、現職最大の在籍36年であれば、
8万6495円(1年分)×36(年)=311万3820円(36年分年金額)
となります。
下記表は、国民年金のリターン割合に合わせた場合の国会議員年金の一覧で、2012年度水準と将来世代水準の2パターンで計算してみました。
在職期間 | 現廃止法 | 9.149年で回収 (国民年金 2012年度) | 14.641年で回収 (国民年金 将来世代) |
10年 | 350万2000円 | 138万3757円 | 86万4695円 |
11年 | 357万2040円 | 152万2125円 | 95万1164円 |
12年 | 364万2080円 | 166万0500円 | 103万7633円 |
13年 | 371万2120円 | 179万8875円 | 112万4102円 |
14年 | 378万2160円 | 193万7250円 | 121万0571円 |
15年 | 385万2200円 | 207万5625円 | 129万7040円 |
16年 | 392万2240円 | 221万4000円 | 138万3509円 |
17年 | 399万2280円 | 235万2375円 | 146万9978円 |
18年 | 406万2320円 | 249万0750円 | 155万6447円 |
19年 | 413万2360円 | 262万9125円 | 164万2916円 |
20年 | 420万2400円 | 276万7500円 | 172万9385円 |
21年 | 427万2440円 | 290万5875円 | 181万5854円 |
22年 | 434万2480円 | 304万4250円 | 190万2323円 |
23年 | 441万2520円 | 318万2625円 | 198万8792円 |
24年 | 448万2560円 | 332万1000円 | 207万5261円 |
25年 | 455万2600円 | 345万9375円 | 216万1730円 |
26年 | 462万2640円 | 359万7750円 | 224万8199円 |
27年 | 469万2680円 | 373万6125円 | 233万4668円 |
28年 | 476万2720円 | 387万4500円 | 242万1132円 |
29年 | 483万2760円 | 401万2875円 | 250万7601円 |
30年 | 490万2800円 | 415万1250円 | 259万4070円 |
31年 | 497万2840円 | 428万9625円 | 268万0539円 |
32年 | 504万2880円 | 442万8000円 | 276万7008円 |
33年 | 511万2920円 | 456万6375円 | 285万3477円 |
34年 | 518万2960円 | 470万4750円 | 293万9946円 |
35年 | 525万3000円 | 484万3125円 | 302万6415円 |
36年 | 532万3040円 | 498万1500円 | 311万2884円 |
【国会議員年金の計算】 ※在職10年分 ※在職11年以降の1年分 このことから、お手盛りは10年部分に集中して存在し、11年目以降の1年分は、むしろ妥当性の高い金額であると言えます。つまり、在職10年に近い国会議員ほど、負担に対して割高な年金となっているのです。 【9.149年で回収(国民年金 2012年度)に合わせた計算】 議員年金の掛け金10年分「1266万円」を、国民年金の2012年度と同様のリターン割合である「9.149年」で回収できるとすると、その年金額は138万3757円となります。ここから、1年分を13万8375円として、年数をかけて計算したのが上記です。 【14.641年で回収(国民年金 将来世代)に合わせた計算】 同様の方法で計算すると、10年掛け金分の年金額が86万4695円で1年分は8万6469円となり、これに年数をかけて計算しました。 【古い時期の掛け金について】 ここでは、便宜上在職10年の数字をもとに在職36年までの計算をしていますが、実際には、過去古い時期になるほど一定の段階ごとに掛け金の名目上の金額は少ない金額となっています。よって、厳密に「何年で回収」という計算をすれば、在職年数が多いほど上記表よりも割安な年金額となります。 |
在職10年のカット額が最も大きくなるわけですが、職業人生が50年だとすれば、仮に在職10年で退職した場合に、残りの期間は会社員(厚生年金)でも公務員(共済年金)でも選択肢があるわけです。
また、もともと国会議員年金と同時加入できた国民年金や国民年金基金は、議員年金がなくなってからも入り続ける、もしくは新たに加入すれば厚生年金や共済年金の代替的な役割として老後の生活に寄与させることができます。
国会議員として長く務めた人が、他の年金制度の加入に制限がある分、それなりの年金額を受給できるようにすべきとの理屈は理解できても、10年に近い短期間で退職するような議員の老後にまで手厚い老後保障をするのは、いかにも特権です。
国会議員OBの年金カット「0%~10%」も少な過ぎる
これまでは、現職国会議員の将来受給する国会議員年金の話でしたが、OBの議員年金についても触れておかないわけにはいきません。
現行「廃止法」では、退職時期によって「0%~10%」のカットで済むことになっていますが、こちらも2006年当時の自民党・公明党案と民主党案を比較します。
下記表は、既に取り上げた現職議員に加え、OB、そして在職10年未満の国会議員のケースも含めて一覧にしたものです。
法案 | 議員OB | 在職10年以上 現職国会議員 | 在職10年未満 現職国会議員 |
自公案 (与党案) | 議員年金の継続支給 (退職時期により 4%~10%カットあり) (注1) | 年金の継続支給 (15%カット) または 掛け金総額の 80%の一時金 | 掛け金総額の 80%の一時金 |
民主党案 | 議員年金の継続支給 (30%カット) | 掛け金総額の 50%の一時金(注2) | 掛け金総額の 50%の一時金 |
(注1) ● 平成6年12月以降の退職者(基礎歳費月額103万円)=年金額の10%カット 国会議員年金の年金額の計算で使用する「歳費月額」は、実際の歳費ではなく国会議員互助年金法で定められた歳費月額で計算を行い、退職した時期によっては、上記のように(基礎)歳費月額が異なります。 その計算式は、在職10年の分で[ 「基礎歳費月額×12月」×150分の50 ] たとえば、在職10年の議員OBで言えば、カット前の議員年金額が、平成6年12月以降の退職の場合で412万円、昭和51年3月以前の退職の場合で272万円となります。よって、退職時期によってカット率に差があるわけです。 (注2) 国会議員が「落選→議員年金を受給→再度当選」という既裁定者である場合、民主党案では現職議員の退職とは異なり、議員OBの議員年金同様30%カットされた議員年金を退職後に受給することにしました。よって、厳密には、すべての現職議員が掛け金総額の50%の一時金を受け取り清算するというわけではありません。 その他、国会議員年金には、厚生年金と同じように高額所得者に対する支給カットの仕組みがあるが、それについては次のような相違があります。 |
OBについては、議員年金の計算の仕組みをみても、すでに高齢である点からも一定の激変緩和措置は必要ですが、そうは言っても現行「廃止法」のにカット額は、あまりに少ないと言わざるを得ません。
また、現職の将来年金にも同じ仕組みが適用されますが、所得が700万円を超えた場合の支給制限についても大甘です。
国民の社会保障の仕組みが、若年層が高齢層を支える従来型の仕組みのみならず、豊かな高齢者が恵まれない高齢者を支える仕組みも加わってきているにもかかわらず、700万円という現役世代から見ても高水準である所得を超えても、その削減額が超過分の半分で済むというのでは、整合性が取れていません。
このあたりの仕組みは、国会議員互助年金法の中でも細部の部類になるために、2006年当時もあまり大きな批判はなかったように記憶していますが、今後再び議員年金が話題になり、国民から見ればひっそりと特権を忍ばせておいたことが分かった時には、当時以上の大きなしっぺ返しを食らうことになるかもしれません。
2006年4月の国会議員年金「廃止」前の多方面の意見
現行廃止法が施行された2006年(平成18年)4月の前、国会議員年金の廃止に関する議論がテレビ、新聞その他、多方面で行われていました。
参議院ホームページ内の平成17年1月20日付「国会議員の互助年金等に関する調査会答申」のページでは、その後成立した現行廃止法とは大きく異なる制度案が見られて興味深かったのですが、意見の項目を見ると、現行廃止法に対してでもなるほどと思えるような、多様な立場からの多角的な意見が多く掲載されていました。
今後再び国会議員年金がクローズアップされるようなことがあるならば、よくある「議論が必要だ」として決定を先延ばしするのではなく、ここにあるような出し尽くされた感のある意見を有効利用して、迅速に意思決定を行ってもらいたいと思います。
下記は、当該サイトからの抜粋です。
現職・元職の国会議員からの意見もあります。
● 参議院 国会議員の互助年金等に関する調査会答申 平成17年1月20日 (1)国民の意見-マスメディアから 新聞の投書欄等に現れた主な意見。
(2)各界からの意見 経済界・マスコミ関係者から聴取した意見の要旨。
(3)現職・元職の国会議員の意見 元国会議員-元衆議院議員2名、元参議院議員1名から意見を聴取。その要旨。
現職国会議員-衆参それぞれ5会派(自民、民主、公明、共産、社民)の1名ずつから意見を聴取。その要旨。これらの意見のうち、会派の統一見解であるとするものは少なく、多くは議員個人の見解として述べられたことに注意。
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国会議員廃止は間違いだった?
自民党・公明党よりも強く国会議員年金の廃止を主張していた民主党。
しかし、新聞にも取り上げられていた安住議員の国会発言を聞くと、その本気度に疑問符が付くのです。
○安住国務大臣 (略)まあ、国会議員については、小泉総理のときに議員年金互助会制度をやめましたから、私は率直に言って、本当に、どうかなと思っております。世論は非常に厳しい反応はありますけれども、いわば国会議員の年金なんか要らない、そういう政治批判の中でそういう話になったのは、果たして、冷静に考えるとどうだったんだろうかというふうに思っております。 これから若い議員を、まあ、私ももうそういう意味では、まだ若いとは思っていながらも在職年数は比較的来ましたが……(発言する者あり)いやいや、自民党が提案したんです。これは小泉総理ですよ、決断なさったのは、申しわけありませんけれども。(発言する者あり)いやいや、だから、お互いそんなことをなすり合っていたって仕方のないことですよ。 ○中野委員長 勝手に会話を交わさないでください。 ○安住国務大臣 いいですか、ちょっと話をして。 ただ、私は実はそのとき、九年八カ月だったんですよ、今の私の当選五回は。それで、自民党も公明党も私も、これはけしからぬと。やはり、その期待権みたいなものもあるんじゃないかという議論もあったんです。しかし、それは、時の政権が、そんなのはだめだということで。実は、足切りと言ったらあれですが、九年八カ月であろうと十カ月であろうとだめだというのが総理の御決断だったと思います。その間、掛金は、一応八掛け、八割方返してはいただきましたけれども。 逆に言えば、国会議員を非常に、スケープゴートと言ったら変ですけれども、そういう風潮の中で冷静さを欠いた部分もあって、その後、改革をするにしても、今後、これは政治の信頼というのが必要だとは思いますけれども、議員の身分というのは、実は国会法では退職金も認められてはおりますけれども、いまだに手つかずのままでもあります。 国民の皆さんの大変厳しい目にさらされておりますけれども、国民の皆さんの理解を得ながら、いわば将来的に若い議員を本当に育てていくにはどうしたらいいかというのは、各党間でぜひ私は真摯に話し合っていただければと思っております。 |
安住議員個人の考えなのか、民主党としての考えなのかはわかりませんが、後日においても、他の議員による補足や否定的な発言がなかったことから、おそらく民主党としての国会議員年金に対するスタンスなのでしょう。
過去を紐解けば、民主党が主導的に議員年金改革に取り組んでいる姿があったのですが、その評価も割り引く必要がありそうです。
下記表は、国会議員年金の改革についての、民主党議員による国会発言を抜粋したものです。
○玄葉委員 もう一つ、独立行政法人に問題を移りたいというふうに思いますけれども、国から地方ということで今聞いてきましたが、官から民、その一つの象徴が郵政であったり道路であったり、この独立行政法人だろうというふうに思います。今、自治体側からは、自治体にばかり、先ほどの谷垣大臣の話じゃありませんが、スリム化あるいはリストラを求めて、国はリストラしていないじゃないか、スリム化していないじゃないか。私たちは、国会議員だって減らしていいということを言っています。議員年金だって廃止プロジェクトチームというのができて今議論をしています。そういうところから始まって……(発言する者あり)しかし、格好いいことを言うなというやじもありますけれども、実際身を削る努力をしないとなかなかこれはついてきてくれないと思います。 ● 第159回国会 衆議院本会議 第8号(平成16年2月12日) ○海江田委員 その一つは、やはり議員年金の問題なんです、国会議員の。これはほかの人のことを言うより、私、自分自身のことを言った方がいいかと思いますが、十年になりました。十年でこれは議員の年金権というものが生まれて、そして今、私で計算をしますと、たしか年間四百十二万円、今ここでやめればなるわけでございますね。毎月歳費から天引きをされておりますのが十万円ちょっと、十万三千円ですか、これは。十万三千円引かれているわけですね、毎月毎月の掛金の天引きが。 もちろんこれは、国民年金なんかから比べれば大変多いわけですけれども、十年でもらえる、それから六十歳からもらえる、ここはやはりおかしいんじゃないだろうかということがあって、これは早急に、与党の皆さん方も、それからもちろん民主党も一番初めに言い出した話ですけれども、そういうことを協議しようということになりましたので、これはやはり総理、国会議員でもあるわけですから、この問題についてしっかりしなければなかなか国民の理解は得られないんだなということを、そういうふうにお考えになっておられますか、どうですか。 ● 第159回国会 衆議院本会議 第22号(平成16年4月9日) ○古川元久議員 議員年金もまた、この制度へ一元化し、国民の不公平感を解消します。これによって、サラリーマン、自営業者、専業主婦、公務員、議員などの間の、いわゆる世代内の不公平を解消します。 ● 第163回国会 衆議院本会議 第4号(平成17年9月28日) ○前原誠司議員 我が党は他党に先駆け、議員年金の廃止を以前より訴えてまいりました。自公両党も議員年金の廃止に向け、ようやく重い腰を上げたことには敬意を表します。むだ遣いを削るのであれば、まず隗より始めよであります。みずからを変えられずに、国民にばかり改革を迫ることは許されません。 ○古川(元)委員 我々は、さきの総選挙でも、年金制度の本当の抜本改革をしようと、国民年金も含めた一元化というものを主張してまいりました。そして、そうした年金制度の改革をするに当たりましては、まず隗より始めよと、我々議員の議員年金を、年金一元化に先立って、その制度設計をする議員が、我々自身が襟を正すんだということで、議員年金の廃止を主張して、ようやく与党の方もそれを検討されるということになったようでございますけれども。 ○古川(元)委員 議員年金廃止というのが、与党の中では温存させる、そういう案が出てきたのを、総理の話で議員年金廃止に動くはずだったわけなんですけれども、現実に成立した法律は、名前は議員年金廃止法となっていますけれども、これは偽装の廃止だと言われたって仕方がないような、実際には受給資格のある方々は年金が受け取れるという法律になってしまっているわけなんです。我々が出した、本当に廃止する法案は否決されて、実際には議員年金を温存する法案が、法律が通ってしまった。 |
財産権の問題
年金の削減で出てくるのが、憲法第29条の財産権の問題です。
しかし、財産権についても、現職議員の将来受給する議員年金については「憲法違反だとは考えません」とするのが民主党の立場でした。
そうであるならば、「廃止法」の見直しをしない理由は、技術的な問題か、元々やる気がないかのどちらかしかないように思われます。
● 第164回国会 本会議第5号 平成18年1月31日 ○鈴木克昌議員 しかし、結果的に、現職議員に対し将来の年金受給もある与党案は、現職議員の将来の年金受給のない民主党案に比べて、極めて巨額の国庫負担が必要となります。なぜ与党は、あれだけ激しく国庫負担の増加に反対したにもかかわらず、民主党案以上に国庫負担の大きい与党案を取りまとめたのか、明確な説明が必要であると考えます。 これに対して、民主党案は、基本的な思想にのっとり、その内容はすっきりしています。現職議員はすべて将来の年金受給を放棄します。OB議員に対しては、その生活の維持に配慮しつつ、給付額を三割カットとさせていただきます。 与党は、民主党案に対して、財産権を規定する憲法二十九条に違反すると主張します。しかし、現職議員については、みずからの財産について、みずからが放棄するのでありますから、これを憲法違反だとは考えません。何より、この国の財政を考え、また、隗より始めよとみずからが痛みを感じる改革が必要だと考えている以上、この程度は当然だと考えています。 また、与党案でOB議員に対する給付についても最大一〇%カットとしており、我が党案が財産権を規定する憲法二十九条に違反するというのであれば、同じことではないでしょうか。 なお、付言すれば、与党案では、年金給付額は現職議員で一五%カットとしており、調査会答申よりもカット率が後退しています。何より国会は、さきの年金法改正で国民の年金を一五%もカットしたのです。 にもかかわらず、結果的に国民よりはるかに高い年金を受給する。これは、まさに議員の特権の濫用以外の何物でもないのではないでしょうか。このような内容で、本当に国民の理解を得られるとお考えでしょうか。私は、決して国民の理解は得られないと思います。 |
最後に
2012年11月現在「盲点」となっている感のある国会議員年金ですが、国民目線で受け入れられないような状況を放置していると、そう遠くない時期に、再びこの問題が火を噴くことになるでしょう。
国民の批判を受けながら受け身の姿勢で見直しを始めるのか、先手を打ち、国民の支持を集めつつ見直しを行うのかの2つに1つしかないように思うのですが。